小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第748回
6K信号からキレのいい4K映像を記録。ソニー初のAPS-C 4Kカメラ「α6300」
(2016/3/16 10:00)
α7シリーズ以外の選択肢
ソニーのデジタル一眼用レンズマウント規格は、2006年にコニカミノルタを買収した時点で、フルサイズ用のAマウントしかなかった。コニカミノルタではカメラにαの名前を使っていたため、αマウントと呼ばれていた時代もあったが、現在の正式名称はAマウントだそうである。
ところが2008年、フランジバックの短いマウント規格であるマイクロフォーサーズが登場し、流行の兆しを見せ始めたところで、2010年にソニーは新たにEマウントを開発・発表した。センサーサイズはAPS-Cを採用。NEX-5シリーズなどのヒット商品が出たこともあり、Eマウントは次第にソニーの主力となっていった。
Eマウントながらフルサイズセンサーを搭載した製品は、意外にもビデオカメラの「NEX-VG900」が最初だった。2012年のことである。発売当初はEマウントでフルサイズ用のレンズというのはなく、Aマウントを取り付けるマウントアダプタが同梱されていた。
デジタル一眼カメラでEマウントながらフルサイズセンサーを搭載したのは、2013年の初代α7からだ。以降α7は、シリーズを拡張していくことになる。現在Eマウントのレンズは、APS-Cサイズ用のEレンズと、フルサイズ用のFEレンズの2タイプがある。マウント自体は同じEマウントなので、どちらのレンズも取り付けられる。当然フルサイズセンサーにEレンズをつけると周囲がケラレるので、α7にはセンサーの読み出し範囲をAPS-Cサイズにする機能が搭載されている。
一方でソニーの一眼カメラで4K撮影をサポートしたのは、2014年のα7Sからである。それ以降ソニーで4Kが撮れるカメラは、Eマウントフルサイズのα7シリーズしかなかった。
2月3日に海外で先に発表されたα6300は、EマウントAPS-Cサイズのデジタル一眼としては初めて、4Kの撮影をサポートしたカメラだ。日本での発売は3月11日、店頭予想価格はボディのみで135,000円前後。通販サイトでは安いところでは13万円台、量販店では14万円台で推移しているようだ。1,000番台のαシリーズは、もともとNEXシリーズの流れを汲んだラインナップで、価格的にはリーズナブル路線なのだが、α6300は結構強気のお値段である。
とは言うものの、4Kが撮影できるα7シリーズから比べれば低価格であり、コンシューマユーザーとしても気になるところだ。今回はこのα6300をお借りして、4K動画撮影をテストしてみたい。
見た目的にはオーソドックス
まずボディだが、見た目的には前モデルとなるα6000とほとんど変わらない。実際には6300の方がボディに厚みが増しているのだが、2台並べて見比べないと気がつかないだろう。天面の型番の横に4Kロゴが付いているあたりが見分けるポイントだろうか。
センサーは総画素数2,500万画素、有効画素数2,420万画素のExmor CMOSセンサーで、APS-Cサイズ(23.5 x 15.6mm)。Exmor RでもExmor RSでもないセンサーだが、内部配線をアルミニウムから銅に変更したことで、読出し速度を高速化したという。また配線層の高さを抑え、配線を細くすることで光を取り込む面積を拡大。SN比を大幅に向上させた。
4K撮影時は6,000×3,376ドットの6K相当を全画素読出ししたのち、3,840×2,160の4K映像を作り出す。ただしこれは4K/24pでの撮影時で、4K/30pの時は画角が約1.2倍狭くなる。全画素読出しではあるのだが、6,000×3,376ピクセルよりは狭い範囲で読み出すということだろう。プロセッサの処理速度の関係で、そうなってしまうようだ。
AFに関しては、425点の像面位相差AFセンサーと169点のコントラストAFを併用する「ファストハイブリッドAF」を搭載。動画撮影時にも動作する。AFスピードはα6000と比較すると最大約2倍だという。なおAマウント用のマウントアダプタ「LA-EA3」を使用した場合は、像面位相差AFとコントラストAFは選択式となる。
手ブレ補正は本体には内蔵しておらず、レンズ側での対応となる。その辺りも近年のα7シリーズとは異なるところだ。
動画の記録方式はXAVC S、AVCHD、MP4を搭載しているが、4K撮影に対応するのはXAVC Sのみだ。4Kとハイフレームレート撮影モードは以下のようになっている。
