小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第729回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

360度カメラとしての完成形!? 長時間録画も可能になった人気爆発「THETA S」

発売と同時に大人気

 360度撮影ができる全天球カメラ、リコー「THETA」が初めて発売されたのは、2013年11月のことであった。その年の「CP+」でプロトタイプが発表されると同時に、商品化を切望する声が相次いだ。初代モデルはまさに好事家が買うような商品であったが、2014年10月に発売された「THETA m15」は価格もぐっと下がり、動画撮影も可能になった。また、同時期に「Kodak SP360」のような競合製品も発表されたことで、一気にブームを押し上げて行った。今年3月にはYouTubeが360度ムービーに対応、この9月にはFacebookも対応した。

リコー「THETA S」

 そんな中、日本では全天球カメラのスタンダード的な地位を確立してきたリコー「THETA」の新モデル、THETA Sが10月23日より発売された。すなわち先週の金曜日の発売であったわけだが、この土日、筆者のFacebookは新THETAの絵で埋め尽くされた。

 まあ筆者の知り合いはこういうのが好きな人が多いとはいえ、まるで何かの社会現象化のような有り様である。家電量販店でも週末は品切れのところが多かったようだ。今回の現象が特殊なのは、m15からの買い替え組が非常に多いことだ。それだけm15は活用されつつも、不満もそれなりにあったということだろう。店頭予想価格42,800円前後のところ、ネットでは早くも4万円を切っているところもある。

 「THETA m15」の発売からちょうど1年後に発売となったTHETA Sは、なぜそれほどまでに既存ユーザーの間で支持されているのだろうか。早速テストしてみよう。

見た目は全く同じだが……

 既存の「THETA m15」は、実は正式名称ではない。m15は本体に表示されている製品ナンバーではあるが、公式にはただの「THETA」である。初代THETAと筐体が全く同じのモディファイモデルだったので、商品的にはマイナーアップデート版に入れ替わった、というのが正確なところだ。

 一方今回の「THETA S」は、デザインテイストは前モデルを継承しつつ、全く新規設計のボディである。このデザインは以前グッドデザイン賞も受賞しており、特に変える必要もなかったのだろう。幅、高さ、厚みともに少し大きくなり、重量は95gから125gに増加している。

デザイン的にはこれまでのモデルと一緒

 4色展開のm15と比べ、新モデルはブラック1色となっている。もっとも初代THETAも白一色だったが、1年後に4色になったことを考えると、今後カラー展開というのもありうるかもしれない。ちなみにm15も併売されるようで、「S」はハイエンドモデルという位置付けのようである。

 形状としては平たいスティック状で、両面に魚眼レンズが飛び出している、独特のデザインだ。マットなつや消しブラックで、手触りのいいウレタン系塗装のように感じるが、メーカーによれば「インモールド成形でソフトフィール加工を施しており、塗装はしていない」という。ウレタン系の塗装は以前USBハブなど通信機器などに多く使われていたが、経年変化により加水分解してしまい、ベタベタになってしまうものが多かった。THETA Sの場合はそういう事はなさそうで、耐温水性試験、耐湿性試験の結果、通常使用では加水分解はしなかったという。

独特の飛び出したレンズ

 レンズは画角は以前と同じ、というか360度撮るのでこれ以上広くも狭くもできないわけだが、F値は2.0となっている。m15のF値は公開されていない。センサーは1/2.3型1,200万画素のCMOSセンサーで、これが2つ搭載されている。

 シャッターボタンの位置は同じだが、ボタンとしては動画/静止画切り替えボタンが増えている。以前は動画モードと静止画モードを切り替えるために、一旦電源を切って入れ直す必要があったが、今回からはこのボタンで、電源を切らずに切り替えられるようになっている。

以前からのシャッターボタンは健在
新たに動画・静止画モードの切り替えボタンがついた

 上部にはマイク、底部には三脚穴と2つの端子がある。以前はMicro USB端子のみでカバーがあったが、今回はMicro USBに加えHDMIマイクロ端子も備えた代わりに、端子カバーはなくなった。HDMI出力はライブカメラとして使用するためのもので、本体に再生機能はない。

