ニュース
オーテク、MCカートリッジのスタンダード「AT33シリーズ」一新。ベースに亜鉛ダイキャスト、モノラル用も
2025年10月24日 10:00
オーディオテクニカは、MCカートリッジのスタンダードシリーズである「AT33」を一新する。ステレオMCカートリッジを3モデル、モノラルMCを2モデルを展開し、発売日は10月31日。価格や仕様は以下の通り。
- ステレオMC「AT33xMLB」 115,000円
マイクロリニア針 ボロンカンチレバー - ステレオMC「AT33xMLD」 100,000円
マイクロリニア針 ジュラルミンテーパーパイプ - ステレオMC「AT33xEN」 85,000円
無垢楕円針 ジュラルミンテーパーパイプ - モノラルMC「AT33xMONO/I」 80,000円
無垢楕円針 ジュラルミンパイプ - モノラルMC「AT33xMONO/II」 50,000円
無垢楕円針 ジュラルミンパイプ
AT33シリーズの起源は、1977年発売のヘッドシェル一体型のMCカートリッジ「AT34」に遡る。ヘッドシェルを分離した「AT32/AT32E」を経て、1981年にオリジナルの「AT33E」を発売。以降、様々な派生モデルが登場した。
一方で、AT-OC9XシリーズとAT33シリーズが比較的近い価格帯で販売されており、両者の明瞭な違いをアピールする材料は乏しいため、新モデルでは、両シリーズの差別化という視点を意識して企画・開発された。
AT-OC9Xシリーズの音質を「情報量が多く、空間的な広がりの表現に長け、帯域バランス的にもフラットで、素直で優等生的な音質」とした場合、AT33xシリーズの音質は、「基本性能が優れた製品であることは前提として、中低域を密度濃く表現し、少々リラックスした雰囲気で響き、肉声に暖かみを持って鳴らす」という個性を目指したという。
また、これまで1機種ずつ個別に開発されてきたAT33シリーズを一気にリニューアルすることで、シリーズ全体としての統一感を持たせた。
他のA-Tブランドのカートリッジと同様に、カートリッジ側の取付穴をネジ切り仕様とすることで、取扱いし易い仕様でリニューアルされている。
新開発、亜鉛ダイキャスト製カートリッジベース採用
いずれのモデルも、新開発の亜鉛ダイキャスト製のカートリッジベースを採用。低域の表現力を向上させた。従来の成形した樹脂部品のベースと比べると、曖昧な部分のあるサウンドから、地に足がついたようなサウンドへ進化したとのこと。
なお、筐体は亜鉛ダイキャストだけでなく、アルミニウム、硬質樹脂で構成。異なる素材を組み合わせる事で、共振分散を図ったハイブリッドボディになっている。
コイル線材にはPCOCCを採用。厚膜の金メッキを採用した高音質ターミナルピンも使っている。
また、カートリッジのボディーの剛性を求めると、15gを超えるような使いづらいカートリッジになってしまうが、A-Tのカートリッジではカートリッジボディーの剛性を保ちながら、カートリッジ自体の質量が大きくなりすぎないことを意識して設計。
AT33xシリーズにおいても、密度の高い亜鉛ダイキャストのベースを軽量化することで、カートリッジ全体の質量を10.5gに抑えた。カートリッジボディー全体では亜鉛ダイキャスト、アルミニウム、硬質樹脂の3種類の材料を組み合わせることで、特定の共振周波数に偏ることなく、バランスの良い響きを持つように設計されている。
ステレオMCカートリッジのラインナップ
ステレオMCカートリッジ3モデルの違いとして、最上位機種のAT33xMLBは、情報量が多く繊細な表現が得意なマイクロリニア針に、応答性の早いポロンカンチレバーを採用。「AT33xシリーズの中では最も現代的なハイスペックな印象の音質」とのこと。
マイクロリニア針にジュラルミンテーパーパイプを採用したAT33xMLDは、「マイクロリニア針の解像度の良さを活かしながら、Hi-Fi的な広帯域を追い求めすぎずに、楽器や肉声の温度感を表現するのが得意なモデル。少し録音が古めのロックやジャズなどの再生にも相性が良い」という。
ジュラルミンカンチレバーに無垢楕円針を搭載した「AT33xEN」は、MCカートリッジとして十分な基本性能がありながら、「リラックスして音楽を楽しめる“懐の深い再生”が醍醐味」とのこと。
モノラルMCの「AT33xMONO/I」と「AT33xMONO/II」はどちらも無垢楕円針で、高硬度ジュラルミンパイプカンチレバーを採用。新開発のモノラルMC専用磁気回路を搭載し、発電を高効率化した。
