“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第512回:NAB 2011レポート その3

~ 多様な選択が可能な時代入。有機ELマスモニの凄さ ~



■ 今、リアルタイムが熱い

 NAB会期3日目となる本日は、映像制作の中でもメイン機材ではなく、脇役ではあるものの、なくてはならないものを中心にお送りしたいと思う。

 今回のNABで感じたのは、撮影機材の多様性である。昨年あたりから起こったデジタル一眼で動画を撮るというのが、もはや一過性のブームではなく、当たり前の選択肢として成立したと感じさせる。

 またそれにともなう編集や放送ワークフローのほうでも、様々な映像システムに対してそれを受け止める必要性が出てきている。今回は、周辺機器としてなくてはならないモニターの話と、「あるといいな」から「ないと困る」という製品に変わってきたコンバータを中心にレポートしよう。


■ マスターモニターの新時代とは?

 今回のソニーの発表は、カメラとSRMASTAERに注目が集まっているが、実は有機ELを採用した業務用モニタもラインナップを拡充してきている。ブラウン管の製造中止により、将来のマスターモニターとして何が妥当かという議論が盛んに行なわれた。

 その答えとしてソニーは以前、液晶のマスターモニターシリーズを展開して来たが、この2月に有機EL(OLED)の「TRIMASTER ELシリーズ」を発表した。マスターモニタBVMシリーズとして、25インチのBVM-E250、17インチのBVM-E170がそれだ。

 さらに、このNABでは、1ランク下の業務用モニタPVMシリーズとして25型のPVM-2541とPVM-1741を発表した。

OLEDの業務用クラス25型「PVM-2541」同じく業務用の「PVM-1741」

 注目なのが、ブース内で同じ25インチのブラウン管、液晶、有機ELのマスターモニターを3台並べて同じソースを表示するというデモンストレーションだ。

 3台ともマスターモニターなので、輝度が高い映像の表示に関しては、ほぼ同じに見える。一番違うのが、黒の表現だ。すでに真っ黒を映した状態でCRTはかなり浮いているが、液晶はさらにひどい。一方有機ELは、真っ暗な部屋ではそこに何もないかのように真っ黒だ。

 また10%程度の輝度での階調では、液晶とCRTではほとんど何が映っているのか判別できないが、有機ELだけは何が映っているのか輪郭がわかる。有機ELという方式の優秀さに舌を巻くとともに、液晶モニタの黒浮きのひどさが印象に残ったデモだった。

 もちろんマスターモニターとして、CRTに忠実という前に、信号に対して忠実であるべきで、ここに新しいマスターモニターの姿を見たような気がする。ただ、これまでマスターモニターだけを見て絵を作ってきたようなやり方はいよいよ終わりで、汎用的な液晶モニターも一緒に並べて参考にしながら絵作りしていかないと、有機ELだけがちょっと秀逸すぎる印象を持った。

 現状、マスターモニターと呼べるディスプレイを作っているのが、ソニーぐらいしかなくなってしまっていることもあり、この問題は避けて通れない。ポスプロ関係者は機会があれば、ぜひ一度この表示を見て、これからのディスプレイ環境に関して大いに議論すべきだろう。


■ ツボを押さえたコンバータ、ローランドVC-30HD

ひな壇のすぐ下にあるローランドブース

 最近ではUstream業界でもはや「神機」と呼ばれている「VR-5」をリリースしたばかりのローランドは、セントラルホールにブースを構えている。

 NABでは初めての展示となるため新製品として紹介されているが、すでに出荷は開始されているようだ。日本ではUstream用ライブスイッチャーとして使われているが、米国はネットのインフラの関係から、いったん収録するという用途で使われている。VR-5内蔵のSDカードスロットに映像を録画するという機能が、米国では大きくフォーカスされているようだ。

 日本でも未発表の製品としては、新しいコンバータ「VC-30HD」が展示されていた。映像のライブ配信も視野に入れたコンバータで、入力ソースとしては、アナログ系がコンポジット/コンポーネント/Sビデオ、デジタル系はHDMIとi.LINKに対応。それらの映像信号をMPEG-2やHDV/DVに変換してIEEE-1394に出力できるほか、同時にUSB 2.0端子からも出力できる。


VR-5はNABで初めての展示ネット配信も視野に入れたコンバータ「VC-30HD」

 さらに音声信号は別にアナログもしくはAES/EBUで入力でき、それらを映像信号にエンベデッドする機能も搭載している。サイズは1Uのハーフラックサイズだ。

 VR-5を使った配信では、デジタル一眼などを使ってもSDのアナログ出力でしか接続できないが、このコンバータを使えばHDMI出力のほうを使って、HD解像度でデジタル接続することができる。

 2種類のコネクタから同時に出力されるので、片方をネットでライブ配信しながら、もう片方で映像収録したり、あるいは違うネットサービスに対して同時サイマル放送を行なうという使い方もできる。すなわちニコニコ生放送とUstreamに同時配信ということが簡単にできるわけだ。