上部にマイク
底部には三脚穴と2つの端子

 SDカードスロットなどはなく、すべて内蔵メモリに記録する。m15は容量4GBであったが、今回は倍の8GBとなった。

 動画記録は、m15は連続5分に制限されていたが、今回からは連続25分もしくはファイルサイズで4GB以下まで制限が緩和された。動画撮影ファイルはMPEG-4 AVC/H.264のMP4で、ビットレートは12Mbps/VBR。解像度は1,920×960/29.97fpsである。音声は213kbps/44.1kHzのAAC。以前は15fpsだったので、フレームレートは倍になったことになる。

 なお解像度は、公式サイトには1,920×1,080とあり、アプリ上の設定にもそうあるが、実際にファイルを取り出してみると1,920×960である。なお静止画の方は最大5,376×2,688で、アスペクト比は16:8だ。1,920×960も16:8なので、つじつまは合う。調べてみると、ニュースリリースに「入力時1,980×1,080ピクセル。全天球動画に変換した際の記録サイズは1,920×960ピクセル」と説明されていた。つまり撮影時はフルHDで撮りつつ、全天球動画としては1,920×960で書き出しているというわけだ。

ちゃんと使える動画

 では実際に撮影してみよう。THETAはもちろんカメラ本体だけで撮影できる。全方位映るのでノーファインダ撮影でも問題ないのだが、撮影前に色味や露出などを確認したいこともあるだろう。

 以前からスマートフォンのアプリと組み合わせることで、詳細なカメラ設定は可能だったのだが、今回THETA S用に公開された専用アプリでは、静止画撮影時のプレビューに対応した。画面上部にカメラのリアルタイム映像が表示されるので、マニュアル設定も現実味が出てきた。ただ動画モードではプレビューが出ず、動画サイズの切り替えのみとなる。また動画ではマニュアルやモード選択ができず、オートのみとなるのが残念だ。

静止画ではプレビューもできるようになった
動画モードでは残念ながらプレビューできない

 まず動画性能を見てみよう。ビットレートとしては以前と似たようなものだが、今回からフレームレートが29.97fpsになったことで、動きの早い動画も見応えがあるものとなった。

THETA Sで撮影した動画ファイル
sample.mov(92MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 実ファイルの持ち方もm15と全然違っている。以前の撮影した動画ファイルは、本当に2つのセンサーから得られた円形の映像を2つ並べただけで、ステッチングはPC用のソフトに読み込ませて処理する必要があった。

 この処理にかなりの時間がかかり、動画のアップロードの負担となっていたのだが、今回はスマートフォンへ画像を転送した後でステッチングをする形になった。なお、変換したファイルをローカルに保存できるのはiOSのみで、Androidに関してはNexs5/6のみになるという。もちろん、1,920×960ドットいっぱいを使って映像が書き込まれるので、画質的にもかなり良好だ。

 今回の撮影では、自転車用のヘルメットにマウントを取り付け、その上にカメラを固定した。以前も同じ方法で撮影したが、今回はカメラの重みでヘルメットがずれるような感覚があった。m15では気にならなかったのだが、たった30gの増加とはいえ、結構違うものだ。

 またレンズが大きく出っ張っているが故に仕方がないところではあるが、逆光によるフレアには弱い。片側のカメラだけフレアが出ると、つなぎ目で映像がきっぱり別れてしまうので、絵的にもあまり良くない。動画や写真の撮影では、朝や夕方の「斜光」の時間帯が一番いいのだが、ことTHETAにおいては、この時間帯はあまり良くないと言える。

フレアが出るとつなぎ目がわかってしまう

 ただ、以前よりも画質的な向上が著しく、2つのカメラのつなぎ目も自然にステッチされるようになった。以前はレンズ周辺部の画質劣化が激しく、また圧縮ノイズも多かったため、つなぎ目が画質の差でわかってしまうようなところがあったのだが、その点はずいぶん改善されている。

 なお今回から動画と静止画の切り替えは、いちいち電源OFFしなくて良くなったため、「ここは動画」、「ここは写真」と気軽に切り替えられるようになったのは大きい。従来切り替えの面倒くささもあって、動画はあまり活用されてこなかった印象だが、今後はTHETA動画も増えていくだろう。実際Facebookに上げられているものも、動画が圧倒的に多い。

 動画はスマートフォンに転送しないと、結果を確認することができない。Wi-Fiによる転送は、以前よりも高速化したとはいえ、数分の動画を転送するにはかなりの時間がかかる。3分の動画を転送するのに30分ぐらいかかるのでは、さすがに遅すぎる。また通信エラーで転送できないこともままあり、この辺りは改善が必要だろう。

