小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第769回 iPhone直結! お手軽360度撮影ができる「Insta360 Nano」。箱がVRビューワーに!?

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iPhone直結! お手軽360度撮影ができる「Insta360 Nano」。箱がVRビューワーに!?

プラットフォームが増えた360度映像

 2つのレンズを持つカメラで360度撮影を行なうソリューションは、日本では2013年に発売されたリコー「THETA」が火付け役となった。当時すでにGoProを複数台組み合わせてVRコンテンツを作るという取り組みが成されていたが、360度撮影に関してはこのあたりで、プロフェッショナルとコンシューマが丁度タイミング良く歯車が噛み合ったわけである。

iPhoneにInsta360 Nanoを取り付けたところ

 2015年末には、FacebookとYouTubeが360度動画に対応。Facebookは2016年6月に、360度静止画にも対応した。今もっとも多くの360度の映像や画像をカジュアルに見かけるのは、Facebookではないだろうか。もっとも個人的な友達が、そういうの大好きな人達だらけだからなのかもしれないが。

 360度映像を“VR”と表現する向きもあるが、単にスマホやPC上で画面がぐりぐり動かせる程度のものをVRと呼ぶべきではない。VRとはもっと現実の視界を遮断する没入感や、身体性のあるエンタテイメントコンテンツを指すべきだ。

 それはさておき今回は、iPhoneを使って360度映像を手軽に撮影できる「Insta360 Nano」をご紹介する。これまでカメラ単体で撮影するものはいくつかご紹介してきたが、映像の確認や友だちとシェアする時は、どのみちスマートフォンに転送しなければならない。

 一方Insta360 Nanoは、iPhoneのLightning端子に直結する360度カメラだ。モニタリングやファイル転送は端子経由で行なえるので、手っ取り早いわけである。Amazon.co.jpなどで販売されており、価格は27,000円を切る程度だ。リコー「THETA S」と比較すると、実売ベースで1万円程度安い。今回はサンコーからお借りした。

 お手軽360度カメラの実力を、さっそく試してみよう。

手のひらに収まる小型ボディ

 製品はiPhoneが入っているような、白く四角い箱に入っている。この箱、実は底面に2つのレンズが付いており、中身を全部取り出すと、ビューワーになる仕組みだ。これはあとで試してみよう。

製品サイズの割に箱が大きいと思ったら……
箱がビューワーになる仕掛け

 カメラ本体は、33×110×21mm(横×縦×厚さ)と、360度カメラとしてはかなり小型だ。レンズ部も含め、THETAよりも一回り小さい。見た目にあまり高級感はないが、重量も73gと軽量なので、ある意味見た目通りと言える。

サイズはTHETAより一回り小さめ

 レンズは本体中央よりも若干左寄りに付いている。反対側も左寄りで、上から見ると左右の位置がズレている。おそらく光学部品の奥行きの都合で、互い違いに配置しないとこの厚みの中におさまらないのだろう。レンズは210度/F2.0で、撮像素子は400万画素のCMOS。撮影動画の最高解像度は3,040×1,520ドットとなっている。

レンズはやや左寄り
上部の小さい穴はマイク

 ボディにはボタンが1つしかなく、電源の投入や、単体での撮影をサポートする。ステータスを示すLEDは電源ボタンとは反対側にある。ボディは片側が大きくえぐれており、根元にLightning端子がある。対応するiPhoneは、6/6sと6 Plus/6s Plusで、底部にアゴを乗っけるような恰好で装着する。

裏面はえぐれていて、根元にLightning端子がある
iPhoneとはLightning端子で繋がる仕組み
裏側から見たところ

 Lightning端子は映像の伝送に使われるのみで、電源は共有しない。Insta360内にバッテリがあり、底部にあるmicroUSB端子で充電する。充電時間は2時間で、連続稼働時間は1時間。

