小寺信良の週刊 Electric Zooma!
【年末特別企画】Electric Zooma! 2012年総集編
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
【年末特別企画】Electric Zooma! 2012年総集編
ジャンル、常識を超えた製品が盛りだくさんの1年
(2012/12/26 10:30)
色々弾けたこの1年
今年もいよいよ皆様に総集編をお送りする時期となった。社会的にはまだまだ震災や原発事故の影響も色濃い中、日本人の意識、特にメディアに関する意識が変わっていく中で、メーカーもこれまでどおりというわけにはいかなくなってきた年だったのではないかと思う。
特に3月の決算では、国内家電メーカーの厳しさが浮き彫りになり、もはや「テレビ」が屋台骨を支えられなくなった現状で、どのように、何で稼いでいくのかが問われている。その中で、これまで常識だったところにメスを入れて、「そもそも」を考え直した製品も多かった。“次世代に強制移行しないと勝てない”そんな決意を感じた1年だった。
ユーザー側としても、単にテレビを見る、写真を撮るに留まらないアクティブな行動が発生し、今年はネットワークを活用するタイプの商品が増えた。記事の人気度から見ると、高額商品もしくは超低額商品が人気を集めており、お金をかけるポイントに大きくメリハリを付けているようだ。高い技術、思い切ったコンセプトに賛意を示し、中庸な製品には興味が薄れている実態がわかる。
さて、今年取り上げた製品をジャンル別に分類すると、ビデオカメラ×10、デジカメ×9、レコーダ×7、スマートTV×6、タブレット×3、ガジェット×2、タブレット×2、オーディオ×2となった。特集やショーレポートは除いている。
今年は撮影系の中でも、デジタルカメラの動画撮影に対する注目度が高かった。またテレビとネットワークを繋ぐ製品も増えてきた。ではジャンル別に今年のトレンドを分析していこう。
ビデオカメラ篇
今年ビデオカメラは、製品発売が2月~3月に集中した。以前なら入学シーズンと運動会シーズンの2回、製品のピークがあったものだが、最近はあまり季節を意識することなく、1月のCESで発表したモデルを2月から順次発売、みたいな流れになってきている。
今年ユニークなコンセプトで世の中をあっと言わせたのは、ソニーの「ギョロ目君」こと、センサー部分までを含めたレンズユニット全体を動かして補正を行なう「空間光学手ぶれ補正」搭載のカメラだろう。従来の光学式手ぶれ補正では、中のレンズだけを動かしていたが、ユニット全部を動かすことで光軸を曲げずに補正し、画質劣化を抑えた。もちろん補正効果も高く、手ぶれ補正の新次元を構築したと言っていいだろう。
- 第557回:目玉ギョロギョロのカムコーダ、ソニー「HDR-PJ760V」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120314_518462.html
今のところこの方式は、他社が追従する傾向は見られない。まあソフトウェアやアルゴリズムの問題ではなく、ハードウェアの作り込みなので、そう簡単には追いつけないだろう。
全体的なトレンドとしては、Wi-Fi(無線LAN)を使ってスマートフォンなどで遠隔操作できる機能を、一斉に各社搭載してきたところだ。今年からビデオカメラもデジカメも、Wi-Fiでスマホ連携というのは、必須になってきた。
また、Wi-Fiコントロールという意味では、カメラアングルなども含めて完全にリモート制御できるカメラがJVCから登場した。どちらかというと業務用途になるだろうが、監視カメラ以外の用途でこのようなリモートカメラが市販されるのは珍しい。
- 第551回:Wi-Fiを実装したカムコーダ登場、キヤノン「HF M52」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120201_508859.html - 第554回:Wi-Fiで遠隔撮影。多機能スリムなJVC「GZ-VX770」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120222_513650.html - 第586回:ライブストリーミングに革命。JVC「GV-LS1/2」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121003_563611.html
次世代の技術という事では、NEX-VG900はEマウントながらフルサイズのセンサーを搭載するという斬新設計で、見所の多い製品だ。短フランジバック+フルサイズセンサーという、将来への布石と捉えていいだろう。
もう一つ将来の布石という点では、JVCの4Kカメラも面白かった。デジタルシネマ用ではない、ビデオ用途の4Kカメラという新しいジャンルを切り開いた。ただ、これをうまく使うソリューションがついてきていないという現状もあり、来年以降に期待持ち越しというところだろう。
- 第583回:“Eマウントなのにフルサイズ”の衝撃、ソニー「NEX-VG900」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120912_558881.html - 第561回:HDの4倍! 4K対応ハンドヘルド、JVC「GY-HMQ10」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120411_525446.html
