小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第735回:全方位撮影のKodakアクションカムが4Kに?「SP360 4K」を試す

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第735回:全方位撮影のKodakアクションカムが4Kに?「SP360 4K」を試す

全天球カメラが熱い

 今年に入ってYouTubeやFacebookが次々と360度全天球カメラへの対応を行なったことで、にわかに360度動画が盛り上がってきている。特に日本では、9月にFacebookの対応に続いて、10月にリコー「THETA S」が発売されたことで、タイミングも良かった。

SP360 4K

 一方、日本国内で販売されている似たコンセプトのカメラといえば、Kodakの「PIXPRO SP360」がある。THETAが上下左右360度撮影できるのに対し、こちらは上半分のドーム状に撮影するので、THETAの半分である。だがSP360はどちらかというとアクションカム文脈なので、スポーツ撮りの人には人気が高い。

 そのSP360の新モデルが、11月27日から発売されている「PIXPRO SP360 4K」だ。直販サイトでの価格は59,500円。ネットの通販サイトでは2,000円ぐらい安い程度だろうか。ただこのモデル、ストレートに4K撮影ということではなく、多少説明が必要だろう。

 一般的に4Kとは長辺のピクセル数がほぼ4,000だから、4Kと呼ぶ。常の4Kは3,840×2,160か、4,096×2,160となる。一方SP360 4Kの場合、360度撮影のRoundモードでの撮影の最大値は、2,880×2,880ピクセル。なぜそれを4Kかというと、掛け算すると8,294,400で、一般的なテレビ向けの4Kの3,840×2,160=8,294,400なので、同じになる。

 従って長辺が4Kなくても、ピクセル数トータルで画像処理に必要なプロセッサの能力としては4Kクラスが必要になる。また360度ではなく画角を絞ったFrontモードでは、3,840×2,160で撮影できるということなので、これは4Kだ。したがって製品名に“4K”を謳っているということのようだ。

 何はともあれ、初代から解像度が上がったというのがポイントのSP360 4Kは、一体どういう絵を見せてくれるのだろうか。早速試してみよう。

微妙に大きくなったボディ

 初代SP360は、いわゆるコダックカラーの黄色いボディだったが、今回は黒に赤いロゴというカラーリングになっている。ホディの上下のつなぎ目にゴールドをあしらったあたりも、高級路線を感じさせる。

黒を基調とした新デザインのSP360 4K

 もともと四角いキューブ型のボディなのだが、初代は若干長方体であった。一方SP360 4Kは、縦は同じだが横が太ってかなり正立方体に近づいている。レンズ径それに合わせてギリギリまでも大きくなり、天面の肩が少しラウンドするなど、デザイン的には前作よりもこなれてきた印象だ。

初代SP360(右)との比較
高さ、奥行きはほぼ同じだが、横幅が広くなった
新たに発売予定のマウントアダプタやケースなど

 ネジ穴の位置は同じなので、マウント類は初代のものがそのまま使えるが、ボディサイズが変更されたことにより、初代機の防水ハウジングや標準ハウジングは使えなくなった。新しいハウジングも年内には発売される予定である。

ネジ穴の位置は同じ
レンズプロテクタを外したところ

 天面のレンズは、若干撮影範囲が広くなった。周囲方向は360度で変わりないが、垂直方向が214度から235度となっている。ボディの肩が落としてあるのも、画角が広がったためにそのままでは角が写ってしまうからなのかもしれない。

 撮像素子は1/2.3インチの裏面照射CMOSで、有効画素数は約1,240万画素。一方撮影画素数は静止画で2,880×2,880、動画も2,880×2,880/30pだ。ビットレートはVBRで、平均60Mbps、最高70Mbpsとなっている。動画は解像度が4倍になっているが、静止画は初代が3,264×3,264だったので、多少減退したことになる。

