小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第754回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

片手で持てる世界最小ハイレゾスピーカー、ソニー「h.ear go」を試す

 カラフルなボディでカジュアルなイメージながら、ハイレゾに対応したソニー「h.ear」シリーズ。「h.ear on」がヘッドフォン、「h.ear in」がイヤフォンで、昨年10月にデビューしたのは記憶に新しいところだ。そしてこの4月より新しいシリーズ、「h.ear go」こと「SRS-HG1」が仲間入りした。ハイレゾ対応のワイヤレススピーカーだ。

中央が「h.ear go」こと「SRS-HG1」

 これまでソニーでは、ハイレゾ対応ワイヤレススピーカーとして「SRS-X9/X99/X88」を製品化している。ただこちらはボディも大きめで、ポータブルとは言えない。バッテリで動くわけでもなく、コンセントは必要である。

 一方でBluetoothスピーカーとしては、バッテリ内蔵でどこにでも持ち出せるタイプのものが人気となっており、ここはソニーだけではなく他社も含めて激選区となっている。そんな中h.ear goは、バッテリ内蔵のポータブル機でありながらハイレゾ対応、h.earシリーズ特有の5色のカラーバリエーションという、もう“いろんな流れを全部集めちゃいました”的な製品となっている。

 ハイレゾ対応ワイヤレススピーカーとしては世界最小となっており、価格的にも店頭予想価格28,000円前後と、手を出しやすい。ハイレゾスピーカーなんてまだまだ買えないと思っていた方にも朗報だろう。

 カラフルかつコンパクトなハイレゾスピーカーの実力を、早速試してみよう。

カラーは、チャコールブラック、シナバーレッド、ライムイエロー、ビリジアンブルー、ボルドーピンクの5色

見所の多い構造

 SRS-HG1のカラーは、h.earシリーズ特有の中間色だ。同じカラーバリエーションでも、先行して発売されている「SRS-XB3」や「XB2」のように、きっぱり黒、赤、青といったトーンではないところが特徴である。ボディ全体が同じカラーなので、派手といえば派手だが、安っぽさのない色である。今回はシナバーレッドをお借りしている。写真では普通の赤に見えるが、実際には朱色に近い。

コンパクトながらハイレゾ対応のSRS-HG1

 サイズとしては約204×60×62mm(幅×奥行き×高さ)の立方体で、重量は約790g。片手でひょいと持てるサイズだ。手前のパンチンググリルは取り外し可能になっているあたりは、さすがSRSシリーズ直系といったところだろう。X9/99/88ではグリルを外すための磁石が同梱されていたが、HG1では底部に外すためのレバーがある。

フロントのグリルは外せるようになっている
底部に取り外し用のレバーが

 天面のボタンは、電源とボリューム、低音を強調するEXTRA BASS、着信応答用ボタンの5つ。左側の背面には、入力モードを切り替えるFUNCTIONボタンがある。天面に現在の入力ソースを示すLEDがあるのだが、ラベルが後ろ側についているので、正面からでは何のモードなのかがわからない。一度使い方が決まるとそんなにモードは切り替えないだろうということなのだろうか。

天面のボタンは右側に集中

 背面にはSTEREO PAIR、SET UP、UPDATE/WPSボタンがある。STEREO PAIRは、本機を2台使ってステレオスピーカー化する機能で「Wireless Stereo」と名付けられている。SET UPは同じくサラウンドスピーカー化して、テレビ用サウンドバーなどと連携する機能なのだが、現在は動作しない。6月ごろのアップデートで対応ということになっている。

背面にも操作ボタンが

 UPDATE/WPSは、WPSでWi-Fiに接続する時に使うほか、本機のファームウェアアップデートの際にも使用する。SRSシリーズをご存じない方のために説明しておくと、このシリーズはWi-Fiに対応しているので、アップデートがあると本体が勝手に受信し、本体だけでファームアップできるのである。

 端子類としては、充電専用のmicroUSB端子と、外部入力としてのmicroUSB端子がある。これを使ってPCと接続し、USB DAC兼スピーカーとして動作する。その隣はアナログオーディオ入力端子だ。従って音楽の入力ルートとしては、Bluetooth、USB、Wi-Fi、アナログオーディオの4つがある。

