小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第598回:激安HDMIキャプチャ、BMD「UltraStudio Mini」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第598回:激安HDMIキャプチャ、BMD「UltraStudio Mini」
Thunderboltだけでキャプチャとモニター出力
(2013/1/9 11:25)
新春第一弾は……
例年なら年始初頭はCESレポートで明けるところであるが、今年は留守番で、日本から通常通りのレビューをお送りする。
デジタル一眼による動画撮影がプロの世界を変えていくにつれて、映像機器もだんだんプロとアマの違いがなくなってきた。従来プロ用ビデオカメラはHD-SDIという規格で伝送されるため、周辺機器もそれが受けられる形になっていた。
しかし、このインターフェースを使うのはプロだけなので、それだけで機材費にゼロが一つ追加されてしまう。もちろん信頼性の差はあるが、インターフェースの差で棲み分けが行なわれてきたというのが実態である。
一方HDMIは、ご存じのようにコンシューマの伝送規格だが、映像と音声が同時に送れることや、早々に1080/60pや3Dの伝送に対応するなど、プロのインターフェースにも劣らぬめざましい発展を遂げている。もちろん対応機器が安いという点もポイントである。撮影時に、映像をHDMIで出せるデジタルカメラも徐々に増えており、今や撮影時に外部モニタを使ったりするのにも不自由がなくなりつつある。
そんな中登場したのが、いつもプロ用機器で価格破壊を続けるオーストラリアの会社、Black Magic Designの「UltraStudio Mini」シリーズだ。HD-SDIやHDMIの映像を、Thunderbolt経由でキャプチャする「UltraStudio Mini Recorder」、その逆でコンピュータの映像をThunderbolt経由でHD-SDIやHDMI出力する「UltraStudio Mini Monitor」の2モデルである。価格はどちらも12,100円。
従来このようなデジタル映像取り込みI/Oは、プロしか需要がない事もあって、ターンキーシステム化されているものが主流であった。もちろん単体売りのものもあるが、ウン10万円単位でカウントする類の製品である。
そこに、単機能であるとは言え1万円ちょっとで製品を投入してきたことで、またまた業界がひっくり返りそうな勢いである。これまで同社にも同様のキャプチャ製品はあったが、PC側のインターフェースがUSB 3.0で、特定のチップセットのものしか動作しないという弱点があった。だが今回はAppleが積極的に採用を始めたThunderboltを利用する事で、確実に動作するのもポイントである。
今回はUltraStudio Miniシリーズの両方をお借りすることができたので、実際に映像収録と出力をテストすることができた。なおテストは昨年12月中旬の、レビュー撮影時に、同時に行なっている。現在はファームウェアが更新され、若干状況が変わっている点があることをあらかじめご了承いただきたい。
シンプルな作りのハードウェア
2種類のUltraStudio Miniシリーズは、信号の方向が逆なのだが、デザイン的にはまったく同じである。端子の位置なども同じなので、どっちがどっちなのかは、本体のラベルを見ないとわからない。
電源もThunderboltから取るので、外部電源などは必要ない。おかげで手のひらに乗るほど小さなボックスに機能が収まっており、どこか適当な場所にガムテープでペタッと貼り付けられるようなサイズ感である。
まずMini Recorderのほうから見てみよう。映像端子側は、HD-SDIとHDMIの入力があり、どちらをキャプチャするかはソフトウェア側で選択する。反対側がThunderbolt端子になっており、PC/Macと接続して給電されると、そばにある小さいLEDが点灯して動作状態を示す。Mini Monitorも構造としては同じ作りである。
Thunderboltは、IntelとAppleが共同で開発した新世代のインターフェースで、HDDやキャプチャーユニットなどが接続できるだけでなく、モニター端子としても機能する。実質的には、PCI ExpressとDisplayPortの兼用端子だ。
