小寺信良の週刊 Electric Zooma!

【年末特別企画】Electric Zooma! 2012年総集編

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

【年末特別企画】Electric Zooma! 2012年総集編

ジャンル、常識を超えた製品が盛りだくさんの1年



色々弾けたこの1年

 今年もいよいよ皆様に総集編をお送りする時期となった。社会的にはまだまだ震災や原発事故の影響も色濃い中、日本人の意識、特にメディアに関する意識が変わっていく中で、メーカーもこれまでどおりというわけにはいかなくなってきた年だったのではないかと思う。

 特に3月の決算では、国内家電メーカーの厳しさが浮き彫りになり、もはや「テレビ」が屋台骨を支えられなくなった現状で、どのように、何で稼いでいくのかが問われている。その中で、これまで常識だったところにメスを入れて、「そもそも」を考え直した製品も多かった。“次世代に強制移行しないと勝てない”そんな決意を感じた1年だった。

 ユーザー側としても、単にテレビを見る、写真を撮るに留まらないアクティブな行動が発生し、今年はネットワークを活用するタイプの商品が増えた。記事の人気度から見ると、高額商品もしくは超低額商品が人気を集めており、お金をかけるポイントに大きくメリハリを付けているようだ。高い技術、思い切ったコンセプトに賛意を示し、中庸な製品には興味が薄れている実態がわかる。

 さて、今年取り上げた製品をジャンル別に分類すると、ビデオカメラ×10、デジカメ×9、レコーダ×7、スマートTV×6、タブレット×3、ガジェット×2、タブレット×2、オーディオ×2となった。特集やショーレポートは除いている。

 今年は撮影系の中でも、デジタルカメラの動画撮影に対する注目度が高かった。またテレビとネットワークを繋ぐ製品も増えてきた。ではジャンル別に今年のトレンドを分析していこう。



ビデオカメラ篇

 今年ビデオカメラは、製品発売が2月~3月に集中した。以前なら入学シーズンと運動会シーズンの2回、製品のピークがあったものだが、最近はあまり季節を意識することなく、1月のCESで発表したモデルを2月から順次発売、みたいな流れになってきている。

 今年ユニークなコンセプトで世の中をあっと言わせたのは、ソニーの「ギョロ目君」こと、センサー部分までを含めたレンズユニット全体を動かして補正を行なう「空間光学手ぶれ補正」搭載のカメラだろう。従来の光学式手ぶれ補正では、中のレンズだけを動かしていたが、ユニット全部を動かすことで光軸を曲げずに補正し、画質劣化を抑えた。もちろん補正効果も高く、手ぶれ補正の新次元を構築したと言っていいだろう。

ソニー「HDR-PJ760V」
「空間手ブレ補正」で動作するユニット部分。水色の光で囲われた部分全体が動くようになっている

 今のところこの方式は、他社が追従する傾向は見られない。まあソフトウェアやアルゴリズムの問題ではなく、ハードウェアの作り込みなので、そう簡単には追いつけないだろう。

 全体的なトレンドとしては、Wi-Fi(無線LAN)を使ってスマートフォンなどで遠隔操作できる機能を、一斉に各社搭載してきたところだ。今年からビデオカメラもデジカメも、Wi-Fiでスマホ連携というのは、必須になってきた。

 また、Wi-Fiコントロールという意味では、カメラアングルなども含めて完全にリモート制御できるカメラがJVCから登場した。どちらかというと業務用途になるだろうが、監視カメラ以外の用途でこのようなリモートカメラが市販されるのは珍しい。

Wi-Fiを搭載し、撮影動画のPC転送やWebアップロードが可能なキヤノン「HF M52」
スマホからの制御や撮影も可能なJVC「GZ-VX770」
スマホやタブレットから制御できるWi-Fiコントロールカメラ、JVC「GV-LS2」、「GV-LS1」

 次世代の技術という事では、NEX-VG900はEマウントながらフルサイズのセンサーを搭載するという斬新設計で、見所の多い製品だ。短フランジバック+フルサイズセンサーという、将来への布石と捉えていいだろう。

 もう一つ将来の布石という点では、JVCの4Kカメラも面白かった。デジタルシネマ用ではない、ビデオ用途の4Kカメラという新しいジャンルを切り開いた。ただ、これをうまく使うソリューションがついてきていないという現状もあり、来年以降に期待持ち越しというところだろう。

Eマウントながらフルサイズのセンサーを搭載した、ソニー「NEX-VG900」
JVCの4Kカメラ「GY-HMQ10」

 今年後半の目玉は、アクションカメラだった。その筋ではこれまで米GoProの一人勝ち状態だったが、輸入品ということでなかなか一般の方の目にはとまりにくかっただろう。今年後半からJVCとソニーが相次いで参入し、市場を盛り上げた。低価格、超広角というのがポイントで、水中撮影も可能。一方GoProも新モデルで4K撮影まで可能になり、今後アクションカメラはなんでもアリの熱い市場になりそうだ。

