プレイバック2016

増え続けるカートリッジ、価格を抑えつつアナログレコード“沼”を楽しむ by 野村ケンジ

 ありがたいことに今年もポータブルオーディオをメインにたくさんの製品を聴かせてもらった。そして、魅力的な製品にたくさん出会い、そしてそして、案の定我が家のヘッドホン&イヤホンはさらなる増殖を続けている(汗)。

 ということで、どれだけ増えたか改めて数えるのが怖いヘッドホン&イヤホンは横に置いといて、今年は別の、初めてコレクションした製品を紹介しよう。ずばりそれは、アナログプレーヤー用のカートリッジだ。

 何を隠そう、野村ケンジはポータブルオーディオだけでなくホームオーディオやホームシアター、カーオーディオまで、オーディオビジュアルに関しては幅広くフォローさせてもらっていて、事務所(ほぼ倉庫)には六畳間にTADモニターと7.1chシアターシステムを無理矢理押し込んだ自称「ミニマムシアター」なるシステムを構築している。

 昨今ブームとなっているアナログレコードにも興味はあったものの、取材を通してその“泥沼”具合を肌で感じていたため、いくらお金があっても足りないと、手を出しあぐねていたのだ。しかしながら、この頃は手頃なコストで大いに遊べそうな雰囲気を感じたため、まずはアナログプレーヤーにティアック「TN-570」を、フォノイコライザーにiFI Audioの「iPhono2」を導入。本格的に、アナログレコードの世界を楽しんでみることにしたのだ。

アナログプレーヤーにティアック「TN-570」を、フォノイコライザーにiFI Audioの「iPhono2」を導入

 とはいえ、プレーヤー1台数百万円、カートリッジ1つ数十万円の世界に飛び込む訳ではない。あえて高級モデルには手を出さず、ポータブルオーディオ(の高級モデル)と大差ない予算繰りで、どこまで良質なサウンドが楽しめるかというテーマを持って挑んでみたのだ。

 結果としては、最新機器の進化やアナログレコードの基礎体力の高さもあって、なかなかに聴き応えのあるシステムまで持って行けたと思う。

 そんな中で大いに興味をひかれたのがアナログカートリッジだ。予算的な自主縛りをしたために低コストのMMカートリッジがメインながら、それでも数多くの製品が並ぶそ、なかなかに興味深い世界が広がっていたのだ。

 実際、ここ半年で60前後の製品を試聴させてもらったが、それぞれに特徴的な音楽表現を持つ個性派が揃っていて、聴くアルバムによって交換したくなるなどて、遊びの要素が満載だったりする。また、価格的にも1万円前後からスタートしてくれるため(もちろん高額製品はきりがないが)、手軽に購入しやすいのもうれしい。

 で、いつもの悪い癖が始まって、あれも良いなこれも良いなと思っているうちに、気がついたら様々な製品が手元に。いやはや、毎度のこととはいえ、なんとかならないですかねえこの展開。

 嘆いていても仕方ないので、この半年で手に入れたもの、皆さんにもお勧めしたいアナログカートリッジを紹介していこう。使用しているアナログプレーヤー、ティアック「TN-570」の標準カートリッジがオーディオテクニカだったため、まずはオーディオテクニカから手を出し始めたのだが、さすが日本の老舗メーカーだけにこれまた充実した品揃えとなっている。

まずはオーディオテクニカから手を出し始めた

 その中でも、第一におすすめしたいのが新VMシリーズだ。こちら、先代からかなりのクォリティアップを果たしているうえ、メインボディが(500系と700系の)2タイプで共通化されており、交換針の買い換えにより気軽にグレードアップもできる。まずは「VM530EN/H」(VM530ENのヘッドシェル付)あたりからスタートするのが良さそうだ。

 一方、MCカートリッジでは「AT-F7」が良い。こちら、MMカートリッジと大差ない3万円前後の実売価格ながら、MCカートリッジらしい、豊かな表現力を持ち合わせているのだ。このあたりから、MCカートリッジにチャレンジしてみるのも良いだろう。

 国内メーカーでもうひとつ、オススメの定番製品を紹介しておこう。デノン「DL-103R」だ。こちらはMCカートリッジだが、長年好評を博し続けているシリーズの最新モデルだけに、安定して良質なサウンドを誇る。こちらも、大いにオススメしたい。

デノン「DL-103R」

 一方、海外ブランドの定番といえば、やはりShureとオルトフォンだろう。特に、Shureは低価格でありながら味のあるサウンドを聴かせてくれるものが多いので、ひとつは手元に置いておきたいところ。個人的には「M44-7」が最も好みだが、「M44G」や「M97xE」もオススメだ。

 海外メーカーでは、GRADOにも注目したいところ。中でもMMのリファレンスシリーズは、上級モデルと同じジェラ木材のボディを採用していて、サウンドも佇まいも独特の世界観を持ち合わせている。それでいて「Reference Platinum 2」は3万円台で入手できるなど、意外なほどコストパフォーマンスも高い。最初に手にする高級MMカートリッジとしては、なかなかの有力候補といえるだろう。

GRADO「Reference Platinum 2」

 また、カートリッジ本体以外にも、ヘッドシェルやリード線など、数千円で音の変化を楽しめる要素があったりもする。ぜひ皆さんも、アナログレコードの世界にチャレンジして、大いに楽しんでほしい。

野村ケンジ

ヘッドフォンからホームシアター、カーオーディオまで、幅広いジャンルをフォローするAVライター。オーディオ専門誌からモノ誌、Web情報サイトまで、様々なメディアで執筆を行なっている。ビンテージオーディオから最近、力を入れているジャンルはポータブルオーディオ系。毎年300機種以上のヘッドフォンを試聴し続けているほか、常に20~30製品を個人所有している。一方で、仕事場には、100インチスクリーンと4Kプロジェクタによる6畳間「ミニマムシアター」を構築。スピーカーもステレオ用のプロフェッショナル向けTADと、マルチチャンネル用のELACを無理矢理同居させている。また、近年はアニソン関連にも力を入れており、ランティスのハイレゾ配信に関してはスーパーバイザーを務めている。