“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第455回:ついにコンデジでAVCHDフル対応! ソニー「DSC-HX5V」

~ 大幅機能アップでハンディカム危うし? ~



■ フルHDでAVCHDの衝撃

 昨年あたりから、デジカメの動画撮影機能が脚光を浴びている。元々VGAやハーフVGA程度の動画撮影機能は備えているものが多かったが、ハイビジョンが撮れるようになってから、事情が変わってきた。

 しかし未だ、デジカメの動画フォーマットは、各社独自仕様であることが多い。そもそもビデオカメラではないわけだから、光学センサーのスペック、画像処理エンジンのスペックなどから、独自仕様にする方がもっともパフォーマンスが引き出せるというは道理である。

 しかしユーザー側からすれば、再生環境は長期間サポートされるのか、保存はどうするのか、といった不安が残る。昨年1月にパナソニックが発表したAVCHD Liteは、ビデオカメラで定番化したフォーマットを、デジカメスペックに合わせて720pに特化したものである。AVCHDフォーマットはテレビやレコーダで広くサポートされており、再生や保存環境も一応レールができている。

 パナソニックとしては、デジカメ動画は720pにフォーカスしたわけだが、少し事情に詳しいユーザーなら、日本でほとんど普及していない720pよりも、フルハイビジョン1080iのほうに興味を持つはずである。

 ソニーのコンパクトデジカメも、ハイビジョンクラスの動画撮影には対応してきたが、DSC-HX1は1,440×1,080のMPEG-4 AVC/H.264、DSC-WX1は720pのMPEG-4 AVC/H.264であった。AVCHD Liteにはいつ乗ってくるのか、と思っていたら、720pをすっ飛ばして1080iのAVCHDフォーマットを載せてきた。それが今回の「DSC-HX5V」(以下HX5V)である。

 同型番のHX1がネオ一眼であったのに対し、今回のHX5Vはコンパクトデジカメスタイルとなっている。それでハンディカムと同じフォーマットの動画が撮れるのだから、デジカメユーザーだけでなく、ビデオカメラユーザーも気になる製品だろう。今回は静止画機能ではなく、動画機能のみにフォーカスしたレビューをお送りする。ではさっそくHX5Vの実力をチェックしてみよう。


■ ルックスはオーソドックス

デザインはオーソドックス

 HX5Vは、ゴールドとブラックの2色展開だが、今回はゴールドをお借りしている。これまでのゴールドのイメージとは違い、少しカッパーの赤みを感じさせる、渋いカラーだ。

 デザインとしてはオーソドックスなコンパクトデジカメであるが、レンズ部分がかなり大きい。そのためサイズの割には、少しどしっとした重さを感じる。本体重量は約200gである。


レンズは従来機よりも大きめ

 外装にはコネクタ用のフタ類がなく、デザインテイストを壊さないよう配慮されている。唯一底部に、バッテリとメモリーカードスロットへのフタがあるだけである。本体に充電機能がないので、充電はバッテリを外して付属充電器で行なうことになる。

 レンズはソニーGレンズで、画角は35mm換算で静止画撮影時25mm~250mmの光学10倍ズーム。動画撮影時の画角は公表されていないが、横は少し狭くなるようである。F値はワイド端3.5、テレ端5.5と、ビデオカメラ側の常識から見るとだいぶ暗い。手ブレ補正は光学式で、ハンディカムで好評のアクティブモードも搭載した。

 

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

テレ端

動画(16:9)


-


-

静止画(4:3)


25mm


250mm

 撮像素子は1/2.4型の裏面照射型CMOS「Exmor R」で、総画素数1,060万画素、有効画素1,020万画素。静止画撮影時の最大サイズは、3,648×2,736ドットの約10Mピクセルとなる。

 背面の液晶モニターは、3.0型23万画素のクリアフォト液晶。また今回は背面に、動画撮影用のMOVIEボタンが付けられた。以前のサイバーショットは、動画モードにしたのちシャッターを押すと撮影開始だったが、今回からは他社のデジカメ同様、モードダイヤルがEASYモード以外であれば、MOVIEボタンを押して動画撮影が開始できる。なお動画撮影モードを選んでいるときは、MOVIEボタンでもシャッターボタンでも、動画撮影となる。

 上部左側にはステレオマイクがある。かなり端に寄っているので、両手で持つ際は指でマイクをふさがないよう注意する必要がある。

 動画関係の設定を見てみよう。まずはメニューの設定画面内で、MP4で撮るかAVCHDで撮るかを選択する。それぞれのフォーマットで画質設定があり、AVCHDでは17MbpsのFHモードか、9MbpsのHQモードが選択できる。

