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“ウォークマン史上最高音質”を謳って登場したNW-S700Fシリーズから1年。新Sシリーズ「NW-S710F」が登場した。従来モデルから引き続き、ノイズキャンセル機構を搭載しているほか、1.8型のカラー液晶を装備し、MPEG-4 AVC/H.264のビデオ再生に対応。デザイン、操作体系の一新による操作性能の向上も図っているようだ。 機能的には、従来のフラッグシップモデルNW-A800シリーズに、ノイズキャンセル機能を加えた進化モデルという位置づけだ。もっともAシリーズもモデルチェンジ、NW-A910シリーズとしてノイズキャンセルやワンセグなどを追加しているのだが、今回、一足先に新ノイズキャンセルモデル「NW-S710F」をテストした。
新製品の機能や完成度とともに気になるのは、同社のウォークマン戦略の中の位置づけ。というのもウォークマンは大きな戦略転換点を迎えており、米国や欧州では、Windows Media Player 10/11とWM DRMをサポートし、転送ソフトにSonicStageを使わない製品となったのだ。しかし、国内では従来のSonicStage/ATRAC対応で変更されていない。同社では、「各地域の特性を考慮した製品戦略のためで、サービスなどもMoraを中心に位置付けていく」ということだ。 吉岡オーディオ事業本部長によれば、「技術的にWM DRM系とATRAC系の両サポートは現時点では難しい」とのことだが、このあたりが、製品でどう実装されているかも気になるところだ。 実売価格は、8GBが27,000円前後、4GBが21,000円前後、2GBが17,000円前後。同じくビデオ対応したiPod nanoの23,800円(8GB)、17,800円(4GB)と比較すると若干高価ではあるが、ノイズキャンセルというnanoにはない機能を備えている。はたしてその実力はどうだろうか?
■ 液晶を大型化。NCスイッチを装備
付属品はCD-ROMや、イヤフォン、S/M/Lのイヤーピース、イヤフォン延長ケーブル(65cm長)、USBケーブルなど。付属イヤフォンは、EXモニターヘッドホン「MDR-EX90SL」と同じ大口径13.5mmのドライバーユニットを採用し、高音質化を図っている。 外形寸法は79.5×42.0×13.0mm(縦×横×厚さ)と薄型で、最薄部は11.5mm。重量は約52g。iPod nanoと比べると若干厚いが、手に持った際の重量やサイズについては、さほど変わらない印象だ。 本体前面に1.8型/240×320ドットのカラー液晶ディスプレイを装備。その下に5方向ボタンと、BACKボタン、オプションボタンなどを備えている。ボタンのレイアウトは若干違うものの、基本的なボタン構成/操作体系はNW-A800シリーズと共通といってよい。 デザインの高級感はあるのだが、微妙な凹凸加工を施したNW-A800とは異なり、少し滑りやすいのが気になる。ストラップなどの活用が必要だ。右側面にはボリュームボタンを、左側面にはHOLDスイッチを装備する。 本体上部にはヘッドフォン出力と、ノイズキャンセルのON/OFFスイッチを備えている。このNC ON/OFFスイッチがNW-S710シリーズの大きな特徴ともいえる。ヘッドフォン出力部は多極タイプだが、ノイズキャンセルが必要なければ、通常のイヤフォンも利用できる。本体下部にはPC連携などに利用するWM-PORTを装備する。 新iPod nanoと比較すると、デザインの違いは明確だ。薄さはnanoだが、横幅の小ささはNW-S710F。第1/2世代のiPod nanoユーザーにもNW-S710Fのほうが馴染むかもしれない。個人的にもデザインはNW-S710Fのほうが好みだ。
■ SonicStage CPを利用。WMPからの転送は不可
