特集

スピーカーを「自作」してみよう。【番外(暴走)編】

プロの協力を得て、かんすぴの音質向上にチャレンジ

 前回の記事で、かんすぴセットであれば、簡単に“自作”スピーカーができること、約1万円でスピーカーだけでなくアンプまで入手できること、そして、オーディオらしいしっかりとした音が楽しめるのはお分かりいただけたと思う。

完成した「かんすぴセット」

 もちろん、フルレンジでなく、2ウェイにしたらまた事情は異なってくるし、かんすぴのようなキットでなければ、エンクロージャーやユニット選びというのもひとつのハードルである。しかし、それも自作スピーカーならではの楽しみ方。音を聞くだけでなく、製作や検討の過程もまた楽しいものだ。

 また、手に入れたスピーカーを様々な手段で“改善”する余地が残されているのも自作の良さ。前回は「かんすぴセット」を作ったところ、すっかりのめり込んでしまい、結果、プロの協力まで得ながら、音質向上に取り組む羽目? になった。

 編集部からは「スピーカー自作入門記事を」という依頼だったが、筆者の興味の赴くままテストや計測を行なったため、“入門”からは程遠い内容になってしまったが、それも自作ならではの楽しみ、ということでお付き合いいただきたい。

 セットで1万円程度という「かんすぴセット」でさらによい音を出せないか? 番外(暴走)編として試行錯誤の様子を紹介しよう。

自宅のシステムとじっくり聞き比べる

 「かんすぴセット」だけの視聴はさんざんしたので、普段筆者が聞いている環境と聞き比べてみた。スピーカーはウーファが25cmユニットの自作、ツイータがJBLの2426Jにウッドホーンの組合せだ。それをAVアンプ内蔵のデジタルディバイダーでマルチアンプ駆動。サブウーファも38cmの自作だ。

 音楽専用PCには音楽用のDACと5.1chに対応した映画用のDACが接続されている。音楽用のDACはAVアンプ、映画用のDACは「かんすぴセット」につないであるので、サウンドのプロパティでそれぞれのDACを「既定値に設定」で切り替えると曲の途中で瞬時にスピーカーの切り換えが可能だ。

筆者のオーディオ環境。かんすぴはウッドホーンの上に置いた
2台のDACを「既定値に設定」で切り替え聞き比べた

 この方法なら音を記憶する能力を問われないので、誰でも音の差を聞き分けやすくなる。音量をAVアンプ側で合わせて視聴を開始。元々分かっていたが低音の差が歴然だ。10cmのフルレンジスピーカーと38cmのウーファを比較するまでもないが、曲によっては印象が違う曲になるほど低音の影響は大きい。

 例をあげると、竹内まりやの「告白」のボーカルと同時に入る低音、JUJUの「この夜を止めてよ」の冒頭のサビの終わりの低音、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」のイントロの低音など、100Hz以下の低音が再生できるか否かで曲の印象がガラっと変わってしまう。Miles Davisの「Blue in Green」もトランペット、ピアノ、ベースのそれぞれのメロディーが絡み合うように進行していくところが魅力なのだが、ベースがいなくなるとその魅力は2/3ではなく半減といった感じだ。平井堅の「思いがかさなるその前に…」のアカペラの部分もマイクにかかる息のボコっといったノイズが再生できか否かで臨場感に差が出る。久保田利伸の「Missing」のボーカルの入りと、安室奈美恵の「Love Story」のサビの入りから漂うように流れる低音も、あるとなしでは曲の雰囲気に差が出る。

 次に気が付いたのは音の太さ。筆者の表現力が乏しくて申し訳ないが、例えばMiles Davisの「'Round Midnight」や「Someday My Prince Will Come」のミュートトランペット、Josua Redmanの「Tears In Heaven」のアコースティックギターとサックス、平井堅や竹内まりやなどボーカルの声がほんの少し細く感じられた。音の回りに付随するノイズがスポイルされ綺麗にまとまり過ぎてリアリティに欠ける印象だ。これとは少し違うが山下達郎の「Sparkle」のギターデュオも艶、切れが足りない感じがした。

