小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第658回:NAB開幕。4Kミラーレス「α7S」や4Kウエアラブル、BMDは4Kスタジオを超低価格に

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第658回:NAB開幕。4Kミラーレス「α7S」や4Kウエアラブル、BMDは4Kスタジオを超低価格に

再び“約束の地”へ立つ

いつもの会場、ラスベガスコンベンションセンター

 4月7日(現地時間)より、米国ラスベガスにて毎年恒例の「NABショー2014」が開催されている。2年ぶりの取材という事もあって、かなり浦島太郎状態になるのではと心配したのだが、昨年も取材に来ていた同業者によれば、今年は新技術やまったく方向性の異なる製品が登場し、去年の状況とは全く異なる活況ぶりに驚いているという。

 確かに2年ぶりに会場を回ってみても、大手メーカーが発表した製品が沢山あるため、会期2日目を経過した本日も小さいブースが全然回れていない状況だ。とても全ての新製品をご紹介できないが、そんな中で特に“刺さった”技術をピックアップして、まずは中間報告をさせていただこう。

“とんでもない技術力”で群を抜くソニー

8K×2Kの巨大スクリーンでお出迎えのソニーブース

 映像業界としてどうしても避けて通れないのが、ソニーである。今年のテーマは“Beyond Definition”。もう解像度議論は終わり、次はアプリケーションやソリューションの時代だという宣言にも聞こえるわけだが、その名のとおりの製品が展示されている。

 これまで4Kは主にデジタルシネマ商品として開発されてきたわけだが、日本ではご存じのように、まず放送から4Kがスタートする。そこでこれまでのシネマカメラをテレビ中継に応用するためのアダプタが展示されていた。

 「SKC-4065」は、CineAlta 4Kカメラ「F65」の後ろにくっつけるタイプのアダプタ。これを使って、F65からRAWの映像信号を取り出してカメラシステムアダプター「CA-4000」に伝送。ここで色調整などを行なった後、ベースバンドプロセッサ「BPU-4000」に渡すと、放送で使われるベースバンドの映像信号に変換できる。

 さらに4KからHDへの切り出し機能を使うことで、4Kで広い絵を撮っておき、自由にHDサイズの映像に切り出すことができる。やってることは先日レビューした4Kカメラ「FDR-AX100」のHD切り出し機能のプロ版といった感じだが、さすがにプロ版だけあって、もう一工夫ある。

F65と「SKC-4065」のセットでライブカメラ化
手前のコントローラを使って4KからHDを自在に切り出し
赤い枠が切り出される範囲。端に行くほど長方形ではなく、パースがかかった台形で切り出される

 4Kの平面からHDを平面的に切り出してしまうと、例えば切り出し映像をパンしたときに、どうしてもカメラが横を向いたというよりも、平行移動したような映像になってしまう。原理的にも切り出し範囲を横移動させただけなので、そう見えるのが当然だ。

 それでは不自然なので、この切り出しコントロールでは、切り出し範囲を上下左右に動かすと、球面の内側をなでているかのような格好で、切り出し範囲を湾曲させる。つまり、わざとパースを付けるわけだ。これにより、自然にカメラをパンしたかのような、自然な切り出しが実現する。こういう細かいところまでちゃんとやるのが、日本のプロ機材である。

 ハンディタイプのXDCAMメモリーカムコーダーとして、「PXW-X180」が発表された。残念ながらまだ画質が最終ではないということで、アクリルケース内での展示しかなかったが、ここで初めて採用されているのが、「可変NDフィルタ」だ。

 これまでNDフィルタは、1/4、1/8、1/16と倍々のステップでしか変えられなかったが、電圧によって濃度が変わるフィルタをNDとして利用することで、バリアブルに調整することができる。

アクリルケース内での展示となった「PXW-X180」
可変NDのスペック

 カメラ側面には、従来通り倍々ステップのスイッチと、バリアブルに変えるためのダイヤルが付いている。例えばいったん1/4に設定したあと、切り換えスイッチをバリアブル側に倒せば、1/4の状態から濃く、薄くといったバリアブル調整に移行する。

 これは、“あともうちょい”といった細かい調整ができるというだけでなく、露出制御に新しいパラメータが加わる事になる。これまで露出は、ゲイン(感度)、シャッタースピード、アイリスの3つをバリアブルに動かして決めてきたが、これに新しくNDが加わる事になる。感度は変えたくない、絞りもシャッタースピードも変えたくないという状況で、NDで自動露出するという世界が来るわけだ。

 製品リリース時にはまだオートでの追従は実装されないそうだが、最終的にはそこまでいきたいとしている。これがコンシューマ機に降りてきたら、また大変なことになりそうだ。

 すでにニュースリリースも出ているがミラーレス一眼「α7S」の登場はこちらでも驚きをもって迎えられている。すでに動作実機が何台かあり、会場では実際に撮影することができる。

 すでにご存じかと思うが、ボディはα7、あるいはα7Rと全く同一。ただセンサーと画像処理プロセッサが新しくなり、最高でISO 409600の高感度と、HDMI出力から非圧縮4:2:2の4K/24/30pの出力が得られるところがポイントだ。またマウント部の設計が見直され、剛性が上がっているという。

 本体では4Kの収録はサポートしておらず、外部レコーダが必要となる。現在サポートを表明しているのは、ATOMOSの「Shogun」という新規開発のレコーダのみで、これもNAB会期初日に初めて発表された。

実際に撮影も可能だったα7S
あちこちにShogunをイメージさせるバナーが
ATOMOSのフィールドレコーダ、Shogunと組み合わせたところ

 ただ会期前から会場のあちこちにバナーとして"The GUN of the Show"と書いてあるので、ああShogunってやつが出るのね、とバレバレである。ATOMOSのフィールドレコーダは過去Ninja、Ninja 2、Samurai Blade、Roninといった武士階級シリーズを展開してきており、今回最高級モデルとしてShogunがリリースされたというわけだ。マテマテ浪人は階級じゃないというツッコミもあろうかと思われるが、もう製品化しちゃっているので手遅れである。