ケーブルの主流はメタル線で、端子部分に小さい基板およびチップが入っており、2タイプのデータをエンコードしながら最高10Gpbsという高速伝送を実現する。電源は最大10W供給でき、USBよりも大電力の機器が使用可能だ。
昨年末には住友電工が光ファイバーを使ったThunderboltケーブルを発売し、伝送距離を30mまで伸ばした。ただし光ファイバーになるので、電力は伝送できない。
非常に魅力的な規格ではあるが、現時点ではWindows PCへの実装はまだごく一部の機種に限られており、主流はもっぱらMacである。今回はApple Japanより17インチMac Book Proもお借りして、収録及び再生テストを行なっている。
キャプチャ用のソフトウェアは「Media Express」が同梱されており、同社サイトからも最新版がダウンロードできる。Black Magic Designはソフトウェアは限りなく無料で提供するというポリシーで、製品のシリアルナンバーがなくても最新版がダウンロードできる。これは急に動作環境を変更しなければならなくなったなどの緊急時には便利だ。
もっともMedia Expressは対応ハードウェアがなければ何も動かないので、ユーザー以外がインストールしても役には立たない。
謎が多いHDMIキャプチャ
ではさっそくデジタルカメラのHDMI出力を使って収録してみよう。今回収録テストを行なったのは、ソニー「NEX-VG900」と、パナソニック「DMC-GH3」である。カメラのHDMI出力をMini Recorderに接続し、それをThunderbolt経由でMacに接続する。
収録はMedia Expressを使って行なう。Media Expressは、非圧縮YUV、RGB QuickTime、AVI、DPX、ProRes、DVCPRO、MotionJPEGといったフォーマットで記録することができる。
今回はFinalCutPro Xで編集する予定なので、ProRes 422(HQ)で記録することにした。もっと上位には4:4:4収録フォーマットもあるが、今回のカメラの出力にそこまでのクオリティはない。
カメラの設定は、シネマ用途を想定してVG900は24fpsで、GH3は30fpsで撮影することにした。だがここで問題が発生した。Media Express側で1080/60i以外の設定にすると、映像信号が来なくなる事がわかった。
メーカーによれば、HDMI接続の場合、通常はフレームレートを自動認識してモードを変えるそうだが、MiniRecorder側で認識できないカメラもあるという。HDMI出力側は、繋がっている相手の表示能力を判断して出力モードを変更する機能があり、出しと受け側がうまくコミュニケーションできないと、映像が受けられない事はありうる。
今回使用したカメラは比較的新しいもののため、MiniRecorder側のファームウェアが対応できていないようだ。このまま撮るとどうなるか興味があったので、カメラ本体での記録は各フレームレートのまま、Media Express側の収録は1080/60iで収録を行なってみた。
VG900の場合は24pの映像を60iで撮るわけだから、2-3プルダウン状態で収録されるようだ。だがそれ以前に、せっかくHDMIで収録しているのに、画質が思いのほか上がらないのが残念だった。VG900は本体記録がAVCHDなので、以前のレビュー時にもコーデックの限界を感じる部分があったのだが、HDMI経由の収録も同じ傾向が見られた。ProRes側のビットレートは十分のはずだが、HDMI出力の段階ですでにAVCHDへのエンコード結果の映像が出力されているということだろう。
なお、以下に掲載するサンプルは、クオリティを合わせるために、いずれもMP4の25Mbps VBR(最高28Mbps)で再エンコードしたファイルとなる。
プロ用カムコーダの場合、本体記録は圧縮でも、HD-SDI出力は非圧縮のカメラスルーの映像が出力される。これは、ライブカメラとしても使用できるようにそのような設計になっているわけだ。というか、元々カムコーダというのは生カメラに収録系を一体化したのがそもそもの発祥なので、そういう仕様がデフォルトになっている。
一方コンシューマ機では、生カメラとして使う用途が想定されていないので、HDMI出力は主にディスプレイを繋げる前提で設計されている。非圧縮データをそのまま出すカメラもあるだろうが、撮影中でも画質確認も含めてエンコード後の映像を出力するという設計のカメラもあるという事かもしれない。本体収録+外部モニターとして使用するには妥当な作りだが、HDMI出力を収録に利用するには問題がある。
