【特別企画】夏のAV機器節電を考える

「こまめに消す」、「タイムシフト」など賢く節電を


 東日本大震災やそれに伴う原子力発電所事故の影響を受け、2011年の夏は、東京電力、東北電力管内だけでなく、日本各地での電力需要のひっ迫が予想される。

 そのため、公共施設や交通機関、官公庁、会社などで、エアコンの設定温度見直しや、照明の間引きだけでなく、輪番休業やサマータイムの導入、夏季休暇の長期化などさまざまな節電への取り組みが行なわれている。当然、電気が無ければ動かない電化製品においても、CMなどで「節電」を促すものが増えてきている。

 テレビなどのAV機器も当然、節電がこの夏の重要なテーマだ。この春の東京電力管内の計画停電の時期には、18時から20時過ぎあたりまでが電力消費のピークであったが、一年で一番電力消費の高い夏は、エアコンの影響から日中にピークが来て、9時から20時くらいまでの比較的長時間にわたり電力がひっ迫すると見込まれる。

 比較的電力消費の少ない夜に充電して、ピーク時にバッテリで駆動する「ピークシフト」対応製品なども提案されているが、一般的なテレビなどでも少しの工夫で電力消費を減らすことができる。今回はテレビやレコーダなどのAV機器の節電策をまとめた。

 なお、経済産業省や、各メーカーでも製品の節電に向けた使い方を案内しているので合わせて参照してほしい。

□経済産業省 節電 ‐電力消費をおさえるには‐
http://www.meti.go.jp/setsuden/

 


■ テレビ 節電の基本は、「こまめに消す」、「画面の明るさを抑える」

夏の日中(14時ごろ)の消費電力
出典:資源エネルギー庁推計

 家庭内のAV機器で、もっとも多く電力消費があるといわれるのがテレビだ。資源エネルギー庁の推計によれば、一年で最も電力消費の高くなる夏の日中(14時ごろ)で、家庭内の消費電力のうち約5%を占めるという。エアコン(53%)や冷蔵庫(23%)に比べれば低いが、家庭内の機器で3番目に消費電力が多いとされているのだ。

 だが、テレビについては、消費者の省エネ意識の高まりとともに、2011年3月まで実施されたエコポイント制度の効果もあり、数年前の製品に比べて大幅に消費電力が低下している。そのため、ブラウン管テレビや、4~5年以上前の製品と比較すると、買い替えによる節電効果は高いといえる。


【テレビ各社の節電情報案内】

シャープ東芝パナソニックソニー日立三菱

 古めのテレビの場合は、「最新製品に買い替える」のが最良の選択肢といえる。また、電力消費の厳しい時間帯は、ワンセグなどの「電力消費の少ない製品」を代用するといった方法が考えられる。

 だが、節電が大事とはいえ、そうテレビを買いかえるわけにもいかない。まずは、いまあるテレビでの節電方法を考えてみよう。省庁やメーカーのホームページでも案内しているが、テレビの節電策は、基本的には「画面の明るさを抑える」、「見ていない時はこまめに消す」の2点といえる。

・画面の明るさを抑える

東芝REGZA 47Z2の画質設定画面。この場合「あざやか」が「ダイナミック」に相当。「おまかせ」は自動画質調整モードだ

 まずは、画面の輝度を抑えるという点。多くの液晶テレビでは、初期出荷時に「ダイナミック」、「あざやか」などの輝度を高めたモードになっている場合が多い。これらは店頭での他社製品と並べた場合の見栄えなどを考慮したモードなので、元々一般的な家庭内での映像視聴用としては明るすぎて、あまり向いていない。まずは、この画質設定を「標準」や「スタンダード」に見直すことで、消費電力を抑えることができる。このあたりはAV機器に詳しい方は当たり前のように対応している部分だろう。

 加えて、最近の大手メーカー製のテレビではほとんどの機種で、自動画質調整機能を備えている。視聴する部屋の明るさや、映像の特徴を検出し、最適な画質に自動調整するというもの。明るさの調整だけでなく、映画やアニメ、スポーツなどのコンテンツにあわせて、適応的に画質を調整してくれるものが多い。

 節電のために照明をやや暗くするという家庭もあると思うが、そうした場合でも、周辺輝度にあわせて画質を調整するため、結果的にテレビ側の節電にもつながることが多い。加えて画質も最適化してくれるので、全く手間がかからない。ここ1~2年のテレビでは、こうした自動画質調整機能が標準的になっている。苦労なく、画質をしっかり保ちながら節電できるので、積極的に活用したいところだ。

・こまめに消す

LC-40L5

 「見ていない時の消し忘れを防ぐ」という操作も重要だ。テレビを見ていなくても、「すぐに終わるから」と、食事の準備をしたり、掃除をしてしまう、という人も多いのではないだろうか?