 ATOMOSブースも取材したが、残念ながらShogunの実動機はなく、モックアップ展示に留まっている。

 なおATOMOSの日本法人の社長は、かつてソニーのVAIOシリーズでデスクトップハイエンドのバイオRZシリーズの商品企画、のちにカムコーダのマーケティング部門に移られて多くの製品を世に送り出してきた、戒能 正純氏が新しく就任した。よりソニーとの連携も強固になっていくのかもしれない。

まさかの温故知新、Blackmagic Designの戦略

 ハイエンド製品を驚きの低価格で提供するBlackmagic Design。今年もかなり新製品が多く、どれも技術レベルが非常に高いのだが、個人的に刺さった製品を2つご紹介したい。

ついに2M/Eの4Kスイッチャー登場

 まず一つは、4Kスイッチャーの「ATEM 2 M/E Production Studio 4K」。これまで1M/Eタイプの4Kスイッチャーは出ていたが、それの約2倍の規模となるモデルで、4K/30pの映像を20系統スイッチング可能。最大5レイヤーの映像合成がリアルタイムで行なえる。

 今回の技術的な目玉は、ATEM Camera Controlという技術だ。例えばテレビスタジオでマルチカメラを切り換える場合、各カメラのカラートーンを統一しなければならないので、カメラのガンマやRGBバランスをリモートで調整するCCUという装置をカメラごとに用意しなければならなかった。

 これはスタジオ設備のコストがかかる要因の一つであったのだが、今回同時に発表されたスタジオカメラ「Blackmagic Studio Camera」と組み合わせると、別途CCUを用意しなくても、光ファイバー接続かSDIケーブル2本を接続するだけで、スイッチャーの入力側でCCUと同じ調整ができるようになる。

光ファイバーだけ接続されたBlackmagic Studio Cameraでライブ放送
DaVinci Resolveと同様のUIでカメラ調整が可能

 UIがDaVinci Resolveと同じなので、これでカラーグレーディングを学んだ技術者がライブカメラの調整までできるようになるという点でも、画期的だ。

 また、“今このカメラがOAされてますよー”という合図となる、カメラのタリーランプの点灯や、インカム通話といった信号もカメラ側に伝送できる。これまではそれらの信号伝送のために別々のケーブルを使っていたので、カメラが紐だらけになっていたわけだが、ずいぶんすっきりしたスタジオになるだろう。

 凄いのが価格で、ATEM 2 M/E Production Studio 4Kが3,995ドル、Blackmagic Studio Cameraの4Kモデルが1台2,995ドルなので、3カメの4Kスタジオがざっくり13,000ドル。業務用4Kモニター1台ぶんより安い。Studio Cameraの4Kモデルが4K/30pまでとはいえ、4Kシステムであるという事を考えると、おそらく従来機比較で1/100ぐらいの価格で揃うことになるのではないだろうか。

壁掛けサイズのCintel Film Scanner。右は社長のPetty Grant氏

 もう一つ、ものすごい製品が出た。Cintel Film Scannerは、壁掛けできるぐらいにまで小型化された、16mmと35mmの映画フィルムデジタイザーだ。いわゆるテレシネ機のようなものと考えて貰えばいいだろう。

 従来テレシネ機の名機として知られたRank Cintelは、だいたい和箪笥ぐらいの大きさだった。Blackmagic Designはこれを作っていたCintel Internal社を2012年に買収していたが、Cintelの技術を使ってまったく新しいスタイルのテレシネ機を作ってきた、というわけだ。

 コントロールと映像の取り込みは、すべてThunderbolt 2経由で行なわれる。会場で展示していたコントローラはデモ用に作った簡易版で、製品版はDaVinci Resolveから直接コントロールされることになる。つまりMacプラットフォーム上でフィルムのテレシネからカラーグレーディングまでできてしまうわけだ。大変な時代になったものである。

側面からThunderbolt 2端子が出ている。上はモニター用のHDMI出力
コントロールソフトはまだ仮のもの

 これまでフィルムは、過去の映像資産という受け止め方をされてきたが、ここまで手軽に扱えるようになると、また新しくフィルムで撮り始めるクリエイターが出てくるかもしれない。フィルムの供給がネックではあるものの、フィルムが一周回って“新しい”と言われる時代の幕開けを感じさせる。

いよいよ発売か、パナソニック4Kウエラブル

 パナソニックブースの今年の目玉は、発表からおよそ2年を経てようやく実動モデルをお披露目した「4K Varicam」なのだが、コンシューマユーザーとしては今年にCESでモックアップ展示されていた、4Kウエラブルカメラが気になるところだろう。

 今回のパナソニックブースでは、これの実動モデルを展示した。「HX-A500」というモデル名となったカメラはオレンジと黒の2色展開。解像度とフレームレートは、4Kモードが3,840×2,160/30p、HDモードが1,920×1,080/60/30pと1,280×720/60p。またハイスピード撮影として、1,920×1,080/60p、1,280×720/120p、848×480/240pでの撮影にも対応している。

HX-A500のカメラ部
動作中の本体部
側面にメモリーカードスロットとUSB端子

 記録はマイクロSDHCカードClass10推奨。Wi-Fi機能も搭載し、NFCによるワンタッチ接続で、撮影した映像の転送のほか、リアルタイムでのライブストリーミングにも対応する。米国での価格は399ドルで、すでにメーカーサイトでプレオーダーを受け付けている。出荷は7月頃の予定。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。