小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第744回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

生まれ変わった最高級RX、ソニー「RX1RM2」で動画撮影を試す

RX1が3世代目に突入

 高級コンパクトデジカメは、一過性のブームではなく「そういうジャンル」として定着し始めているようだ。2012年11月に発売された初代RX1は、コンパクト機ながらも35mmフルサイズセンサーを搭載、光学ズームなしの単焦点カメラとして登場した。実売価格も25万円と、当時のコンパクトデジカメでは考えられない価格設定だったが、良さに納得して購入した人も多かった。

 それから半年後にローパスフィルタなしのRX1Rが登場。どのように違うのかということで、撮り比べを行なったが、動画では特に違いがなく、静止画でもかなり条件によるということがわかった。ローパスの有無でどちらが有利かというのは、実際に同じ被写体を撮り比べてみないとわからないということもあり、ユーザーとしてはどっちを選べばいいのか、相当に決断しづらい。もちろん、原理的に言えばローパスなしの方が解像感は上がるわけだが、当然デメリットもある。

 この2月に発売のRX1RM2は、最初は昨年12月発売予定だったが、事情により発売を延期。最終的な発売日は、2月19日となった。

DSC-RX1RM2

 そしてこのRX1RM2では、なんとこのローパスフィルタの有無を切り替えられるようにしてしまった。詳しくはソニーの商品ページをご覧いただきたいが、ローパスフィルタ間に液晶層を挟み込むことで、電圧変化によってフィルター効果を調整できるようにしたという。価格も大幅に上がり、店頭予想価格は43万円前後だ。

 もちろんそれ以外にもセンサーの画素数アップなど、時代に合わせた進歩もある。写真のレビューは僚誌デジカメWatchを見ていただくとして、今回もまた動画に絞ったレビューを行なってみたい。

変わってないようで結構変わったボディ

 RXに限らず、ソニーのデジカメはボディデザインは変わらず、スペックが違うという兄弟機が多数存在する。シリーズで最も兄弟が多いのがRX100シリーズの4モデルということになるが、RX1シリーズも今回RX1RM2が出たことで、3モデルとなった。α7も初代とIIを入れれば合計6モデルもあるが、初代とIIはボディが全然別物なので、そこを考えれば3モデル+3モデルという事になる。

 今回のRX1RM2も、デザイン的にはほぼ同じだ。だが外見上で一番違うのは、有機ELのビューファインダが内蔵されたことだろう。従来ポップアップフラッシュがあったところの穴を少し拡張して、そこにビューファインダをつけた格好だ。同様の改良は、RX100M2からM3になるときにも行なわれている。

全体のイメージは変わらないように見える
軍艦部のダイヤル・ボタン類も同じ
録画ボタンも位置も変わらず

 RX100M3のビューファインダは、ポップアップさせた後、接眼部を手動で手前に引き出さないといけなかったが、本機の場合はスライドレバーでポップアップさせただけで、自動的に接眼部がせり出してくる。しまう際も上から押し込むだけで接眼部が引き込まれ、収納できる。RX100シリーズよりもボディに厚みがあり、接眼部の移動ストロークが短いからできる仕掛けだろう。なおネジ止め式のアイカップも付属するが、これをつけるとビューファインダの収納はできなくなる。

フラッシュをなくし、ビューファインダを搭載

 またビューファインダ装備に関連して、以前フラッシュのポップアップスイッチがあった部分が接眼センサーになっている。一方ファインダのポップアップスイッチは、ボディの脇に新設された。

 一方液晶モニターの方も、上約109度、下約41度にチルトできるようになった。ハイエンドモデルには似合わないという意見もあるかもしれないが、あればあったで便利な機能である。

チルト可能な液晶モニター

 レンズは35mm/F2の単焦点で変わらず、マクロモードを備えているのも同じだ。手ブレ補正は電子式のみで、光学手ブレ補正は搭載していない。動画撮影時には、手ブレ補正OFFで37mm、ONで44mmとなる。したがってフルサイズ全域を使う動画撮影は、手ブレ補正OFFの時のみということになる。また手ブレ補正は動画撮影時のみ有効で、静止画撮影時には効かない。

動画
手ブレ補正なし(37mm)
手ブレ補正あり(44mm)
静止画
ズームなし
テレコンバータ1.4倍
49mm
テレコンバータ2倍
70mm

 絞りリングは1/3刻みのクリック型。RX10には絞りリングをクリックあり/なしに切り替えられるスイッチが付いていたが、RX1シリーズにはつかなかった。フォーカスの切り替えは、以前はAF/DMF/MFの3切り替えだったが、本機ではAFモードが2つに分かれ、S/C/DMF/MFの4切り替えとなっている。

フォーカス切り替えは4モードに

 撮像素子はフルサイズ有効約4,240万画素のExmorR CMOSセンサー。スペック的にはα7R IIに搭載のものと同じだ。ただし本機は4Kが撮影できない。これだけのスペックと価格でありながら、その機能を外してくるというのは意外な気がする。

