小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第672回:シースルー型は時代を切り開くか? エプソンHMD「MOVERIO BT-200」。Chromecastとコンビで便利
第672回:シースルー型は時代を切り開くか? エプソンHMD「MOVERIO BT-200」。Chromecastとコンビで便利
(2014/7/23 09:25)
熱い……のか? HMD
サイヤ人を持ち出すまでもなく、自分の視界の先に情報がオーバーレイされたら便利だろうなというのは誰でも感じることである。それをいち早く実現したのがGoogle Glassなのであるが、残念ながら日本では販売されていない。
CES取材でラスベガスに行くと、当然来場者の大半がガジェットオタクなので、Google Glassをかけている人を多く見かける。カジノでポーカーテーブルを囲んでいる人たちの大半がGoogle Glassをかけているのを見て、思わず笑ってしまった。あれは間もなく禁止されるだろう。
人に情報を見ていると気づかれずに情報を確認することの是非については、米国で様々な意見が出ており、それは安全なのか、プライバシーの問題はないのかなど、社会としてのあり方が問われ始めている。
その一方で、バーチャルリアリティとしてのHMDも、ゲーム機を中心に様々なトライアルが行なわれている。ジャイロセンサー、モーションセンサーを使って頭の移動を検知し、右を向けば右側の映像が、上を向けば上の映像が表示される。映像酔いとの関連性も睨みながら、これから大きく前進しそうな分野である。
日本でもHMDは光学メーカーを中心に研究・開発が進められており、3Dブームのときにちょこっと注目されたりもしたが、今だ本格的に火が付いた感じはない。
エプソンも2011年に初代HMD「MOVERIO BT-100」を市場投入した。コンセプトとしては、上記に上げた2タイプをミックスしたようなスタイルで、「両眼メガネ型だがシースルー」なのが特徴だった。
そして今年、2世代目のモデルとして「MOVERIO BT-200」を6月30日より発売を開始。店頭予想価格は7万円前後となっている。加えてMiracast対応HDMIアダプタもセットにした「BT-200AV」は店頭予想価格は9万円前後。
従来モデルよりも大幅に小型化し、普通のメガネに近いサイズ、重量も88gとなった新モデル、今回はBT-200AVのほうをお借りすることができた。さっそく試してみよう。
確かにメガネっぽいのだが……
これまでのHMDは向こう側が透けて見えるようにはなっていないため、メガネというよりはすっぽり被るというイメージが強い。一方BT-200は、レンズに相当する部分が完全にシースルーで、映像を投影していなければまるっきり向こう側が素通しで見えるため、想像したよりも普通のメガネっぽいという印象だ。
ただ、ディスプレイが仕込まれているレンズ部分の厚みが1cmぐらいある。両脇から映像を入射して、目の前のハーフミラーで反射させるという構造のため、どうしてもミラーを斜めにする必要があり、この厚みになってしまうのだろう
レンズ部は実際には度の付いたレンズではないので屈折はしないのだが、その厚みからどうしてもドリフのコントに出てくる牛乳瓶の底みたいなメガネを想像してしまう。このどっしりとした厚みは、現状の方式における大きな課題と言わざるを得ない。
ディスプレイ画面が見やすいように、外光を遮断するシェードも付属する。半透明とほぼ真っ黒の2タイプを付け替えられるようになっている。映像をじっくり見たいので、向こう側が見えなくてもいいという場合にも対応できる。
またレンズ部の両脇には、ディスプレイユニットが内蔵されているため、ここもかなりの体積がある。メガネのツルの部分は樹脂製で、広がり方向に弾力を持たせている。また差し込み式のずり落ち防止耳当てラバーも付属しており、頭の大きさに応じてフィッティングできるようになっている。
鼻当て部分は通常のメガネに比べると、かなり長い。また形状も柔軟に変えられるようになっており、メガネをかけている人でも、ホンモノのメガネの鼻当て部分の間を通してしまうとか、水平に開いてメガネのブリッジの上に載せるなど、いろいろなフィッティングができるように工夫されている。
HMD部の左側からケーブルが出ており、この先端をコントローラに接続する。コントローラのサイズは4インチ時代のスマートフォン程度だが、厚みは若干ある。ディスプレイ部もコントローラのバッテリで駆動させるため、バッテリ部が大きいのかもしれない。
このコントローラが、いわゆるAndroid端末になっており、筐体表面のパッドを触って操作する。スマートフォンの、画面とタッチセンサーが分離しているような作りだ。したがって画面上にはポインタが出てくる。
Androidのバージョンは4.0.4で、カーネルは3.0.21。ハードウェアのボタンは左がメニュー、右が「戻る」になっており、昨今のAndroidとは逆だ。画面上のボタンは左が「戻る」、右がメニューになっており、ハードウェアとは逆になっている。上部のスライドスイッチは、電源とタッチホールド機能がある。
右側には充電用のmicroUSBポート、その下には上下ボタンがある。左側にはmicroSDカードスロット、その下にはモード切り換えボタンがある。このボタンを押すごとに、反対側にある上下ボタンの機能を、音量、画面明るさ、2D/3D切り替えに変更する。
