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本放送の開始時期が当初予定されていた2011年から、早ければ2006年春に大幅に前倒しされた地上デジタルラジオ。そこで、3セグメント放送の実用化に向けた動きを促進する目的から、株式会社エフエム東京の呼びかけで「デジタルラジオ・ニュービジネス・フォーラム」が設立されることとなり、7日に設立総会がTOKYO FMホールで開催された。
フォーラムは、総務省が実施していた「デジタル時代のラジオ放送の将来像に関する懇談会」でまとめられた答申を受けて設立されたもので、同懇談会の報告書内容については既報の通り。 地上デジタルラジオの本放送開始までの計画は、本放送を早ければ2006年春に東京・大阪で、2008年には札幌、仙台、静岡(浜松)、名古屋、広島、福岡でそれぞれ開始。全国展開は2011年を予定している。さらに、2011年以前を「先行普及時期」、それ以降を「本格展開時期」と位置付けることなどが決められている。
これに伴い、2003年10月から開始されている実用化試験放送は、2006年の本放送開始と共に停止。また、試験放送時の各ラジオ局のセグメント構成も一旦白紙に戻される。2006年に開始される本放送は、VHFの7ch、もしくは8chを8個のセグメントに分割。NHKに1セグメントを割り当て、残りの7セグメントを全国で1つだけの民間免許主体が受け持ち、本放送を開始する。
地上デジタルラジオの普及期というビジネス的に厳しい時期を、1つの民間免許主体という体制で乗り越えると同時に、放送と通信の融合や、データ放送、サイマル放送など、様々なサービスを積極的に展開。番組については、「デジタルラジオに参加を予定している各放送局が提供しあうような体制になる可能性が高い」という。
また、2011年以降に全国放送が開始される際には、全国で放送を行なう事業者と、各地域を対象放送を行なう事業者の大きく2つにわけられる。その際、全国サービスでは引き続き放送を行なうNHKと民間免許主体に加え、最大2個の民間事業者の新規参入がみとめられる。また、地上アナログのテレビ放送が終了するため、利用できるVHF帯が増加し、各事業者に6セグメントが割り当てられる予定。
■ 「未曾有の異常事態から抜け出したい」
懇談会で今後の方針が決定したが、2003年10月の試験放送以後、現在まで受信可能な端末は市販されておらず、全国に数十台ある試作機でのみ視聴できるという状態が続いている。また、2004年10月にはモバイル放送がスタートし、地上デジタル放送の移動体向け1セグメント放送が2005年中に開始されるなど、競合メディアも登場。「移動体向け放送のパイオニア」であるラジオ業界では、時代に取り残されないよう、本放送開始時期の大幅な前倒しを望む声が高まっていた。 エフエム東京の執行役員で、3セグデジタルラジオ推進室の小針俊郎室長は「何十年もラジオに携わり、様々な新メディアの立ち上げにも参加してきた。しかし、“放送しているのに誰も受信できない”という未曾有の異常事態は、デジタルラジオが初めてだ。早急にこの状態を打開したいと常に考えてきた」とし、本放送開始に向けて具体的に動き出した喜びを語った。 また、フォーラムの設立目的については「受信機を開発するハードウェアメーカーと、サービスを作り出すメーカー、番組を制作する制作者が一同に集まり、互いにパートナーを見つけ、研究や実験、情報交換を行なうワーキングループを設立。その活動を通じて、デジタルラジオのコンテンツや対応機器の開発をサポートするもの」と説明した。 なお、具体的な活動スケジュールに関しては、6月から実験活動を開始。情報交換部会や運用推進部会も設立し、半年後の12月に実験結果をアピールする場を設けるという。その後、2006年1月に一般ユーザーを対象としたモニター実証実験を開始。早ければ2006年春の本放送を目指す。
ワーキンググループで現在実験と検証が予定されているテーマは、デジタルラジオ使った楽曲ダウンロード配信サービス、音声と連動したデータ放送、プッシュ型コンテンツ配信、車載機器向けコンテンツ配信、気象情報提供、開発支援ツールの開発など。ほかにも参加者からテーマを募り、テーマ毎にワーキングループを設立するという。さらに、情報交換部会ではデジタルラジオの先進国であるイギリスへの海外視察なども予定している。 なお、6月7日現在でのフォーラム参加企業はアルパインやオリンパス、松下電器 デジタル放送事業推進室、ソニー パーソナルオーディオ事業本部、タワーレコード、日本ビクター、パイオニア、パナソニック エレクトロニックデバイス、富士通など63社で、今後も増加する見込み。
■ 「膨大な楽曲があっても、何がお勧めかを伝えるのはラジオ」 続いて、フォーラムの代表にデジタルハリウッド大学/大学院の杉山和之学長が、副代表にタワーレコードの副社長兼COOの庄司明弘氏が選出され、両氏がデジタルラジオの魅力や、今後に対する期待などを語った。
「映像系の仕事をしていると思われがちだが、子供の頃から秋葉原に入り浸って、ラジオ好きになり、オーディオマニアになっていった」と、ラジオとの関係を語るのは杉山代表。「我々の生活の中にデジタル技術が入りこむと、一度に多くの情報を処理しなくてはならなくなる。そういった面で、“眼”を束縛しないラジオは、まだまだ魅力のあるメディアだ」と語る。 さらに、「デジタルラジオで映像が配信できるようになっても、単にパーソナリティーが話しているスタジオを映像で放送してもつまらない。今後は、その番組や楽曲、会話の内容に会った映像や静止画をどのように音声放送に取り入れるかが鍵になる。6カ月という期間では実験しきれない面もあると思われるので、来年になってもなんらかの形で、フォーラムのような形式は継続していきたい」と、今後の予定を語った。
また、庄司副代表は、日本でのサービス開始も予定しているアップルのiTunes Music Store(iTMS)を例に挙げ、「音楽の流通形態が変化し、今後はネットワーク配信が本命になると言われている。しかし、例えば100万曲の中から選べるシステムを用意しても、何を買うか、どんな曲が自分に合うかわからなければ選びようがない。良い音楽を紹介し、音楽と人との出会いを提供するというラジオの役割はデジタルラジオになっても変わらない。それは、タワーレコードなどのCDショップについても同じことだと思う」と、ラジオの役割について意見を述べた。
□東京FMのホームページ
(2005年6月7日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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