今年後半の目玉は、アクションカメラだった。その筋ではこれまで米GoProの一人勝ち状態だったが、輸入品ということでなかなか一般の方の目にはとまりにくかっただろう。今年後半からJVCとソニーが相次いで参入し、市場を盛り上げた。低価格、超広角というのがポイントで、水中撮影も可能。一方GoProも新モデルで4K撮影まで可能になり、今後アクションカメラはなんでもアリの熱い市場になりそうだ。
- 第580回:冒険を余すところなく記録、「JVC GC-XA1」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120822_554343.html - 第588回:ついにソニーもアクションカム参戦!「HDR-AS15」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121017_566465.html
デジカメムービー篇
プロが最初に飛びついたデジタル一眼でフルHD動画撮影というソリューションは、徐々に一般にも浸透しつつある。これがビデオカメラ市場を食っているという分析もできそうだが、実態を考えるとそうでもないだろう。ビデオカメラとデジタル一眼では撮っているものが全然違っており、その点ではビデオカメラがこれまでできなかった、動画の新市場開拓を成し遂げつつあるのかもしれない。
今年の、というよりは、来て当然のトレンドが、フルサイズセンサーである。この分野ではキヤノンの独走だったが、多くのユーザーが対抗として見ていたのはソニーではなく、ニコンであった。そしてついにニコンもフルサイズでフルHDムービーが撮れるカメラを出し、市場を賑わせた。
さらにキヤノンは、伝説を作った「EOS 5D Mark II」の後継機「EOS 5D Mark III」を投入したが、今年はEOS-C300、C500、EOS-1D Cといったプロ用シネマカメラも投入しており、「5D今さら?」的な状況だったのは面白い。
- 第558回:ニコン逆襲開始。フルサイズで1080/30pのD800
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120321_519974.html - 第569回:伝説再び! キヤノン「EOS 5D Mark III」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120530_536274.html
もう一つのトレンドは、ハイエンドコンパクトというジャンルが確立された事だろう。もちろん静止画でのニーズが高いところではあるが、これで動画も撮れるというところが一つの強みになる。
ミラーレス一眼では、マイクロフォーサーズのオリンパスの「OM-D」とパナソニックの「GH3」、APS-Cの富士フイルム「X-Pro1」とソニー「NEX-7」、キヤノン「EOS-M」といったところが注目を集めた。中でも「GH3」は、録画コーデックがビデオカメラをどんどん越えていっており、圧倒的な高画質で他社を引き離した。
- 第572回:ソニーのハイエンド・コンデジ「DSC-RX100」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120620_541059.html - 第552回:NEXシリーズ最高峰、NEX-7で動画
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120208_510277.html - 第555回:すげえ絵だけにすげえ惜しい富士フイルムX-Pro1
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120229_515299.html - 第567回:レトロなルックスに最先端技術、オリンパス「OM-D」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120516_532781.html - 第589回:キヤノン初のミラーレス「EOS-M」で動画を撮る
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121024_567987.html - 第597回:動画性能の恐るべき実力、パナソニックDMC-GH3
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121219_579286.html
個人的にはもう少しトレンド化するか思ったのが、“ローパスフィルタの工夫”である。多くのカメラでは、モワレを削減するためにローパスフィルタが使われているが、これが精細感を損なう原因となっていた。
そこで各社とも、ローパスフィルタをなくしたり、コーティングを改良したり、画素配列を工夫したりといった試行錯誤を続けている。これは動画にも大きく関係し、フィルタがなければキレのいい映像が録れるが、モワレの影響は避けられないことから、両立が難しい。まだ決定打と言える技術は、登場していないようだ。
レコーダ篇
デジタル放送時代になり、レコーダは差別化が難しい商品になった。画質は未だ注目ポイントではあるものの、もはやどのメーカーも決定な差は認められない。むしろレコーダの導入によって、どんなふうに生活が変わるのかといった、ホームサーバ的な機能に注目が集まっている。
