Seagate Technologyは6月12日(現地時間)、シドニーのフォックス・スタジオ・オーストラリア内で同社の今後の基本方針についての基調講演を行なった。
■ Seagateは「Born Digital時代」を促進する
基調講演を行なったSenior Sales & Marketing ManagerのRob Pait氏は、まず始めに「デジタル時代と呼ばれる現代は『産まれながらにしてデジタル(Born Digital)』といったものが増え続けている。Seagateはこの時代の流れに対応し、さらにこの進化を促進させる存在として活動していく」と述べた。 このBorn Digitalという新時代の象徴としてPait氏が引用したのが、スターウォーズ・シリーズの映画監督として知られるジョージ・ルーカスのコメント「I'll never produce another film on film」(私は今後2度と映画をアナログ・フィルムで制作しない)だった。 映画の撮影に使用されるカメラは、フィルムを使用するものがほとんどだったが、ジョージ・ルーカスはこのように宣言し、最新作「スターウォーズ・エピソード2」以降、フルデジタルプロセスでの映画制作を行なっている。フルデジタルプロセスの利点としてジョージ・ルーカスは、撮影結果を現像することなくその場で確認できるという点、その後のデジタル処理プロセスにおいてスムーズに制作を進められるという点を挙げているという。 フルデジタルプロセスになって、重要な存在となるのが、そのデータを格納しておくストレージの存在だ。そしてそのストレージには、そこに格納されているデータを高速に取り出せるポテンシャルまでが要求される。 そして現時点で、「大容量性」と「高速性」、そして「安いコスト」を併せ持つストレージデバイスはHDDということになる。
■ Cheetahシリーズは22,000rpmへ HDDは、これまでパソコンをはじめとしたコンピュータのためのパーツであったわけだが、現在これに匹敵する重要なクライアントとして、映像制作業界が台頭してきているという。 Seagateは、自社の最新技術をハイエンド製品に適用しており、コンピュータ用ストレージとして広く採用されている。しかし最近では、このハイエンド製品に対し、映像制作業界からも多くの引き合いが来るようになったという。 超巨大ファイルを高速に読み書きする必要がある映像制作において、最も重要視されるが高速性。そこで映像制作現場では、Seagateのハイエンド製品「Cheetah」の15,000rpm第3世代モデルを採用しているとのこと。 制作されたデジタル映像コンテンツを配信するデジタル放送業界では、高速性に加えて容量がより重要視される。そこで、放送業界では、15,000rpmモデルよりも容量の多い10,000rpm第6世代モデルが採用されているという。 また、映像制作および放送業界では、取り扱うファイルがあまりにも大容量なため、頻繁にバックアップがとれないので、高い信頼性が要求される。この要望に応え、SeagateではCheetahシリーズの平均故障時間(MTBF)を1,200万時間に設定したという。これは一般的なHDD製品の4倍にあたり、いうまでもなく業界トップの値となる。 なお、今後のCheetahシリーズはさらなる性能向上を目指し、SeagateのR&Dセクションにおいて22,000rpmモデルの開発が行われているとのことだ。
■ HDDが水や空気のような存在になる 「HDDという外部記憶装置が重要視されるのは、なにも映像制作業界だけではない」とPait氏は語る。 現時点でも、パソコン以外のHDD搭載製品が増える傾向にある。具体的な例として、ゲーム機、HDDビデオレコーダ(HVR)、デジタル衛星放送チューナ、携帯オーディオ、デジタルTVシステム、カー・ナビゲーションシステムなどを挙げ、これらの製品の多くにSeagate製HDDが採用されている(あるいは採用される予定)ことを明らかにした。なお、独占契約ではないものの、Xboxおよびプレイステーション 2用HDDとして同社の製品が採用されている。 Pait氏は、今後の課題として次の3点を挙げた。1つは、PCI-XバスやシリアルATAといった、より高速な新世代インターフェイスで最大パフォーマンスを発揮できる製品の開発。2つ目は、様々な機器に膨大な情報が搭載されることによる、個人情報漏洩などのセキュリティ面の問題。そして3つ目は著作権問題だ。 いずれにせよ、我々を取り巻くすべてのメディアが「Born Digital」になってきている今、「今後ますますHDDは水や空気のようになくてはならない重要なものになっていくだろう」とPait氏は予見した。 電子装置の全てが半導体化されている中、機械的構造を多く含むHDDは、長期視点で見れば、いずれはソリッドメモリに置き換わる運命にあるのだろう。しかし、HDDに置き換わることのできるソリッドメモリが存在しない当面において、Pait氏の読みは正しいものに感じる。ここしばらくの間、HDDは「Born Digital」たちを支えていくことだろう。