対応音楽形式は、MP3(32~320kbps)、WMA(32~192kbps)、ATARAC(48~352kbps)、ATRAC Advanced Lossless(64~352kbps)、リニアPCM、AAC(16~320kbps)、HE-AAC(32~128kbps)。ただし、DRM付きのWMA、AACの転送/再生には対応しない。 転送/オーディオ管理ソフトは、「SonicStage CP(Ver.4.3)」を採用する。日本に先行して製品発表された欧州/米国向け「Sシリーズ」では、転送ソフトにWindows Media Player 10/11を採用し、WM DRMをサポート。一方で、ATRAC系のコーデックが非サポートとなっている。日本では従来通り、SonicStageでATRACサポート、WM DRM非サポートという形が継続となっている。
とはいえ、基本的なハードの仕様は欧米モデルと大きく変わらないので、WM DRM楽曲も利用できるのでは? と考え、まずはWindows Media Playerから楽曲転送を試みた。しかし、結論からいうと、WMPからの転送には非対応だ。 NW-S710Fを接続するとWindows Media Player 11から[WALKMAN]と認識されて、転送もできる。しかし、転送した楽曲がNW-S710Fからは認識されないのだ。SonicStageから転送した場合[OMGAUDIO]というフォルダに格納され、ユーザーからは確認できない形式となるが、WMPから転送した場合は[Music]というフォルダに転送されるだけ。 WMPからは転送はされているものの、再生はできないので、単なるメモリ容量の無駄使いということになる。ちなみにWM DRMで保護されたビデオファイルについても同様に転送されてしまうのだが、再生はできない。
操作モードは、ホームメニューから選択する。同メニューは携帯電話風の9つのアイコンから機能を選択するもので、[インテリジェントシャッフル]、[FMラジオ]、[イニシャルサーチ]、[フォトライブラリ]、[ミュージックライブラリ]、[ビデオライブラリ]、[各種設定]、[録音]、[再生画面へ]の9つのモードが用意される。 ビデオ再生時は、「ビデオライブラリ」から、音楽再生時は[ミュージックライブラリ]から操作を行なう。操作は液晶左下の5方向ボタンと、同ボタン右下のBACK/HOMEボタン、右上のOPTIONボタンを利用する。 5方向ボタンを利用してライブラリで任意のコンテンツを選択するだけで、再生開始される。ライブラリ内のファイルはサムネイル付きやファイル名のみなどの表示方法が選択可能だ。
■ シンプルながら使いやすい検索機能
基本的な楽曲検索機能は、ウォークマンA「NW-A800シリーズ」とほぼ共通。本体下部の5方向ボタンで選択と階層や上下移動、BACKボタンで前の画面に戻るなどの操作が可能となっている。 楽曲検索は[ミュージックライブラリ]から行ない、アルバムやアーティスト、ジャンルごとにソートされた楽曲を選択できる。単純なリスト表示で上下方向に表示された楽曲を選ぶだけでなく、横方向のキー操作により50音やアルファベット順のショートカットが行なえる。例えば、Aから始まるアーティストから、Zまでの移動などが左右のキー操作で瞬時に実行できる。 リストの移動などのレスポンスは非常に良く、楽曲選択したあとも瞬時に再生される。動作速度に関する不満は皆無だ。また、アルバム検索時には通常のリストからの検索に加え、ジャケット写真からの検索ができるなど、多様な検索手段が用意されている。検索中や楽曲再生中にOPTIONボタンを押すと、シャッフル/リピートなどのプレイモード設定や、音質設定、ブックマーク登録などが可能となっている。
