小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第666回:“未来の4Kスタジオ”はこんな感じ? マルチカメラを一元管理、BMD Studio Camera + ATEM 2M/E 4K
第666回:“未来の4Kスタジオ”はこんな感じ? マルチカメラを一元管理、BMD Studio Camera + ATEM 2M/E 4K
(2014/6/11 10:00)
テレビスタジオにも革命が
スタジオなどで、複数のカメラの映像を切り替える“スイッチャー”。普通の人にはまったく馴染みのないものだろうと思うが、ネットの生放送が市民権を得て以来、AV機器として少しずつ認知が高まってきている。過去この連載の中でも、ローランド「VR-3」や「VR-3EX」、Blackmagic Design(以下BMD)の「ATEM 1M/E」などを取り上げたことがある。
今年4月に行なわれたNAB 2014で発表されたのが、「ATEM 2 M/E Production Studio 4K」(以下ATEM 2ME4K)だ。これは何かというと、4Kのビデオスイッチャーである。
現在業務用の4K機器は、HD-SDIケーブル4本で伝送するのが一般的だ。つまり1系統の信号を接続するのに4口使うので、どうしてもコネクタ数が多くなってしまう。例えば4台のカメラを切り換えたいというだけで、スイッチャーの入力コネクタを16個使うわけである。
現在4Kの試験放送が行なわれているところだが、4K対応スイッチャーとしては、ソニー製の大型スイッチャーのファームウェアを変更して4Kで使えるようにしたものが主流で、小型スイッチャーはほとんどないのは、そういうところにも理由がある。
一方BMDでは、1本のHD-SDIケーブルで4Kの信号を伝送する独自規格を採用している。このため、現時点では接続するカメラなどの映像機器も、この規格を採用したBMD製品で固めて使用することになる。
さらにもう一つの条件として、現時点では4Kでも30pまでしか対応しないということだ。さらに言えば、4K30pが出力できるカメラもまだ発売されておらず、4Kシステムとしてはまだ使用することができない。BMDでは将来的には4K60pも1本で伝送する計画だが、こちらも対応製品はまだ1つあるだけで、システムとしては組めない状況にある。
ただ4Kで使わず、HDのシステムとして使えば、カメラもあるので実験はできる。そこで、BMDからスイッチャーの「ATEM 2ME4K」と、スタジオカメラとして使用できる「Blackmagic Studio Camera HD」(以下BSC)をセットでお借りすることができた。今回はHDでの実験だが、できることは4Kでも同じのはずである。“未来の4Kスタジオはこんな感じ”、というあたりをテストしてみよう。
斬新すぎる未来のスタジオカメラ
スタジオカメラとスイッチャー、おそらくどちらもあんまりレビューされる機会はないと思われるが、まずスタジオカメラのほうから見てみよう。
スタジオカメラというのは、いわゆるスタジオ中継や収録のときに使われるカメラで、カメラ本体に記録部を持たない。カメラから直接ケーブルを伸ばしてスイッチャーに入力し、マルチカメラで撮影した映像をいっぺんに放送なり収録なり行なう。
普通放送局では、スタジオカメラとロケや報道取材用のカメラは別で、兼用することはない。地方局やケーブルテレビ局のような小規模のところでは、ロケ取材用カメラをスタジオカメラに兼用する例もあるが、基本的にはまったく別物なのが普通だ。
一般にスタジオカメラは、大型ズームレンズを搭載しており、カメラは大型の雲台に載せて使用する。左右に操作用のパン棒があり、そこにコントローラを付けてズームやフォーカスなどのコントロールを行なう。またモニターはビューファインダではなく、7インチから9インチぐらいのピクチャーモニターを使用するのが普通だ。
そのイメージからすると、BSCのルックスは相当変わっている。もちろん、スタジオカメラも、今の技術で小さくできることはわかっているのだが、スタジオカメラというのはなかなか新モデルも出ないし、そもそも外に持ち出したりしないので壊れないし機材更新もあんまりされないので、大幅なモデルチェンジを見る機会が少ないジャンルなのである。
まず特徴的なのが、通常は外付けされているモニターを固定式にして、そこにカメラヘッドをくっつけたような形になっていることだ。そのため、レンズなしだと厚みが113.6mmしかないという、全体的に平たいカメラになっている。
