“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第486回:手軽な3D撮影機、レッツ「3Dsunday pocket HD camera」

~ ある意味今後の課題を突きつけた3Dカメラ ~



■ 撮って楽しむのが今の3D

「3Dsunday pocket HD camera」(サンデー・サンデー・ポケット・エイチディー・カメラ)
 先日のCEATECはまさに3Dワールドの様相を呈していたが、3Dで元気なのはディスプレイだけではない。カメラもおそるおそるといった感じではあるが、製品の選択肢が拡がりつつある。これまでも3Dカメラに関してはWEBカメラに至るまで取り上げてきたが、残念ながら低価格のカメラで屋外で撮影できるものがなかった。

 調べてみると、すでに8月末に低価格の3Dカメラが出ている。レッツ・コーポレーションが販売する、「3Dsunday pocket HD camera」(サンデー・サンデー・ポケット・エイチディー・カメラ、以下3Dsunday)がそれだ。低価格CMOSのHD撮影できるカムコーダは台湾メーカーがいくつも作っているが、3Dのカムコーダはまだあまりないようだ。

 HDとはいっても720/30Pではあるが、直販価格29,800円の3Dカメラの実力を、さっそくテストしてみよう。



■ なんとなくロボットっぽいルックス

iPhoneとサイズ比較。面積は近いが、厚みはかなり違う

 3Dカメラというのはレンズが2つあるせいもあって、なんとなく人っぽかったり動物っぽい感じになる。3Dsundayは目の部分が黒、ボディが白ということで、なんとなくロボットっぽく見える。ネットで調べたところ、台湾AIPTEK社の「i2 3D-HD 720P」と同じもののようである。AIPTEKの製品は、過去デジタルフォトフレームやマイクロプロジェクタなどが日本にも入ってきているようだ。

 サイズ感としてはiPhoneを太らせたぐらいだが、厚みは2倍ちょっとある。前面のレンズはパンフォーカスで、フォーカス距離の最短が1mまで、画角は35mm換算で45mm/F2.5となっている。2つのレンズ間は資料はないが、ノギスで実測すると約4cmであった。4倍までのデジタルズームも備える。


レンズは単焦点。レンズ下の穴はステレオマイク

 撮像素子は1/2.5インチ 5メガピクセルのCMOSで、動画解像度は1,280×720ドット、静止画解像度は2,592×1,944ドット。記録フォーマットは動画がAVC H.264で、3D撮影の場合は720のサイドバイサイドとなる。静止画はJPEG記録だ。

 前面のパネルを開けると、バッテリが交換できる。充電はUSBだ。本体横のスライダーを下に動かすと、USB端子が出てくる。コンセプトとしてはFlip Videoに近いと言えるだろう。逆サイドには電源ボタン、miniHDMI端子、SD/SDHCカードスロットがある。内部メモリも128MBあるが、ここにはブラウジング用の専用アプリケーションが入っており、PCに接続すると自動的にインストーラが起動する仕組みだ。

 背面に回ってみよう。液晶モニタは2.4インチの480×240ピクセルで、パララックスバリア方式による裸眼3D表示ができる。液晶上部にあるのはスピーカーで、ちょっと携帯電話っぽいデザインだ。ボタン類は4つで、赤い丸が動画記録ボタン、その下が静止画のシャッターボタンだ。右側は2D/3Dの切り換え、その下は削除ボタン。底面には三脚用の固定穴もある。

前面に充電池を格納液晶モニタはやや小さめ

 十字キーはセンタークリックできるタイプで、押し込むと再生モードになる。メニューを出すには右側に倒し、センタークリックでOK、静止画シャッターボタンに「キャンセル/上の階層に戻る」機能を持たせてある。メニューはシンプルで、言語設定ほか、時間や日付、フリッカー防止周波数といった程度の設定しかない。画質設定もなく、ホワイトバランスや露出はすべてフルオートである。