 最新のテレビでは、消費電力が下がってきているとはいえ、あまり見ないのに点けておくのはもったいない。シャープの最新「AQUOS L5」の40型「LC-40L5」の場合、消費電力は約132W。一方待機時の消費電力は0.1Wとその差は極めて大きい。「見ていない時は、こまめに消す」は、とても重要な節電方法だ。


KDL-55HX920

 また、ソニーBRAVIAの最新機種(HX920/HX820/NX720など)では、「インテリジェント人感センサー」を搭載している。人が視聴位置から離れると、音声はそのままに自動的に画面輝度を落とし、しばらく人が戻らない場合はバックライトを消灯して消費電力を削減。視聴位置に戻れば再び画面を表示するという機能だ。

 搭載しているのはソニー製品に限られるが、“不意の消し忘れ”による電力消費を抑えることができるので、対応機種をお持ちの方はぜひ設定しておきたい。

 上記のような、人感センサーによる自動消画の対応機器は少ないのだが、多くの機種で搭載しているのが、長時間無操作時の自動電源オフ機能。ある程度(3時間など)長時間操作を行なわない場合、自動的に電源を切るという仕組みだ。また、無信号時の電源オフ機能もほぼ全ての製品で搭載している。こうしたテレビの電源設定を今一度見直すことで、無理のない節電が行なえるはずだ。

 「節電」に注目が集まるこの夏、多くのメディアでさまざまな節電方法が紹介されている。その中で、「主電源を落とす」、「コンセントを抜く」といった方法が紹介されている場合も多い。

 テレビでも、コンセントを抜くことで、確かに待機電力は削減できる。しかし、待機電力は前述のAQUOS LC-40L5の例では0.1Wと相当に少なくなっている。通常使用時は100W程度なので、この使用時間の無駄を減らすほうがはるかに効率的だ。また、最近は録画対応テレビが増えているが、主電源を落としてしまうと録画もできない。録画して効率よく、ピークシフトしてテレビを見る、というのも節電方法の一つといえる。このあたりは“何が何でも節電”ではなく、使い勝手のバランスを考えながら判断したい。

 もちろん、長期の旅行や出張といった時には、主電源を切る、コンセントを抜くことの効果は十分にある。また、この春に東京電力管内で行なわれた「計画停電」のような事態が、想定される場合は、機器の故障を避けるためにもコンセントを抜いておくほうがいいかもしれない。

・最新のテレビに買い替え

 もちろん、最新のテレビに買い替えるというのも、重要な節電対応といえる。例えばシャープAQUOSの32型の場合、10年前の製品に比べれば、半分以下。もちろん待機電力も削減されている。

シャープのデータに基づき10年前から現在の30型~32型の液晶テレビの定格消費電力(カタログ値)を比較したもの。(作成:西田宗千佳)

 また、東芝はバッテリを内蔵で、電力需要がひっ迫している時間帯は、バッテリに切り替えて利用できるピークシフトテレビ「REGZA 19P2」を7月に発売。さらに、東京電力の電力使用状況予測データに合わせて、自動で節電モードに切り替えたり、電源OFFにする「RZ節電リモ」を7月中旬に提供予定だ。メーカーからも、節電が求められるこの夏に対応した製品の提案が続いている。

バッテリ内蔵のピークシフトテレビ。東芝「19P2」タブレットで「RZ節電リモ」を起動しているところ

 テレビでの情報取得に限定すれば、バッテリ内蔵のワンセグテレビや、携帯電話などを活用するのも一つの手だ。スマートフォンの夏モデルでは、ワンセグ対応機も増えている。


ポータブルVIERA「DMP-HV200」ワンセグ対応スマートフォンNTTドコモ「MEDIAS WP N-06C」


■ Blu-ray Discレコーダ タイムシフト=ピークシフト

 もともと、レコーダを使用する大きな目的の一つは「タイムシフト」。これを上手に使うと、電力ピーク時以外に視聴するピークシフトが可能になる。

 まず基本的なところで、防ぎたいのは電源の消し忘れ。現在発売されているBlu-rayレコーダならほぼ全てがHDMI CECに対応しているので、対応テレビとの電源連動により、簡単に消し忘れを防げる。また、再生を停止した後など、レコーダが一定時間動作していない時の自動電源OFF機能も合わせて利用すると確実だ。

BDレコーダのアンテナ給電ON/OFF画面(パナソニックDMR-BZT700)

