小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第750回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ハイレゾマーク付きレコードプレーヤー? DSD録音できるソニー「PS-HX500」

アナログレコード復活?

 近年、ワールドワイドで音楽関連ビジネスのホットな話題は、「LPレコードの復権」である。米国におけるアナログレコードの売り上げは、2006年に一旦底を打ったが、そこから徐々に復活し、2014年にはおよそ920万枚を売り上げた。2009年と比較すると、260%の成長となっている。

今回取り上げるソニー「PS-HX500」、手前はウォークマン

 今年1月のCESでもその話題が大きくフィーチャーされ、従来からアナログレコードプレーヤーを製品化しているION Audioも好調、パナソニックもTechnicsブランドの復活とともにハイエンドレコードプレーヤー「SL-1200G」を発表した(国内ではSL-1200GAEとして6月24日発売)。元々TechnicsのレコードプレーヤーはDJ御用達だったが、すでに最後のモデルが生産終了して6年が経過しての復活となるわけだ。

 同時期にソニーでもハイレゾ文脈としてUSB出力可能なレコードプレーヤーを発表したが、こちらの方が先に発売される。今回ご紹介する「PS-HX500」がそれだ。4月16日発売で、価格は61,000円となっている。

 日本においても、アナログレコード復権の兆しは読み取れる。日本レコード協会の統計資料によれば、やはり2009年に一旦底を打ったものの、2015年にはおよそ66万枚を売り上げており、2009年から6倍強の成長となっている。

 ただ勘違いすべきではないのは、これから本格的に「アナログLPの時代」が来るわけではないことだ。ほぼ絶滅状態から数倍に伸びたところで、それは音楽産業全体としては微々たる数字だ。現状アナログ盤を購入しているのは、50代以上の「レコードが青春だった時代」の人たちが大半であり、そこに若干の20代が、いわゆる「コレクターズアイテム」として購入しているに過ぎない。

 これからアナログ市場の青天井の成長はとても望めないが、その一方で世の中には数多くのLPレコードがすでに存在する。筆者宅にもおよそ200枚ほどのLPレコードがあるが、当時何かしらの音楽ファンであれば、それぐらいのレコードは所有していたはずだ。ただレコードはあるが、プレーヤーがない、あるいは長年使わなかったので今動くかどうかわからないという方も多いだろう。

 一方若い方は、すでに物心ついた時から家庭にレコードはなかったはずである。CDの生産が開始されたのが1982年のことだが、当時は新譜しかCDで発売されていなかった。実際にCDが普及したのは、いわゆる旧譜がCD化され始めた、1986年ごろのことである。すなわち今から30年前だ。従って20代の方は、レコードをリアルタイムで知らない可能性が高いということになる。

 今回は「PS-HX500」を肴に、レコードの世界を振り返ってみよう。

レコードプレーヤーの基本

 レコードプレーヤーが今全然手に入らないかと言われれば、実はそういうこともない。ハイエンドオーディオメーカーは未だに高級モデルを作り続けているし、リーズナブルな製品としてはTEACやオンキヨー、デノン、オーディオテクニカといった老舗メーカーの製品が普通に購入できる。

 それに対して、ソニー「PS-HX500」のメリットは、やはりPCとUSB接続可能で、なおかつ専用ソフトでDSDの5.6MHzや、192kHz/24bitのリニアPCMでデジタル録音できるところだろう。USB接続可能なプレーヤーは、廉価商品は沢山あるが、ある程度しっかりした製品でハイレゾ録音までできるものは意外にない。市場をよく分析して、そこを狙ってきた製品と言えるだろう。

ハイレゾ対応がポイントのPS-HX500

 レコードプレーヤーは、レコードを乗せて回転させる部分と、レコード針で音楽をピックアップするためのトーンアーム部とに分けられる。レコード回転部分をターンテーブルと言うが、通称ではレコードプレーヤー全体をターンテーブルと呼ぶケースもある。

本機のターンテーブルは自分で設置する

 ターンテーブルを回転させる方式としては、モーター軸にゴム製の円盤を取り付け、それをターンテーブルの外周部に内側から押し当てることで回転させる「アイドラードライブ」という方式があった。かなり古い、しかも廉価なプレーヤーはみんなこれだったものだ。現在の製品では、ほとんど見ることがない。