JVC「GC-XA1」
ソニー「HDR-AS15」



デジカメムービー篇

 プロが最初に飛びついたデジタル一眼でフルHD動画撮影というソリューションは、徐々に一般にも浸透しつつある。これがビデオカメラ市場を食っているという分析もできそうだが、実態を考えるとそうでもないだろう。ビデオカメラとデジタル一眼では撮っているものが全然違っており、その点ではビデオカメラがこれまでできなかった、動画の新市場開拓を成し遂げつつあるのかもしれない。

 今年の、というよりは、来て当然のトレンドが、フルサイズセンサーである。この分野ではキヤノンの独走だったが、多くのユーザーが対抗として見ていたのはソニーではなく、ニコンであった。そしてついにニコンもフルサイズでフルHDムービーが撮れるカメラを出し、市場を賑わせた。

 さらにキヤノンは、伝説を作った「EOS 5D Mark II」の後継機「EOS 5D Mark III」を投入したが、今年はEOS-C300、C500、EOS-1D Cといったプロ用シネマカメラも投入しており、「5D今さら?」的な状況だったのは面白い。

ニコン「D800」
キヤノン「EOS 5D Mark III」
ソニーの高級コンパクト「DSC-RX100」

 もう一つのトレンドは、ハイエンドコンパクトというジャンルが確立された事だろう。もちろん静止画でのニーズが高いところではあるが、これで動画も撮れるというところが一つの強みになる。

 ミラーレス一眼では、マイクロフォーサーズのオリンパスの「OM-D」とパナソニックの「GH3」、APS-Cの富士フイルム「X-Pro1」とソニー「NEX-7」、キヤノン「EOS-M」といったところが注目を集めた。中でも「GH3」は、録画コーデックがビデオカメラをどんどん越えていっており、圧倒的な高画質で他社を引き離した。

ソニー「NEX-7」
富士フイルム「X-Pro1」
オリンパス「OM-D」
キヤノン「EOS-M」
パナソニック「DMC-GH3」

 個人的にはもう少しトレンド化するか思ったのが、“ローパスフィルタの工夫”である。多くのカメラでは、モワレを削減するためにローパスフィルタが使われているが、これが精細感を損なう原因となっていた。

 そこで各社とも、ローパスフィルタをなくしたり、コーティングを改良したり、画素配列を工夫したりといった試行錯誤を続けている。これは動画にも大きく関係し、フィルタがなければキレのいい映像が録れるが、モワレの影響は避けられないことから、両立が難しい。まだ決定打と言える技術は、登場していないようだ。



レコーダ篇

 デジタル放送時代になり、レコーダは差別化が難しい商品になった。画質は未だ注目ポイントではあるものの、もはやどのメーカーも決定な差は認められない。むしろレコーダの導入によって、どんなふうに生活が変わるのかといった、ホームサーバ的な機能に注目が集まっている。

 昨年末から今年初めには、全録レコーダ対決として東芝とバッファローの一騎打ちのような状況ではあったが、ブームを巻き起こすまでには至らなかった。価格がネックというよりは、録ったあと何が生まれるのか、というアプリケーション的な未来像が見えにくかったのではないだろうか。

バッファロー「DVR-Z8」
東芝レグザサーバー「DBR-M190」

 そんな中で面白かったのは、DIGAと専用タブレットが一緒になった「DIGA+」であった。DLNAとDTCP-IPにより、Androidタブレットでもホームネットワーク内でのリモート視聴はできるが、そのためのネットワーク設定などができない人のために、専用ワイヤレスモニターも付けるという作戦は、パナソニックらしい。

 パナソニックのレコーダは、従来のお部屋ジャンプリンクを利用する自社製専用端末で、視聴環境を拡大しようとしている。ソニーはそれよりももう少し緩やかで、技術的な保証としてはソニー製品を推奨しつつ、テレビ視聴専用端末ではなく、一般のタブレットやパソコンなどに視聴環境を載せようとしている。PlayStation 3やPS Vita、VAIO、Xperia Tabletなどから利用できるNAS兼ネットワークレコーダ「nasne」の登場も、その路線に拍車をかけた。この中では東芝が一番オープン戦略をとっていて、視聴や持ち出しは限定的な部分もあるが、極力汎用タブレットでやれるだけやるという方針のようだ。

 さらに今年はDTCP-IPの運用基準が緩和され、汎用タブレットでもデジタル放送の視聴が可能になってきた。実際にやってみると、テレビの前に行かなくても手元のタブレットでテレビが視聴できるというのは、番組への接触機会を大幅に増やしてくれる。今後はアプリの開発も含め、レコーダ+タブレットという形が一つの視聴スタイルを築いていきそうだ。