レンズマウントはマイクロフォーサーズだが、有効センサーサイズは12.48×7.02mmとなっている。これは以前レビューした「Blackmagic Pocket Cinema Camera」と同じで、いわゆるスーパー16mmサイズである。したがって、マイクロフォーサーズのレンズを装着した場合、焦点距離は約1.5倍になる。4KバージョンのBSCは少しセンサーサイズが広い(13.056×7.344mm)ようだが、大きな差はなさそうだ。
元々スタジオカメラでは、フィールドレンズほどワイドの広さは要求されないが、装着するレンズはなるべくワイド寄りのズームレンズのほうが使いやすいだろう。
端子類はカメラヘッド部両脇に付いている。本体左側にはLANC端子があり、ここにリモートユニットを接続することで、手元でのズームコントロールなどが可能だ。その下のヘッドフォン、マイク端子にはインカムを接続する。一番下はスタジオ集音用のマイク入力端子だ。マイク音声は映像信号の中に混ぜて一緒に送られる。
反対側は、一番上に光ファイバーの入出力端子がある。これは映像と音声を長距離伝送するのに使われる。マニュアルには、最長で約45km伝送可能と書いてある。おそらく筆者の知る限り、光ファイバーの入出力を標準で備えたカメラは初めてではないかと思う。
その下がSDIの入出力、3番目はリファレンス(外部同期)入力だ。一番下は電源端子。
スタジオカメラなのに入力があるのが不思議に思われるかもしれないが、スイッチャーからの映像をカメラに戻すのに使っている。これはカメラマンが今どんな番組進行になっているのかを手元で確認するためで、モニターは自分のカメラ映像とスイッチャー(本番)の映像を切り換えられるようになっているのが普通だ。
さらにBMDのカメラは、インカムの音声やタリー信号なども、映像信号に混ぜて送っている。タリーとは、スイッチャーでそのカメラが選ばれていることを示す、赤いランプのことである。BSCは入出力のケーブル2本を挿せば、スタジオカメラとしてのケーブリングがすべて完了するのが大きな特徴だ。
カメラ上部にある凹みは、持ち歩き時のグリップだ。スタジオカメラはあまり可搬性を重視していないが、BSCは軽いので、色々付け替えて撮影するということもありうるだろう。
周囲に沢山ねじ穴が切ってあるが、これはモニターフードを固定するためでもあり、またアクセサリを取り付けるためのねじ穴としても機能する。
背面は殆どがモニターだが、下部にボタン類がずらりと並んでいる。左端は電源ボタンで、メニューボタンはカメラセッティングを行なうためのもの。後述するが、細かい調整はすべてスイッチャー側で行なうので、最低限のメニューしかない。
DISPボタンは、いわゆるテレビ安全フレームなどを表示する。これはアナログ時代のブラウン管の名残で、映像のはじっこはテレビによって映らないケースもあったので、安全のために撮りたい被写体は画面の90%以内に入れましょう、テロップは80%以内に入れましょう、という取り決めがあったのだ。
ボタン左端はFOCUSボタンで、レンズがAF対応の場合、1プッシュでAFが効く。ダブルプッシュでピーク表示となる。AF測距のポジションはセンター固定だ。レンズがAF非対応の場合は、1プッシュでピーク表示となる。
IRISボタンは1プッシュでAEが動作する。また上下ボタンを押せば、露出補正も可能だ。PGMは先ほど説明したように、スイッチャーからの戻りの映像に切り換えるボタン。LUTは現時点では動作しないが、おそらくLUT(Lockup Table)、平たく言えば絵づくりの設定を呼び出して切り換えられるようになるのだろう。
またこのカメラは、バッテリも内蔵しており、およそ4時間の撮影が可能だ。スタジオカメラでバッテリを内蔵するのも珍しいが、これでフィールド撮影しましょうというよりも、バックアップ電源としても動作できるという位置づけだろう。バッテリの交換はユーザーにはできないが、寿命が来たらおそらくメーカー修理という形で交換は可能だろうと思われる。
さらにこれがあることで、本機を映像入力ができるバッテリ駆動のモニターとしても使う事ができる。カメラとして使わないのは勿体ないと言えば勿体ないが、スタジオで余らせておくぐらいなら、そういう使い方も考えていいだろう。
破格に安い2M/Eスイッチャー