 操作系は変わっていないが、Wi-FiのON/OFFボタンが付けられた。撮影映像のモニタリングにはWi-Fiを介してスマホとの連携が必要だが、OFFにすればバッテリは長持ちするので、その配慮だろう。端子類はmicroUSBとmicroHDMI、microSDカードスロットと変更なし。ただしUSBとHDMIの端子の位置が左右逆になっている。

側面にUSB、HDMI、SDカードスロット
Wi-Fi接続用ボタンが追加された

 天面にマイク、前面にスピーカーを搭載している点は同じだ。底部のバッテリーの蓋は、前作は完全に外れるタイプだったが、今回はヒンジがついて外れないようになった。バッテリーは同じ「LB-080」である。

底部の蓋はヒンジ付きに
バッテリは初代と同じ

 また初代は内蔵メモリが8MB載っていたが、今回はなしだ。まあ通常は大容量メモリーカードに撮るので、問題はないだろう。

 撮影モードの変更などは、本体のディスプレイを使って操作できる。ただ、文字の説明はなくアイコンだけなので、アイコンの意味を忘れると設定もままならない。通常はスマホアプリを使って設定するほうが楽だろう。アプリは4K専用の「PIXPRO SP360 4K」がすでにリリースされている。ただしすべてのパラメータが設定できるわけではなく、本体でしか設定できないところもある。

メニュー表示用のディスプレイは変わらず
スマホ用アプリ「PIXPRO SP360 4K」でもある程度の設定が可能

設定なしで撮影できる

 では早速撮影してみよう。撮影日は曇ったり晴れたりの忙しい天候だったが、ホワイトバランスはオートで問題なく撮れている。基本的にはアクションカムなので、細かい設定なしにそこそこ撮れるというのが基本だ。強いて挙げれば、手振れ補正を入れるかどうか、マイクのウインドキャンセルを入れるかどうかといった程度だろう。

 撮影中はスマートフォンのアプリでモニターできるが、Roundモードの半球状の絵では見づらいので、7つのマッピングパターンから選べるようになっている。画面をドラッグすれば、好きな方向に映像を回すことができる。

モードサンプル
Globe
Magic Flat
Ring
Quad
Sig
Panorama
Front

 一脚の先端に付けて、ハイアングル、ローアングルを撮影してみた。もっとも人に見せるためにはこのままではどうにもならないので、最終的には何らかの形で切り出したり、マッピングしたりすることになる。その際にも元の解像度が高ければ、それだけフィニッシュも解像度が上がる。切り出し方にもよるが、フルHDからそれに近い解像度が得られるというのが、本機のメリットである。

ハイアングルを16:9にマッピング
ローアングルを16:9にマッピング

 撮影されるファイルとしては、2880×2880の半球ドーム状の映像だが、初代よりも画角が広がったため、三脚穴で固定するマウント部分が映り込みやすくなった。マウントの間に位置が調整できるスペーサーなどを挟んで、カメラ位置を前に出すといいだろう。今後、「標準ハウジング」というジャケット型のマウントが発売予定なので、これを使うと良さそうだ。

三脚穴タイプのマウントで自転車のハンドルに固定してみたが、マウントが映り込んでいる
今後発売予定の標準ハウジング
標準ハウジングを使い、自転車のハンドルなどに取り付けるためのバーマウント

 一方Frontモードでは、4Kに近い3,840×2,160で撮影できる。ただ、動画ファイルの解像度としてはこの通りだが、実際には円形に撮影できるだけなので、画面いっぱいに映像が広がっているわけではない。さすがにこれを4K動画と言うには無理がある。

Frontモードで撮影したオリジナルファイル。動画としては3840×2160だが……

 ハイスピード撮影も試してみた。360度での撮影は、720×720/120fpsとなり、4倍速スローということになる。光量は十分にあるので、なかなかS/Nのいい動画が撮影できている。Frontモードなら、1,280×720/120fpsまたは848×480/240fpsでの撮影も可能だ。初代ではハイスピードは848×480/120fpsだけだったので、同じ解像度で8倍速スローまで可能になったわけである。