スマートテレビ/ネットサービス篇

 低価格化で普及が進むタブレット端末は、AVライフにも欠かせないデバイスになりそうだ。その一方でテレビは、「スマートTV」のかけ声とともに、ネット上のサービスを取り込もうとしている。

 だが、そのためにテレビを買い直せなどというのは無茶な話で、後付けでテレビにくっつけられる装置が徐々に注目を集めている。

 これにはもちろん、スマートフォンOSであるAndroidの進化も一役買っている。HDMI端子に挿すだけというお手軽機能拡張スティックは、驚くほどの低価格ながら、テレビをイイ感じのネット端末に変えてくれるということで、注目度が高かった。

 また据え置きボックス型の製品も、以前はローカルにあるファイルを再生するメディアプレーヤーという格好だったが、Huluの上陸によりオンラインのVODサービスが充実し始めたことで、すっかり印象が違う製品となった。Apple TVも今年9月からHuluに対応したことで、新しいタイプのVODスタイルが幕を開けた。

 さらに携帯キャリアの定額制もVODや音楽配信サービスに対応し、飛躍的にストリーミングでコンテンツを楽しむユーザーを生み出した。このようなサービスが実現できるのも、スマートフォンの性能とLTEのスピードに裏打ちされてこそだ。

テレビに直接接続するティック型Android端末
据え置き型のアンドロイド搭載ボックス「WD TV Live」
au「ビデオパス」
「SoftBank SELECTION」の録画対応デジタルTVチューナ「SB-TV03-WFRC」(ピクセラ製)

 タブレットとテレビという組み合わせでは、ピクセラのiPad/iPhone用テレビチューナーがリニューアルし、録画もできるようになった(販売はSoftBank SELECTION)。この製品が出たときはまだDTCP-IPの仕様が緩和されていなかったので、独自に暗号化を行なったりしてかなり苦労したようだ。

 今後はもう少し簡単な仕組みで実現できそうなので、レスポンスやユーザービリティは上がりそうではある。多くのiPadユーザーがそうであるように、ガリガリのAV機器ユーザーではない人達に向けて、買ってきただけで絶対繋がるという決め打ち製品というのは、今後も伸びしろがあるとは思う。その一方で、Appleとのライセンス契約に付き合って他のフォーマットに対応できなくなるのも、メーカーとしてはしんどいところである。



そのほかの製品

 今年はタブレットが本格的に始動した年だったと言える。本コラムではそれほど多くを扱っていないが、主軸が10型から7型へ、ディスプレイ解像度もより高画素へとシフトしていく様は、まさに最先端のイノベーションがここに集まりつつある印象だ。

第三世代iPad
ソニー「Xperia Tablet S」

 しかもタブレット市場が興味深いのは、必ずそれに紐付いたコンテンツサービスが存在することである。コンテンツを見せるための装置として、汎用端末を格安でばらまいている状況は、日本的な“ハードウェアありき”で進んできた市場から見ると、違和感を感じる。

 Windows 8マシンも扱ってみたが、米国のようにWindows PhoneやWindows RTのようなファミリーが存在するのであれば、横の繋がりも体験できるはずだが、日本ではPC用OSしか投入されないので、全体のシナリオがよくわからない状況が続いている。MicrosoftのSurfaceでも入ってくれば、また状況も変わるかもしれない。

 オーディオ関連は今年は少なかったが、自作オーディオは今や雑誌の付録でも十分なクオリティに達しており、さらには自作もデジタルが主流になっていることを知った。この分野は、なかなかバカにできない。ノウハウを身につければ、改造する楽しみが拡がる世界である。

Windows 8搭載でタブレット形状にもなる東芝「dynabook R822」
夏休みに自作したスピーカー。雑誌付録のユニットやアンプも使ってみた

総論

 今年本コラムで扱ってきた製品群をまとめてみたが、トレンドは掴めただろうか。個人的には今年はよく色々撮影した年であった。カメラ系だけで19製品もある。カメラのイノベーションも、かなりのスピードで進んでいる。ただカメラメーカーも業界再編の動きが活発化しており、昨年はリコーがペンタックスを買収、今年もソニーとオリンパスが資本提携するなど、大きな動きが目立った1年だった。

 それよりも速く動いているのが、スマートフォンやタブレットの世界だ。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやオンラインサービスがどんどん出てきて、AV関係もかなり高度なことができるようになってきた。

 ハードウェアだけ作っていても、単価が安いだけに商売にならない。いかにソリューションをくっつけてそこで稼ぐかが、日本の家電メーカーにまで問われるようになってきている。しかし、これに応えられるメーカーはそう多くない。

 多くのメーカーがテレビから離れないのは、テレビ放送は未だ強いコンテンツであるとともに、利用するぶんにはタダだから、というところもあるだろう。一方でネットサービスは伸びしろのある部分であり、欧米のサービスが来年こそ日本でも、と期待は高まる。

 来年はどんな世界が拡がるのだろうか。今後も引き続き、注意深く動向をウォッチしていくことにしよう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。