 BSを視聴している場合は、アンテナへの給電についても確認しておきたい。アンテナをマンションなどで共用している住宅、またはテレビなど他の機器で既にアンテナへの給電を行なっている場合などに、さらにレコーダからも給電するというムダを省くもの。レコーダを複数台使っている場合なども、ムダな給電がないか、もう一度設定を見直したい。BS以外でも、レコーダからテレビなど他の機器へアンテナ信号を出力しないことで消費電力を抑えられる機種(東芝RD-X10など)もある。

 さらに、本体ディスプレイの表示輝度を低く設定することでもわずかではあるが消費電力を抑えられる。なお、東芝製の一部機種(DVDレコーダ「RD-R200」など)には、内蔵HDDが一定時間以上使われていないと、自動で回転を止める「HDDパワーモード」の設定も可能。シャープのレコーダには、本体ボタンやリモコン操作を受け付けなくする「エコモード」も用意されており、ハードウェアのスイッチで簡単に入/切が可能だ。また、多くのレコーダには、待機時の消費電力を標準よりも抑えるモードがある。

 もう一歩進んで、多くのレコーダに搭載されている「高速起動モード」も見直したい。高速起動モード(機能名はクイックスタート/クイック起動など)は便利な機能だが、待機時の消費電力を上げてしまうので、これを動作させないことで省電力化できる。

 ただし、高速起動モードをOFFにすると、前述のCECや、スカパー! HD録画、携帯電話などからのリモート予約といった他の機器との連携ができなくなることが多い。自分の利用スタイルと照らし合わせて、普段は連携機能をあまり使わないという人は、積極的にこうした省電力機能を活用するといいだろう。なお、ソニー「BDZ-AX2000」は高速起動モードで待機できる時間が一日6時間となっている。適用する時間を2時間単位で3カ所選べるほか、ユーザーの利用する時間帯から自動で学習/設定することも可能。

シャープのレコーダに搭載されている、エコモードのスイッチ(写真はBD-HDW53)どのメーカーの製品でも、高速起動を切ると多くの連携機能が使えなくなるので注意したいソニーBDZ-AX2000で、「瞬間起動」の時間帯を選択


■ 録画/ネットオーディオに使っているLAN HDD

 

 

 外付けHDDへの録画に対応したテレビの増加や、スカパー! HDチューナの録画先として使えることにより、USB HDDやLAN HDD(NAS)がテレビ録画に使われることも増えた。また、それ以前にも、LAN HDDなどに音楽や動画のファイルを保存して、iTunesやDLNAのメディアサーバーとして使っている読者も少なくないだろう。

 こうしたHDDの多くは、接続するパソコンやテレビなどと電源を連動できるものが多い。付属ユーティリティなどのセッティングで簡単に利用できるので、こうした機能は活用したい。また、Wake On LANに対応していれば、利用するときだけパソコンから電源ONにすることも可能だ。

バッファローのバスパワー駆動USB HDD「HD-PCT500U2/V」は、テレビの背面に装着可能

 USB HDDをテレビ録画に使う場合は、バスパワー動作モデルを選ぶことでACアダプタを使用せずに給電できる。バッファローからは、REGZA/BRAVIA/AQUOSの背面に取り付けられるブラケットが付属したHD-PCT500U2/Vなどのモデルを発売しており、省スペース化も合わせて可能となる。

 アイ・オー・データはLAN HDD向けに、節電用PCソフト「エコ番人」を配布。設定した時間、ドライブにアクセスが無い場合に自動でディスクの回転停止することで「HDCA-U2.0」の場合では、最大約60%の省電力化が可能になるという。このアプリは、同社ディスプレイや、BD/DVDドライブの省電力化機能にも利用できる。

 また、バッファローのLAN HDD「LS-VLシリーズ」などにはタイマーON/OFF機能を搭載。PCを利用しない時間帯や曜日、寝ている間などに電源をOFFにして節電できる。また、バッファローのUSB HDD製品では、テレビとの電源連動でOFFの状態でも、さらに消費電力を抑える「スーパーeco機能」を持つモデルもあり、例えば「HD-ALU2シリーズ」は動作時が消費電力7.4Wで、待機時は0.15Wとなり、約98%の低消費電力化を可能にする。

 なお、LAN/USB HDDや、前述のBDレコーダについては、東京電力の「計画停電」実施時に各メーカーから「録画動作中に停電になると、以後の利用に支障をきたす恐れがあり、最悪の場合は保存データを消失する可能性がある」との呼びかけがあった。東京電力は計画停電を「原則実施しない」と発表しているが、夏の需給状況によっては停電が起きる可能性も残されているので、念のため注意しておきたい。

 


