ミニトピ
VR視聴も楽しい「360度カメラ」。撮影の基本と、一歩進んだ活用テクニック
2016年12月1日 09:20
360度方向を撮影できるカメラの代表格といえる「RICOH THETA」と、「Kodak SP360」に加え、今年になってからは、サムスン電子から「Gear360」が、Insta360から「Insta360 nano」が、ニコンから「KeyMission 360」、米360flyから「360fly」も登場。3万円台後半というTHETAのカジュアルなモデル「THETA SC」も10月に発売され、いよいよ360度カメラやVRコンテンツの普及が始まっている。
広まってきた背景のひとつが、VRゴーグルの普及。360度カメラは文字通り360度全天球(もしくは半天球)を撮影できるので、従来の平面的なパソコンなどのディスプレイ表示や、写真用紙へのプリントでは、その本領が発揮できない。VRゴーグルでは、実際に目(顔)の方向を変えると、そこにある風景が見られるため、より直感的にVRコンテンツが楽しめる。ようやく再生環境が整ってきたといえそうだ。
VR対応の映像やゲームなども少しずつ増えている中で、「手軽に自分で作れるVRコンテンツ」としておすすめしたいのが360度カメラでの動画や静止画。ただ、撮影方法は通常のデジカメやスマートフォンのカメラとは全く異なるため、その基本と、より面白い写真や動画を撮るためのちょっとしたコツを紹介したい。
いろいろな360度カメラの中から、今回は筆者(岡安学)が使い慣れている「Kodak SP360」を使用する。水平360度×垂直214度の写真や動画の撮影が可能で、F2.8の明るいレンズと有効画素1,636万画素の撮像素子により、精細感が高く、ノイズが少ない写真が撮れる。フルHD動画撮影も可能だ。今回はこのカメラだが、他の360度カメラに共通する点も多いため、これから始めたい人にも参考にしていただけると思う。
360度カメラで、どんな写真/動画が撮れる?
360度カメラはわかりやすくいうと「超広角の魚眼レンズを搭載したカメラ」のことで、その一種である“半天球カメラ”は、周囲360度、上下180度以上の撮影が可能。THETAのような“全天球カメラ”の場合は、レンズが2つ背中合わせになっており、2つのレンズが撮影した写真を合成することで、垂直/水平方向ともに360度の写真や動画を撮影できる。
撮影した写真は球体の内側に貼り付けられたようなイメージになる。プラネタリウムのドーム天井に映し出された星空のようなイメージだ。ただ、それをパソコンなどで観る場合は、便宜上、円形をした平面上の写真として変換される。地球儀を無理やり平面で表した正距方位図法のような形になる。
スマートフォンの専用アプリを使うと、擬似的に立体の球を表現し、それをフリックすることで、半天球であることを再現できる。これはYouTubeやFacebookにも対応し、YouTube/Facebookにアップロードした360度画像をパソコンで観れば、マウスをドラッグして、観たい方向へ画面を動かすことができ、スマートフォンで表示している時は、スマートフォン本体の傾きで、観ている方向の映像だけを表示できるのも特徴。言葉での説明はともかく、まずは下記の動画で確認して欲しい。
球体で再生する装置に近い状態で観られるのが、VRゴーグルだ。VRゴーグルが作る全天球の世界に、360度カメラの映像がそのままハマるので、実際に撮影した状況と同じ状態の空間を再現できるのだ。
写真や動画の場合、一度再生してしまえば、ゲームほど操作することもないので「ハコスコ」などの簡易的なVRゴーグルでも十分楽しむことができる。とりあえず、360度カメラを購入したら、ハコスコを手に入れ、360度画像のVRの世界を楽しむのがオススメだ。なお、前述したInsta360 nanoや、KeyMission 360など、組み立て式のVRゴーグルがセットになった製品もある。
では実際にKodak SP360を使って、360度動画の楽しみ方を解説しよう。SP360は、四角いボディの上部にレンズが付いているので、普通のデジカメのように直に手持ちするのには向いておらず、豊富なアクセサリーとの組み合わせで撮影しやすくなる。