充電とUSB接続で別々の端子を搭載

 ここでハイレゾの定義についてまとめておこう。入力方法としてハイレゾに対応するのは、Wi-FiとUSBだ。Bluetooth接続ではソニー独自の高音質規格「LDAC」に対応しており、同じくLDAC対応プレーヤーから「音質優先」で接続した時のみ、「ハイレゾ相当」となる。LDACには、音質優先モードとして990kbps、標準モードとして660kbps、接続優先モードとして330kbpsの3モードがある。例えば、LDAC対応ウォークマンのデフォルトは標準モードなので、ハイレゾ相当で聴くためにはマニュアルで設定を変更しなければならない。

 BluetoothでLDAC以外で接続した場合や、アナログ入力、Wi-Fiでもストリーミングサービスなどから再生する場合は、音源側がハイレゾではないわけだが、音質補正機能の「DSEE HX」が搭載されており、これを併用すると一応「ハイレゾ相当」となる。

 もちろんスピーカー側は、ハイレゾソース対応のDACを搭載している。オーディオコーデックとしては、WAV、AIFF、FLAC、ALACにはフル対応だが、DSDとDSFは内部でリニアPCM変換となる。これは当然として、さらにスピーカーシステムとしてもハイレゾソースを鳴らし切れる設計である必要がある。

 使用スピーカーは、直径35mmのフルレンジスピーカー×2だ。振動板は同社ハイレゾスピーカー「SS-HA1」やサブウーファ「SA-CS9」で採用されている発泡マイカを使用。マイカとは、「雲母」のことだ。発泡状態にしたマイカをパルプ、合成繊維と混ぜて形成したもので、軽量・高剛性・高内部損失という特性を備えている。実際表面の輝きを見ても、雲母のような見た目である。これに強力なネオジクムマグネットを組み合わせ、世界最小のハイレゾ対応フルレンジスピーカーを作り出した。

新開発の35cmハイレゾ対応フルレンジスピーカー

 中央部には、これもSRSシリーズでおなじみのパッシブラジエータがある。実は前面だけでなく、背面にももう一つある。これは内部で左右の音を混ぜず、独立したボックス部となっており、それぞれに対してパッシブラジエータがあるわけだ。具体的には正面にあるパッシブラジエータは右のスピーカー専用で、背面のパッシブラジエータは左のスピーカー専用となっている。

中央部のパッシブラジエータ。実は背面にもう一つある
内部のフレームを背面から見たところ(上下は逆になっている)

 パッシブラジエータは低域を補強するものだが、片方が後ろ向きでは逆相になってしまうのではないかと懸念するところだ。だがそこはDSPを使って補正しているという。

 内蔵バッテリはリチウムイオンで、ユーザーによる着脱はできない。連続使用時間は、Bluetooth接続時でおよそ12時間となっている。無音時のオートオフ機能もある。

ボディからは想定外の低音

 では実際に音を聴いてみよう。まず一番確実なところで、パソコンとUSB接続し、ハイレゾ音源を再生してみた。

 EXTRA BASSがOFFの状態では、まあ大体ボディサイズから想像できる程度の音だが、ONにするとサウンドが激変する。低域が十分出ることで、音楽の骨格ががっしりするのがわかる。低域が誰かの迷惑になるという場合を除けば、デフォルトでONにしておくべきだろう。

 特に小音量時の低域の出は、なかなかこのサイズのスピーカーでは聴けないパンチ力だ。ドラムのキック音の、音圧を伴った張り出し感が素晴らしい。音量を上げていくと、中高域に比べて低域の出方に限界がくるのか、バランスが変わって次第に腰高なイメージとなる。低域重視派は低音量から中音量で聴いたほうが満足度が高いだろう。

 一方で相当大音量も出せる。遠くから聴いていると、とてもこのサイズのスピーカーが鳴っているとは思えないパワーだ。パッシブラジエータが前後に付いていることで、逆相感があるかと心配したのだが、実際に音を聞いてもおかしな逆相感はなく、左右完全独立のスピーカーボックスゆえに、ステレオセパレーションに濁りがない。