 同梱品としてはストラップやカメラポーチのほか、アナグリフ方式でみるための赤青メガネも付属する。

メニューは必要最小限のもので、ほとんどフルオートアナグリフ方式のメガネが付属

■ 手軽ではあるが画質は……


021.mp4(8.62MB)
撮影中にもズームできるが、実用性はない(オリジナルファイル)
編集部注:動画は撮影したのオリジナルファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。
 では早速撮影である。一応デジタル4倍ズームが付いているが、拡大するとかなり映像が荒れるので、基本的には使わずに撮影したほうが良さそうだ。動画撮影中にもズームできるというのが一つのウリになっているが、電子ズームのカクカクがそのまま記録されるだけなので、実用性はほとんどない。

 画角が45mmと、一昔前の標準レンズと同じくらいの画角なので、人物などは撮りやすい。ただ風景などはワイド感が不足する感じは否めない。3Dと2Dの切り換えができるが、2Dでは右のカメラで撮影する。2Dと3Dでは画角の変化はないようだ。また動画と静止画も動画が上下切れるだけで、横幅は同じようである。画角の撮影は、2Dで撮影したものだ。


撮影モードワイド端テレ端
動画(16:9)
静止画(4:3)

 背面の液晶モニタは、パララックスバリア方式のためか輝度が十分ではなく、屋外では反射がかなりある。3D表示に関しては画素が荒く、近景は比較的立体に見えるのだが、遠景では「なんとなく3Dに見えないわけでもない」といった程度である。また液晶表示が青っぽく、ホワイトバランスが心配になる。最初は曇天のせいで青っぽいのかと思ったら、晴天でも青かったので、液晶の特性だろう。このあたりの品質は、値段を考えると個体差があるかもしれない。

 ちょっと困ったのは、警告音をOFFにすることができない点である。2Dに切り換えたり、オートOFFになるときに「ヒュー」とか「ピロリン」といった音がいちいち鳴る。デリケートな場所での撮影には向かないだろう。

 撮影された動画および静止画は、サイドバイサイド方式で記録されている。したがって横の解像度は半分になるため、斜めのラインなどはかなりガクガクになる。左右の映像を見比べると、色味がかなり違う。フレアの出方が違うのはまだ仕方がないにしても、左右の色味が合わないのは、3Dの自然な見え方にも影響する。ただ露出の変動は左右が完全にシンクロしており、バラバラに見えることはない。

 手持ちでの撮影は、手ぶれ補正機能などはないので、かなりの揺れは覚悟しなければならない。しかしローリングシャッター歪みは案外少ないようで、形の歪みによる3Dでの破綻は感じられなかった。記録する時に横方向が圧縮されているので、歪みもあまりわからなくなっているのかもしれない。


focus.mpg(10.9MB)

stab.mpg(9.37MB)
パンフォーカスなので、ピントの心配はないローリングシャッター歪みはあまり気にならない
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

【動画サンプル】

sample.mpg(70.5MB)
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。
 3D感はレンズ間が4cmとやや狭いため、あまり派手な立体感はないが、見た目には十分である。フォーカスは1m以内でも合うように思うが、立体として破綻せずに見られるのはおそらくレンズ前80cmぐらいではないだろうか。

 映像ビットレートは資料にないが、QuickTimeでの表示を見ると、7.3Mbps程度のようである。しかしパンやチルトなどカメラを動かすと、時々コマが飛んでいる。エンコーダが力不足で、圧縮が間に合っていないのかもしれない。三脚などに固定しての定点撮影では問題ないが、手持ちでの撮影はちょっと画質的にしんどいだろう。



■ 一通りの編集機能まで備えた付属ソフト

本体のメモリー内にインストーラが収録されているArcSoftの「TotalMeida HDCAM for 3D」

 本体内蔵のソフトウェアは、ArcSoftの「TotalMeida HDCAM for 3D」だ。起動するとまずカメラ内の映像を読みに行くが、もちろんPCに転送した映像も読み込むことができる。2D/3Dも、動画も静止画も混在して表示可能だ。3Dのファイルには、3Dのアイコンが付けられている。