 発売時期は今年夏ごろを予定しており、価格は未定だが、先に発売されているVC-50HDよりも低価格になるという。


■ 多彩なラインナップを揃えたGrassValley

幅広い製品を扱うGrassValleyブース

 コンバータの世界ではローランドとともに二大巨頭となりつつあるのがGrassValleyだ。元々コンバータは旧トムソン・カノープスが開発した製品だったが、ブランドの統一によりGrassValley製品として4モデル、今回のNABで展示されている。

 「ADVC G1」は、様々な信号をSDI/HD-SDIに変換するコンバータ。対応する映像信号は、HDMI、DVI-D/A、アナログコンポジット、コンポーネント、Sビデオ。音声も別にアナログで2ch入力可能で、SDIにエンベデッドされる。

 内部にアップコンバータを備えるほか、フレームシンクロナイザーも装備しており、映像信号が途絶えたときには最終フレームを出力し続ける機能もある。

 「ADVC G2」は、デジタル系の信号をダウンコンバートしたり、アナログに変換するコンバータ。入力は3GまでのSDIをサポートするほか、HDMIにも対応。どちらの入力もエンベデッドオーディオに対応する。

 出力は3GまでのSDI、アナログコンポジット、コンポーネント、Sビデオ。オーディオはAES/EBUとアナログ、SDIエンベデッド。


あらゆる信号をSDIに変換する「ADVC G1」ダウンコンバータ付きのデジタルtoアナログコンバータ「ADVC G2」
3D信号に対応するコンバータ「ADVC G3」

 「ADVC G3」は3D対応のコンバータ。2系統のSDI/HD-SDIをマルチプレクスして、HDMIに変換する。入力ソースのエンベデッドオーディオを分離してアナログやAES/EBUに出力する機能もある。

 ここまでの製品はすべて4月下旬発売で、価格は128,000円。


 「ADVC G4」は、9つのアウトを持つシンクジェネレータ。昔はこれだけのアウトを持つシンクジェネと言えば、数百万円ぐらいが普通だったが、価格が88,000円と大幅に安い。

 また1台をマスターにして別のG4がスレーブする機能もあるので、数が欲しい場合はVDAを買って分配するよりも、G4を買い足した方が安いかもしれない。

 HD同期は3値同期、SD同期はブラックバーストで、SDではカラーバーをはじめとする各種テストパターンの出力も可能。こちらも4月下旬発売。

 またこのシリーズの特徴として、背面にディップスイッチがあり、設定変更を本体だけで行なうことができる。USB端子が付いているのは、ファームウェアのアップデート用だという。


低価格シンクジェネレータ「ADVC G4」ADVC G2の背面。どれも背面にディップスイッチがあり、動作モードを切り替える

■ Ajaが業務用コンバータを発表

ここ近年の出世頭、Ajaのブース

 昔はミニコンバータと言えばMirandaだったものだが、AjaとBlack Magic Designの登場で勢力地図が書き換わった感じがする。

 そのAjaは、最近ではApple ProRes422で記録できるフィールドレコーダ「Ki Pro」それから「Ki Pro Mini」で知られるが、このNABではKi Pro Miniのファームウェアをアップデートし、LANC端子の制御に対応した。

 現在業務用カメラでLANCに対応しているのはキヤノンぐらいだが、三脚のハンドル部分に付けたトリガーからKi Pro Miniとカメラの記録をスタートすることができるのは便利だ。Ki Pro Mini本体にLANCのスルー端子が付いているので、こういう使い方ができる。

 また放送・ポストプロダクション向けのフレームシンクロナイザー/コンバータFS1の後継機として、FS2を発表した。


Ki Pro MiniはファームアップデートでLANC制御に対応下2台が新製品「FS2」
Dolby Eエンコーダ・デコーダはオプション

 独立した2系統のフレームシンクロナイザーとコンバータを内蔵しており、アナログコンポーネント、コンポジット、3GまでのSDI、HDMIを相互に変換するほか、SDIデュアルリンクにも対応する。

 オーディオはAES/EBU 16ch、アナログ16chに対応し、オプションでDolby Eエンコーダ・デコーダを内蔵できる。

 単純な変換だけでなく、ビデオプロセス機能もあり、ホワイトRGB、ブラックRGBバランスを変更するなどの機能もある。これらの機能はメインパネルのノブでフルアクセスできるほか、WEBアプリからGUIで設定も可能。この夏に発売予定で、価格は未定。


光ファイバーからダイレクトにHDMI変換する「Hi5- Fiber」

 ミニコンバータの新製品としては、光ファイバーで伝送されるHD/SD-SDI信号をダイレクトにHDMIに変換する「Hi5- Fiber」を展示していた。HDMIは主にモニター用に使用するわけだが、これまではいったんHD-SDIに変換したのち、もう一回HDMIに変換する必要があった。

 このコンバータの登場で、光ファイバーの敷設時の回線チェックなどがより簡単になるだろう。発売はこの夏で、価格は未定。


(2011年 4月 15日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]