筆者のイチオシは、自撮り棒との組み合わせ。SP360は小型軽量なうえ、操作はスマートフォンアプリで行なえるため、Bluetooth機能もなく、もっとも安い自撮り棒で事足りる。いつも使っている自撮り棒は「monopod」。だいたい1,000円前後で購入でき、安い所では500円を切る。長さは1mに満たないくらい。長めの自撮り棒や一脚を使うとそれだけ広い画角で撮影できるので、使い分けをするのもいいだろう。monopodのように底面にネジ穴が付いた自撮り棒を使えば、2本を連結することで、長い自撮り棒として、より高い位置から撮影できる。
俯瞰で撮るのも良いが、桜の花びらが舞う中、桜の木の中から撮影するといった、なかなかみられないシーンを撮影すれば、より面白い写真や動画になる。
ひと工夫で、もっと面白い写真&動画に
撮影のコツとなるのが、超俯瞰か超見上げの撮影。レンズを真下に向け、自分の真上に掲げて撮影すると、円形の写真になった時、周囲が空で覆われ、小さい星に立っているような写真が撮れる。いわゆる「リトルプラネット」と呼ばれる写真だ。ドラゴンボール世代なら“界王星”といったほうがわかりやすいかもしれない。一方、同じ360度カメラでも全天球(垂直/水平360度)で撮れるRICOH THETAの場合は、レンズの方向に関係なく撮れるのが大きな違い。
逆に真下から撮影すると、撮影者の身体にパース(歪み)が付き、自分が「進撃の巨人」に出てくる巨人になったような写真になる。もうこれだけで十分面白い写真になるので、とくに面白みのない風景や被写体でも、存分に楽しめる。
複数人数で撮影する場合は、円陣を組むように集まり、その中央にカメラを設置すればOKだ。ちなみに、手をグーにして、思いっきりレンズに近づけると「ウルトラマン」の登場ポーズのように拳が異常に大きくなる感じで撮れる。動きによっては“ゴムゴムの実”っぽくもなる。
ひとつ注意点は、スマホアプリでシャッターを押す場合、スマホ画面でなくカメラをしっかり見ておくことだ。ついついリモート撮影のスマートフォンの画面を見がちだが、それだとカメラと反対側を向いていたり、スマホで顔が隠れてしまうことがある。スマホのシャッターボタンの位置を覚えて、画面を見ずに押せるようにしよう。タイマーがあればそうした工夫は不要なのだが、SP360にはタイマー機能がないので、そうなってしまう。
自撮りをする場合は、真正面から撮影する方法もある。こうすると、自分だけでなく、周囲の風景なども広く撮影できるので、どんな場所に自分が居るのかが良く分かる写真が撮れる。撮影した写真を、後でPlaystation VRを使って観たい場合は、正面から撮影しておくと、実際の風景のように撮影ができる。
SP360は、レンズが1つのタイプなので、全天球で撮影をすることができないが、他の360度カメラに比べて優れた点がいくつかある。そのひとつが、動画撮影機能が高いこと。SP360はカテゴリー的にはアクションカメラに属するので、録画時間の制限もなく、高画質で撮影ができる。上位モデルのSP360 4Kなら、2,880×2,880ドットの4K相当で動画撮影ができる。
2台のカメラを用意して、専用の「ダブルベースマウント」で背中合わせに装着すれば、全天球撮影することも可能。2台のSP360 4Kからの映像を合成すると、8K相当の解像度の全天球動画になる。なお、2台の組み合わせは同じ機種同士(SP360×SP360、またはSP360 4K×SP360 4K)に限られる。
タイムラプス動画の撮影もでき、雲の動きや昼から夜への時間の移り変わりなど、360度ならではの広大な動画が作れるのが面白いところ。SP 360はUSBケーブルで充電しながら撮影できるので、モバイルバッテリなどと接続しながら撮影すればタイムラプスの長時間撮影にも耐えられる。
さらに、専用のハウジングがあり、水中撮影もできる。水中と360度カメラは相性が抜群なので、スキューバーダイビングをする人にも注目。もし、熱帯魚を飼っているなら、ハウジングをつけて水槽に沈めてしまおう。水槽の中が海中のような広がりを見せ、熱帯魚を水槽の中から鑑賞するという、他にはない楽しみがある。ただし、水中での撮影はWi-Fi(無線LAN)が届かないので、あらかじめ撮影ボタンを押してから水槽の中に沈めなければならない。動画は良いが、静止画を撮るのはほぼ無理なので注意したい。