ケーブルの中間部にはケーブルを留めておくためのクリップがあり、そこにヘッドフォン端子が用意されている。付属のカナル型イヤフォンを接続して、音を聴くというスタイルだ。
Miracast対応HDMIアダプタ「EHDMC10」も見ておこう。サイズは大きめの平形Wi-Fiルータといったところで、表面にはボタンが2つ、LEDが2つあるのみ。背面にはHDMIの入力と出力、電源用のmicroUSB端子と、サービス用の端子がある。
EHDMC10では、HDMI入力された映像をMOVERIOに送るだけでなく、逆にMOVERIOの画面をHDMI出力から出す事もできる。
さっそく装着、使ってみる
ではさっそく使ってみよう。重量88gと聞いて、100g切ってるなら軽いと思ったのだが、実際に装着してみると、かなり重く感じ、ホンモノのメガネぐらいというわけにはまだいかない。
普通のメガネはどれぐらいの重量なのか、手持ちのメガネを測ってみたところ、だいたい15g前後だった。まだ普通のメガネのおよそ6倍の重量がある。
メガネの上からでも装着できるようになっているが、そうなるとメガネの重さも鼻当てにプラスされるので、およそ100g超の重量がかかることになる。それでいけなくもないが、長時間は無理だ。裸眼で見える人ならいいが、そうでない人はコンタクトレンズ併用が良いだろう。なお、フレームだけのレンズホルダーも製品には同梱されており、メガネ店で視力に合ったレンズを入れて、HMDの内側にセットできるようにもなっている。レンズ代金はかかるが、これを利用する手もある。
重量による負担感は人それぞれ感じ方が違うと思うので、これ以上は追求しないとして、使い勝手を見てみよう。
ディスプレイによる表示は、半透明とは言うものの、かなりはっきり見える。映像が表示されているエリアは、向こう側の実風景はほとんど透過して見えないと思った方がいいだろう。
映像のサイズは、“2.5m離れた先に40インチ相当”となっているが、確かにホンモノの40インチテレビとサイズ感を比べてみると、そんな感じだ。“20m先に約320型相当”という言い方もできるが、逆に言えば“50cm先にiPhone画面”という言い方もできる。目の焦点距離からすれば、だいたい2.5mぐらいの距離に見えるので、まあその位置に40インチ相当の画面が見えるというのが妥当な表現だろう。
最初に起動して現われるのは、一般的なタブレット型Androidのホーム画面だ。ただしプリインストールのアプリは少ない。Google Playにも対応していないため、一般的なアプリはインストールできない。もっとも画面タッチのUIとは微妙に違うので、そのまま入れても上手く操作できないだろう。
インストール可能なアプリは、MOVERIO Apps Marketからダウンロードする。ただ現時点ではキラーソリューションと言えるようなアプリはないように見える。
Webブラウザはあるので、普通にサイトに行って動画を見るという事は可能だ。YouTubeもサイトにはアクセスできるのだが、ものすごい数のセキュリティ警告が出る。20回ぐらい「続行」をタップしてようやく画面にたどり着けるような状況では、普通に使う事もままならない。また現時点では、Huluのような映像配信サービスに何も対応していないので、なにかの商業コンテンツを見るという用途もかなり厳しい。
文字入力も、かなりやりにくい。手元と画面が離れているのである程度のじれったさは仕方がないのだが、手触り感のないボタンをタッチして必要な文字を拾っていく作業は、テレビのリモコンで文字入力するよりも難易度が高いため、検索して見たいサイトに行くというだけでも結構大変だ。
Bluetoothのキーボードでも繋がらないかなといくつか手持ちのキーボードを試してみたのだが、MOVERIO側に現われないので使えなかった。せっかくシースルーなので、キーボードが使えるというのはキラーソリューションになり得ると思うのだが、残念だ。Android側の機能は、かなり課題が多いと感じる。
また、付属のイヤフォンを使わないと音が聞こえないのだが、そうなると顔の周りのケーブルがものすごくグチャグチャする。頻繁に付け外しすると、イヤフォンの先端がHMDに絡まったりして面倒だ。
そこでイヤフォンをBluetoothのワイヤレスタイプに変えてみたところ、かなりすっきりした。キーボードは繋がらないが、イヤフォンは繋がるようである。
MOVERIO単体だと、今のところ使い道が限られる。専用アプリの開発を呼びかけているようなので、どういうソリューションが持ち込まれるのか、もう少し様子を見る必要があるだろう。
HDMI入力してみる
一方で本機は、専用Miracast端末であるEHDMC10を使えば、HDMIの信号をMOVERIO側に投影することができる。一般的なMiracast端末は、スマホの画像をHDMI出力にしてテレビに出すためのものだ。EHDMC10はその使い方もできるが、逆もできるというところがポイントである。
EHDMC10を使用するには、MOVERIO側のWi-Fiをダイレクト接続に切り換える必要がある。したがってEHDMC10とWi-Fiアクセスは同時には使用できない。
