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Netflixに聞く日本参入の勝算。日本から海外展開を支援

リモコンに[NETFLIX]ボタン。独自コンテンツの1/3が4K

 2015年秋、世界最大規模の映像配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」が日本に上陸する。“秋”にスタートという以外、コンテンツ数やタイトル、料金などの詳細は明らかにされていないが、本格展開に向け、日本国内におけるコンテンツ調達とともに、テレビなどの対応デバイスの拡充も図っていくという。

 対応製品第1弾として、東芝は20日からREGZA J10シリーズを発売開始。さらにパナソニックも3月にVIERA CS650シリーズを発売するなど、サービス開始の半年前にも関わらず、国内テレビメーカーの対応も早い。

 Netflixの国内参入はどういった形になるのか? その狙いはどこにあるのか? 機器メーカーとの交渉など、ハードウェアパートナーエコシステム担当バイスプレジデントを務めるNetflixのスコット・マイアー(Scott Mirer)氏に話を聞いた。

Netflixスコット・マイアー氏と東芝ライフスタイルでREGZAの商品企画を担当する本村氏

Netflixって何?

Netflixの歩み。'99年に宅配DVDレンタルをスタートし、2002年にIPO(株式公開)、2007年に映像ストリーミングを開始した

 以前の記事西田宗千佳氏のコラムでも紹介済みだが、Netflixは米国およびグローバルで最大手と呼べる映像配信事業者で、定額制の映像配信(SVOD)を行なっている。テレビやゲーム機、スマートフォン、パソコン、STBなど、Netflixアプリを搭載したデバイスからストリーミングで映像再生できる。

 定額制で月額料金(アメリカの場合、最も安いプランで8.99ドル)を支払うと、膨大なカタログの中から好きなものを、好きなだけ視聴できる。YouTubeのような“広告”型、iTunesのような「購入」(EST:Electric Sell Through)型でもなく、「定額」型のため、「見なければ損、見ない理由がないモデル」(マイアー氏)とアピールする。

YouTubeやiTunesとの違いは「定額制」

 もっとも、消費者から見れば、日本におけるHuluやdビデオのようなSVODサービスと、基本的には近しいものだし、海外にも多くのSVODサービスがある。何がNetflixを抜きん出た存在としているかといえば、やはり“規模”だ。現在、2014年第4四半期における全世界での利用者数は5,740万契約で、2015年第1四半期には6,140万契約と予測している。サービスの中心は米国で過半数を占めているが、2010年のカナダを皮切りにグローバル展開を加速しており、今後の拡大はグローバル展開の成功如何となっている。その一環として日本進出するというわけだ。

加入者数は6,000万に迫る

 Netflixは加入者数が多いだけでなく、実際の利用率(アクティブ率)も高く、1ユーザーあたり、月平均35〜40時間視聴されているという。1日あたり1時間強で、これは米国のテレビ視聴率の25%に相当する数値とのこと。そのためネットワーク事業者への負荷も相当なもの。全世界でAmazon Web Service(AWS)をインフラとして利用しているが、米国の全ネットトラフィックを見ても、夕方のプライムタイムの時間帯のダウンストリームトラフィックの30〜35%がNetflixと言われている。そのため、効率的な配信システムのチューニングを常に行なっているという。

 「映像配信の巨人」といえるNetflixの規模についてはお分かりいただけたと思う。しかし、米国でのサービス開始以来、日本参入まで約5年の時間がかかっている。その理由は何だったのだろうか?

