■ ローバジェットとハイエンド、分かれる2つの道
2日目でもまだこの人だかりのソニーブース |
NAB 2011会期2日目の本日は、セントラルホールの奥に位置するソニーブースを中心に取材を行なった。
会期2日目に向けて見えてきた今年のNABのテーマは、どうも「ローバジェット・プロダクション」ではないかという気がしている。従来求められてきたレベルのクオリティは、ローバジェットの機材で十分クリアできるようになり、あとはどれだけそれらの情報をアンテナ高くもって集められるか、というところがポイントになってきているように思う。
その一方で、これまで到達できなかったレベルのクオリティを目指すデジタルシネマもどんどん開発が進み、本当にフィルムからのリプレースが現実的なものになりつつある。
その先頭を走るのがSONYだ。本日は今回のNABで正式に発表されたメモリーカードベースのHDCAM-SRソリューション「SRMASTER」を中心にお送りする。
■ SRMemoryを中心とした、新ファイルベースソリューション
正式発表された「SRMemory」 |
HDCAM-SRフォーマットが記録できるメモリーメディアは、昨年のNAB 2010のレポートで本コラムのみが世界独占でエンジニアリングサンプルを報じたわけだが、あのメディアがいよいよ今年本格始動する。
メディアの名称は「SRMemory」で、最初に登場するのは容量とスピード別で5タイプ。容量としては256GB、512GB、1TBの3種類があり、そのうち256GBと512GBのみ、記録速度5Gbpsを保証する「Class S」のメディアがある。
これまでHDCAM-SRは、カムコーダも含めテープ記録だったわけだが、スタジオデッキ経由ではCIFS/NFSでファイル転送も可能ではあった。このメディアの登場で、撮影時からファイルベースでの収録が可能になる。この夏発売予定で、価格は未定。
汎用性の高い「SR-R1」。接続されているカメラはPMW-F3 |
カメラ用のポータブルレコーダが3タイプ登場する。まず一番汎用的に使えるモデルが、「SR-R1」。HD-SDIのほか、3Gデュアルリンクの入出力がある。メモリーカードスロットは1つ。
ブース内の展示としては、すでに発売されているスーパー35mm相当の単板イメージセンサーを備えたハンドヘルド「PMW-F3」に、この夏に発売になる「RGB & S-LOG出力オプション」をインストールし、3G-SDI接続でRGB4:4:4の収録できる状態になっていた。
カメラ本体のRECトリガーもSDI経由で伝送し、本体内のSxSカードと同期した収録が可能になる。タイムコードも一緒に伝送するため、フォーマット違いの同ファイルが収録できる。
本体収録のXDCAM EXフォーマットのファイルでオフライン編集を行ない、本番はHDCAM-SRフォーマットで行なうといったことも想定されている。
既存のHDCAMもSRのカメラに早変わり? |
また既存のHDCAMのHD-SDIの後ろにR1をマウントし、これだけでHDCAM-SRソリューションに転換するというソリューションも展示されていた。
日本では放送局のHD化が世界の中でも早かったため、放送局にはかなりの数のHDCAMカムコーダが存在する。ただテープフォーマットのために、ノンリニア編集機に取り込みにくいこと、すでに登場して10年以上が経過するコーデックのために、画質が現状の標準からすると高くない点が問題となっている。
しかしR1があれば、カメラを買い換えずにファイルベース収録に転換できることになる。現在日本では、震災の影響で放送用テープの入手が困難になっている。今後の備えという意味でも、報道は一刻も早いファイルベースへの転換が必要になるだろう。年内発売予定で、価格は1,732,500円。
姉妹機のSR-R3は、機能的にはR1と同じだが、インターフェイスが完全ドッカブルになっている。CineAltaシリーズのF23やF35と、直接ドッキングできる。
ここまでのR1とR3は、基本的にはHD解像度までの収録となる。RGB、1080P、HD非圧縮、S-Log、3Dの撮影に対応。
さらにもう一つ、SR-R4は、今回のNABで発表された8Kのイメージセンサーを搭載したF65にドッカブルできるタイプのレコーダ。4KのRAWデータを収録するため、R1/R3とは違う設計となっており、インターフェイス部分は光を利用するという。2K撮影であれば、最高120fpsでの収録にも対応する。
R3は発売時期、価格ともに未定。R4は年内発売予定で、価格未定。
F23やF35にドッカブルできる「SR-R3」 | F65用のドッカブルレコーダ、「SR-R4」 |
上部の1Uユニットが「SRPC-5」 |
撮影されたSRMemoryの映像を編集するワークフローの中心になるのが、「SRPC-5」だ。前面にSRMemoryスロットを1つ備えた1Uのユニットで、映像の再生、編集機などへのインジェスト、HDCAM-SRテープへのバックアップを行なう。
背面にHD-SDIの出力があり、スロットに入れたSRMemoryの映像が出力できる。内部にWEBサーバー機能を持っており、クリップ選択、再生の制御などはすべてここにログインしてWEBアプリで行なう。従ってPCやiPadなどで再生制御可能。
WEBアプリでコントロールできるため、iPadでも操作可能 |
S-Logデータで撮影した場合は、ルックアップテーブル(LUT)をあてないとまともな映像にならないが、このLUTも複数のテンプレートから選んであてることができる。さらにクリップごとにコメントを付けてファイル管理ソフトに投げることもできる。
データ転送に関しては、標準でギガビットEthernet端子を装備。またオプションで、10Gb Ethernetポートも提供する。