撮影後はYouTubeなどで簡単シェア。ソフトで様々な編集も
撮影した動画を、他の人にシェアする最も簡単な手段は、そのままYouTubeに動画としてアップロードする方法だ。特に設定などをしなくても、普通に動画としてアップロードすれば、自動でYouTube側が360度映像と認識し、最適に視聴できるようにしてくれる。なお、アップロード直後は、360度動画として認識されないかもしれないが、しばらく待つと、マウスなどで視点を変えられる操作アイコンが右上に表示(PCの場合)される。これが表れていれば、360度動画としてのアップロードは成功。スマホで観た場合は、本体を傾けたり、画面のスワイプで視点が自由に変えられる。
なお、どうしてもYouTube側が360度映像として認識しない場合は、手動でメタデータを追加する方法もある。Googleのサポートページで配布されている「360 Video Metadataアプリ」(Spatial Media Metadata Injector)をダウンロードして、動画ファイルに適用すると、YouTubeへ「360度動画である」ことを認識させることができるので、困ったときは試して欲しい。
一方、動画の編集や、静止画をさまざまなスタイルへ加工したいなら、パソコンの専用ソフトを使用する。このソフトはSP360のWebサイトからダウンロードできるものだ。YouTubeボタンを押すと、YouTubeやFacebookでも360度再生ができるファイルに変換してくれる。
この動画編集ソフトは、YouTubeやFacebookの360度動画に変換するだけでなく、動画の分割や消去、結合などが可能。さらに、動画や静止画のタイプをパノラマやリング状、円形にすることもできるのも面白い。
静止画に限っては、スマートフォンだけでアップロードすることもできる。SP360とSP360 4Kは別々のアプリとなっているが、SP360 4KアプリにはVR視聴向けの機能も備えているので、カメラはSP360を使っていてもSP360 4Kのアプリも落としておきたい。ファイルは共有できるので、SP360 4KのアプリでもSP360の静止画を確認できる。これを共有する場合、「正距円筒図法」を選べば、Facebookで、ちゃんと360度画像としてアップロードされる。
GoogleのCardboardアプリを入れておくと、SP360 4Kアプリで再生した360度画像を左右の目に振り分けてくれるので、ハコスコなどのVRゴーグルを使うと、3DのVR静止画を楽しめる。動画もVRゴーグルを使って視聴可能だ。
Playstation VR(PS VR)で視聴したい場合は、360度動画や静止画をUSBメモリなどにコピーし、PlayStation 4に接続、標準のメディアプレーヤーを起動する。この時、YouTubeやFacebookにアップロードするのと同じ形式の動画にSP 360のソフトで変換しておくことと、PS VRのメディアプレーヤー再生時にオプションで「VRモード」を選ぶことが必要だ。なお、動画はSP 360のソフトで変換する時にカメラの方向指定ができるため、PS VR装着時に顔が正面向きでなくても、正しく再生された。
VRゴーグルで観られる場所は半天球の一部分となるので、360度カメラの中ではトップクラスの高解像度を持つSP360といえども、解像感は足りなくなってしまう。しかし、実際にVRゴーグルで撮影した360度動画や360度静止画を観ると、これまで平面的だった写真や映像を観るのとは違う迫力、臨場感、感動が味わえる。
再生のためのVRゴーグルと、動画や静止画を撮れる360度カメラが両方流行りだしているので、試すには良い機会となっている。VRゴーグルや360度撮影に関しては、いくら説明しようとも、体験しなくてはその本質はわかりずらく、「百聞は一見にしかず」をこれほど顕著に表した例はないといえるほどなので、まずは体験してみて欲しい。