底部にはmicroUSB端子とmicroSDカードスロット
給電しながらの動作も可能

 同じく底部にmicroSDカードスロットがあり、映像はここに記録される。microSDカードはSDXCに対応しておらず、SDHCまでとなる。なお充電するときもSDHCカードが必要なので、ほぼ入れっぱなしで使うものと考えた方がいいだろう。カードは32GBまで対応する。

SDカードはSDHC対応

 撮影は、本体だけでも可能だ。電源を入れたのち、ボタンの1回押しで静止画、二度押しで動画撮影となっている。電源を切るときはボタン長押しだ。

 iPhoneを併用する場合は、あらかじめ専用アプリ「Insta360 Nano」をインストールしておく。カメラをiPhoneに装着すると、自動的に電源が入り、Insta360 Nanoが起動する。使い終わったらそのままカメラを引き抜けば、自動的にカメラの電源が切れる。電源管理をしなくてもいいので、楽ちんだ。

撮影はやや注意が必要

 では早速撮影である。カメラはiPhoneの厚みぴったりに作られているので、カバーをしていると装着できない。裸で扱う事になるので、落とさないよう注意が必要だ。また装着とは言っても、Lightning端子の強度を頼りに乗っかっているだけなので、固定されているわけではない。カメラが抜けてしまわないよう、iPhoneを持つと共に人差し指でカメラを押さえる等、工夫が必要だ。

 専用アプリInsta360 Nanoが起動すると、カメラからの映像が映し出される。ドラッグ操作で360度回転して見られる表示の上に、カメラの全画面がPinPされる恰好でモニタリングできる。静止画と動画のモード切り換えがあり、動画はボタンを押している間だけ撮影するが、ボタンを押してそのまま上にスワイプすると連続で撮影し続ける。

専用アプリInsta360 Nanoの静止画撮影モード
動画撮影モードではボタンが黄色に

 多くの360度カメラはWi-Fiで接続しないと映像が確認できないため、Wi-Fi接続がうまくいかないとイライラする。だがコネクタ接続ならその心配はないわけだ。ただ、モニターのディレイは1秒ぐらいある。Wi-Fi接続でももう少しディレイが少なかったような気がするが、モニタリングの画質は悪くないので、そのあたりはトレードオフだろうか。

 一方で、本体がくっついているデメリットもそれなりにある。実はこのカメラ、電源が入るとかなり発熱する。温度計で測ってみると、起動して10分ほどで44.6度になった。エアコンの効いた室内でこの温度だ。

動作中はかなり熱くなる

 撮影日は気温が34度と高かった事もあり、カメラの熱暴走に悩まされた。iPhone側も冷えているわけではないので、お互いが発熱し合う事になる。撮影はされているのだが、iPhone側との接続が頻繁に切れてしまうので、動画の停止ができない、取り外しても電源が切れないなどのトラブルがあった。夏の屋外では、カメラ単体で撮影する方が良いだろう。

 またこのカメラを使用する場合、iPhoneを上下逆さまに持つ事になる。だがiPhoneは上下逆に持つと、どうしてもボタン部分を握ることになってしまい、うっかり画面ロックしてしまったりということが起こる。画面を触らないように持とうと思うとなおさらなので、ここは覚悟を決めて、液晶画面ごとベタッと持ってしまった方が安定するだろう。

iPhoneを常に上下逆さまに持つ事になる

 モバイルバッテリを併用すれば、カメラに給電しながら撮影する事もできる。ただiPhone側には電力はスルーしないので、iPhoneへの電源供給はできない。

様々な視聴スタイルを提供

撮影した映像はアプリのAlbumからアクセスできる

 撮影された映像は、カメラ内のmicroSDカードに収録される。アプリの「Album」をタップすると、カメラ内の映像にアクセスできる。静止画および動画は、魚眼、パースペクティヴ、プラネットの3モードで表示切換ができる。表示ポジションはドラッグでグリグリできるモードと、ジャイロセンサーによるiPhoneの傾き検知で表示する方法の2種類が使える。