EHDMC10とのリンクは、専用アプリを立ち上げてEHDMC10側のボタンを押せばいいだけではあるのだが、実際にリンクしてHDMIの映像が出るまでかなり時間がかかる。繋がっているはずなのに、HDMI信号が真っ黒のまま、という状態になることもたびたびあった。接続も双方電源を切った状態からスタートすればすんなり繋がるのだが、途中で切り換えて、という使い方には弱いようだ。
HDMI入力で対応できる解像度は、以下のようになっている。
解像度 | fps |
640×480ドット | 60 |
720×480ドット | 60 |
1280×720ドット | 60 |
1,920×1,080ドット | 24/30 |
フルHDで60i/60pに対応しないのは若干不便だが、そもそもMOVERIOのディスプレイ解像度が960×540ドットしかないので、フルHD入力のメリットはそれほどない。レコーダなど出力解像度が選べる機器では、720pにダウンコンバートして出力したほうがいいだろう。
HDMI出力のあるタブレットPCを接続してみたところ、1,920×1,080の外部ディスプレイとして認識、表示された。YouTubeなどの動画コンテンツは、本体ではなく外部機器で再生したほうが、ストレスはないだろう。
ただそうなると、手元のタブレットなどが有線で繋がっていることになり、煩わしい。またスマートフォンのサービスをそのままMOVERIOで見たいというニーズにも応えられない。
そこでもう一工夫して、HDMIの入力にChromecastを繋いでみた。Chromecastは、Googleが販売する一種のMiracast的な端末で、スマートフォンの対応アプリやGoogle Chromeの画面を、テレビなどに表示するための機器だ。
所詮は画面がHDMI出力になって出てくるだけなので、MOVERIOでもうまく表示された。これで、手元の操作もワイヤレス、ディスプレイもワイヤレス(コントローラとは繋がっているが)になったわけである。
スマートフォン上の映像がディスプレイできるとなると、可能性は大きく向上する。本来ならばMOVERIOだけでやれてもおかしくないわけで、なんだか無駄に1周回ってるような気がしないでもないのだが、しかたがない。
これでHuluの動画も、と思ったのだが、残念ながらHuluの動画をChromecastに飛ばせるのは今のところ米国だけに限定されているようなので、視聴できなかった。YouTubeは飛ばせるので、色々視聴してみた。
部屋を暗くしたり、シェードを使って外光を遮断したりすれば普通のHMDと同じなので、ホームシアターのように楽しむ事もできる。コントローラをポケットに突っ込んでいればディスプレイとしてはワイヤレスになるので、長い映像を見ている時に、シースルーなのでそのままトイレに行ける。多少行儀は悪いが。
もっと向こう側が見えるメリットはないかなと考えた結果、ドラムの練習に使ってみることにした。
YouTubeにはドラムレッスンのいい教材がたくさんあり、それを見ながら練習しているのだが、ドラムは両手を使うのでスマートフォンを手に持っているわけにもいかない。タブレットのような大型画面をドラムの向こう側に置くという方法も検討したが、操作するのに遠すぎるし、離れると画面も小さくなって何をやってるのかよくわからない。そういうジレンマを解決しようというわけだ。
スマホ上でレッスン動画を再生し、MOVERIOをかけて実際にドラムの練習をしてみた。動いているとMOVERIOがずり落ちてくるというデメリットはあるものの、画面が小さいという問題は解決した。スマホはポケットに突っ込んどけばいいので、繰り返し見る時は取りだして操作すればいい。
両手は塞がってるが、スマホ上のコンテンツが見たいという状況では、MOVERIOの強みが発揮される。ただ、それならGoogle Glassが上陸したらそれで終わりじゃないかと言われればその通りで、両眼で見る必要があるのか、そのあたりがポイントになりそうだ。
総論
MOVERIO BT-200は、ハードウェアとしては前モデルよりも完成度は上がっている。ただ、ウェアラブルディスプレイとして快適なレベルかといわれると、やはり重量の問題はまだ大きいと思われる。
また、透過型という特性をどう活かすのか、現時点ではこれといった答えが見つからない。Androidのアプリ開発により、それがエコシステムとして回転し始めれば独自の存在になれる可能性は秘めているものの、現時点ではまだ可能性に留まっている。
一方でHDMI入力ができるEHDMC10と組み合わせれば、現時点でもHMDとしての使い道が大きく拡がる。キーは、ワイヤレスでどこまでいろんなものを繋いでいけるかという事だ。MOVERIOコントローラがMiracast端末だったら話は早いように思うのだが、なかなか「単なるディスプレイです」と割り切るわけにもいかないのだろう。
“これこれこういう事に使えますよ”という問題解決型の商品ではなく、“こういうのがあるので何かに使えませんか?”という提案型の商品が、コンシューマ市場に普通に出てきたことに驚くと同時に、技術の使い道をユーザーが探していく時代になったのだなぁと思わせる。
MOVERIO BT-200 | MOVERIO BT-200AV | Google Chromecast |
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