トピック

JDI、ソニー、パナソニック、日本の有機ELがJOLEDに集結。印刷方式で低コスト化。TV用は予定無し

 ソニーとパナソニック、産業革新機構(INCJ)、ジャパンディスプレイ(JDI)の4社が、有機ELディスプレイパネルの量産開発加速と早期事業化を目指し、統合新会社JOLED(ジェイオーレッド)を2015年1月に発足させる事となった。概要は既報の通りだが、INCJは31日に記者会見を開き、その経緯や狙いについて説明した。

JOLEDのロゴマーク

ターゲットは中型以上の中精細ディスプレイ。テレビ用有機ELは予定無し

 INCJの中尾泰久専務執行役員は、JOLEDについて、「ソニーとパナソニックが有している、有機ELに関する研究開発機能の統合を、JOLEDという会社を作る事で実現しようというもの」と説明。

 経緯について、INCJの谷山浩一郎執行役員マネージングディレクターは、「有機ELは以前から“可能性がある”と言われていたが、事業化がなかなか難しく、どうしたら事業化できるのかと業界関係者との間で話を進める中で、皆で力を合わせ、我々INCJも一定のリスクを負担しつつ、事業化していこうという考えに至った」という。

 さらに谷山氏は、「日本にあるディスプレイ、装置、材料メーカーが垣根をとりはらい、皆で壁を越えていく事がブレイクスルーの鍵になる。日本中の装置と材料のノウハウを結集する事が重要。(官民出資の投資ファンドである)中立的な我々INCJがやることが成功の秘訣だろうと考えている。有機ELは難しい技術であり、一定のリスクを許容できるお金を合わせて使う必要があるという事からも、我々がやることになった」という。有機EL関連技術の海外流出を防ぐという観点については、「当然考えてはいるが、あくまで副次的なもの」とした。なお、JOLEDの資本金は非公表。

 JOLEDでは具体的に、ソニーとパナソニックが持つ有機EL成膜技術、酸化物半導体技術、フレキシブルディスプレイ技術などのリソースを結集させる。そこに、JDIが培ってきたディスプレイ技術を融合させる事で、有機ELディスプレイ分野におけるリーディングカンパニーを目指している。ソニーとパナソニックはそれぞれ、有機ELディスプレイパネル事業に関する人員や資産(装置や関連特許含む)を、吸収分割により、JOLEDに承継させる予定だ。

タブレットやノートPC、サイネージを主要ターゲットとしている

 JOLEDが開発の主要ターゲットとしているのは、10型や12型といった中型以上のタブレットやノートPCで利用する、中精細な有機ELディスプレイ。その理由として谷山氏は、「有機ELの特徴を活かしたアプリケーションは何なのかを関係者と探る中で、液晶と比べ、バックライトが要らず、電流を流せば自発光する事だという考えに至った。液晶と較べて軽くて薄い。特に軽くなる事が重要」だと指摘。

 「(タブレットやノートPCでは)各社が軽量化するため、筐体を炭素繊維にしたり、HDDのカバーに穴を開けるなど、多大なコストをかけている。有機ELを採用する事で、軽量化は相当効率的にできる。10型のタブレットでは130g、12型では230g程度は軽くなる。こうした有機ELの強みを活かしてやっていきたい」という。

 なお、ターゲットはあくまで中型以上の中精細ディスプレイで、テレビ用の有機ELの開発は予定されていない。谷山氏は、「やはり新しい技術を世に広める事を考えると、一定程度の“価格のプレミアム”がとれるアプリケーションから手掛けるべきだ。製造コストに占めるディスプレイの比率、シート単価などを見た上で、最適なアプリケーションは“テレビではない”と判断している」とする。

 なお、中型以上の中精細ディスプレイを開発するJOLEDに、小型の高精細ディスプレイを得意とするJDIが協力している理由は、主に“タッチパネル技術のため”だという。「ノートPCもタブレットでも、タッチパネルの技術はどうしても必要になってくる。そこでJDIに活躍して欲しい」(谷山氏)。

有機ELは量産一歩手前

 JOLEDでは、開発に一定の目途が立った時点で、本格的な量産を見据えたパイロットラインを構築するため、INCJとJDIからの追加出資を含めた支援も予定されている。

 量産スケジュールのイメージについて、谷山氏は「ソニーとパナソニックから会社分割で承継する技術は、両社がこれまで相当な期間開発してきたもので、我々は量産一歩手前だと見ている。要素技術については、ほぼ出来上がっている。そんなに悠長な事は想定しておらず、遠くない時期にパイロットライン構築の判断ができるだろう」とした。

 一方で、有機EL市場には韓国メーカーなど、競合も多い。競争優位性について谷山氏は、「JOLEDで注力する技術は、印刷方式を使い、大型基板で作るもの。韓国勢の蒸着方式と比べると、材料のコストダウンが大幅にでき、設備投資の金額も抑えられる」とする。材料を直接印刷してEL層を形成する印刷方式は、蒸着方式と比べ、真空環境が不要など、製造プロセスにおける投資を抑えられる特徴がある。

 また、谷山氏は「大型化にも適した技術なので、コスト競争力は高いと考えている。印刷方式の方が2倍や3倍、効率良く作れる。後は、どれだけ早く歩留まりを上げていくかだが、ここは日本勢が得意とするところ。総合力を活かして、競争力を上げていきたい」とする。

 さらに谷山氏は、テレビではなく、中型の有機EL市場について、「(韓国メーカーが先行しているイメージがあるが)我々が目指しているエリアでは、誰も先行していないと認識している。中精細のディスプレイを、印刷方式で作る。技術的にも最先端を、今の日本企業は行っていると思う」とした。

 事業化した後の展開としては、「デバイス事業として成立させられないと未来が無いので、(日本のメーカーだけにパネルを供給するのではなく)色々なお客様に製品を供給していく。当然、パナソニックとソニーは株主であり、人的繋がりもあるので、セットメーカーとして有益なアドバイスを頂きたい。その流れで、技術的なディスカッションは他社より多く行なわれるだろう」と予測。

 また、今回の4社以外が合流する可能性については、「具体的に動いている事は無いが、存在感のある材料、装置メーカーは日本に沢山ある。統合して、リスクをとって、皆でしっかりやっていく中で、ノウハウの共有などで大きな効果があるのではないか」とする。

 JOLEDの議決権は、INCJが75%、JDIが15%、ソニーとパナソニックが各5%ずつ保有する予定。INCJとして投資の回収目処としては、「当初は研究開発だが、事業化を行なうので、開発に一定の目処が立てばパイロットラインに投資する。将来的には上場という事もありえるし、どこかの企業に積極的に関わっていただき、(株式を)お譲りする事も考えている」とした。

(山崎健太郎)