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日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2008」を5月22日から25日まで実施する。入場は無料。公開に先立って20日、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。 NHK放送研究所の研究活動の成果を視聴者に公開・説明するイベントとして、毎年公開されている。2008年は、スーパーハイビジョンシステムのクオリティ向上や、スーパーハイビジョンを実際に家庭に導入するための技術展示、BSアナログ放送が終了する2011年以降に向けた「高度BSデジタル放送システム」の提案、「さらに先の放送」として開発が進められる立体テレビの紹介などが行なわれている。
なお、今年の12月にサービス開始が予定されている「NHKオンデマンド」については、技術が完成し、正式サービス開始となるため、今回は展示されなかった。
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■ スーパーハイビジョンのフル解像度のまま撮影/表示へ 技研公開の目玉として、毎年ブラッシュアップされているスーパーハイビジョンシステム。解像度7,680×4,320ドット、フレームレート60Hzの映像に、22.2chのサラウンドを加えた高臨場感システムを、例年通り450インチのシアターで体験できる。今年の上映映像は冬の北海道の自然やSLなどで、流氷が広がる北の海や、丹頂鶴の優雅な姿などが楽しめる。鳥の鳴き声の移動感や、SLの蒸気が噴出す音の移動感など、音響にも注意して味わいたい。
撮影しているカメラや表示するプロジェクタは昨年までのものと基本的に同じで、カメラは800万画素(3,840×2,160ドット)の撮像素子を4枚、画素ずらしで使用。表示するプロジェクタも反射型液晶(LCOS)の1.7インチ、4,096×2,160ドットのパネルを4枚(R、G1、G2、B)使い、スーパーハイビジョンの表示を画素ずらしで実現している。ただし、カメラ側の改良を進めたことで、S/N比などが向上。映像クオリティは上がっている。 今回の展示の目玉は、画素ずらしを行なわない技術にあり、撮影側ではスーパーハイビジョンがそのまま撮影可能な3,300万画素(7,680×4,320ドット)の2.5インチ、CMOSセンサを3板式で使ったカラー撮影可能なカメラを展示。昨年も同CMOSは展示されていたが、モノクロの撮影にしか対応していなかった。今回は3色分解プリズムやレンズを新たに開発。カラー化に成功した。さらに、72Gbpsの高速信号処理が可能な信号処理回路なども試作されている。
これに合わせて、映像を伝送するための光伝送装置も試作。従来は1色当たり同軸ケーブル16本が必要だったが、試作機では12芯光マルチケーブル3本程度で伝送できるという。デモでは3,840×2,160ドットのモニターに実解像度から切り抜いて表示。この解像度の場合ではケーブル1本で伝送できるという。なお、現在は8bitで伝送/表示を行なっているが、カメラからは12bit出力が可能で、将来的には12bitでの伝送/表示にも対応したいという。また、カメラの小型化にも繋がるとしている。 フル解像度での撮影/表示を実現するために、3,300万画素にフル対応したプロジェクタも試作/展示された。ビクターと共同開発したもので、解像度8,192×4,320ドットの「1.75インチ8K4K D-ILAデバイス」を搭載している。2段階の変調部で構成されており、スーパーハイビジョン映像を入力前に画像処理回路で3,840×2,160ドットの色変調データに、7,680×4,320ドットの輝度データに分ける。色信号は800万画素/4,096×2,160ドットのLCOSパネルを3枚利用して表示。リレーレンズを介して、第2変調部で輝度用素子へと投写。輝度信号に対しては、7,680×4,320ドットの輝度データを8,192×4,320ドットの単版LOCSパネルに入力して表示。この2つの映像を合わせたものがスクリーンへ投写される。
人間は色信号に対しては輝度よりもアバウトなので、輝度のみ7,680×4,320ドットにすることで十分な画質を体験できるという。色信号用に800万画素デバイスを用いることで、低コスト化も実現できる。さらに、RGBの光出力を輝度用素子でさらに輝度変調させているため、黒をより暗く表示することが可能。コントラスト比は110万:1を実現。投写デモではほぼ“真っ暗”な黒が体験できる。ランプには2kWのキセノンを使用し、輝度は1,200ルーメン。「2段階変調による黒表現は構造も単純なため、民生用プロジェクタにも使える技術」だという。 前述のカメラと組み合わせることで、撮影/表示を3,300万画素のフル解像度で実現可能だが、このプロジェクタ用の映像信号にリアルタイムで変換/再生できる装置が現在のところ存在しないという。そのため、プロジェクタのデモでは全て静止画を使用。「2009年の技研公開では、フル解像度撮影/表示のスーパーハイビジョンシアターを実現できるよう、頑張りたい」としている。
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■ 高度BSデジタル放送でスーパーハイビジョンを家庭へ 2025年を目処に家庭向け本放送を予定しているスーパーハイビジョン。家庭に伝送するための技術開発も進んでいる。スーパーハイビジョンの非圧縮映像は24Gbpsという膨大なデータ量のため、これを16分割(画面を8分割×時間を2分割した30Hz)し、16台の符号化ユニット(FPGA)でMPEG-4 AVC/H.264に圧縮。約118Mbpsまでデータ量を減らすことに成功した。システム自体は昨年も展示されたが、今年はその画質が向上するとともに、22.2chのサラウンド音声を約2MbpsのAAC音声に圧縮。映像と合わせて126MbpsのMPEG-2 TSとして出力できるようになった。 