一方GH3の場合は、HDMIキャプチャでも満足できる画質で記録することができた。ただ本体記録も30p/72Mbpsという高ビットレートで撮影できるため、本体記録との差が目視では見て取れなかった。
編集のしやすさという点では、最初からPro Resで撮影したほうが多少最終エンコードが早いが、本体撮影もMOV記録なのでMac OSと親和性が高く、特に困る事はなかった。そういう意味では、今回テストしたカメラでは、HDMI記録のメリットを生かすことができなかった。
映像編集に必須のMini Monitor
では次にMini Monitorを試してみよう。こちらはThunderboltからの映像出力をHD-SDIやHDMIに変換して出力するボックスで、いわゆるPC/Mac向けディスプレイではなく、テレビモニターに映像を出す時に使用する。
面積の広いテレビ画面で映像が確認できるだけでなく、PCディスプレイとは違うテレビ向けのガンマカーブで表示できるため、コントラストや色味をいじったりする場合に便利だ。
Thunderbolt端子はディスプレイポートも兼ねているため、最初は普通の外部モニターと同じようにOS画面からなにから出力できるのかと思っていたが、違うようだ。実際にはFinal Cut Pro Xから「A/V出力」を選ばないと、何も絵が出ない。ただこの機能を使えば、ソースをいじってるときはソースモニターに、タイムラインをいじってるときはメインモニターに出力が切り替わるので、作業には便利だ。
出力映像のクオリティは、再生設定の「再生品質」の設定に左右される。パフォーマンス優先では解像度が低くなるため、画質優先にするべきだろう。
なお、ビデオ出力が出ていない時にどうするかといった動作設定は、システム環境設定内にある「Blackmagic Design Desktop Video」で選択できる。なおこの環境設定ツールは他の製品と共通なので、UltraStudio Miniシリーズでは動作しない項目もある。
編集時におけるディスプレイ環境ツールとしては、2007年にMatroxのMXOというツールをご紹介したことがある。これは当時、ノンリニア編集に使えるテレビモニタがまだ高価だった時代に、安いPCディスプレイをビデオモニタに近い表示に変換して表示するデバイスだった。16万円もしたが、それでも当時はテレビモニタを買うよりも安かった。
それが今や、HDMI入力があるテレビモニタも10万円以下で買えるようになり、さらにはこのMini Monitorのような1万円程度の製品でインターフェース変換ができるようになった。わずか5年でずいぶん映像業務環境も激変したことがわかる。
総論
これまでHDMIキャプチャ製品というと、AJAのKi Proシリーズ、ATOMOS NINJAシリーズ、Sound Devices PIXシリーズのようなポータブルレコーダが主流で、価格も高いものでは数十万円、安くても10万円程度のものであった。
それが1万円程度のMini Recorderがあれば、Thunderbolt搭載のMac Bookシリーズで収録が可能になるというのは、インパクトが大きい。もちろん、全部一人で持って歩くというのは大変だが、数人のチームで動く場合は、モニター兼用バックアップ記録兼用で持っていくというスタイルも考えられる。
どうしても非圧縮記録が必要な場合、あるいはDPXで撮る必要があるケースでこのクラスの製品を使うか、という問題はあるが、ワークフローをテストしてみたいといった用途には向いているだろう。
ただ、デジタルカメラのHDMI出力に関しては、各メーカーともほとんどスペックを公開していないので、どんな出力が出ているのかよくわからないというのが現状である。HD-SDIクラスの機器であれば、ある程度どんな信号が出ているか予測はできるし、測定機もあるので正体がわかるのだが、HDMIに関してはまだそこまで環境が整っていないまま、活用ソリューションが先行しているところがある。
Mini Monitorは、頻繁に映像編集をしている人にとっては必須とも言えるボックスだ。ノンリニアソフトの小さい画面で一生懸命確認するより、大きなモニターで編集しながらその場でクオリティチェックができるのは、メリットが大きい。
今回はコンシューマに近いところでHDMIに注目したが、HD-SDIの入出力も可能だ。現時点ではほぼMacで使うしかない現状だが、今後ThunderboltがWindows PCでも普及していけば、事態は大きく変わっていくかもしれない。