スマートフォンへの転送モード。動画はかなり遅い
スマートフォンでの動画再生通常モード
動画再生2画面モード

 加えてTHETA Sの充電は、PCやUSBハブなど、電力が一定のデバイスからでなければ受け付けないようだ。最近はマルチUSB充電器やモバイルバッテリで、自動的にそのデバイスが対応できる最大電力を出力するものもあるが、これではうまく充電できないことがあった。充電できない場合は、電源ボタンが2度点滅して消灯するので、そこで判断してほしい。

マニュアル設定がポイントの静止画

マニュアル撮影にも対応できる

 THETA Sの静止画撮影では、オート、シャッター優先、ISO優先、マニュアルの4モード切り替えができる。絞りがないので絞り優先がないが、その代わりにISO優先というわけだ。

 オート撮影では露出補正のほか、設定としてノイズ低減とDR(ダイナミックレンジ)補正が使える。ノイズ低減は暗所でしか効果がないようだが、DR補正はヒストグラムで見ても、ダイナミックレンジの改善には確かに効果があるようだ。ただし空の色がぐっと沈んでしまうので、そこは良し悪しである。THETAの場合、屋外撮影では絶対に空が写ってしまうので、太陽の白飛びはあっても、青空の発色が強い方が、見栄えはする。

オートモード:補正なし
オートモード:ノイズ低減
オートモード:DR補正

 マニュアル撮影では、1秒を超えるスローシャッターでの撮影も可能だ。試しに夜景を撮影してみた。ISO100に固定して、シャッタースピードを1秒から順に2倍にして撮影してみた。

シャッター
スピードタイトル
サンプル
1秒
2秒
4秒
8秒
15秒
30秒
1分

 撮影当日は月明かりもあり、また近隣の店舗の駐車場の照明もあるので、それほど真っ暗というわけでもないが、長時間露光でもS/Nがよく、綺麗に撮影できた。遠方の点光源に対してパープルフリンジが目立つが、価格を考えるとこの辺は仕方のないところだろう。

 シャッタースピード30秒ぐらいからは星も写るようになる。撮影当日は風の強い日で、三脚に固定はしたものの多少ブレてしまっているのが残念だ。タイムラプス撮影機能もあるので、見晴らしの良い屋上などに設置して、星空観察に利用しても面白いだろう。

 なお静止画に関しては、別途配布されているアプリ「THETA+」で編集、加工できる。色味の修正や切り出し範囲の選択、切り出しパターンの選択ができるため、撮影後の楽しみも大きい。基本的にはスマホ上でぐるぐる見回せるのが面白いのではあるが、普通の写真としてプリントするといったニーズもあるのだろう。

多彩な加工モードを持つTHETA+
加工前のオリジナル画像
トリミングして切り出しも可能
カラー調整も出来る
ユニークなLittle Planetでの書き出し

便利な「ぼかす」機能、迷っているなら「S」がオススメ

 THETAが面白いと感じるかどうかは、その人のライフスタイルや性格などにかなり依存する。手に持って撮影すれば、自分がカメラの真下に入らない限りは絶対自分が写ってしまうので、自分が写る事を良しとしないタイプの人には、使いづらいだろう。

特定のポイントに簡単にぼかしが入れられる

 一方でパーティや飲み会が大好きでその度に写真を撮ってる人や、いろんな場所へ出かけて行って自撮りするのが好きな人には、使い出のあるカメラになるだろう。ただ本当に周囲が全部写ってしまうので、ネットへ上げる際は、たまたま写ってしまった方や、ネットに上げて欲しくない方などのプライバシーも尊重すべきだ。

 このためTHETA Sアプリでは、「ぼかす」という機能がある。ぼかしたい部分を指先でこするだけで、簡単にぼかしを入れることができる。このあたりの配慮もよく練られているので、ぜひ使っていただきたい機能だ。

 多くの既存ユーザーが乗り換えていることからわかるように、今回のTHETA Sは以前からの不満点が解消されており、ユーザーのやりたいことについてくるカメラとなった。前モデルとの価格差は実売で1万円ぐらいあるが、使い勝手や画質の面から考えても、上位モデルであるこちらの方が、大して使わずお蔵入りということにはならないだろう。

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THETA S

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。