小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第749回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

超広角204度! 4K対応したリコーのモニター付きアクションカム「WG-M2」

アクションカメラもついに180度越え?

 米国では昨年、市場拡大に急ブレーキがかかったアクションカメラ市場だが、国内は積極的に新製品が投入されている。一方にはVR技術をベースとした360度カメラのムーブメントがあり、この両者が交わる部分も出てきている。

リコーのアクションカメラ第2弾「WG-M2」

 ポイントとしては、1カメラで180度を超える広角撮影がどこまで実現できるか、というところにかかっている。当然レンズだけではダメで、歪みや収差の補正をプロセッサ側でどう処理していくか、そのあたりのノウハウを各社溜め込んでいるところだ。

 そんな流れを受けてか、リコーのアクションカメラ第2弾となる「WG-M2」は、動画撮影時で204度、35mm換算で約14mmという超広角レンズを搭載して登場した。店頭予想価格は税込4万円台後半だが、通販サイトでは4万円台前半が多いようだ。

 2014年に発売したフルHD対応の第1弾「WG-M1」は併売され、「WG-M2」は上位モデルとなる。他社のアクションカメラでモニター一体型、しかも本体のみで防水防滴仕様のものとしては、JVCの「GC-XA2」があったが、すでに3年前の製品となる。現在も公式サイトには掲載されているが、通販サイトではすでに販売はしていないようだ。すなわち、他社があまりやっていないポイントにすっぽりはまるのが、WG-M2ということになる。もちろん昨今のトレンドに合わせて4K撮影にも対応する。

 デザインも変化した上位モデルWG-M2の実力を、早速試してみよう。

シンプルながら魅力的なデザイン

 WG-M1はディスプレイ部が時計っぽいデザインとなっており、そのメカメカしい雰囲気がアクションカメラ業界では異彩を放っている。WG-M2はボタン配置など基本的な設計は似ているが、装飾性は大幅に減少し、シンプルなデザインとなっている。カラーはオレンジとシルバーの2色展開で、今回はオレンジをお借りしている。

装飾性は減ったが、魅力的なデザイン
WG-M1と比べると、シンプルに見える

 ではスペックを見ていこう。レンズは8枚8群構成の焦点距離1.6mm(35mm換算約14mm)で、F2.0。撮影範囲は20cm~無限遠となっている。

新設計、広角204度のレンズ

 撮影モードは動画、水中動画、タイムラプス動画、エンドレス動画、ハイスピード動画、静止画、水中静止画、高速連写と、機能的にはかなり多い。画角設定としてはWideとNarrowの2モードがあり、動画と静止画で若干だが画角が変わる。動画のほうが広いという設計は珍しい。

多彩な撮影モード
画角モードは2種類
画角WideNarrow
動画
204度

151度
静止画
202度

150度

 なお基本的にはWideで使うカメラらしく、4K撮影時や静止画、高速連写、ハイスピード撮影時にはNarrowモードにできない。一方水中撮影モードでは自動的にNarrowモードになり、Wideにはできないという条件がある。WG-M1では、オートパワーオフで電源が落ちてしまうと勝手にWideに戻ってしまうという仕様だったが、今回は画角モードを記憶するようになっている。

 レンズプロテクタとして、陸上用のドーム型のものと、水中撮影用の平型の2タイプが付属する。

レンズプロテクタは着脱式
底部のロックを外してプロテクタを外す
水中用プロテクタを装着したところ

 撮像素子は1/2.3型、800万画素のCMOSで、動画では最大3,840×2,160/30p、静止画では3,264×2,448ピクセルで撮影可能。動画フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264のMOVで、4K撮影時の動画ビットレートは100Mbpsと60Mbpsの切り替え式。音声はリニアPCM/16bit 32kHz ステレオとなっている。

 なお本機はアクションカメラとしては珍しく内蔵メモリも搭載しているが、4K撮影はできず、HD撮影でも数十秒程度なので、緊急時の静止画撮影用と考えたほうがいいだろう。

解像度フレームレート
3,840×2,16030fps
1,920×1,08060fps
1,920×1,08030fps
1,280×720120fps
1,280×72060fps
1,280×72030fps