従来は伝送方法として、21GHz帯を利用した衛星と組み合わせた展示を行なっていたが、今年は2011年以降12GHz帯のBSアナログ放送が終了し、BS-5/7/11の3chが開放、世界無線通信会議(WRC)2000で新たに割り当てられた4ch(BS-17/19/21/23ch)が利用可能になることから、これを用いた大容量伝送方式を「高度BSデジタル放送」としてNHKが提案。将来の利用方法の1つとして、スーパーハイビジョンの伝送を紹介している。 現在のBS放送(ISDB-S)では、8PSKという変調方式を用いることで、52Mbpsという情報レートを実現している。高度BSデジタル放送ではここに、LDPCと呼ばれる強力な誤り訂正符号を用いた高能率な変調方式を導入することで、伝送容量の増大を見込んでおり、8PSK方式(2中継器運用のバルク伝送)で140Mbpが実現できるという。これは現在の放送と同じ45cm径のアンテナで受信可能で、雨などの影響も現在と同程度のレベルに抑えられる状態でのレートとなる。 アンテナ径を120cm径などに大型化することで、16APSKでは186Mbpsの伝送も可能になる。前述の140Mbpsでも、126Mbpsのスーパーハイビジョン映像を伝送可能なことから、スーパーハイビジョンの伝送も提案されたというわけだ。会場ではリアルタイムの圧縮、伝送、デコードを経て、未来の家庭をイメージしたコーナーで、スーパーハイビジョン映像を表示している。
家庭をイメージしたブースでは、56インチの3,840×2,160ドットの液晶パネルを4枚並べてスーパーハイビジョンを表示。その周囲に小型スピーカーを配置。サブウーファや、筐体の上部、中部、下部にユニットを埋め込み、1本で3ch再生が可能なトールボーイスピーカーを配置し、22.2chシステムを構築している。「実際に全ての家庭に22.2chシステムを導入するのは現実的ではないかもしれないが、5.1chなど、それ以下のシステムでも高臨場感を得られるようなダウンミックス技術の開発にもチャレンジしたい」という。 ほかにもスーパーハイビジョン関連では、イギリスBBCと共同で開発している圧縮符号化技術「Dirac」も展示。信号を高周波成分と低周波成分に分解して解析する「wavelet変換」と、動き補償を用いた方式で、“オーバーラップブロック動き補償”と呼ばれる技術を取り入れることで、ブロック処理の影響を低減しているという。
■ 高度BSデジタル放送でダウンロード型番組配信 前述の通り、「高度BSデジタル放送」はNHKがBSアナログ放送終了後に採用されるよう政府に提案するシステムだが、スーパーハイビジョン伝送以外の提案も行なわれている。高度BSデジタルは、伝送量が増大するだけでなく、MPEG-2 TSに加え、IPパケットの伝送が可能になるのが特徴で、それを使ったダウンロードサービスのデモが行なわれている。 リアルタイム放送と同時に、ダウンロードサービス用の番組データも放送。ユーザーはテレビで保存したい番組をあらかじめ指定すると、それに応じて放送配信データが保存され、番組が蓄積。好きなときにダウンロードが完了した番組が楽しめるというもの。通信のような輻輳(ふくそう)が無いため、多数のテレビへ同時に高速ダウンロードができるのが特徴。約70Mbpsのダウンロードサービスを実施した場合、放送のリアルタイムに比べ、10倍のスピードで1番組が保存できるという。
衛星伝送路区間だけ、TLV(Type Lengtt Value)というフォーマットに格納することで、IPパケット、ヘッダー圧縮IPパケットを多重化して伝送。可変長パケットを利用することで伝送効率が上がるほか、IPヘッダー情報を圧縮することで、IP化に伴うオーバーヘッドを削減。通信系サービスとの整合性や他機種との接続性が向上するという。 配信する番組のフォーマットなどは決まっていないが、「MPEG-4 AVCでもMPEG-2でも、IPパケット伝送なので柔軟に対応できるのが特徴。ポータブル機器向けの低解像度動画を自動作成するデジタルレコーダなどが話題だが、ポータブル向けの動画を最初から放送と一緒にダウンロード配信することも可能」だという。
なお、総務省が3月にIPTVの国際標準化活動に向け、国内における審議を集約する「IPTV特別委員会」を情報通信審議会内に設置しているが「通信を用いたIPTVとも連携していきたい。将来的には放送からのダウンロードと、通信からのダウンロードをユーザーに意識させないよう、大河ドラマなど、多くの人が保存したいものは放送で配信、専門的な番組は通信でダウンロードするなど、シームレスなシステムとしたい。ハードウェアとしてはレコーダへの内蔵や、テレビに追加するオプション機器などの形態になるかもしれない」という。
■ インテグラル立体テレビ 「スーパーハイビジョンの次のテレビ」も研究が進められている。撮影時に微小レンズを大量に並べたレンズアレーを通して撮影を行ない、表示も同アレーを通して再生することで、多くの視点から見た映像を一度に撮影/表示。特殊なメガネなどを使わず、裸眼で立体視が可能な「インテグラル式」立体テレビを紹介している。
解像度(レンズの数)が180×140個と増加。また、立体感を向上させるため、表示するディスプレイサイズやコンテンツに応じて、立体像の奥行き再生位置を任意に調整できる技術を新たに開発。より“立体度”が増したデモとなっている。なお、投写には緑2ch、赤1ch、青1chの映像を合成したものを使っており、2台のスーパーハイビジョンプロジェクタで投写した映像を合わせている。 レンズアレーの数を増やせば増やすほど多くの視点から撮影/表示ができ、滑らかな立体映像が実現できそうだが、レンズアレーの増加と撮影/表示用のカメラとプロジェクタの解像度はバランス良くどちらも増加しなければならない。現在のデモではスーパーハイビジョン映像を用いており、1つのレンズに40画素の映像が通る計算となる。これをアレーのみ増加させても無意味で、最悪1アレーに1画素を通すと単なる平面映像になってしまう。アレーを増やすとともに、そこに通す映像もより高画素化が必要だという。
□NHKのホームページ
(2008年5月20日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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