■ 映画制作の現在過去未来
基調講演のあと、デジタル映像制作スタジオKOTIJのMike Seymour氏が、映画制作スタイルの現在過去未来についての講演を行なった。同氏はKOTIJでCreative Directorを務めている。 それによると、'90年代までは【写真1】のようにフィルムで撮影し、これをフィルム次元で編集、その後でコンピュータで作成した特殊効果をフィルム上に合成していた。「これは単にデジタルで行なうための環境整備が進んでいなかったため」とSeymour氏はいい、「この時代を我々はB.C.(Before Computer)時代と呼んでいる」とジョークを飛ばす。
一方、'90年代以降は【写真2】のように、フィルムで撮影した映像をすべてスキャンしてデジタル化し、コンピュータ上で編集している。また、特殊効果もこの段階で合成しているという。映画にもよるが、デジタルによるカット数は増加傾向にあり、デジタルベースでの制作というのは映画業界においてはもはや一般化しているそうだ。
今では、2001年の大ヒット映画「ムーランルージュ」ではデジタルシーンが300カット、アナログシーンが300カットという具合に、両者のカット数が同じという映画も珍しくないという。なお、現在のところフィルム映写機を使用した劇場が主流のため、デジタルベースでの制作といえどもフィルムに焼く作業も存在する。 Seymour氏によれば、これからの映画制作では、ジョージ・ルーカスのように最初の撮影からデジタルを採用する現場が増えてくるだろうとのこと。また、2カ月ほど前にHDDベースの映画用カメラが登場し、これが現場にどんどん普及していくという。 Seymour氏は「'90年代以降を我々はA.D.(After Digital)時代と呼んでいる」として、プレゼンテーションを結んだ。
■ 映画制作現場に普及するHDD
Seymour氏の講演のあと、同じフォックス・スタジオ・オーストラリア内にスタジオを構えるSpectrum Filmsの見学ツアーが行なわれた。
Spectrum Filmsは「マトリックス」、「M:I-2」、「レッドプラネット」などのSFXシーンやコンピュータグラフィックス・シーンの制作を手がけたデジタル映像制作スタジオ。同社のストレージルームにはSeagate製HDDが採用されている。 下の写真はFiber Channelベースで稼働するストレージシステムだ。Fiber Channelとは光ファイバを使用するネットワークで、このシステムでは最大2Gbitの転送速度のタイプを使用している。2Gbitというと100BASE-TXベースの20倍の帯域ということになる。 システムを構成するHDDは、1台あたり50GB程度のもの。これがびっしりと立ち並び、システム全体では16TB(テラバイト)の容量になるという。
これだけ巨大かつ高速なストレージシステムは、映画制作を手がける大手スタジオならではのものだそうで、CM映像などがメインの小中規模スタジオではここまで巨大なシステムは導入していないという。 ところで、これだけのデータをどうやってバックアップしているのだろうか? これについてスタッフに聞いてみたところ、「バックアップは行なっていない。そのためにはもう1台このシステムを導入しなくてはならないからだ。まあ、丸ごと全部が完全に消えてしまうことはあり得ないし、もしそんなことがあったとしても、もう一度クリエイター側のワークステーションからレンダリングし直すだけでなんとかなる(笑)」との返答を得た。 ちなみに、前出のMike Seymour氏によれば、「ロード・オブ・ザ・リング」のエンコード前のRAWデータ型式による映画全編は、ファイルサイズにして27TBだったというから、映画制作の現場は既に「テラ」の時代を迎えている。
□Seagate Technologyのホームページ
(2002年6月25日) [Reported by トライゼット西川善司] |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp