“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第513回:NAB 2011レポート その4~ 会場で拾った小ネタ集 ~ |
■ 大きな流れの中で見えてくるもの
長年NABに取材に来ていると、映像業界の大まかな流れというのがわかってくる。最初に訪れたのは1994年頃だと思うが、当時はSDフルデジタルの時代で、ポストプロダクション機材が大きく成長した時期だった。
そこから1998年ぐらいに、業界はIT化の時代を迎える。映像をPCに取り込んで処理したり、オンライン編集したりすることが当たり前の時代となり、多くの出展がパソコン画面でなんかやってる、ソフトウェアの時代となった。
そこから2000年台に入ると、一気にハイビジョンがテーマとなり、カメラからスイッチャーまでが一気にハイビジョン化し、再びハードウェアの時代になった。
そして昨今のムーブメントとしては、ハイビジョン化が一段落したところで、デジタル一眼の大判センサーによる映像表現の時代となっている。この傾向は2年前ぐらいから始まったものだが、展示ではすっかり当たり前の手法として定着している。
もう一つ3Dという流れも昨年あたりから出てきたが、今年の傾向を見ると、やる人は仕事としてやっているし、仕事にならなかった人は見向きもしないという、きっぱり傾向が分かれてきた。これからやってみようか、という時代は終わり、ある程度それで稼げる分野とそうでない分野が分かれてきたようだ。
NAB最後のレポートとなる今回は、会場で見かけた小ネタを中心にお送りしよう。
■ 実は3兄弟だったPanasonicのカムコーダ
プレスカンファレンスでは登場しなかった「AG-AC130」 |
初日のプレスカンファレンスでPanasonicのカムコーダ3モデルをご紹介したが、プレスリリースには載っているものの、その場に現物が登場しなかった「AG-AC130」というカメラがあった。どういうものなのかわからなかったので、記事中には記載しなかったが、モックアップがブース内に展示されていた。
これを見る限り、外観はほとんどAG-AC160と同じである。ということは、同じくAG-HPX250とも同じと言うことで、機能違いの3兄弟と言えそうだ。
HPX250はP2HD記録、AC160はAVCHD記録という違いだが、AC160とAC130は以下の違いがあるそうである。
- 160はHD-SDIが搭載されているが、130はHDMIのみ
- 160は59.94fpsと50fpsが切り替え可能だが、130はどちらかのモデル(130E/130P)を地域によって販売
- 160はバリアブルフレームレート対応、130はなし
- 160はリニアPCMで音声記録可能、130は圧縮記録のみ
AC130はAC160の廉価版という位置づけで、価格はまだ正式には決定していないが、AC160は5,500ドル以下、AC130が4,000ドル以下を目指しているという。
またこれまで日本モデルは型番の末尾が「5」になっていたが、今回のシリーズから世界共通の型番を採用することになったという。従ってモデル名は日本においても、AG-HPX250、AG-AC160、AG-AC130ということになる。
■ 勢いを増すGoPro
GoProブースはフォードGT40を持ち込み |
昨年NABで鮮烈なデビューを果たした、アドベンチャーカメラGoPro。今では日本のテレビ番組でも、芸人さんのヘルメットの先にGoProがくっついているぐらいに普及した。
そのGoProが先日、4Kや3Dといったハイエンド環境を構築するためのソフトウェアをリリースしているCineForm社を買収した。なんだか逆じゃないかと思うのだが、GoProが今後、キャプチャや編集環境もトータルで提供するということになるのだろうか。
そのせいもあって、今回のNABでは元々のGoProブースの他に、さらにCineFormのブースでもGoProを大々的にフィーチャーするなど、かなり力の入った展示となっている。
参考出品された3カメの3Dケース |
そのGoProだが、いよいよ3D撮影用のケースをリリースするようだ。写真のように3つのGoProを組み合わせて撮影するようになっている。
この3つのカメラのうち、好きな組み合わせで2つを選ぶことで、3種類の視差を選ぶことができるわけである。被写体までの距離、あるいは被写体サイズによって立体感を選ぶわけである。なかなか面白いアイデアだ。
■ 縮小する「素材集」産業
ついに一コマ展示となったArtBeats |
カメラ産業の台頭に大して縮小する産業が、「素材集」を販売していたメーカーである。かつてはArtBeatsとDigital Juiceという2社がお互い競い合ってサウスホールで巨大ブースを展開していたものだが、Digital Juiceは数年前からNAB撤退、ArtBeatsもだんだん規模を縮小して今年は最小単位の1コマブースになっている。