モノラルカートリッジの発電コイルはモノラル専用で、水平方向の音溝振幅しか発電しない構造であり、ステレオカートリッジとはコイルの配置が異なる。旧機種のAT33MONOや、AT-MONO3/LPはステレオと共通の磁気回路をモノラルでも使用していたが、新シリーズでは新たに磁気回路もモノラル発電に最適な形状になった。これが発電効率の改善と、音質向上に寄与している。
モノラルMCは2モデルとも無垢楕円だが、楕円針を使用したカートリッジも試作検証した結果、明確な優位性は見いだせず、両モデルとも丸針仕様になったという。
一方で、磁気回路の素材によって、音の立ち上がりや響き方、硬さや柔らかさに変化があったため、ネオジムマグネットを使ったAT33MONO/Iと、サマリウムコバルトを使ったAT33MONO/IIの2モデルを開発したとのこと。
AT33MONO/Iは、ステレオMC3モデルと同様にネオジムマグネットとパーメンジュールヨークを採用し、上位モデルにふさわしく、音の過渡特性が良く、ハイスピードで解像度の良さを感じさせる音質傾向。
AT33MONO/IIは、サマリウムコバルトマグネットに純鉄ヨークを採用し、カンチレバーの振動の支点となるサスペンションワイヤーに径の太い素材を選択。AT33×MONO/1と比較すると立上りがゆっくりとして大らかな雰囲気を漂わせる音質となり、’50~’60年代のJazzなどにベストマッチするようにした。
AT-OC9Xシリーズとの違い
AT-OC9Xシリーズとの違いとしては、AT-OC9×の上位モデルでは、カートリッジの振動系の支点となるサスペンションワイヤーに、Φ0.07のステンレス線を使用。
AT33xシリーズでは、Φ0.08のピアノ線を採用し、振動系を支えるダンパーの形状も新規に設計した。
これによりAT33xシリーズのコンプライアンス(振動系の変位のしやすさ)は、AT-OC9Xシリーズと比べてやや低めの値となり音質的には「骨格のはっきりとした音像や厚みのある中低域の再生に寄与している」という。
カートリッジのコンプライアンスの値は一般に、トーンアームの最低共振周波数を算出(概算)する目的でも参照されている。実効質量の小さいトーンアームにはコンプライアンスの高いカートリッジが、逆に実効質量の大きいトーンアームにはコンプライアンスの低いカートリッジが相性が良いとされている。
AT33×シリーズのダイナミックコンプライアンスは、AT-OC9Xシリーズと比較して低い数値となっており、最低共振周波数は上がるため、こうした面からカートリッジを選ぶ人にも、AT33xシリーズの魅力になっている。
さらに、ハイエンドオーディオ市場では、ヘッドシェルが不要で、アーム先端に直接カートリッジを取り付けるインテグレーテッドタイプが主流になっている事から、それに取り付けやすいネジ切り仕様を採用。トーンアーム先端に垂れているリードワイヤーをカートリッジのターミナルピンに接続し、カートリッジを付属のネジで直接固定することがで、比較的容易に取り付けられる。
音を聴いてみる
AT-OC9XシリーズとAT33xシリーズでの音の違いを知るため、「AT-OC9ML」と「AT33xMLB」を聴き比べてみた。
すると、AT-OC9MLの方が、いわゆるMCカートリッジの優等生的なサウンドであり、解像感やレンジの広さが印象的。
対するAT33xMLBの方が、MCカートリッジの情報量のあるサウンドでありつつ、低域にパンチや、ゴリッとした力強さを感じ、中低域や声の張り出しがよりアグレッシブで熱気を感じさせる音になっている。
また、AT33xシリーズの中での比較では、やはりマイクロリニア針とボロンカンチレバーを使ったAT33xMLBが最も情報量が多く、分解能もあり、音数が多い。
そして、マイクロリニア針にジュラルミンテーパーパイプを搭載したAT33xMLDは、ボロンカンチレバーのAT33xMLBとは違った個性があり、柔らかさ、温かみが強めになる。
無垢楕円針とジュラルミンテーパーパイプのAT33xENは、マイクロリニア針のモデルと比べると、情報量は少し落ちるが、力強いサウンドと、MCならではの情報量の多さが楽しめる。85,000円という価格を考えると、こちらも魅力的な選択肢だ。
モノラルカートリッジも聴いてみた。モノラル盤の再生時で、ステレオのMCカートリッジと比べると、モノラルMCカートリッジの方が、よりスカッとしたクリアなサウンドになる傾向があった。
2モデルの違いとして、AT33xMONO/Iは、音像の定位もシャープで、低域の押し出し感も強め。AT33xMONO/IIは、それよりもさらにパワフルで、ガッツのあるサウンド。大らかさを感じさせるサウンドにもなっている。