またウォークマン/SonicStage CPの特徴として、読み仮名検索による日本語楽曲の50音順検索が挙げられる。SonicStage上で日本語楽曲にカナを自動付与することで、日本語楽曲でも50音順で検索できるという機能だ。これは、ほかのオーディオプレーヤーにはない魅力で、やはり非常に便利だ。WMPでは実現できない機能なだけに、このあたりが、日本でのSonicStageサポート継続の理由の一つなのかもしれない。日本語のこだわりは、ウォークマンならでは。特に邦楽ファンには非常に重要なポイントだ。 操作体系に関して言えば、NW-A800シリーズの洗練した使い勝手を踏襲しているので非常に使いやすい。ただし、操作ボタンがプレーヤーの最下部となっており、上下左右の操作が一枚のパネルになっているため、どの操作を行なえるのか、ボタンを見ずに直観的に操作することは難しい。操作のなじみやすさでいえば、NW-A800シリーズのほうが個人的には好ましいと感じる。 [良く聞くシャッフル]、[タイムマシンシャッフル]などのインテリジェントシャッフルも搭載。イニシャルサーチ機能も備えているので、大量の楽曲を転送した時もかなり柔軟な再生が可能だ。
■ 専用スイッチ装備で、NC機能の使い勝手が大幅向上
付属イヤフォンは、ノイズキャンセル用のマイクを左右ハウジングに内蔵。同社のEXモニターシリーズ共通の設計で、カナル型のイヤーピースを先端に配しながら、13.5mmの大口径ドライバユニットを備えたもの。 遮音性はカナル型ほどは高くないが、一般的なインナーイヤフォンよりは優れており、装着しただけでもそれなりの騒音低減効果がある。また、装着方向がしっかり決まっているため、自分に合ったサイズのイヤーピースを選べば、しっかりと耳にフィットする。 新「ウォークマンS」のNC機能の特徴といえるのが、本体上部にNC ON/OFF用のスイッチを装備したこと。従来はメニューの奥に入ってからNCのON/OFFを選択するのが面倒だったが、新モデルではより簡単にNC効果を選択可能になった。 ただし、音楽再生を停止すると数分で自動的に電源が落ちてしまうため、ノイズ低減はできない。飛行機での長距離移動時などには、最小音量でリピート再生すれば、単なるノイズ低減用イヤフォンとしても利用できるそうだ。 【訂正】記事初出時に音楽を聴かない時でも騒音低減が可能としておりましたが、正しくは音楽再生中、もしくは一時停止中のみNC効果を保持できるの誤りでした。お詫びして訂正いたします(10月15日追記)
また、従来モデルと同様にノイズキャンセルの効果を30段階で設定できる。出荷時の初期状態では中間になっている。ノイズキャンセルの効果はかなり高く、電車内ではエアコンのファンノイズはほとんど聞こえず、モーター音もかなり低減される。一方、レールの連結部を越える際の音など非連続的な騒音にはさほど効果はない。 地下鉄ではNCの効果はしっかり体験できる。NC OFFでは、ボリュームが半分以下の場合、音楽と外のノイズが混じってしまうが、NC ONにすると、ぐっと音像が目の前に広がる。音楽の“聞きやすさ”が異なってくる。比較的小ボリュームでも、音楽を楽しめるので、周りへの音漏れを気にせずに音楽を楽しめる。ただし、イヤピースの選択によっては、遮蔽性が足りずにノイズ低減効果をきちんと感じられないこともあるので、注意したい。 また、NCをONにして電車で座席に座っている場合、隣の人の話声はかなり聞こえるが、前に立っている人の話し声はかなり遠くに聞こえる。音楽を聞いていない場合でも、ファミレスで隣の席に座っている人の話し声が、隣の隣ぐらいに遠のいたような効果が感じられる。
ノイズキャンセル効果の調整については、効果を高めても、人の話し声や、物を落とした音など突発的なノイズに関しては効果が上がるわけではない。基本的には初期状態でも問題ないだろう。ただし、飛行機内などでは、連続的かつ非常に大きな騒音となるので、こうした場合は、意味がありそうだ。いずれにしろハードスイッチの搭載と、無音時のノイズキャンセル対応は、活用を大きく広げる重要な機能強化ポイントだ。 音質も良好。まずは、NC OFFで聞いてみたが、中低域のボリューム感が特徴的で、情報量も豊か。DSEEの効果も自然で違和感を感じることはない。ONでもOFFでも問題ないが、160kbps以上のAACだとあまり効果の違いを感じない。クリアステレオはONのほうがいいだろう。 特筆すべきはNC ON/OFF時の音質差の少なさ。NCをONにすると、音像が目の前に出てくる印象があるが、音場の変化は小さく、クラシック系でもNC OFFよりもONがフィットすることも多い。静かな環境であれば、じっくりと聴き比べなければNC ON/OFFかを当てることもなかか難しいかもしれない。基本的にはNC OFFでもONでも不満を感じることはないだろう。このNC性能の向上というのも非常に魅力的だ。