 ただ、ステレオイメージの大きさという点では、やはり左右のスピーカーの距離が近いので、音像はそれほど広がる感じはない。これはSRSシリーズに共通の弱点で、特に大型機のX9/99では、本体サイズに対するステレオイメージの狭さで、印象としては損している。だが本機の場合、実際のスピーカー位置の5cmぐらい外側で鳴っているような印象だ。この本体サイズでここまで鳴れば、ステレオイメージに対する不満はある程度解消する。

 ボーカルのリアリティや艶っぽさも、ハイレゾ特有の良さとして十分に表現できている。特性に固有の嫌なクセがなく、新開発のフルレンジスピーカーの実力は相当高い。サイズが小さいので、パソコン仕事でも机の上、真正面に置いておける。ノートPCユーザーは、パソコンの奥に1段高い棚などがあれば、そこに乗せるといいだろう。小型ゆえの取り回しの良さは魅力だ。

 ウォークマン「NW-ZX100」も用意して、LDACでの接続も試してみた。ウォークマンとのBluetoothでのリンクは、NFCでタッチするだけなので簡単だ。リンク解除も同様にタッチするだけである。

ウォークマンとはNFCで簡単にペアリングできる

 音源は、DSD録音ができるレコードプレーヤー「PS-HX500」で録音した12インチシングルだ。レコードから聴くのは割とおおごとなのだが、ウォークマンとHG1、どちらもバッテリ駆動の小型機器だけで、どこにでも設置できる「ハイレゾ相当」のオーディオセットが出来上がるのは、快感でもある。

SRSシリーズには欠かせない専用アプリSongPal

 Wi-Fiでの利用は、専用アプリのSongPalからアクセスポイント名とパスワードを流し込み、ホームネットワークに接続する。するとスピーカーはDLNAのレンダラーになるので、DLNA対応のNASなどに保存された音楽を鳴らすことができる。

 しかし最近は、家ではストリーミングサービスで音楽を流しっぱなしという人も多いだろう。SRSシリーズは、かなり前からGoogle Castに対応している。Google Castは、以前は映像音声込みの規格だったが、昨年末にオーディオに特化した「Google Cast for Audio」をリリース。専用機とも言える「Chromecast Audio」も発売され、少しずつ認知が広がっているところだ。詳しくはレビュー記事を一読するとよくわかるだろう。

 日本で利用出来るサービスとしては、Google Play Music、AWA、KKBOXがある。Google Castのポイントは、一度再生をスタートさせると、あとはサービスとスピーカーが直接やり取りして音楽を再生するので、スマホがフリーになるところだ。当然スマホのバッテリも減らないし、ちょこっと動画を見ても音声はスマートフォンから再生され、スピーカー側には影響ない。マルチで色々楽しむ休日などには使い出のある機能だ。

 ストリーミングサービスは、圧縮音源を使用していることもあり、音質的にはハイレゾには遠く及ばない。だがスピーカーとして性能がいいことや、DSEE HXによる音質補正も効いているため、かなりクリアな音になる。デジタル信号処理の「ClearAudio+」も使えるが、これをONにするとEXTRA BASSがOFFになってしまうので、痛し痒しである。

複数台のスピーカーを使う

SongPalで複数のスピーカーをグループ化

 SongPalを使うと、複数台のSRSシリーズをグループ化することができる。 ストリーミングサービスの再生先をこのグループに設定すると、複数のスピーカーを同時に鳴らすことができる。

 これまでは単純に、いろんな部屋で同時に同じ音楽が鳴るといった使い方しかできなかったが、6月に予定されているアップデートでは、2台のHG1を使ってステレオスピーカー化(Wireless Stereo)したり、前後に配置してサラウンドスピーカーとして(Wireless Surround)使うことができるようになる。

 とはいえ、今現状は動いていないのでこの機能は試せないのだが、なんとなく使い勝手がイメージできるかなと思い、実はHG1を2台お借りしてみた。現状は単に同時に鳴るだけなのだが、このコンパクトさゆえどこにでも置けるのが魅力だ。

 というわけで、1台を前に、もう1台を後ろに配置してみた。するとサラウンドにも似た音像の広がりを体験できた。ただお互いのスピーカーは向かい合っているので、左右が逆になり、音像がねじれた感じになってしまう。そこで後ろのHG1を上下逆においてみたところ、なかなかいい感じになった。