Netflix ハードウェアパートナーエコシステム担当バイスプレジデントのスコット・マイアー氏。25年前に東芝の米国法人でMRIのソフトウェア開発に従事していたという

 マイアー氏によれば、「日本市場に参入するまで、様々な国で様々なことを学んだ。必ずしもハリウッドコンテンツだけが求められるわけでなく、ローカルコンテンツ(当該地域のコンテンツ)も必要な市場もある。コンテンツの歴史やメディアの歴史、それぞれの国ごとに学習しなければいけない。それだけ準備しないと難しいマーケットと言える」と、日本特有の事情について言及した。

 日本のコンテンツ展開については「詳細はまだ明かせない」としながらも、「我々は40以上のオリジナルなコンテンツを持っているほか、素晴らしいローカルコンテンツも求めている。日本やハリウッドで調達する“アーカイブ”だけでない、“特別な”コンテンツを用意している」と、日本でもNetflixの独自コンテンツを用意することを明言した。

 また、Netflix独自制作の「Marco Polo」、ウォシャウスキー姉弟制作の「Sense8」、マーベル原作「Daredevil」などは、日本参入時に配信予定。しかも、4Kで配信するとしている。

Netflixの特徴

テレビリモコンに[NETFLIX]ボタンの狙い

 日本参入にあたって、東芝がREGZA J10シリーズでNetflixに初対応した。といってもサービスが始まる秋までは、REGZAでNetflixが見ることはできない。にもかかわらず、リモコンには大きな[NETFLIX]ボタンが付いている。

 これまでも、テレビのリモコンにVODサービスへのダイレクトボタンを搭載した事例が無かったわけではない。しかし、REGZA J10もVIERA CS650にしても、カーソルキーの周囲の非常に「良い位置」に用意している。

REGZA「49J10」
リモコンに大きな[NETFLIX]ボタン

 これは、Netflixが対応テレビには専用ボタンを用意するように、という規定を設けており、それにテレビメーカーが対応したため。しかも、電源OFF時に[NETFLIX]ボタンを押すと、テレビが立ち上がるというルールになっているとのことで、テレビの基本機能としてNetflixが実装されている。

 テレビのリモコンでボタンを標準装備する狙いは、「コンテンツがすぐに見られるようになり、消費者の利便性を考えると正しいことと考える。米国のように、1日1時間みるサービスでは、消費者に必然性が高い。ボタンをつけることで、必ず使ってもらえるサービスになる」と説明した。

 なお、各社のテレビはプラットフォームも異なっており、それぞれにNetflixアプリを実装していくのは手間にも思える。その辺りはどういったアプローチを採っているのだろうか?

 マイヤー氏によれば、「いくつかやり方があるが、HTML5のような標準的な技術を使ったアプローチと、特定の環境で確かなパフォーマンスで視聴できるように、パートナーと一緒に開発する場合がある。今回の東芝の事例でいえば後者です」という。

 Netflixのプラットフォームに対する考えは、「グローバル展開するパートナーは、開発プラットフォームが統一されており、ひとつのプラットフォーム、1SKU(Stock Keeping Unit)を決めて大量に生産する。そのプラットフォームの中にNetflixの技術が入っている。なので、パートナー企業はそのプラットフォームを使うだけで、“Netflix対応テレビ”が作れる」という。

Netflix ビジネス ディベロップメント ジャパン&アジア パシフィック ディレクターの下井昌人氏、スコット・マイアー氏、東芝ライフスタイル 本村氏、通訳を担当した東芝ライフスタイル 佐々木志帆氏

 一方、従来製品はソフトウェアアップデートによりNetflixに対応できるのだろうか?

 東芝ライフスタイルでREGZAの商品企画を担当する本村裕史氏は、「専用のボタンが付いているのがNetflixテレビ。そのため既存製品のアップデートは難しいというのが、東芝の立場。現時点では、J10以降の新モデルで順次対応と考えている」とした。

 なお、Netflixはマルチデバイス対応も特徴で、テレビだけでなく、PlayStaiton/Xboxのようなゲーム機、Windows/Mac、スマートフォン、タブレットに、競合関係と呼べるCATV用STBまで幅広く対応している。