 電子式手ブレ補正も搭載しているが、4Kモードでは動作しない。また画角がWideモードでも動作せず、Narrowモード選択時のみとなる。

 本体左側には録画、電源、メニューボタンが並ぶ。WG-M1はメニューボタンがなかったため、メニューを抜けるのにRECボタンを押すという変則的な仕様であった。今回はメニューボタンを押せば、メニューの階層を1段戻るという作りになっている。

ボディ左側。新たにメニューボタンを搭載

 右側はセンターにOKボタンと、左右ボタンがある。メニューボタンでメニューを出し、右側の上下ボタンで選択、OKボタンで決定という操作方法だ。

シンプルになった右側のボタン

 液晶モニターは1.5型/11.5万ドット。視野角もそこそこ広いので、斜めから見ても確認できるレベルだ。バッテリはPENTAXブランドのものが付属する。容量としてはWG-M1よりも少なくなっており、動画撮影時間(4K・Fine設定時)は約80分となっている。

視野角の広い液晶モニタ
背面にはバッテリスロットとUSB、HDMI端子
バッテリはPENTAXブランド

4Kは撮れるのだが……

 では実際に撮影してみよう。本機では録画を開始する際に、ユーザーにわかりやすいようにボディ内にバイブレーション機能を搭載した。録画開始に1回、録画停止時に2回振動する。本来カメラは振動をなくすために手ブレ補正機能を搭載しているわけだが、本体内にわざわざ振動する機構を入れるというのは斬新である。

ブレちゃダメなカメラにあえてバイブレータを入れるという斬新設計

 今回新たにサポートされた4K撮影は、手ブレ補正なし、画角はWideのみに固定される。自慢の204度広角が使えるわけだが、よく考えたら180度を超えている時点で、レンズ位置より前に出ているものはみんな写ってしまうということでもある。

 ということは、この画角の威力を存分に発揮するためには、何よりもカメラを先端に取り付けなければならないことになる。あいにく自転車のマウントはハンドルの中心部にしか取り付けられないため、どうしても手の方がカメラよりも前に出てしまう。従ってせっかくの広角ではあるが、結局手が映り込むだけという結果になる。

 逆に、自転車やバイクを操作する手元まで入れてスポーツの臨場感を出すなど、“自分も映るのが前提”というアングルで撮影する方が、このカメラを使うメリットが大きいだろう。競技者の視点というよりも、競技者込みの全景を撮影するのに向いている。その点では、360度カメラに近い発想で考えた方がいいだろう。

ハンドルマウントで4K動画を撮影
4ksample.mov(102MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 4K撮影では最高でビットレートが100Mbpsのため、画質的には圧縮に起因するノイズは感じられない。しかし撮像素子の画素数は、4Kに必要な約830万画素に少し足りておらず、精細感はそれほど感じられない。全体的にもう少しコントラストが欲しいところだ。

 一方フルHDモードなら、オーバーサンプリング効果が得られるために精細感が得られるだろうと思ったのだが、どうも全画素読出しはしていないようで、画質的にはそれほど向上しないのは残念なところだ。

 手ブレ補正は、1080/60p以下のモードで、かつ画角をNarrowモードに設定した時のみ使用できる。手ブレ補正を使いたければ、自分でNarrowモードに設定し直さなければらならないのが面倒である。他社は手ブレ補正をONにすると自動的にNarrowモードに変更されることを考えれば、本機では画角モードの選択に比重を置きすぎているように思う。

HD解像度で手ブレ補正の比較
stab_hd.mov(44MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 手ブレ補正よりも画角モードの方が優先するので、手ブレ補正なしのNarrowモードでも撮影することができる。ただ本機がアクションカメラであることを考えれば、手振れ補正が不要なケースはあまりないだろう。

 本機のユニークな機能として、「カメラ姿勢切り替え器機能」がある。アクションカメラの場合、カメラが取り付けられる位置や角度が制限される場合が多いわけだが、これまでのカメラでも上下反転する機能は搭載されていた。

 一方本機では、カメラを縦向きに取り付けても縦動画にならず、横向きで撮影することができる。カメラ姿勢として、0度、180度以外に、90度、270度があるのだ。90度、270度にするには、画質モードを1080/30p以下にする必要があるが、解像度としてはきちんとフルHDを確保している。

カメラの取り付け角度に合わせて映像をローテーションできる

 モニター上でもきちんと90度、270度ローテーションしているので、カメラアングルの確認も簡単だ。HDMI出力では横倒しの映像が出力されるが、撮影されたファイルは普通のHD動画と同じになっている。