 HG1は横幅が短いのでどうしてもステレオ感が希薄になりがちなため、Wireless Stereo機能に期待がかかる。だがこうして前後に置くというのも、音像としては面白い。将来搭載されるWireless Surround機能は、再生機や再生ソースもサラウンド対応が必要だ。だが単純にステレオソースでサラウンド風な楽しみが出来るよう、Wireless Stereoの応用編として、LRを逆にする機能があってもいいだろう。また前後置きする場合、厳密にスピーカーの特性は同じでなくてもいいので、種類の違うスピーカーでもいけるだろう。

ハイレゾ非対応のBluetoothスピーカー2機種と聴き比べる

 ユーザーとして気になるのは、同じワイヤレススピーカーでも、先に発売された「SRS-XB2」や「SRS-XB3」と比べてどうなのか、というところだろう。サイズ的にはXB2が近いが、こちらは実売で1万1,000円~1万3000円。やや大型のXB3は1万6,000円~1万7,000円程度だ。価格だけを比べると、「1万円以上高いHG1はそんなに違うの?」と気になるところ。

1万円ちょっとで手に入るコンパクトスピーカー「SRS-XB2」
若干大型の「SRS-XB3」
3台をサイズ比較。左からSRS-XB2、h.ear go SRS-HG1、SRS-XB3

 XB2及びXB3の最大の特徴は、IPX5相当の防水仕様になっているところだ。ハイレゾ対応ではないが、屋外やお風呂場などで安心して使えるというメリットは大きい。また型番にXBとついているところから、低音強調モデルであることがわかる。最近の音楽トレンドとして、低音重視は外せないところだ。なお、Wi-FiやUSB DAC機能などは搭載していない。

 全モデルともLDACには対応しているので、ウォークマンで同じ曲を再生し、3つを聴き比べてみた。XB2の場合、高域に硬さがあり、明瞭度は上がる。ただ音に少し箱鳴りのようなクセが感じられる。低域はEXTRA BASSをONにしても、HG1のずっしりした出の良さとは比較にならない。

 XB3はボディ容積も大きく、フルレンジスピーカーも48mmと口径が大きい。低域の出もそこそこだが、全体的におとなしく、こもる感じの音だ。ここ数年のJ-Popを再生すれば、うまいバランスで鳴るのかもしれないが、少し古い曲だともったりした感じになる。低音量ではEXTRA BASSをOFFにした方が明瞭度が上がり、バランスが良くなる。

 なんども入れ替えて聞き直してみたが、やはりHG1のバランスの良さには全然敵わないというのが正直なところだ。HG1は防水仕様ではないので、お風呂やハードな屋外用途であれば、XB2/XB3という選択肢はあるだろう。ただ普通の環境で聞くなら、音抜けの良さが楽しめるという点で、1万円ぐらい多く出してもHG1の方が後悔しない。たとえハイレゾ音源を聞かなくても、その差は歴然だ。

総論

 ワイヤレススピーカーは数々あれど、ハイレゾ対応で絞り込むとやはりソニーが市場を牽引していると言っていい。これまでX99/X88といった大型機のみハイレゾ対応だったが、中型機をすっ飛ばして小型機のHG1を投入してきたことで、このクラスの業界勢力図もガラッと変わりそうだ。それだけh.ear goの登場にはインパクトがある。

 その一方で、カラーごとの人気度を見てみると、チャコールブラックが圧倒的大差で売れており、その他の色はあまり人気がないようだ。今手元にはビリジアンブルーもあるのだが、これもなかなか落ち着いた色合いだ。おそらくこのクラスの製品は通販で買われてしまうため、現物の色を見ずに無難な色が選ばれているのかもしれないが、実際の発色は店頭などで確認してみてほしい。

 同サイズのワイヤレススピーカーが1万円台で手に入ることから、HG1は1ランク高いわけだが、サウンドとしても確実に1ランク上だ。ハイレゾ云々にこだわらなくても、いいスピーカーとして評価できる製品に仕上がっている。

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ソニー
h.ear go
SRS-HG1
ソニー
SRS-XB3
ソニー
SRS-XB2



小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。