撮影モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート |
30P 100M | 3,840×2,160 | 30p | 100Mbps |
30P 60M | 30p | 60Mbps | |
24P 100M | 24p | 100Mbps | |
24P 60M | 24p | 60Mbps | |
30P 16M | 1,920×1,080 | 120p/30p | 16Mbps |
24P 12M | 120p/24p | 12Mbps |
背面もα6000との違いはわずかだ。α6000ではAELボタンしかなかったところが、AF/MFとAELの切り替えがレバーが付いた。AF/MFの時にボタンを押すと一時的にマニュアルフォーカスとなり、AELの時にボタンを押すとAEロックするというオペレーションだ。
液晶モニタは3型のワイド液晶で、上下にチルトする。デジカメでワイド液晶は珍しい設計だが、これはNEX時代からの伝統である。ビューファインダは0.39型の有機ELで、総ドット数は約236万ドット。
軍艦部のデザインは同じで、アクセサリーシューにポップアップ式フラッシュ。モードボタンとマニュアルダイヤルが並ぶ。端子は左側のみで、MicroUSB、MicroHDMI、外部マイク入力を備える。USB端子からの充電や給電にも対応する。
24pではキレのいい動画
では早速撮影してみよう。今回使用するレンズは、以下の4本である。
- SELP1650 (E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS)
- SEL24F18Z (Sonnar T* E 24mm F1.8 ZA)
- SEL55F18Z (Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA)
- SEL1670Z (Vario-Tessar T* E 16-70mm F4 ZA OSS)
前段でも触れているが、4Kでは24pと30pとでは、センサーの読み出し範囲が異なる。したがって同じレンズによる同アングル撮影でも、30pでは少し寄り目の画角になる。画質的には24pでは2.4倍、30pでは1.6倍の画素でオーバーサンプリングするので、24pの方が精細感は高い。したがって今回のサンプルは、特に断りがない限り全て24pで撮影している。
まずはSELP1650の電動ズームを使ってみよう。レンズ脇にズームレバーがあるが、ストロークが短すぎてスピードのコントロールはほぼできないのは残念だ。従って全速でのズームだが、AFの追従性がいいこともあり、テレ端とワイド端でフォーカスがずれない。ビデオカメラと同じような動作になるので、動画撮影では使いやすいだろう。
手ブレ補正はレンズ内のみなので、動画にとってはそれほど強力とは言えない。昨今は光学だけでなく、電子手ブレ補正と組み合わせるハイブリッド型が主流だが、本機の場合はそれもないので、歩きながらの撮影ではちょっと無理がある。別途ジンバルのようなスタビライザーと組み合わせが必要だろう。
本機には、AFの追従性をコントロールするパラメータがある。AF駆動速度は“高速”、“標準”、“低速”の3モードがあり、AF追従感度には“高”と“標準”がある。追従感度は“高”にして、駆動速度を切り替えてみた。
動画撮影では、あまり俊敏にAFが効くとおかしな映像になってしまうため、駆動速度は“低”の方がスマートな感じがする。このようなパラメータはビデオカメラにもないので、なかなか興味深い。
向かってくる被写体の撮影では、人物が遠くにいる場合は背景との差がつかめず、うまくフォーカスしない。だがある程度まで近づくと顔認識が働くので、あっという間に合焦し、それ以降はずっと追従する。こう言う動きはAFと言うより、もはや人工知能っぽい。この時のAF駆動速度は“標準”、追従感度も“標準”である。
同じEマウントでも、フルサイズ用のFEレンズも使えることで、深度表現の幅は大きい。元々55mm F1.8は、ポートレートなどに最適な筆者お気に入りレンズだが、それを1.5倍に切り出すだけなので、フルサイズ機と遜色ないボケが楽しめる。しかもAF機能は同じだ。