特殊撮影も充実

 本機は本体のみでも防水でJIS保護等級8級相当、防塵でJIS保護等級6級相当の性能を持っている。防水20m、耐寒性能-10℃、耐衝撃性能2mを誇る、頑丈設計だ。

 水中撮影も水中ハウジングなしでそのまま行けるが、レンズプロテクタは専用のものに付け替える必要がある。水中用プロテクタはほぼ正方形で、上下はボディからはみ出してしまうため、床置きしても若干仰角になってしまう。だが水中撮影という用途を考えると、そこはあまり問題にならないだろう。

 撮影モードで水中動画を選択すると、画角は自動的にNarrowに設定される。水中用レンズプロテクタを装着すると、204度のWideではケラレが出てしまうからだろう。またカラーバランスも水中向けにセットされる。

 自宅の水槽に沈めてみたが、水中でもかなり明るく、色のバランスもいい。ただ魚が前を横切るなどの光の加減によってホワイトバランスが動いてしまうので、水中モードではもう少し動きを抑えて欲しいところだ。

水中撮影モードでは自動的にカラーバランスも水中用にセットされる
water_hd.mov(35MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 また本体重量が136gと軽量な上に、本体の浮力もある。一応下には沈むが、体長8cm程度のドジョウがぶつかっただけでも簡単に動いてしまうので、水中に固定する場合は重りが必要だ。

 また本機には、動画イメージを変えられるエフェクトモードを搭載している。標準は「鮮やか」モードのようだ。

エフェクト名サンプル
鮮やか
ナチュラル
モノトーン
シェーディング
銀残し
ハードモノクローム
ハイコントラスト

 タイムラプス機能もあるので、試してみた。モードとしては30倍、60倍、150倍の3段階から選択できる。今回は60倍で撮影してみた。

夕景をタイムラプス撮影
laps_hd.mov(147MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 タイムラプスモードにすると、画質は1080/30pに固定される。画角のWide/Narrowは選択可能だが、画質モードはFineに固定される。撮影結果としては概ね良好と言えるが、ビットレート的には15.4Mbpsなので、夕景の空のグラデーションが表現しきれないのは残念だ。

 最後にWi-Fiアプリの「Image Sync」を試してみた。Wi-FiはWG-M1から搭載されてはいたのだが、レビュー当時にはまだアプリがリリースされていなかったのである。

Image Syncは現時点では最低限の機能のみ

 本体のWi-Fiボタン(右手の手前)を長押しすると、SSIDとパスワードが画面に表示される。スマートフォンでそこに接続し、Image Syncを起動すると接続完了だ。

 スマートフォンを使ったリモート録画のアプリは、各社とも工夫を凝らしているが、Image Syncは機能的にはまだ少ない。撮影モード変更も、動画と静止画の切り替えしかできず、画質や画角モードの変更はリモートではできない。リモート撮影ツールとしては最低限の機能でも役にたつが、Wi-Fi接続中は本体のメニュー操作もできなくなってしまう。

総論

 4K撮影に対応した上位モデル「WG-M2」は、デザイン的にはシンプルになったが、機能的には随分と改善された。メニューボタンの追加で操作が分かりやすくなり、撮影の最短距離が60cmから20cmに短縮された。防水性能も、水深10mから20mになっている。

 タイムラプス撮影では、WG-M1は日付と時間が強制的に焼き込まれてしまったが、M2は書き込まれない。ハイスピード撮影も解像度が上がり、トレンドとも言える4K撮影にも対応した。モニタを自動消灯しないモードも追加されたため、給電しながらのループ録画も使いやすくなった。M1に搭載されている、動体検知録画がなくなったのは残念だが、全体的には使い勝手が上がっている。

 一方でバッテリの容量が減り、M2は4K、M1はフルHD撮影という違いはあるが、動画の連続録画時間が短くなったのは残念だ。画質的には、ビットレートが上がり、圧縮ノイズは気にならなくなったものの、コントラストや解像感の面では今一歩物足りない印象も残る。

 とはいえ、本体防水でモニター装備のアクションカメラは希少だ。水中ではWi-Fiによる伝送ができないので、モニター付きは大きなアドバンテージだ。画質的にはまだ課題を残すが、ユニークなポジションに位置するアクションカメラとしてファンが定着しそうな1台である。

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リコー
WG-M2

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。