 冒頭でも触れたように、本機の最大の特徴は、ローパスフィルタの切り替えができることである。単純なオンオフではなく、OFFの他に「解像感とモアレ・偽色のバランスを重視した標準設定」、「モアレ・偽色の低減を重視した強め設定」の3段階から選択できる。

ローパスフィルタは3段階に設定可能

 ただし動画撮影時には、自動的にローパスフィルタはOFFとなる。前回RX1と1Rで比較テストした際も、動画ではローパスフィルタの有無で画質の違いは確認できなかったので、HD解像度でしか撮影できないなら選べる意味はないかもしれない。ただ、目玉となる機能が動画には全く関係ないというのも残念な話だ。

 なお動画撮影以外でも、[おまかせオート][プレミアムおまかせオート][シーンセレクション][スイングパノラマ]でフィルターは自動OFFとなる。基本的には「フィルターが外せる」のではなく、OFFが前提で「フィルターが入れられる」カメラと考えていいだろう。

 バッテリは他のRXシリーズ同様、Xタイプだ。SDカードスロット共々、底部から挿入する。またコンパクトデジカメというジャンルながら、外部マイク端子を備えているのは珍しい。

バッテリはXタイプ
ボディ左側に端子類

パリッとした動画画質

 では早速撮影してみよう。今回はXAVC SのフルHD/60P/50Mbpsで撮影している。35mm固定なので、動画としては画角のバリエーションが取れないカメラではあるのだが、S/Nの良さや発色の良さはさすがである。解像感に関しては、HDでは十分と言えるのだが、いかんせん昨今では動画は4Kが当たり前になってきているので、それから比べれば物足りなさは残る。

発色の抜けは良好
F5.6、解像度と立体感が両立
ソニー「DSC-RX1RM2」HD解像度での動画撮影サンプル
空抜けの木々に偽色が見える

 動画ではローパスフィルターはOFFになるわけだが、空抜けの木々の細かい枝のところでは、偽色が発生する。ただ、いつも必ずどこかで発生するわけではないので、トータルで考えればフィルターOFFの方がメリットがあるのだろう。

 手ブレ補正は動画専用ということなので、ON・OFFで撮り比べてみた。画角が広めなので手ブレの影響は少ないとはいえ、やはりあった方が強力だ。手ブレ補正の有無で画角が変わるが、光量のある昼間では画質的にそれほど違いはない。

ソニー「DSC-RX1RM2」。動画の手ブレ補正。電子式だけだが、補正力はかなり強い

 AFはなかなか使いやすい。特に、ターゲットを選んでフォーカスが合わせられるフレキシブルスポットや、拡張フレキシブルスポット機能は、立体的な構図を作る際には欠かせない機能だ。特に動画の場合は、スナップ的なアングルで撮影しても印象が薄いので、こうした機能が動画でも同じように動くのは助かる。

フレキシブルスポットで印象的な構図も楽に撮影

 新設されたビューファインダは、解像度も高く、カラーブレーキングも起きないので見やすい。筆者のように眼鏡をかけている者からすれば、アイカップがない方が広く見えるので、使わない方がいいかもしれない。ただ視度調整のレバーが動かしづらいので、ベストな設定を決めるのに多少手間取った。

 驚いたのは、バッテリの持続時間だ。静止画ではそれほどでもないが、動画モードのままでライブビューにしておくと、ものすごい勢いでバッテリが無くなる。実働時間はおよそ30分といったところだろう。こまめに電源を切れば頑張れないこともないが、長時間回すような用途では、外部バッテリは必須であろう。幸いソニーのカメラはUSB給電に対応しているので、モバイルバッテリがあれば問題ない。

 しかしHD解像度の動画モードでこれだけバッテリを食うのでは、4K撮影は難しいだろう。バッテリもRXシリーズで共通のXタイプなので、α7などとは条件が違う。同じバッテリを使うRX100M4やRX10M2で4K動画撮影ができるのは、センサーサイズが1インチだからだろう。

 一方で静止画でしか効かないが、ローパスフィルターの変化も気になるところなので、一応撮影してみた。ドライブモードの中にローパスフィルタを連続で切り替えるブラケットモードがあるので、撮り比べは簡単だ。人工物を撮ってみたのだが、筆者が見る限り違いは見つけられなかった。この辺りは静止画の専門家のレビューを待ちたいところである。

フィルターなし
フィルター標準
フィルター強

動画撮影の強い味方、Video Assist

 実は今回、動画撮影中のモニター兼外部収録機として、BlackMagic DesignのVideo Assistもお借りしてみた。SDIとHDMI入出力を備えた5インチフルHD解像度のモニター/レコーダで、ProResやDNxHDに10-bit 4:2:2で記録できる。公式サイトでは59,980円となっている。