この辺りは、同じマウントでフルサイズとAPS-Cの両方のレンズが使えるメリットだ。他社でも同一サイズのマウントでフルサイズとAPS-Cの両方が取り付けられるのは、ニコンFマウント、キヤノンEFマウントがある(キヤノンはフルサイズ機にAPS-Cレンズは非対応)。ペンタックスも4月にフルサイズ機が登場することになっており、Kマウントもこれの仲間入りをすることになる。
なお今回はテストしていないが、本機はピクチャープロファイルによるS-Log2、S-Log3ガンマの収録も可能だ。モニター表示にLUTを当てる「ガンマ表示アシスト」も搭載しているので、撮影時での不便はない。このあたりはα7S IIと機能的に同じなので、40万円クラスの機能が付いていると考えれば、ボディ価格13万円は安く感じられる。
撮影中気になったところといえば、液晶モニタの暗さである。静止画撮影時にはモニタの明るさ調整機能が使えるが、4Kとハイフレームレート動画撮影時には、明るさ設定が標準値に固定されて動かせなくなる。バッテリ消費を抑えるためなのかもしれないが、日中天気のいい日には認識できないだろう。撮影日は曇天だったのでまだかろうじて視認できたが、天気のいい日では困ることになりそうだ。
特殊撮影もブラッシュアップ
高速化された新センサーのメリットは、4K動画に加えてハイフレームレート撮影にも及ぶ。本機ではHD解像度で120fpsでの撮影が可能だ。再生フレームレートを30pに設定すれば4倍速、24pに設定すれば5倍速スローが撮影できる。
以前はハイフレームレート撮影時にはAFが動かなかったが、今回からは動くようになった。被写界深度が浅く、被写体との距離が変わるような撮影では強力な武器となるだろう。
今回は5倍速スローで撮影したが、画像としてはまずまずだ。ビットレートが12Mbpsしかないので、若干圧縮ノイズを感じる。もうちょっと高いビットレートで撮影した場合のSN比も、見てみたいところだ。
夜間撮影時のSN比も気になるところだ。α7S IIは元々高感度撮影にシフトしたカメラなので夜間に強くて当たり前だが、α7R IIでも全画素読出しにすれば、かなりのSN比を稼いでいた。本機も全画素読出しなので、期待が高まるところである。
いつもの場所で夜間撮影をやってみた。使用レンズは E 24mm/F1.8で、シャッタースピード1/100、絞りF1.8固定で、ISO感度のみを2倍ずつ上げている。
目視ではISO 1600程度だが、映像的にもこれぐらいならなんとかいける。それ以上になるとS/N的に厳しくなってくる。ただ裏面照射でもないセンサーでここまで頑張れるのは、やはり全画素読出しによるオーバーサンプリングと、画素の開口部を広げた新設計による部分だろう。
総論
α6000の後継機でボディのみ13万は高いんじゃないの? と思ったのだが、実際に撮って絵を見てみると納得のカメラであった。4K動画に関しては、24pならば2.4倍のフル画素読出しオーバーサンプリングがかなり効いており、解像感の高い端正な絵が楽しめる。30pでは若干解像感が落ちるのは残念なところだが、プロセッサパワーをギリギリまで使って高解像度撮影にトライした設計の苦労がしのばれる。
その甲斐もあって、センサーがAPS-Cなだけで、中身的にはα7のIIシリーズと遜色ない出来だ。もちろんこれは動画撮影での感想なので、静止画ではまた違った評価もあるだろう。センサーもRではなくただのExmorということで、夜間撮影ではさすがにα7S系のようなバケモノには及ばないものの、一般的なデジタル一眼としてはかなり健闘している方だろう。
AFスピードと正確さは、動画でも申し分ない。動画撮影では、カメラ的には合焦しているつもりでも人間的には大胆にボケてるという動作が起こりうるものだが、本機に関してはそのような誤動作は一度もなかった。
手元にトランスルーセントミラー対応のAマウントアダプタ「LA-EA2」があったので付けてみたが、これだとLA-EA2のAF機能に引っ張られてしまうので、425点の像面位相差AFの良さが出せない。むしろ素通しの「LA-EA3」の方がカメラ性能をフルに引き出せるというのは面白いところだ。
これまで最もリーズナブルな4K一眼は、パナソニックの「DMC-G7」だ。現時点でもそれは変わらないのだが、ボディのコンパクトさとプロと同等の機能を持つという点で、α6300のコストパフォーマンスも高い。筆者も以前NEX-5Nを使っていたが、あの系譜にあるシリーズがここまで来たかと思うと、感慨深いものがある。
ソニー α6300 レンズキットILCE-6300L |
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