昨年末から今年初めには、全録レコーダ対決として東芝とバッファローの一騎打ちのような状況ではあったが、ブームを巻き起こすまでには至らなかった。価格がネックというよりは、録ったあと何が生まれるのか、というアプリケーション的な未来像が見えにくかったのではないだろうか。
- 第543回:来るか全録ブーム! バッファロー「DVR-Z8」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20111221_500300.html - 第550回:来たぞ全録! 東芝レグザサーバー「DBR-M190」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120125_507101.html
そんな中で面白かったのは、DIGAと専用タブレットが一緒になった「DIGA+」であった。DLNAとDTCP-IPにより、Androidタブレットでもホームネットワーク内でのリモート視聴はできるが、そのためのネットワーク設定などができない人のために、専用ワイヤレスモニターも付けるという作戦は、パナソニックらしい。
パナソニックのレコーダは、従来のお部屋ジャンプリンクを利用する自社製専用端末で、視聴環境を拡大しようとしている。ソニーはそれよりももう少し緩やかで、技術的な保証としてはソニー製品を推奨しつつ、テレビ視聴専用端末ではなく、一般のタブレットやパソコンなどに視聴環境を載せようとしている。PlayStation 3やPS Vita、VAIO、Xperia Tabletなどから利用できるNAS兼ネットワークレコーダ「nasne」の登場も、その路線に拍車をかけた。この中では東芝が一番オープン戦略をとっていて、視聴や持ち出しは限定的な部分もあるが、極力汎用タブレットでやれるだけやるという方針のようだ。
- 第577回:DIGAに無線モニタをプラス! DIGA+を試す
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120725_548860.html - 第556回:ホームネットワークの中核へ。パナソニックDIGA「BZT920」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120307_516915.html - 第593回:ダブルでお部屋ジャンプ! パナソニック「DMR-BZT830」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121121_574274.html - 第585回:見る事の効率化をめざしたソニー「BDZ-ET2000」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120926_562238.html - 第581回:小型低価格ながら多機能なBDレコ、東芝「DBR-Z250」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120829_555978.html - 第594回:中身はまるっと別物に、東芝レコーダ「DBR-T360」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121128_575539.html
さらに今年はDTCP-IPの運用基準が緩和され、汎用タブレットでもデジタル放送の視聴が可能になってきた。実際にやってみると、テレビの前に行かなくても手元のタブレットでテレビが視聴できるというのは、番組への接触機会を大幅に増やしてくれる。今後はアプリの開発も含め、レコーダ+タブレットという形が一つの視聴スタイルを築いていきそうだ。
スマートテレビ/ネットサービス篇
低価格化で普及が進むタブレット端末は、AVライフにも欠かせないデバイスになりそうだ。その一方でテレビは、「スマートTV」のかけ声とともに、ネット上のサービスを取り込もうとしている。
だが、そのためにテレビを買い直せなどというのは無茶な話で、後付けでテレビにくっつけられる装置が徐々に注目を集めている。
これにはもちろん、スマートフォンOSであるAndroidの進化も一役買っている。HDMI端子に挿すだけというお手軽機能拡張スティックは、驚くほどの低価格ながら、テレビをイイ感じのネット端末に変えてくれるということで、注目度が高かった。
また据え置きボックス型の製品も、以前はローカルにあるファイルを再生するメディアプレーヤーという格好だったが、Huluの上陸によりオンラインのVODサービスが充実し始めたことで、すっかり印象が違う製品となった。Apple TVも今年9月からHuluに対応したことで、新しいタイプのVODスタイルが幕を開けた。
さらに携帯キャリアの定額制もVODや音楽配信サービスに対応し、飛躍的にストリーミングでコンテンツを楽しむユーザーを生み出した。このようなサービスが実現できるのも、スマートフォンの性能とLTEのスピードに裏打ちされてこそだ。
- 第582回:あれ、ちょっと時代来てる? スティック型Androidを試す