 こちらは通常撮影と違い、画面サイズいっぱいに絵が広がる。

Roundモードで120fps撮影したものをパノラマモードで展開
Frontモードで120fpsで撮影
Frontモードで240fpsで撮影

YouTubeへの書き出し機能が追加 

 撮影した動画は、カメラのHDMI出力を通じてテレビに出力できる。ただ、見やすいようにマッピングができるわけでもなく、半球画面そのままなので、カメラの取り付け角度によっては見たい角度が逆さまや横だおしになってしまう可能性がある。

 また、カメラのライブ出力もHDMIからテレビに出すこともできる。マッピングできないのは再生モードと同じだが、スマホアプリでのモニタリングと違い、ディレイが1フレームぐらいしかないので、シビアなタイミングが要求される撮影のモニタリングにはアリだろう。ただし、ライブビューモード時は4K解像度は出力はできない。

 またUSB接続でWebカメラとしても使えるモードがある。専用ドライバを入れれば、広角の映像を各種展開方式に変換できるという。ただし、執筆時点ではまだドライバが公開されていないようだ。また視聴アプリ側に360度のコントロール機能があるわけではないので、視聴者の方から自由なアングルに変更できるわけではない。ここまで実現できればかなり面白いと思うのだが、まだ全体の環境整備待ちといったところだろうか。

 映像の切り出しや加工は、PC/Mac専用アプリ「PIXPRO SP360 4K」で行なう。機能的には初代向けのアプリと大きくは違わないが、Roundモードで撮影した映像については、YouTubeへのアップロード機能が使える。

専用の編集ツール、「PIXPRO SP360 4K」

 アップしたい範囲を選んでYouTubeアイコンをクリックすると、カメラポジションを選択する画面が出る。撮影時のカメラポジションを選択すると、まず一旦ローカルにYouTubeの360度カメラ用フォーマットに変換してファイルが保存される。その後YouTubeへのアップローダーが起動して、アップロードするという流れだ。

360度映像としてYouTubeにアップロードしたサンプル映像

 なおローカルに保存された変換ファイルは、そのままFacebookにアップロードすれば、360度映像として認識される。Facebookにだけ上げたい人は、アップローダのところでキャンセルすればいい。

総論

 THETAとの違いは、2レンズを使って全球を取るTHETAに対して、1レンズで半球を取るSP360という理解でいいだろう。例えばテーブルに置くとか天井に貼るといった用途では、全球撮れることが無駄になるケースも出てくる。また撮影者が映りたくない場合は、カメラの下に潜れば映らない。形状的にも目立たず、取り付けもしやすいので、スポーツ動画にも向くだろう。

 ただ、製品名として4Kを名乗るのは、誤解を生むように思う。2,880×2,880は4Kではないし、3,840×2,160での撮影は、両脇まで絵が足りてない。実情に合わせて「SP360 3K」でも十分インパクトのあるネーミングだったろう。

 一方これで全天球を撮影したいという人のために、SP360を2台背中合わせにしてマウントできる「ダブルベースマウント」が来年1月下旬に販売される予定だ。2つの映像を張り合わせるソフトウェアは年内に公開されるようである。また別売のリモコンを使うことで、遠隔からの録画開始や複数台の同時スタートもできるようだ。

全天球撮影向けに、SP360を2台背中合わせにしてマウントできる「ダブルベースマウント」
別売の専用リモコン「RR-BK01」

 ユーザーとしては、THETA SとSD360 4Kとどっちがいいの、ということになるだろう。THETAはスマホアプリで完結できるので、モバイルで撮って即Facebookに投稿、みたいな用途に向いている。一方SP360 4Kは、最終的な展開をPCかMacで行なう必要があるが、本体だけでも防滴・防塵機能があり、各種マウントや水中ハウジングなども揃っているので、スポーティなシーンでメリットがある。

 国内ではかなりTHETAが勢力を伸ばしており、360度動画も普及の兆しを見せはじめている。本製品の発売でこれからどれぐらい盛り上がっていくか、注目しておきたい。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。