最近のトレンドは3D素材だそうで、撮影が難しい高解像度の汎用素材を扱っているが、なぜ汎用素材が売れなくなっていったのか、その意味を考えてみると、昨今の映像トレンドが見えてくるような気がする。
■ iPhone/iPadを業務で使う
iPhoneをテレビ出力、SES-iAV |
セントラルホールのバスターミナルに近い一角は、オーディオ製品を扱うベンチャーが集まっている。その中で見つけたのが、iPhoneやiPadの映像と音声を業務用機に対して出力変換するデバイス。
SESCOMという会社の「SES-iAV」という製品で、コネクタの先に繋いだiPhone、iPadの映像をアナログコンポーネント出力するほか、オーディオもバランスで出力できる。
オーディオのXLRケーブルも |
おそらくケーブルをばらせば信号的には取り出せるのだろうが、それをプロ機フォーマットに安定的に出せるようにしたというのがポイント。特にiPadのようなパッドは元々プレゼンテーション性にも優れているため、テレビ番組内の解説などで利用できれば面白いだろう。価格は425ドルとなっている。
そのほかオーディオのみをXLRに変換するものなど、自作できなくはないが、作るのはめんどくさいといったあたりを、うまく拾って商品にしているあたりが面白い。
■ いろいろ使える極小のガンマイク
Que Audioの極小ガンマイク |
指ほどしかないサイズにもかかわらず、指向性が20度程度とかなり高指向性になっており、従来の大型マイクではできなかったスタイルでの撮影を実現する。
マイク本体と風防、ショックアブソーバー付きアクセサリなどのセットで229ドル。またカーボン製の細くて軽いスタンドまでをセットにしたSniper Kitが479ドル。
■ 雨の日でも安心
雨の日の撮影で大変なのが、カメラに水を浸入させないことであるが、レンズもまた一苦労である。台風中継などでカメラに水滴が付いてしまい、カメラマンが布でごしごし拭くシーンを見たことがあろうかと思うが、いくらレンズフードがあっても、レンズ表面がぬれてしまうことは避けられない。
ガラス板が回転して水滴をはじき飛ばす |
そこで、Innovasion Opticsで展示していた撮影補助製品が面白い。レンズの前に取り付けたフード内にはガラスの円盤が配置してあり、スイッチをいれるとこれが高速回転する。
すると水滴が付いても瞬間的に外側ははじき飛ばされてしまうため、大雨でもまったくカメラに影響がない。
回転させるモーター音がするので、カメラ近くに設置したマイクでは音を拾ってしまうこともあるだろうが、別途音声さんが遠くを狙っていたり、映画撮影時にいちいちレンズを気にする必要がなくなる。
撮影ギアもいろいろおしろいことが登場してきている。
■ ポンプでぎゅっと固めて固定
ロケ現場では、カメラ配置によっては三脚が立てられないことがある。また超ローアングルが必要だがハイハットでもまだ高いというような時には、地面にじかに置いたりするのだが、狙った角度どおりに固定できなかったり、安定性が悪いとひっくり返ったりして、なかなか大変である。
Gecko-CamというブースにあったVBAGという製品は、新タイプのカメラ固定器具。柔らかいビニールの中にボール状の樹脂が詰まったようなシートで、自由な形に変形させることができるが、ポンプでシート内の空気を抜くとカチカチに堅くなる。
どんな形にでも変形するVBAG | カメラを置いて空気を抜くと、そのままの形でカチカチに |
元々は救急医療用のギブス素材だということだったが、どんな変な形にも変形し、固定も簡単だというので撮影機材として転用されたわけである。
サイズが3種類あり、ポンプとキャリーバッグ、リペアキット付きで799ドル、899ドル、999ドル。
■ ケーブル作り大会
新製品というわけではないが、ケーブル界のフェラーリと言われるBELDENのブースでは、毎日BNCケーブル速作り競争が行なわれていた。
30cmほどのケーブルの両端の皮膜を剥いて、BNCコネクタを圧着するという作業をいかにすばやくできるかを競う。
ただできるだけではダメで、完成したらちゃんと特性を計測し、規定値に達していない場合はその場でケーブルをちょん切られてゴミ箱へ捨てられるという、技術者にとっては屈辱的な仕打ちがまっている。
何が彼を駆り立てるのか、2回目に挑戦する来場者 |
最短時間は火曜日に挑戦したJ・ロドリゲスさんで、記録は驚異の38.06秒。
NABはもちろんまじめな展示会ではあるのだが、出展者も来場者ももうガチで本気なために、いろいろとおかしなことが起こったりしている。そういうところもまたショー全体の高い水準と奥の深さを維持しているわけで、日本で行なわれるInter BEEとはまたちょっと違った、「技術者とクリエイターのディスニーランド」的な楽しさが味わえるのだ。