 現在も使われているタイプとしては、ベルトドライブとダイレクトドライブ方式がある。ベルトドライブは、モーター軸とターンテーブル外周の間にベルトをかけ、回転させる方式で、ダイレクトドライブが登場するまでは高級機の主力方式であった。ベルトはゴムの場合もあるし、糸を使うものもある。モーターとターンテーブルが直接接触しないため、モーターの回転振動がレコードに伝わらないというメリットがあるが、経年変化でベルトが伸びて緩んでしまうため、そのうち交換が必要になる。とは言っても、まあ10年ぐらいは保つだろう。逆に言えば、10年後も保守部品がしっかり残っているかどうかが問題である。本機もこの方式だ。

ベルトをモータに引っ掛けて回転させる

 一方ダイレクトドライブは、ターンテーブルの中心軸がモーターと直結しており、低速回転するモーターで駆動する。昔は低速かつ一定速度で回転するモーターは高価で、常に回転速度をサーボ制御する必要があるため高級モデルにのみ使用されていたが、80年代に入る頃には廉価モデルにも採用されるようになっていった。

ターンテーブルのレコードを乗せる部分は、円形のラバーマットが敷かれている。本機は5mm厚のラバーマットだが、昔はラバーマットを重いものや低振動のものに交換したり、ラバーマットの上に防振シートを載せたりと、いろんなアクセサリが販売されていたものである。

本機では5mm厚のラバーマットを採用

 トーンアームは、先端に物理振動を電気信号に変換する「カートリッジ」をぶら下げてトレースするための機構だ。カートリッジの先端にレコード針が付いている。

 トーンアームにも、いろんな方式があった。本機採用のものはまっすぐなストレートアームだが、緩くS字に曲がったS字アーム、先端が少し曲がっているJ字アームなどがあった。それぞれの方式を採用するにあたっては、各メーカーそれぞれの言い分があり、どれがどこまで正しいのかは今となってはよくわからないのだが、そういうわかったようなわからないような理屈を含めて楽しむのがアナログオーディオの醍醐味である。

本機では5mm厚のラバーマットを採用

 トーンアームの重要な役割としては、針圧を適正に保つという機能がある。針圧とは、レコード針をどれぐらいの圧力でレコード盤に押し付けるかという意味だ。通常は重さ(グラム)で表す。まずトーンアームが水平バランスが取れるように、アーム後部の重りを調整する。水平が取れたところでダイヤルを0にセットし、そこから指定のグラム数まで回転させる。

ウエイトを調整して正しい針圧になるよう調整
アンチスケーティングは、アームが内側に引っ張られる力を打ち消すもの。針圧と同じグラム数を設定する

 グラム数はカートリッジによって指定されている。本機付属のカートリッジは、3gだ。一般的には1.5g程度のカートリッジが多い中で、3gはかなり重い方である。

 カートリッジは、針の振動を電気信号に変換する装置だが、構造としてはコイルと磁石の組み合わせだ。大別すると、磁石の中でコイルを振動させるのがMC(Moving Coil)型、コイルの中で磁石を振動させるのがMM(Moving Magnet)型の2つがある。他にもコンデンサを使うものや、コイルの代わりに鉄を使用するものなども存在したが、現在も製造されているかどうかはわからない。

 MC型は音質が繊細で、アナログ盤では苦手とされていた高域特性に優れていたため、高級モデルとして人気があった。ただしMC型は針の交換ができないので、どうしても高価格の製品が多い。ソニーも昔MC型カートリッジに参入したが、MC型ながら針交換ができるのがウリであった。筆者も購入したことがあったが、間もなくCDの普及が始まり、製品群としては短命であったように記憶している。

 MM型は容易に針交換ができるため、現在一番メジャーなタイプだ。本機付属カートリッジもMM型だがソニー製ではなく、他社製のものを採用しているが、メーカー名などは非公開となっている。カートリッジは、一般的には1万円から3万円程度、高級品になると10万円~30万円と、幅が広い。本体価格が6万円程度であることを考えると、市販されているものではなく、数千円程度の同梱専用品ではないかと推測する。

本機付属のカートリッジ。メーカーは非公開

 カートリッジは、オーディオファンであれば数個持っていて、気分に応じて交換するのが常であった。カートリッジをマウントする部分のことを「シェル」というが、ここは通常のアームであれば根元から簡単に交換できるようになっているため、カートリッジ交換とはシェルごと交換するというのが普通である。

 もっとも、カーリッジのみを交換することもできる。ただ、細くて短いケーブル4本を間違いなく繋ぎ変えなければならないため、アマチュアには難易度が高い。本機のトーンアームは、シェルまで一体となっているので、シェル部分が交換できない。頑張ればカートリッジだけを交換することはできるが、メーカーとしてはシェルやカートリッジまで含めてのバランスで設計しているため、推奨はしないという。