 日本参入時の対応デバイスの詳細は明らかにしていないが、重視しているのは「リビング」だという。3年ほど前まではゲーム機の構成比が高かったが最近は減少傾向で、テレビが増えているという。スマートフォンなどのモバイル機器も伸びているものの、やはりテレビを中心としたリビングルーム向けのデバイスが重要と考えているとのことだ。

PCからスタートし、STBやゲーム機、テレビ、スマートフォンなど対応デバイスを追加していった

制限のないコンテンツづくりを。日本コンテンツの海外展開をサポート

多くの独自コンテンツを用意

 コンテンツについては、40以上のNetflixのオリジナルコンテンツの全てではないが、多くのコンテンツを日本展開時に用意する。Netflixでは、米国も含めてコンテンツ数は明らかにしていないが、膨大なカタログの中から、ユーザーに最適な作品を紹介していく“キュレーション”技術が特徴となっており、その中に日本のコンテンツもしっかりと組み込んでいくという。

 また、Netflixの役割として、大きな期待が寄せられているのが、「日本のコンテンツの海外展開」。特にアニメなどの人気が高いが、日本でNetflixが調達/作成したコンテンツを6,000万件の全世界のユーザーに届けられるという点を、日本のコンテンツホルダに訴求。マイヤー氏は、その点も「Netflixが起こすイノベーション」と強調した。

 また、Netflixの特徴といえるのが「イッキ見」。Netflixでは「BINGEビューイング」と呼んでいるとのことだが、特にテレビ放送と親和性が高く、最新エピソードだけでなく、途中から見ても前のエピソードまで遡って番組を体験できる。これもNetflixが起こすイノベーションとする。

 さらに、Netflix制作の「Marco Polo」、「Sense8」、「Daredevil」などは4Kで制作し、日本参入時にも4Kで配信するという。なお、2015年制作の独自コンテンツ300時間のうち、1/3が4K制作となるという。

 4Kとともに、ハリウッドを含む映像制作の一大トレンドとなっているハイダイナミックレンジ(HDR)については、「目標としては今年末だが、業界でもまだ実現できるかは決まっていない」とした。

Marco Poloなど、4K作品も多数用意する

 Netflixの独自コンテンツ制作についての報道で、しばし言及されるのが、ユーザーの視聴データや番組の人気などのビックデータを解析し、制作時に反映することで、よりユーザーの嗜好性にあったコンテンツを作っていると言われる。しかし、スコット氏の見解は異なっているようだ。

「視聴者の好みなどのデータ分析を製作時に反映はしているし、過去の配信済みのコンテンツから人気が出たものの情報などを参考にすることはある。ただし、一番大事なのは、コンテンツクリエーターの想像力だ。データは大切だが、まず良い監督と組む。そして、ドラマなどは時間の制限やセンサーシップ(検閲)などをなるべくかけず、最大限の自由のもとアーティストの想像力を活かして制作してもらうことが重要だ」

コンテンツとテクノロジーの両輪で日本に浸透へ

 強調したのは、「コンテンツ」と「テクノロジー」への注力。テクノロジーだけでなく、コンテンツについても理解を深め、エミー賞も受賞した。そのユニークな立ち位置をマイヤー氏は、「ハリウッドとシリコンバレーの結婚」と説明する。

ハリウッドとシリコンバレーの結婚

 日本上陸において、様々なコンテンツとの出会いを創出する配信サービスというだけでなく、日本のコンテンツを海外に紹介する媒介、紹介者としての役割も期待される。

 では、Netflixは日本参入にどれだけ本気なのだろうか? そして、どれくらいの加入者を想定しているのだろうか? 日本上陸成功といえる目標値はあるのだろうか?

「目標は全員です(笑)。日本には3,600万世帯のブロードバンド環境がある。米国では4,000万弱の加入世帯があるが、市場規模としては米国に続く規模がある。日本で展開している多くの先行サービスなどを参考にし、学びながら、やるべきことをきっちりやって、日本展開を進めていく」

(臼田勤哉)