 これを持ってきた理由は、フォーカスのためだ。フルサイズセンサーで明るいレンズとなると、被写界深度がかなり浅くなる。本機のAFは、像面位相差検出とコントラスト検出を両方使うファストハイブリッドAFで優秀ではあるのだが、では一体どこにフォーカスが来ているのかというのをきちんと見る必要がある。さらに動画撮影時のマニュアルフォーカス時には、フォーカスアシスト機能が効かない。Video Assistはフォーカスピーキングや拡大機能が付いているので、フォーカスアシストの代わりになる。

BMDのVideo Assistも投入

 Video Assistのモニターは、標準値ではコントラストが強すぎて白が飛んでしまうので、RX1RM2の液晶モニターを見ながら同じぐらいになるように自分で調整したほうがいいだろう。動画のモニタリングとしては、もう少し大きくてもいいかとは思うが、ボディ全体が小型なのでカメラと合わせての持ち歩きはしやすい。

 本来ならばカメラと合わせてしっかりしたリグを組むべきだろうが、今回はテンポラリ的にクリップ式のアームに取り付けている。重量がバッテリが1つ付いても445gしかないので、こんな方法でもそこそこ安定する。

フィールドモニターとしても使える

 記録できるコーデックは、Apple ProRes 422 HQ、ProRes 422、ProRes LT、ProRes Proxy、 Avid DNxHDの4つ。SDカードのフォーマットは、exFATとHFS+から選択できる。

 Video Assistは最高で440Mbpsのハイビットレートで記録するため、SDXC UHS-I U3クラスのかなり高速カードが必要となる。ちなみに手持ちのSDカードでテストしたところ、ソニー製SDXC UHS-I U3「SF-64UX2」ではコマ落ちが発生して記録できず、この3月に発売予定のソニー製SDXC UHS-II U3「SF-M64」では記録できた。現時点で入手可能な高速カードとしてSanDisk Extreme PROのSDXC UHS-II U3「SDSDXPB-064G」でも試してみたが、こちらもコマ落ちが発生して記録できなかった。

 Video AssistのSDカードスロットは、UHS-Iである。UHS-IIは端子数が違うものの、UHS-Iスロットとも互換性がある。ただしSanDisk Extreme PROのように、UHS-I互換モードでは十分な速度が出ないカードもあるということだろう。今回試した「SF-M64」は、まだ市販前のサンプル品だが、市販品でも同程度のパフォーマンスが出るのであれば、価格もそこそこ安いので、4K撮影のスタンダードになるかもしれない。

 ProRes 422で収録すれば、編集時にファイルの最適化の必要もなく、すぐに編集に取りかかれる。XAVC SはHD解像度とはいえ、PCにとっては重たいコーデックなのだ。ただしカメラ側のHDMI出力が、内部記録よりも上位のフォーマット、例えば10bit 4:2:2で出てこないと、画質的なメリットはない。今回のRX1RM2ではHDMI出力が8bit/4:2:2なので、多少信号的には良くなるが、クロマキー合成とかしない限り、目視ではあんまり違いがわからないだろう。もちろん2系統でパラ回ししておくといった冗長性は保てることになる。

総論

 ローパスフィルタを変更できるということで、写真的には期待の大きいカメラだが、動画では変更できないというのは意外だった。静止画機能はかなりこだわった製品だが、動画に関しては意外に「普通」のカメラである。

 むしろ40万円も出してレンズ固定単焦点カメラを購入する層からすれば、動画機能など不要という意見も多いだろう。ちょっとしたメモ的な動画なら今はスマホでも撮れる時代に、4Kなし、可変フィルタなし、テレコンバーターなし、さらにはS-Log対応もなしという動画機能では、誰も満足しない。商品企画としては、「動画なし」か「4K」か、どっちかに振るべきだろう。

 もちろん静止画カメラとしての評価は全く別だ。ただ、これだけのスペックを持ちながら、動画カメラとしてはもったいないと言わざるを得ない。本体で動画記録できなくても、初代α7Sのように外部記録のみ対応という手もあっただろう。

 一方Video Assistの方は、小型の拡張モニタ+レコーダというジャンルの中では後発ではあるが、機能と価格のバランスを考えると、コストパフォーマンスは高い。HDMI入力ではトリガーレコーディングできないのが残念だが、この価格でSDI対応は大きい。こちらも4Kは撮れないが、業務ユースとしてはなかなかいい線ではないだろうか。

 難点といえば、こちらもバッテリをかなり食うということだ。そのためにバッテリスロットが2つあり、大型バッテリも搭載できるので、潤沢に積めということだろう。だが重量とコストが増してくるので、価格的なメリットが減る。最近はモバイルバッテリが安くていいものが出てきているので、それらを使って外部給電できるような機能があったら、さらによかった。

 動画撮影のニーズは高まってきていることは間違いないのだが、撮影も加工も全部スマホで済む訳ではない。メーカーとしても動画需要をカメラ製品に取り込むことに積極性を見せているが、RX1RM2はそういう流れにないということだろう。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。