背面にMOVIEボタンを新設モードは全10種類も動画記録方式は2種類

 

動画サンプル

モード

フォーマッ

ビットレート

解像度

フレームレート

サンプル

FH

AVCHD

17Mbps

1,920×1,080ドット

60i


00021.mts(23.4MB)

HQ

9Mbps

1,440×1,080ドット

60i


00022.mts(17.2MB)

1080

MP4

12Mbps

1,440×1,080ドット

30p


mah00036.mp4(16.3MB)

720

6Mbps

1,280×720ドット

30p


mah00037.mp4(8.6MB)

VGA

3Mbps

640×480ドット

30p


maq00038.mp4(4.5MB)

編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 

メモリーカードスロットはMSとSDのハイブリッドタイプ

【お詫びと訂正/2010年3月18日修正】
 記事初出時、TransferJetでの動画転送には対応していないと記載しておりましたが、カメラ同士では対応していませんが、接続先機器によっては可能です。お詫びして訂正させていただきます。

 バッテリは昨今のサイバーショットで標準となっているTYPE G型。メモリーカードスロットは、メモリースティック DuoとSDカードのハイブリッドである。また本機は近接無線転送技術「TransferJet」に対応している。ただしアンテナなどは本体に内蔵していないため、TransferJet搭載メモリースティックが必要となる。

 底部には集合端子があり、付属の変換アダプタでHDMIの出力が可能。また付属の集合ケーブルを使えば、アナログAV出力とUSB接続もできる。ただこのケーブル、AV信号3本とUSBが一つにまとまっているため、単にUSB接続したいだけという場合にAV端子が邪魔である。転送はメモリーカードの抜き差しでやるというのが前提になるようだ。


付属の変換アダプタでHDMI出力も可能USBとアナログAVの集合ケーブルも付属

■ なかなか見せるGレンズ

 ではいよいよ撮影である。液晶画面は4:3だが、動画モードにするとレターボックス表示となり、16:9画角が表示される。ハンディカムでは29.8mmという広角を実現したばかりだが、HX5Vも相当ワイドに撮れる。ただここまでワイドになると、それなりに樽型歪みは出るので、ワイド端で上下にカメラをパンするときに少し違和感を感じるかもしれない。

 映像はビデオカメラというよりも静止画的な高コントラストで、発色もしっかりしている。絞りはF3.5(解放)とF8しかないが、動画撮影時はF3.5に固定されるようだ。絞りが完全な円形なので、テレ端では背景のボケも結構綺麗である。

背景のボケもなかなか綺麗だワイド端では被写界深度が深い

 ただ撮影時にはAFしかないので、狙ったところにフォーカスを合わせるには、ターゲットの被写体を画面内で結構広めに入れる必要があるため、構図に多少の制限が出てくる。フォーカスロックなどの仕掛けは欲しいところだ。一方ワイド端では、ほとんどパンフォーカスと言えるほど深い被写界深度となるため、フォーカスには不安はない。


focus.mpg(62.1MB)
動画撮影中は顔認識しないので、手前に近づく人物にはフォーカスがあわない
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 また動画撮影中は顔認識が働かないので、人物撮影時のフォーカスは、普通のモノ撮りと同じ工夫が必要になる。静止画用の画像処理プロセッサなので、動画に対応できるほどの処理速度が得られないのかもしれない。

 テレ端で250mm近辺というのは、ビデオカメラ的に言えばもう少し寄りたいところではあるが、これだけワイド端が広いわけだから、そこはまあ仕方がないところである。機能的にはデジタルズームもあるが、これは静止画の画像サイズが5M以下に設定したときにしか使えないので、動画も含め高解像度静止画では、光学10倍しか使えない。

 デジカメの場合、動画撮影中のズームが結構苦手な機種も多いが、本機はビデオカメラと遜色ないなめらかな動きをする。テレ端とワイド端でフォーカスポイントがずれるということもないようだ。このあたりは、なかなか「本気」である。

 露出に関してはあまり不安はないが、全体的に若干明るめに撮ろうとする傾向がある。EV補正で-0.3~-1.0程度暗めにした方が、雰囲気のある映像が撮れるようだ。

 逆に光量が少ないところでは増感してしまい、S/Nが落ちるケースがある。せっかくの裏面照射だが、動画撮影ではISOがAUTOになってしまうのは残念である。

EV補正で-1.0暗めに撮影光量が足りないところでは増感するため、S/Nが落ちる

 


stab.mpg(121.3MB)
アクティブ手ぶれ補正とスタンダード手ぶれ補正の比較
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 手ブレ補正に関しては、ハンディカムでお馴染みのアクティブ手ブレ補正が入ったことで、ハンディでの撮影に不安がなくなったのは大きなポイントだ。ただし手ブレ補正のOFFはできない。常時アクティブかスタンダードモードが入りっぱなしである。