本機のシェル部分。アームと一体化しており、シェル交換はできない

フルマニュアルなプレーヤー

 では実際に再生してみよう。通常レコードプレーヤーは、フォノイコライザーと呼ばれるヘッドアンプがなければ、出力が小さすぎて聞くことができない。レコードプレーヤーには電源が必要だが、それはターンテーブルを回すための電力で、アーム部には一切電力を使っていない。カートリッジはレコードの溝による振動で発電しているだけなので、ものすごく電力としては小さいんである。

 本機はフォノイコライザーを内蔵しているため、レコードプレーヤーの専用入力がないアンプにも、通常のライン出力として接続することができる。もちろんフォノイコライザー内蔵アンプを持っている場合は、プレーヤー部のフォノイコライザーをOFFにできる。今回はアナログ出力は使わず、USB出力をMac Miniに接続し、専用の録音ソフト「Hi-Res Audio Recorder」を通じて試聴している。

フォノイコライザーを内蔵。USB出力も備える

 基本的にはただレコードに針を乗せれば聴けるのだが、末長くレコードを楽しむためには、レコードの盤面の埃を取るためのレコードクリーナーと、針に付く汚れを取り除くためのスタイラスクリーナーの2つは、最低でも用意しておくといいだろう。

 レコードクリーナーに関しては、湿式/乾式の2タイプがあるが、基本的にはブラシである。湿式は湿らすための液体が消耗品として必要なので、それほどの頻度で聴かないのであれば、乾式で十分である。レコードの材質である塩化ビニールは静電気を溜め込みやすいため、埃を勝手に吸い付けてしまう。そのため、静電気を除去するためのレコードスプレーがある。クリーナーで埃を拭き取ってもすぐにまた埃を吸い寄せてしまう場合は、レコードスプレーも購入しよう。

 さて、実際の再生だが、まず左手前にあるロータリースイッチで電源をONにする。これはフォノイコライザーを含めたオーディオ回路に通電するためのスイッチで、ターンテーブルはまだ回転しない。これをONにしないと、ソフトウェア側でレコードプレーヤーを認識できないので、ソフトを起動する前に電源を入れる必要がある。

電源兼用の回転数設定スイッチ

 回転数は、LPでは33にセット、シングル盤なら45にセットする。これは1分間に何回転するかという数字で、33は正確には33と1/3回転である。これは3分間で100回転という意味だ。

 ターンテーブルはそれほど重さがないので、回転数はすぐに安定するだろう。そしたらアーム部の先端を持ってレコードの外周の真上まで持ってくる。針を落とす狙いを定めたら、アームの根元部分にあるレバーを手間に倒す。すると油圧でゆっくりレコード針が下がってきて、再生が開始される。

アームを再生開始位置に持ってくる
このレバーを手前に倒すとアームがゆっくり下がってくる
レコード再生中。実際にはダストカバーを下ろして再生する方が良い

 レコード再生が終わったら、レバーを奥に倒してアームを上にあげ、所定の位置まで戻す。すべての操作をユーザー自身がやらないといけないため、再生が終わってそのままにしていると、いつまでも針が上がらず磨耗することになるので注意が必要だ。

 レコードプレーヤーは、数万円のモデルでもスイッチ一つで自動的にアームが動き再生スタート、片面の再生が終わると自動でアームが上がり所定の位置に戻るという、オート再生機能を持つものも多い。本機は値段の割にはその手の機能が全くなく、フルマニュアルで再生するしかない。その代わり、フォノイコライザーやUSB端子を備え、録音ソフトが付属するわけだ。

レコードと相性のいいDSD録音

 せっかく録音用のソフトも付いているので、レコードを録音してみよう。Hi-Res Audio Recorderは、本機から音楽を録音するための専用ソフトだ。

専用録音ソフト、Hi-Res Audio Recorder

 まず設定項目で、DSDかリニアPCMかを選択する。DSDはサンプリング周波数2.8MHzか5.6MHzかを選択できる。一方リニアPCMの方は、サンプリング周波数44.1kHzから192kHzまで、量子化ビット数は16bitか24bitを選択可能。DSDのファイルが作成できるのは比較的珍しいので、今回はDSD 5.6MHzで録音してみることにした。

フォーマットはDSDとPCMから選択

 録音モードにて赤い丸ボタンをクリックすると、確認ダイアログが表示される。この状態でプレーヤーからの音がモニターできるようになる。ダイアログで「録音開始」を選択すると、録音が開始される。録音レベル調整はなく、フルオートである。書き出し時に不要部分をカットできるので、先に録音をスタートさせておいてからレコードを再生する方が、取りこぼしがなくていいだろう。