 3Dでの再生は、標準ではアナグリフ方式で表示される。そのためにメガネが付いているわけだ。またNVIDIA 3D Visionにも対応しており、対応ドライバとモニタ、メガネのセットがあれば、アクティブシャッター方式の3Dで再生することができる。アナグリフ方式に比べると色味もわかるのでより楽しめるが、現状NVIDIA 3D Visionは3D再生時に全画面表示しかできないので、必然的に画像を拡大することになる。ただでさえ720Pでサイドバイサイドなのに、さらに画面上で拡大されるので、画質がかなり悪く見えるのが難点だ。

 編集機能も備えており、1つのクリップに対して部分削除ができる。しかしクリップの真ん中だけ使いたい時は、2回編集しなければならないのが面倒である。また全体を結合して一つのクリップに出力する機能もある。あるのだが、残念ながら筆者宅の環境では途中でエラーによりアプリケーションが終了してしまって、一度も結合出力できなかった。今回のサンプルは、各クリップのトリミングまでTotalMediaで行ない、最終的な結合と出力はROXIOのVideoWaveで行なっている。


クリップごとの部分削除機能がある複数のクリップを結合する機能もある

 TotalMediaでは、サイドバイサイドで撮影されたクリップをアナグリフ方式に変換する機能も持っている。結合と同じように複数のクリップが登録できるインターフェイスだが、出力される映像は結合されず、バラバラのクリップとして出力される。

 VideoWaveで編集したサンプル映像を方式変換しようとしたが、どうも他のソフトウェアを使って出力するとサイドバイサイドである情報がなくなってしまうらしく、変換することができなかった。このあたりのメタデータの持ち方に関しては、横の連携ができないようだ。

他のアプリケーションで編集したクリップはサイドバイサイド方式だと認識できない

virc0001.mp4(9.54MB)
アナグリフ方式に変換してみた
編集部注:動画は撮影したのオリジナルファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

■ 総論

 今3Dカメラには、3つのシナリオがある。カメラを2台使う方法、2レンズアダプタを使う方法、そして2 in 1のカメラを使う方法だ。カメラ2台を使う方法は調整が難しく、プロかマニアしかやられていない。コンシューマでは2レンズアダプタ方式をパナソニックが推進しており、今のところこの方式では独壇場である。2 in 1カメラでは富士フイルムのWシリーズが先頭を走っており、そのあとにはWEBカメラや富士通のボードPCに内蔵カメラが搭載されるなどの動きがあったが、スタンドアロンのカメラはそれほど数が出ていない。

 確かに2 in 1カメラは左右のキャリブレーション、倍になるストリーム量などいろいろ解決すべき問題はあるのだが、いわゆるCMOSカメラの世界では今後多くの製品が出そうな気がする。ただCMOSカメラはクオリティという点で元々単眼でもそれほど高くなく、日本ではあまり火が付かないのが現状だ。そこを3Dという付加価値を載せることで、米国におけるFlipVideoのようなポジションに行けるかどうか、というところである。

 そういう意味では今回の3Dsundayは、一つのお手本になるようなスペックである。720Pのサイドバイサイドであるために、テレビに繋いでしまうと結果的に拡大してしまうことになるため、期待感を裏切られる結果となるだろう。しかし逆にPC上でVGAサイズ程度に縮めて使うことを前提にすれば、それほど捨てたものでもない。むしろ720Pというスペックを、シュリンク前提でアプリケーション設計するようなアプローチがあってもいいだろう。

 3Dsundayは、画質的には満足できるような製品ではない。ある意味価格なりの画質と言える。さらにあと5,000円もだせばもう富士フィルムの「FinePix REAL 3D W3」が買えちゃうわけで、立ち位置としてかなり微妙である。REAL 3D W3もコーデックがMotion JPEGということもあって画質的には今ひとつだが、トータルのクオリティでは3Dsundayよりもかなり上だ。

 とりあえず3Dになりました、というところまで来たコンシューマのカメラ群であるが、日本で戦うにはもうちょっと画質を上げていかないと、定着する前にイロモノで終わってしまいかねない。視聴環境がHD前提となっている点もまた、辛いところだ。PCモニタでも、画面の中の一部分だけ3D駆動できるといった、画素縮小前提の3Dワールドがあってもいいのではないかと思う。


(2010年 11月 10日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]