さらにバックアップとしては、HDCAM-SRデッキに対してデータ転送を行なう。物理層はHD-SDIだが、中身はデータ転送のため、SR-SQ(440Mbps)収録の素材に関しては、2倍速転送も可能。
このテープからノンリニアシステムに映像を転送する際には、HDCAM-SRデッキにはもともとギガビットEthernetしかないが、このインターフェイスと10Gb Ethernetのオプションがあれば、10Gb Ethernet経由での転送も可能になる。このユニットは年内発売予定で、価格は未定。
SRMASTERのスタジオデッキ、「SR-R1000」 |
SRMASTERシリーズのスタジオデッキとして、4Uサイズの「SR-R1000」も発表された。前面にSRMemoryスロットを4基備えるほか、8TBの内蔵メモリもオプションとして用意する。
背面には4つのI/Oポートがあり、ユーザーが自由にIN、OUT数をコンフィグレーションできる。標準では出力ボードが1枚装着されているが、2IN/2OUTや3IN/1OUTにもできるということである。
またRS-422のコントロール端子も4つ揃っており、仮想的に4台分のデッキとして動作する。すなわちリニア編集を行なうことを想定すれば、1台受けの3台出し編集がこの1台で可能になる。
前面ジョグダイヤルの上にはABCD4つのポートのステータスを表わすボタンがあり、赤いLEDは入力ボード、緑のLEDは出力ボードが装着されていることを表わしている。フロントパネルでの操作としては、まず4つのうちからどれかポートを選び、次に操作したいメモリースロットを選ぶと、再生や記録のコントロールができるというスタイルだ。
内部にはエラー訂正やサルベージ機能も入っており、録画中にいきなりイジェクトしてもファイルが壊れることなく、ちゃんとファイルを閉じてからイジェクトする。緊急イジェクトにかかる時間は約1秒。
4つのメモリースロットを4系統のI/Oを自由に割り付けできるため、1つのメモリに書き込みながら、同じメモリから時間差で再生するといったことも可能。ギガビットEthernet端子も備えており、FTPにも対応できる。
こちらはこの夏は発売予定で、本体価格は4,830,000円、入力ボード、出力ボードともに1枚2,079,000円。
■ 着々と進化を続けるカムコーダ
8Kイメージセンサーを搭載したF65に関してはプレス発表時のレポートですでにお伝えしたが、同じセンサーを使ったカメラヘッドだけのものも、モックアップ展示されていた。このセンサーを使った3D撮影なども想定しているようだ。
8K単板センサーを使用する「F65」 | 8Kセンサーのカメラヘッド部のみも製品化を検討 |
すでに発売されているPMW-F3に関しては、いよいよズームレンズが発売される。最初にリリースされるのがワイドに振ったマニュアルズーム「SCL-P11X15」で、焦点距離11mm~16mmの1.5倍ズーム、開放T値3.0。付属の3本の単焦点レンズは最も広角で35mmだったため、さらに1ステップワイドで撮影できることになる。マウントはPLマウント。発売はこの夏を予定しており、価格は661,500円。
さらに年内には、電動のズームレンズもリリースを予定している。「SCL-Z18X140」は、F3本体のFZマウントに直結するタイプのズームレンズ。焦点距離18mm~252mmの14倍ズームレンズで、フランジバックを短く取り、さらに沈胴式(ズームによってレンズ全長が変わる)となっている。またF3本体のズームレバーと連動できるため、これまでの撮影スタイルとはまた違った撮影もできるようになるだろう。発売は年内を予定しており、価格は未定。
焦点距離11mm~16mmの1.5倍ズーム、「SCL-P11X15」 | 焦点距離18mm~252mmの14倍電動ズームレンズ、「SCL-Z18X140」 |
3D用カメラも2つ発表された。「PMW-TD300」は、ツインレンズ方式のショルダータイプのカムコーダ。これは今年のCESでもモックアップ展示されていたものが、正式に発表されたものだ。ファイルフォーマットはXDCAM EXとなっており、2枚のSxSカードに右左の映像を記録する。年内にリリース予定で、価格は2,887,500円。
またハンドヘルドタイプとしては、「HXR-NX3D1J」も発表された。これはコンシューマでこの4月に発売になる「HDR-TD10」の業務用バージョンで、NXCAMシリーズとなっている。この夏発売予定で、価格は346,500円。
ツインレンズ方式のショルダータイプ、「PMW-TD300」 | ハンドヘルド型のツインレンズ機、「HXR-NX3D1J」 |
震災の影響で日本メーカーはかなりの打撃を被っているが、それを吹き飛ばすかのように、ここNABでは元気のあるところを見せてくれている。実際にプレスカンファレンスでは、多くのメーカーが冒頭で今回の日本の震災に関して哀悼の意を表しており、日本を気遣ってくれているのがわかる。米国もリーマンショック以降長引く景気低迷にあえいでいるが、NABやラスベガス市内を見る限り、かなり景気も回復してきているように見受けられる。
我々日本からやってきているフリーランスの記者たち数名で、今回の大震災に対して長く関心をもってもらえるよう、米国のプレス向けにバッジを500個作成して、無料配布した。ダイレクトに寄付を求めるものではなく、1年後2年後かはわからないが、このバッジを見たときに思い出して、日本のことを気にかけていて欲しいという願いで作ったものだ。
多くの記者がバッジを手に取り、胸に付けてくれていた。また日本メーカーの人たちも、公式にではないが配布にご協力いただいた。そのおかげもあって、初日で500個のバッジすべてを配布完了した。
手分けしてメッセージカードに取り付け | 制作したバッジとメッセージカード |