表示モードのサンプル
モード名サンプル
魚眼
パースペクティヴ
プラネット

 「セッティング」メニューからは、スマホ用VRスコープ向けの表示に切り換えることができる。ただ、カメラがくっついているままではVRスコープに入らないので、同メニュー内の「Download file」機能を使ってiPhoneに画像を転送する。1分の動画を転送するのにおよそ24秒なので、Wi-Fiを使う転送よりも断然早い。

 動画としては、2,880×1440ピクセル/30fps/21Mbpsで転送されるようだ。

 VRスコープ表示では、左右に視差がある映像が表示される。ただこれは両眼で違和感なく見るためのもので、3D映像になるわけではない。ではせっかく箱がスコープになっているので、これに入れて見てみる。

VRスコープ用の表示に変更できる
左右分割して映像が表示される

 箱内部にはiPhoneを挿入するための隙間があるのだが、サイズ的には大きいPlusに合わせてあるようだ。そのため6/6sではブカブカなので、何かスペーサーのようなものを工夫するしかないだろう。とは言え、スコープで見ればかなり大きな画面で見ている感覚になる。

箱のサイズはPlus用なので、6/6sはガタガタする
スコープで見ると、かなり大きな画面で見ている感覚が味わえる

 画質的には、逆光部分のパーブルフリンジはかなり気になる。若干眠い感じもあるが、ぐるぐる見回せる体験の方が面白いので、画質や解像感の荒さはあまり気にならない。ステッチングはかなり上手く、2つのカメラの継ぎ目はほとんど気にならない。

撮影した静止画。ステッチングの精度は悪くない
底部の「しわ寄せ部分」はロゴなどで隠すことができる

 真下の部分にステッチングのしわ寄せがあるのだが、その部分をロゴで隠す事ができる。ロゴタイプは複数用意されている。

 ネットへのアップロードは、Facebook、YouTube、Messenger、LINEに対応している。Albumを選択するとiPhoneの「写真」へ転送されるが、標準の写真アプリは360度画像に対応していないので、単に横長の映像になるだけである。YouTubeへのアップロードを試してみたので、確認して欲しい。

視点が動かせる動画サンプル
動画サンプル2

 ワークフローとして惜しいのは、映像のトリミングができないところだろうか。録画し始めや録画終わりをカットすればスッキリしたコンテンツにできるのだが、専用アプリにそういう機能がないのが残念だ。

総論

 360度映像を撮影し、簡単に見るところまでワンパッケージでできる製品として、Insta360 Nanoはなかなか面白いポジションに着けている。iPhoneアクセサリのように見えて実はスタンドアロンでも動くというところもユニークだ。

 従来のアクセサリにありがちな、電源を入れてから繋ぐのか、繋いでから電源を入れるのかといったややこしさもなく、どちらでもちゃんと動く。あいにく今回は台風襲来直前の炎天下でテストしたため、iPhoneとの接続に不安定なところが見受けられたが、スタンドアロンでは問題なく動くので、そのあたりはユーザーが臨機応変に対応すればいいだろう。

 ただカメラ装着の都合でiPhoneを上下逆に扱わないといけないので、その辺に慣れが必要だ。iPhoneを上下逆に持つと、こんなに使いづらいのかと驚く事だろう。アプリは最初から上下逆に起動するのだが、カメラを装着せずに起動しても逆のままなので、SNSに投稿するなど他のアプリと組み合わせるときに面倒だ。このあたりはもう少し改良の余地があるだろう。

 開発元のShenzhen Arashi Visionは2014年に起業した中国のベンチャーで、Webサイトを見る限りこれが最初の製品のようだ。箱をそのままスコープにするなど柔軟な発想も面白い。

 デザイン力がもう一歩欲しいところではあるが、有象無象存在する中国ハードウェアベンチャーの中では、レベルは高いように思える。4Kのパノラマカメラも作っているようなので、Insta360 Nanoを足がかりにして、どんどんユニークな製品を作って欲しいと思う。

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Insta360 NanoInsta360 Nano

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。