BMDのATEMシリーズは、ラック型の本体とコントロールパネルが別売となったスイッチャーシステムだ。ラインナップとしては、過去「Television Studio」、「1M/E」、「2M/E」の3ラインナップだったが、それぞれを少しずつブラッシュアップして、ついに全シリーズともに4K対応となった。
今回お借りしている「ATEM 2ME4K」は、シリーズ最上位モデルとなるが、価格は税抜き416,800円と、4K対応以前のモデルよりも下がっている。4K対応だからといって4Kしかできないわけではなく、4K、HD、SDの3フォーマット切り換えで使用することができる。以前のモデルはすでに生産終了となっており、今から買うなら4K対応の新モデルのほうがお得ということになる。
ここではスイッチャーの細かい仕様に関しては触れないが、ビデオ入力が20系統あるので、システム的にはかなりの規模まで対応できる。入出力のメインはSDI端子で、HDMIは入力に1つだけ使える程度だ。
本体サイズはいわゆる3Uサイズで、前モデルの4Uからは少し小さくなっている。その代わり、というのも変だが、奥行きが長くなって、いわゆる箱型になっている。以前のモデルは厚みがあまりなく、ほとんどパネルみたいなボディだったので、内部構造はだいぶ変わっているのがわかる。
また過去モデルは大型のヒートシンクが付いており、ファンレスで動作したのだが、新モデルでは本体左側に排気ファンが2基付けられており、ファンノイズもかなり大きい。収録スタジオ内に本体を設置するのは難しくなった。
フロントパネルにはモニターも搭載されており、映像ソースの確認ができるほか、AUXバスのスイッチングもできるようになった。ただ本線のスイッチングは、ソフトウェアを使うか、ハードウェアのコントロールパネルが必要になる点は一緒だ。
さて、このスイッチャーと同社のカメラを使用するメリットは、単に4Kの伝送フォーマットが一緒だからというだけに留まらない。このスイッチャーから何らかのアウト、プログラムでもAUXバスでもいいのでカメラに戻すと、カメラのカラー調整がスイッチャー側で行なえるようになる。
ソフトウェアのコントロール パネル上でCameraタブを選ぶと、各カメラのコントローラが出てくる。今回は「Cam1」に接続しているが、下部の赤い丸をマウスでドラッグすると、上下でカメラ映像の露出調整、左右でコントラスト調整ができる。また左下のAボタンをクリックすると、AFも動作させることができる。
上のカラーホイールは、Lift(Black)、Gamma、Gainのカラーバランスを変更することができる。3つの○のボタンを押すと、コントローラが拡張し、Lift、Gamma、Gainのバランスを一度に確認、変更することができる。設定が決まったら、上の鍵ボタンをクリックすると、設定がロックされる。
なぜこのような仕組みが必要かというと、複数台のカメラを使用してそれぞれの色を合わせる場合、いちいちカメラのところに行って調整していては時間もかかるし、他のカメラと切り換えて比較するということが難しいからだ。すべてのカメラのカラー調整が手元でできれば、色合わせが効率的にできるわけである。
このような仕組みは以前からあった。カメラからマルチケーブルを伸ばして、CCU(カメラコントロールユニット)に接続し、専用のコントローラを使って各カメラを調整していたわけだ。ただこのCCUとコントローラ一式が50万円から100万円ぐらいする。さらにカメラによってはそれらが1式ずついるので、“便利”に払うお金としては、かなり大きな額になる。
これがスイッチャー側に内蔵され、しかも複数台が調整できると言うだけで、非常に大きなコストダウンになるのはおわかりいただけるだろう。
総論
今回は一般の方にはなかなか難しい話だったと思うが、テレビスタジオの現場も大きく変わっていくタイミングであることは、なんとなくおわかり頂けたのではないだろうか。
ただ執筆時点では、まだこのカメラコントロール機能は正式なソフトウェアとしてはリリースされておらず、まだ非公開βの状態である。また4Kのスタジオカメラも7月発売予定で、今からすぐに4Kのスタジオワークを始めるというわけにはいかない。BMDのことなのでいつフィニッシュするのか定かではないが、少なくとも年内にはこの新しい環境が動き出すのではないかと思われる。
カメラコントロール機能は今後、1M/EやATEM Production Studio 4Kにも段階的に採用されていく予定だという。むしろこういった小規模なスイッチャーのほうが、放送とは別の用途で使い道があるかもしれない。