 三脚穴はかなり端についているので、三脚の水準器に対して若干水平がずれてしまうという現象が起きる。またスタビライザーなどに載せるのも、バランスが悪い。かなりいい絵が撮れるだけに、本気で使うには今ひとつなのが、もったいない気がする。

 バッテリは、動画ばかり撮っているとそんなに保たない。今回の撮影では、小一時間いろいろ撮影したあたりでバッテリ切れとなった。幸い個人所有のバッテリもあったので撮影には支障をきたさなかったが、動画も結構撮るというのなら予備バッテリは必須である。



sample.mpg(362.8MB)

room.mpg(122MB)
動画サンプル。光量もあり、なかなかいい絵が撮れた室内サンプル。増感の影響が強い
編集部注:動画はCanopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

■ 動画の連続再生にも対応

 では次に再生機能を見ていこう。デフォルトのビューモードでは、動画も静止画も、撮影日時順に表示される。ズームレバーをワイド方向に倒すと、サムネイル表示が4×4、5×5、カレンダービューと表示が変わっていく。

4×4のサムネイル表示5×5のサムネイル表示カレンダービュー

 そのほかフォルダービューとして、静止画のみ、MP4のみ、AVCHDのみの3パターンのモードが選択できる。AVCHDに設定した場合、AVCHDで撮影した動画のみが現われる。

AVCHDのみを連続再生可能

 クリップをひとつ選んで再生すると、そのクリップの再生が終わった時点で停止するが、スライドショーから連続再生を選ぶと、動画を連続で再生できる。クリップのつなぎ目も止まることなく、綺麗に連続で再生されるあたり、再生プロセッサはかなりパワフルだ。

 本機には、GPSも搭載されている。ハンディカムでは内蔵メモリに地図データが入っており、地図上で撮影ポイントが確認できるというのが一つのウリになっている。本機には地図データは入っていないが、そのかわり再生画面では、撮影ポイントの緯度と経度が表示される。本体内のアバウトな地図ではなく、紙の詳細な地図を持っている場合、こちらのほうが楽しそうだ。

 また静止画では、カメラを向けていた方角もわかる。山歩きや町歩きといった散策での撮影では、どちらの方向の景色なのかをあとで地図上で確認する事もできるので、なかなか楽しそうである。さらに、付属ソフト「PMB(ピクチャーモーションブラウザー)」や、Google Earthと連動させ、地図上に、そのポイントで撮影した写真を表示するといった使い方もできる。

 一方動画再生の場合は、緯度と経度までは表示されるが、方角は出てこない。おそらく動画では1クリップの中で方角が変わることも当然あるため、撮影開始時の方角を記すことにあまり意味がないということなのだろう。

静止画の表示画面。緯度、経度情報のほか、撮影した方角もわかる動画の表示画面。緯度、経度はわかるが、方角は表示されない

■ 総論

 思い返せばハイビジョンカメラも、'05年にソニーが「HDR-HC1」を出したときに、よくここまで小さくなったなと感激したものだった。これ以上の小型化は、ハイビジョンに耐えられるレンズの開発などで、当分は難しいだろうとされていたのだが、それからわずか5年で、当時の画質を上回りつつポケットに入るサイズにまで小さくなった。

 これがビデオカメラ分野だけの研究・開発だったら、こんなに短時間では達成できなかったはずで、やはり製品サイクルが早く市場規模が大きいデジカメ分野の性能向上があったからこそ、であろう。HX5Vは、そんな時代の申し子的カメラである。

 映像としては、ハンディカムに匹敵する画質と言ってもいいだろう。フォーカスのマニュアル機能などがないため、ほとんどカメラ任せになってしまうとはいえ、ここまで撮れたら十分、と感じる人は多いのではないだろうか。

 もちろん細かいところを言えば、マイクが上向きに付いているため、集音性が悪くフカレやすいこと、連続撮影がAVCHDでも29分(MP4モードでは約29分または最大2GB)で止まってしまうことが、ハンディカムに比べてのマイナスポイントである。しかしそこは問題にしないというのであれば、ライトな動画撮影は十分まかなえる。

 いやいや、エラい時代になったものである。

【お詫びと訂正/2010年3月21日修正】
 記事初出時、連続撮影がAVCHDの場合でも2GBで停止するとしておりましたが、正しくはAVCDHDの場合はファイル容量の制限はなく、29分の制限のみでした。お詫びして訂正します。

(2010年 3月 17日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]