録音ボタンを押してもすぐには開始されない。この状態でモニターができる

 レコード再生が終了し、「録音完了」をクリックすると、編集モードとなる。拡大アイコンをクリックすると、波形が拡大されるので、必要部分だけ書き出せるよう、マーカーをセットしていく。テレビのレコーダにおける、チャプターと同じようなものだ。書き出し時には、どのマーカー間を書き出すか指定できる。

拡大表示にして、音楽の開始地点にマーカーを打つ

 頑張れば1曲ずつ分けてファイル化することも可能だが、LPレコードを聴くということは片面を作品の塊として連続で聴くということなので、個人的にはいちいち曲ごとに分ける必要はないと思っている。

特定のマーカー間のみを出力できる

 書き出したDSDファイルは、MacであればVOXという音楽プレーヤーで再生可能だ。PC/Macを使ってハイレゾで聴くというのは王道ではあるが、今回はポータブルでも楽しもうと、ウォークマン「NW-ZX100」も用意した。パソコンにUSBで接続し、DSDファイルをコピーするだけで再生可能だ。使用イヤホンは、ソニーエンジニアリングのカスタムイヤホン「Just ear XJE-MH1」を使用している。

カスタムイヤフォン「XJE-MH1」

 NW-ZX100はDSDをPCMに変換再生するのだが、DSD再生時のみ、デジタルフィルタの設定変更が可能だ。「スローロールオフ」は柔らかい立ち上がりが特徴で、ボーカルの艶っぽさや滑らかさを感じさせる。もう一つの「シャープロールオフ」は音の立ち上がりが速く、キレのいいサウンドが楽しめる。聴いた感じでは、スローロールオフはアナログ再生ほぼそのままの特性、シャープロールオフはキレの良さと明るさがあり、聞き慣れたレコードの音も新鮮に感じた。

 ハイレゾと言えるほどの特性があるかと言われれば、元々のカートリッジの実力次第というところもあるが、圧縮音源特有の聞き疲れが起こらないため、非常にリラックスしてリスニングできた。ハイレゾと言うと、どうしても収録時からハイレゾで録音された高音質な曲を求めがちだが、アナログ由来の音源を非圧縮の良さで楽しめるデジタル技術として、再評価する軸があってもいいのではないかと思う。

総論

 筆者は十分にオッサンなので、若い人がわざわざ好んでレコードを聴くというモチベーションは、本質的には理解できない。何故ならば、レコードに対する個人的な思い出が多すぎるからである。

 初めて買ったLPレコードは、中学1年生の時に買ったベイ・シティ・ローラーズの来日記念ベスト盤みたいなやつで、今となっては当然廃盤である。次に買ったのがQueenの「オペラ座の夜」で、これは文字通り擦り切れるほど聴いても飽きないほど、仕掛けの多い作品であった。

 高校生になる頃には、レンタルレコードなる業態が誕生し、子供の小遣いでもそれなりの量の音楽に触れることができたのは幸せなタイミングであった。音楽制作技術の勉強をするために上京して専門学校に通い、休みの日には御茶ノ水で中古レコードを買い漁った。お金がなくなると手持ちのレコードを売り払い、そのお金は少しのゼイタク飯と別の中古レコードに化けた。

 そんなこんなで手元に残ったレコードは、どれも思い入れがあるものばかりだ。CDで再発されなかったものも多い。レコードそのものを聴くという行為は、今となっては大変手間やコストがかかるものとなってしまったが、それでも今回改めて聴いてみると、“レコードをジャケットから取り出してかける”という一連の所作と、中身の音楽と、それに伴う思い出が全て連動していることに気づいた。

 本機はPCとの親和性が高いので、現代のハイレゾ対応のUSB DACや、スピーカー、イヤフォンと手軽に連携して聴けるということにも価値があると思う。Hi-Res Audio Recorderは録音するだけでなく、単純に再生するためのモードも欲しいところだ。

 もちろん、レコードをデジタル化すればいちいち盤面をひっくり返さなくてもいいので、手が離せない時や集中したい時には便利だ。その点DSD方式での録音は、アナログ特有の空気を押して音を出してる“間”まで忠実に再生できる。

 若い人には何から何まで初めて知るレコードの作法だろうが、レコードをまだ100枚単位で持っている人は、今回のブーム時に何か1つプレーヤーを買っとかないと、これが最後のチャンスになりそうだ。その点でも、PS-HX500はプレーヤーとしてもレコーダーとしても使える、いろんな要件を満たせる1台だと言える。

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PS-HX500

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。