■ シンプルなビデオ再生機能
NW-S715Fでは新たにビデオ再生にも対応した。サポートしている動画形式は、MPEG-4 AVC/H.264とMPEG-4。対応ビデオ形式は、MPEG-4 AVCがBaseline Profile レベル1.2/1.3で解像度が320×240ドット、ビットレート768kbps、フレームレート30fpsまで。MPEG-4 SPが320×240ドット、2.5Mbps、30fpsまでとなっている。 付属ソフト「Media Manager for WALKMAN」により、ウォークマンに専用動画の転送が可能。ただし、同ソフトには変換機能がないので注意したい。Image Converter 3.1などのウォークマン用動画作成対応ソフトを用意する必要がある。基本的にはiPod用のQVGA動画も転送できるはずだが、転送できないファイルもあった。
ビデオの再生機能はシンプル。再生/停止とスキップ/バックの基本操作は音楽再生時と同じだ。ただし、OPTIONボタンから液晶の表示方向を選択でき、縦位置だけでなく横位置でもビデオ視聴が可能となっている。横位置は右利き用/左利き用の選択も可能だ。 1.8型という液晶サイズはオーディオプレーヤーとしては充分大きいが、ビデオプレーヤーとしては迫力不足だ。ただし、色表現はしっかりしており、バックライトの輝度も柔軟に変更できるため、画質面では不満はない。
そのほか、写真表示機能も搭載しており、Media Manager for WALKMANから写真を転送できる。Media Managerでは写真をNW-S715Fの解像度に最適化して転送できる。また、表示方向切換や、スライドショー、音声付きのスライドショーに対応するなど、機能的にも充実している。 FMチューナや、時計表示機能も搭載。オプションの録音ケーブルを利用することで、ダイレクトレコーディングにも対応する。ビデオ再生時間は約9.5時間、音楽再生時間は約30時間(ATRAC3)/約33時間(MP3)。音楽再生時にはほとんど不満がないといえるだろう。
■ 使いやすさとNC機能に満足 大型液晶の装備による操作性の向上という基本性能の充実だけでなく、ビデオ再生に対応。さらに、ノイズキャンセルもより柔軟に活用できるようになるなど、従来モデルから大幅に魅力的な製品に生まれ変わった。さまざまな付加価値を小さなボディにまとめながら、それぞれの機能がしっかりとした実力を伴っている完成度の高いウォークマンだ。 ノイズキャンセル機能も充実し、2万円程度で“プレーヤー付き”で高い効果を得られる。非常にコストパフォーマンスの高いノイズキャンセルイヤフォンともいえる。もちろん、密閉型のノイズキャンセルヘッドフォンのほうが、遮音性の高さを生かしてより快適に利用できるシーンもあるだろう。しかし、ノイズキャンセルヘッドフォンの購入を検討しているのであれば、購入検討の対象に入れたい製品だ。検索性能の向上など、NW-S700Fシリーズのユーザーにとっても非常に魅力的なアップグレードといえる。 機能と性能のパッケージングが素晴らしく、大きな不満はないのだが、あえてあげれば、海外モデルで対応したWM DRMについてだろう。SonicStageでしか実現できない機能があるのは間違いなく、日本語検索などウォークマンの個性/アドバンテージも確かに理解できる。一方で、サブスクリプション型サービスなどが充実したWM DRM系のサービスに魅力も感じる。「いまのところあまり要望はない」とのことだが、ぜひ、WM DRM対応も実現してほしい。
(2007年10月12日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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