■AVアンプ

パイオニアのClass Dアンプを採用した「VSX-S300」

 AVアンプの省エネで最も単純なのは、消費電力の少ないアンプを使う事だ。アンプの増幅回路の種類によっても消費電力は異なるが、一般的に高価で出力の大きいものは消費電力も高くなる傾向があり、500Wを超えるモデルも少なくない。中級AVアンプの消費電力は200W~400W程度の範囲が多い。一方、高効率なClass Dアンプを採用したモデルは消費電力が少なく、例えばパイオニアが7月中旬に発売予定の薄型AVアンプ「VSX-S300」(43,500円)の消費電力は70Wに抑えられている。同モデルは6chアンプで、定格出力は65W×6ch(8Ω/1ch駆動時)、最大出力は120W(6Ω/1ch駆動時)だ。

 また、映画などを鑑賞中にボリュームを抑えたり、低域を抑えたりすれば、消費電力は削減できる。しかし、「省エネだから出力の小さい、低価格なAVアンプを買おう」、「ボリュームを下げて映画を観よう」というのは、趣味としてのAVライフでは辛いものがある。そもそも、一日中AVアンプをフル稼働させているというユーザーは少ないだろうし、一般的にホームシアターは帰宅後の夜や、週末に楽しむ事が多く、電力供給に比較的余裕がある曜日や時間に使われる事が多い製品とも言える。


 そこで注目したいのが、“音を出していない時の消費電力”だ。使っていない時ならば、電源コンセントを抜いてしまえば究極の省エネだが、AVアンプにはHDMIを初め、様々な機器が接続されており、AV機器のハブやセレクタ的な役割も担っている。つまり、音を出していなくても、電源がONになっていなければならないケースが多いのだ。

 例えば、BDレコーダとAVアンプ、そして薄型テレビをHDMIで接続している場合。BDレコーダに録画したテレビ番組を視聴する時は、AVアンプを起動させ、HDMIの信号をテレビに渡してもらう必要がある。AVアンプに接続したシアタースピーカーから音は出す必要は無く、音はテレビのスピーカーから出ている……というケース。この場合、AVアンプは入力されたHDMI信号をそのままテレビに出しているだけなので、アンプとしての仕事はほとんどしておらず、消費電力的には無駄だ。BDレコーダとテレビをHDMIケーブル1本で直結してしまえばいい。

ヤマハから7月下旬に発売される「RX-V771」

 だが、HDMIケーブルをいちいち繋げなおすのは面倒だ。そこで、最近のAVアンプでトレンドとなっているのが「HDMIスタンバイスルー」機能だ。その名の通り、「AVアンプがスタンバイ状態でもHDMI信号をスルーする」機能の事。先ほどのケースでは、AVアンプの電源がOFFになったままでも、BDレコーダの映像がテレビに出力されると言うわけだ。

 対応機種として、例えばヤマハから7月下旬に発売される「RX-V771」(89,250円)では、この機能をONにした状態の待機時消費電力を従来モデル(RX-V767)の2.7W以下から25%カットし、2W以下を実現している。もちろん、スタンバイスルー機能もOFFにすればさらに0.1W以下まで下がるが、2W以下という待機時消費電力は、起動した状態の消費電力よりは遥かに低い。


HDMIスタンバイスルー機能のイメージ。左がスタンバイスルー非対応AVアンプ、右が対応アンプ。電源OFFの状態では、対応アンプのみHDMI信号がテレビへと流れる

 スタンバイスルー非対応のAVアンプのHDMIセレクタ機能だけを使う機械が多いユーザーは、最新アンプへの乗り換えを検討する価値はあるだろう。なお、「RX-V771」では、AVアンプを起動せずに、リモコンからHDMI入力を直接切り換えられる「インプットスタンバイセレクト」機能も備えている。

 また、セレクタ機能のみを使っていると、音を出していないので、AVアンプの電源切り忘れが多くなる。それを防ぐオートパワーオフ機能付きモデル(長時間HDMI入力が無いと電源OFF)も増えている。アンプ機能とHDMIセレクタ機能は、同じAVアンプの筐体の中に入っているものだが、今後さらに“内部分離”が進みそうだ。

 


■ 持続可能な節電を

 AV機器は、テレビのように情報収集といった実用的な部分もあるが、基本的には余暇を楽しむためのもの。利用する時間帯も、電力供給に比較的余裕がある夜や、週末というケースが多い製品ともいえる。

 節電は重要だが、電力がひっ迫すると予想される夏の約3カ月は長い。あまり極端な節電に走るよりは、持続的にできる取り組みを進めてほしい。

 また、普段製品の消費電力を気にしていなかったという人でも、改めて節電という切り口で製品をチェックしてみると、見え方が違ってくるかもしれない。ある程度長期的な電力供給の不足が予想されるが、AV機器で“楽しむ”ことも忘れず、賢く節電に取り組みたい。


(2011年 6月 17日)