 その次は音のスピード感。Branford Marsalisの「Three Little Words」の最初の1音。音のアタック部分の差だと思われるがやや物足りない印象を持った。山下達郎の「Sparkle」はこちらの差なのかもしれない。これはドライバー+ホーンとコーンスピーカーの超えられない壁のような気もする。

 こうやって列挙すると不満だらけのように聞こえるが、あくまで比較視聴すれば差があるということで、「かんすぴセット」の満足度は高い。特に夏場は消費電力685WのAVアンプと真空管アンプに火を入れ部屋の温度計が2度、3度と上昇するのを見ると音楽を楽しむ気も萎えてくる。この点でも最大消費電力が22Wの「かんすぴセット」は多少の音の差を超える魅力がある。

音響のプロに協力してもらい、スピーカーを測定してみた

 「かんすぴセット」にどこから手を加えるかを判断するためまずは測定をすることにした。筆者自身、測定用のマイクやソフトで周波数特性を簡易的に測っているが、所詮素人レベルなので正直その信頼度に疑問を持っている。そこで今回は音響システム設計、音響測定、音響コンサルティングを行なっているブレインズ アンド ジーニアスの代表取締役である三輪一晶氏に測定を依頼することにした。

 ブレインズ アンド ジーニアスは永田町の有名な建物や誰もが知っている野球場、国際レーシングコース、アリーナ、音楽ホールといった大規模な設備から学校の教室まで幅広く音響設備に係わっている。そのブレインズ アンド ジーニアスの測定機器を筆者のオフィス兼住居に持ち込んで、1万円のスピーカーを測定してもらうという大胆なお願いをした。

 種明かしをすると三輪氏は筆者の大学時代の同級生。三十数年前に卒業して最後に会ったのは28年前。それからは年賀状(近年はFacebook)でつながっていたのだが、昨年筆者が自宅とは別に川崎の百合ヶ丘にオフィス兼住居を借りたことで現在は車で十数分のご近所となった。再会して筆者がアホな依頼をすると「いいよ〜」と快く引き受けてくれた。

 数日後、車のトランクいっぱいの荷物を2人で部屋に運び測定を開始した。まずはスピーカーのインピーダンス。メーカーが公表しているグラフと形は似ているが値は微妙に違う。メーカーのグラフではピークが53Hz付近が20オーム、140Hz付近が32オームとなっているが、実測値は48Hz付近が39オーム、140Hz付近が42オームとなった。フルレンジのまま使用するならそれほど重要なデータではないが、ツイータを追加してLC(コイルとコンデンサー)ネットワークを組む場合はクロスオーバー周波数付近のインピーダンスは重要となる。

右chスピーカーのインピーダンス。左chも測定してもらったが左右差はほんの少しだった
メーカーが公開しているインピーダンス

 次は周波数特性。本来は無響室で測るべきだがマンションの一室なので軸上1mよりやや近い40cmほどで測定した。測定結果は1/3オクターブバンド(棒グラフ)で表示された。スピーカーユニットの周波数特性はポイント式(折れ線グラフ)が一般的なので確認してみると、1/3オクターブバンドごとのエネルギーの状態を測定した方が聴感との相関が高いとのこと。実際、ホールなどで伝送周波数特性を測る場合は規格で1/3オクターブバンドで分析するようになっているらしい。

右スピーカーの前にマイクを設置し測定開始
パソコンのデータが表示される
右chスピーカーの周波数特性

 データを見ると200Hz、1,250Hz、6,300Hzにピークがあり100Hzから下が急激に下がっていることが分かる。逆に高域は8kHzから下がってはいるが、6,300Hzにピークがあることもあり低域と比べると粘っている印象だ。

 リスニングポイントの周波数特性も3つのピークと低域の下降は同様。高域に関してはやや粘りがなくなった感じがする。いずれにせよ「かんすぴセット」の音を改善する最初のポイントは低域の補強ということがハッキリした。

