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地デジ放送波の活用でゲリラ豪雨を精密に予測。NICTが板橋区で試験観測開始

 国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)は31日、地上デジタル放送波を使った水蒸気量推定手法の試験観測を、東京都板橋区で開始したと発表した。水蒸気の分布を正確に知ることで天気予報の改善につながり、ゲリラ豪雨の予測精度向上が期待できるという。

試験観測のイメージ

 NICTでは、ゲリラ豪雨など局所的で激しい気象現象に対する防災・減災を目指し、「フェーズドアレイ気象レーダ」など雨を観測する技術の研究開発を進めている。一方、雨の源である水蒸気量はレーダでは見えず、この分布を把握することで早期予報の精度を向上するため、地デジ放送波の遅延プロファイルの位相から電波の伝搬遅延を求め、地表付近の水蒸気量を推定する方法を開発。'17年3月に発表した。放送波が送信所から各家庭まで空中を伝わるときに大気中に存在する水蒸気の影響で発生する、わずかな遅延をピコ秒精度(ピコ=1兆分の1)で精密に水蒸気量を測定できるという。

 この方法の実用化に向け、地デジ放送波の反射体の分布が異なる状況下での実証実験を行なうため、板橋区と豪雨予測技術に関する研究開発における協力に関する協定を締結。自治体との協定を結んで試験観測を開始するのは初となる。

 今回の試験観測では、板橋区役所の屋上に地デジ放送波受信装置を設置。東京スカイツリーからの放送波を受信する。東京スカイツリー方向に向けたアンテナに加え、その反対方向に向けた別のアンテナを利用。板橋区内の大きな建物からの反射波を受信することで、板橋区上空の水蒸気量を推定する。

地デジ放送波受信装置

 推定された水蒸気量は、板橋区内の3地点に設置された移動式地上降水観測システムで測定される気温・湿度・気圧の情報と比較して品質を検証。板橋区役所屋上からは東京スカイツリーと反対方向に多数のビルが存在し、小金井市にあるNICT本部での試験観測時よりも水蒸気量分布の解像度の向上が期待できるという。

移動式地上降水観測システム

 移動式地上降水観測システムで得られる雨量に関するデータは板橋区に提供され、ゲリラ豪雨対策などの防災目的に利用。また、埼玉大学に設置された新型の気象レーダ「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ」の品質評価にも利用される予定。地デジ受信装置を設置予定の板橋区役所と、移動式地上降水観測システムを設置予定の3地点で、積乱雲の発生から発達期の過程の観測を行なう。

マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)(埼玉大学設置)
板橋区役所と移動式地上降水観測システムが設置される地点(3点)(国土地理院地図のデータに板橋区役所、 移動式地上降水観測システムの設置点の位置を重ねて作成)

 推定された水蒸気量分布のデータは、気象数値予測モデルのデータ同化に利用。気象数値予測の精度が上がった場合、ゲリラ豪雨による大雨予測、突風/強風予測が向上し、防災/減災や日常生活の利便性向上につながることが期待されている。