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120905_557443.html - 第570回:Hulu対応でApple TV対抗? 「WD TV Live」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120606_537912.html - 第571回:VODの新形態。月額590円のau「ビデオパス」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120613_539677.html
タブレットとテレビという組み合わせでは、ピクセラのiPad/iPhone用テレビチューナーがリニューアルし、録画もできるようになった(販売はSoftBank SELECTION)。この製品が出たときはまだDTCP-IPの仕様が緩和されていなかったので、独自に暗号化を行なったりしてかなり苦労したようだ。
今後はもう少し簡単な仕組みで実現できそうなので、レスポンスやユーザービリティは上がりそうではある。多くのiPadユーザーがそうであるように、ガリガリのAV機器ユーザーではない人達に向けて、買ってきただけで絶対繋がるという決め打ち製品というのは、今後も伸びしろがあるとは思う。その一方で、Appleとのライセンス契約に付き合って他のフォーマットに対応できなくなるのも、メーカーとしてはしんどいところである。
- 第576回:ソフトバンク謹製iPad/iPhone用チューナ再び
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120718_547258.html
そのほかの製品
今年はタブレットが本格的に始動した年だったと言える。本コラムではそれほど多くを扱っていないが、主軸が10型から7型へ、ディスプレイ解像度もより高画素へとシフトしていく様は、まさに最先端のイノベーションがここに集まりつつある印象だ。
- 第559回:遂に1080p撮影対応。新iPadを映像視点でチェック
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120328_521842.html - 第584回:周辺機器充実、生まれ変わったソニー「Xperia Tablet S」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120919_560515.html - 第596回:iPad miniをAVライフで活用してみる
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121212_578293.html
しかもタブレット市場が興味深いのは、必ずそれに紐付いたコンテンツサービスが存在することである。コンテンツを見せるための装置として、汎用端末を格安でばらまいている状況は、日本的な“ハードウェアありき”で進んできた市場から見ると、違和感を感じる。
Windows 8マシンも扱ってみたが、米国のようにWindows PhoneやWindows RTのようなファミリーが存在するのであれば、横の繋がりも体験できるはずだが、日本ではPC用OSしか投入されないので、全体のシナリオがよくわからない状況が続いている。MicrosoftのSurfaceでも入ってくれば、また状況も変わるかもしれない。
オーディオ関連は今年は少なかったが、自作オーディオは今や雑誌の付録でも十分なクオリティに達しており、さらには自作もデジタルが主流になっていることを知った。この分野は、なかなかバカにできない。ノウハウを身につければ、改造する楽しみが拡がる世界である。
- 第591回:AV Watch読者に贈る、“Windows 8ってどうなの?”
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20121107_571090.html - 第579回:夏休み工作:雑誌付録で作るUSBオーディオ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20120808_551755.html
総論
今年本コラムで扱ってきた製品群をまとめてみたが、トレンドは掴めただろうか。個人的には今年はよく色々撮影した年であった。カメラ系だけで19製品もある。カメラのイノベーションも、かなりのスピードで進んでいる。ただカメラメーカーも業界再編の動きが活発化しており、昨年はリコーがペンタックスを買収、今年もソニーとオリンパスが資本提携するなど、大きな動きが目立った1年だった。
それよりも速く動いているのが、スマートフォンやタブレットの世界だ。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやオンラインサービスがどんどん出てきて、AV関係もかなり高度なことができるようになってきた。
ハードウェアだけ作っていても、単価が安いだけに商売にならない。いかにソリューションをくっつけてそこで稼ぐかが、日本の家電メーカーにまで問われるようになってきている。しかし、これに応えられるメーカーはそう多くない。
多くのメーカーがテレビから離れないのは、テレビ放送は未だ強いコンテンツであるとともに、利用するぶんにはタダだから、というところもあるだろう。一方でネットサービスは伸びしろのある部分であり、欧米のサービスが来年こそ日本でも、と期待は高まる。
来年はどんな世界が拡がるのだろうか。今後も引き続き、注意深く動向をウォッチしていくことにしよう。