リスニングポイントにマイクを移動し測定。左下にチラッと写っているのが三輪氏
リスニングポイントの周波数特性。スピーカー直前より部屋の影響が大きくなる

 三輪氏はこれ以外に位相、残響時間、反射音なども測ってくれた。「残響時間は0.304秒」と三輪氏。「それは普通なの?」と筆者。これらのデータを元にオーディオシステムを改善したり部屋の環境を改善したりするのが理想なのだろうが、残念ながら現状は筆者の知識不足でそれらのデータを活かせない感じがした。ほかにも作業中に「これいくらするの」「これは3万円、こっちは20万円…」と質問しまくる筆者だった。

伝達関数のグラフでは位相のズレが確認できる。中音域は位相ズレがないが低域、高域でズレが生じている
音圧が減衰していくグラフ。残響時間は0.304秒とのこと。ソファーなど家具類をなくせば残響時間は長く、絨毯やカーテンなどを増やせば短くなる
反射音のグラフ。6ミリ秒の第1波はスピーカーからの直接音。8ミリ秒の第2波は床からの反射、21ミリ秒の第3波は後の壁からの反射とのこと。絨毯を敷けば第2波が減衰。後の壁にカーテンやパネルを設置すると第3波を減らせそうだ

 色々な測定結果に筆者は興味津々。次は元々のオーディオシステムを測定して欲しいと思った。「いいよ〜」とのことなので、それまでに少し知識不足を解消しておきたい。

 その後、筆者も三輪氏と同じように測定を行なった。似たようなデータが取れれば筆者の測定が有効だということが分かるからだ。ほぼ同じ位置にマイクを設置しピンクノイズにより1/3オクターブバンドの測定を行なった。結果はかなり似ている。20kHz付近が落ち込んでいるのはマイクの性能が足りないためと思われるが、これくらいのデータが取れれば実用性は充分ありそうだ。

筆者が測った右chスピーカーの周波数特性。ソフトはMySpeakerを使用

サブウーファを追加して低域を改善

 改善ポイントが定まったので早速実験を開始した。市販のサブウーファを追加するのが理想的な方法だが、今回は筆者のオーディオシステムに「かんすぴセット」を組み合わせてみた。元々の25cm自作ウーファとドライバー+ウッドホーンを外し左右のメインスピーカーを「かんすぴ」に置き換え、38cmサブウーファとそれを駆動する真空管のシングルアンプはそのままという構成だ。

 サブウーファのカットオフ周波数とレベルを調整し、全体をイコライザーで微調整した。残念ながらAVアンプ内蔵のイコライザーなので細かなピークを狙い撃ちすることはできないが、ほぼ狙いどおりの低域改善はできた。

サブウーファを追加したリスニングポイントの周波数特性

 音質も狙いどおりの大幅に改善。低音不足の不満はほぼ解消された。だがこのままではAVアンプ+真空管アンプの発熱問題は解消されていない。正確な消費電力は測定していないが、2つのアンプで1,000W。夏場は上昇した室温を下げるためにエアコンを稼働させて1,000Wが加わると音楽を聞くために2,000Wを消費することになる。やはり小型のサブウーファを追加して「かんすぴセット」と組み合わせるのが理想だろう。

 調べてみると同じフォステクスから数種類のアクティブ・サブウーファが発売されている。安いものはPCスピーカー用となっているが実勢価格で1万円程度。1つ上のモデルは2万円台。オーディオ用となると少々高めで4万円台からとなる。「かんすぴセット」との価格バランスを考えるとPC用のサブウーファを追加して上手く鳴らせればプアオーディオ派としては満足度は高い。

アクティブ・サブウーファ「PM-SUBmini」。実勢価格が1万円くらいなのが魅力
オーディオ用として売られているアクティブ・サブウーファ「CW200A」は4万円台となる
FF105WKは今回使用したユニットよりスペックを見ると高性能な感じがする

 高音にホーンツイータを追加すると音の太さやスピード感が改善されるかもしれない。「かんすぴセット」のエンクロージャーはFF105WK、FE103Enといった他のスピーカーユニットにも対応しているので、ユニットの入れ替えも面白いだろう。こうやって泥沼にはまっていくのがオーディオの醍醐味だと筆者は思っている。機会があればサブウーファやツイータの追加にもチャレンジしてみたい。

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(奥川浩彦)