小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

生まれてはじめて「ジャックポット」が出た

CES帰国後一発目のメルマガだが、CESの取材成果とは全然違う話をしたい。

実は今回のラスベガス滞在で、生まれてはじめて「ジャックポット」というヤツを体験した。

ラスベガスに取材に来るようになってそろそろ15年以上。毎年100ドルから200ドルくらいは賭けていたが、特別な大当たりをすることもなく、まあまあ負けてきた。

それがだ。渡米初日の1月3日、まだ同業者も少なく、わりとヒマだっただめ、「まあ、いつものごとくちょっとだけ」というつもりで50ドルほどスロットマシンに突っ込んだ段階で、いきなりジャックポットに遭遇した。

ジャックポットというと「数万ドル」「数十万ドル」というアタリを思い浮かべるかもしれない。「西田さん、もう働かなくていいですね?!」と思った方、そんなに世の中甘くない。筆者が当たったのは1597ドル。いい額だが、働かなくてもいい状態にはほど遠い。(そもそも、何十万ドルも当たったら、誰にも言わない)

とはいえ、ジャックポットはなかなか貴重な体験であるのも事実。今回はみなさんに「ラスベガスでジャックポットに当たったらなにが起きるか」をお伝えしよう。

正直、アタリは突然だった。突っ込んだ50ドルのうち30ドルが数分で消え、「デスヨネー」と思っていたら、いきなり派手な音が鳴った。なんか画面には「ワイルドカード」の札がたくさんある。ワイルドカードが多数重なり、しかも「出たアタリの10倍」という条件が重なった結果、ジャックポットとなったらしい。

よく見るとすごいアタリ。たまたま「10倍」の時にワイルドカードが重なった結果らしい

ジャックポットというと、コインがジャラジャラ出てくるイメージを持っているかも知れないが、今のラスベガスのスロットマシンはコインを使わない。アタリ音は鳴るが、それだけだ。

「お、なんかたくさん当たった」と思って数字を見ていると「うわ、ほんとにデカイあたりらしい」という気分になってくる。で、そうしているうちに……。

画面にブルースクリーンが出る。PCを使っている人間からすれば、正直エラースクリーンにしか見えない。

これが記念すべきジャックポットの画面。まさかのブルースクリーン

よく読むと画面には「Jackpot」の文字。どうやら店員を呼べ、ということらしい。台の横にある「Call Atendant」のボタンを押すと、どこからともなく店員がやってきた。

「やあ! おめでとう! 君はジャックポットだ! とりあえず、フォトIDを見せてもらえるかな?」

店員の言に従いパスポートを出すと、彼はそれをそのまま手にした。

「わかった。この額だし、君は旅行者だから、賞金は30%の税金を引いた後の手渡しがいいね。パスポートは一旦預かるから。お金と書類を持って戻ってくるから、待っててね」

そう言って、パスポートを持ったまま店員はどこかへ消える。

おい、消えるのか。パスポート持って。

海外で、パスポートを手放すことがどれだけ危険で不安なことか。ジャックポットとはいえ、ちょっとこれには面食らった。筆者はそのまま、パスポートのない、身分証明のできないおっさんとして、カジノの片隅に15分ほど放置されていた。この15分がなんと長かったことか。

「やあ! お待たせ。じゃあ、数えるね……。これで全部だね。ジャックポット前の賭け金は、そのままスロットマシンの中にあるから、続けてもらってもいいよ。こちらが税務処理の書類ね。すでにこちらで30%の税を払っているから、お国では払わなくもいいよ。じゃ、またがんばって!」

現金と書類を手渡すと、店員のお兄さんはどこかへまた去っていった。彼にしてみれば、これが日常なのだろう。

手渡された現金と税金の書類。確かに1000ドル以上手元にある。こんなにドルの現金を持ったのは初めてかもしれない

やっぱり大きいのは「税金として30%持って行かれる」ということだろう。今回の場合、1600ドル弱勝っているのに、もらえたのは1000ドルちょっとである。

スロットマシンの場合、ジャックポットで1200ドル以上の勝ちが出ると課税されることになっており、基本的に外国人はこの「自動的に30%が税金としてとられる」処理になっている。別途「ITINナンバー」と呼ばれる個人納税番号を持って
いると、課税国はその人の本国(筆者の場合には日本)となり、アメリカで税金が引かれることはない。ITINナンバーの取得には手続きが必要、とのことだが、その辺は教えてもらえなかった。

まあとにかく、年初から筆者はツイていた。

ただ、世の中いいことばかりではない。

CES期間中、ライドシェアのLyftは自動運転車での営業を行っていた。たまたま自動運転車が近くにいると、そちらが対象になり、「自動運転タクシー」を体験できたのだ。同業者の中には、会期中に2回も乗った人がいたのに、筆者は結局、一度も自動運転車に乗ることができなかった。ジャックポットで運を使った分、Lyftの「自動運転ガチャ」には回ってこなかったようである。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2019年1月18日 Vol.205 <カーモンベイベーアメリカ号>
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01 論壇【小寺】
CES2019サイドストーリー
02 余談【西田】
生まれてはじめて「ジャックポット」が出た
03 対談【小寺】
小寺・西田のCES2019総まとめ (1)
04 過去記事【小寺】
タダなら貰うけど? タブレットが引き起こす歪み
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41