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BRAVIAのNetflix専用画質モード誕生の理由。高画質&快適さへ“次の一歩”

映像配信サービスのNetflixを最適な画質で視聴するために開発された、ソニーBRAVIA MASTERシリーズの「Netflix画質モード(Netflix Calibrated Mode)」。なぜ両社が組んで、テレビに特定の映像配信サービス向け画質モードを搭載することになったのか、両社が共同開発した意図を聞いた。

Netflix バイス・プレジデント デバイス・パートナーエコシステムのスコット・マイラー氏

Netflix画質モードとは

Netflix画質モードの最大の特徴は「映画監督などクリエイターのビジョンや意図をテレビ画面で忠実に再現することを目的に開発された」という点。11月に発売された有機ELテレビ「A9Fシリーズ」と液晶テレビ「Z9Fシリーズ」の各フラッグシップ機において初めて搭載されたもので、両社が共同開発した。

ソニーとNetflixが共同開発

ソニーの映像品質・デバイスの専門家と、Netflixの色彩研究者が共同開発し、4KやHDRなど、あらゆる種類のNetflixコンテンツが対応。A9FとZ9Fの設定メニューでONにするだけで細かい調整は不要という。

ソニーの画像処理技術を活用し、ポストプロダクション工程でのモニター校正と同様の表示を実現するというもので、多くの映像制作現場で使われているソニーの有機ELマスターモニター「BVM-X300」において、監督らが観た映像と変わらないクオリティの映像を家庭に届けることを狙っている。「Netflixの映画やドラマ、ドキュメンタリーなどの作品を、制作者の意図通りに正確な色、正しいダイナミックコントラスト比、いわゆるソープオペラ効果の影響を受けない本来の動きでお楽しみいただける」としている。

Netflixバイス・プレジデント デバイス・パートナーエコシステムのスコット・マイラー氏と、ソニービジュアルプロダクツ 技術戦略室 主幹技師の小倉敏之氏が、両社が協力した意図と、今回のモードで実現したことなどについて説明した。

さらに、Netflixオリジナル映画「クリスマス・クロニクル」プロデューサーのクリス・コロンバス氏も来場。クリエイターの視点から、同モードが映像業界に与えるインパクトについて語った。

Netflixが視聴体験で重視する2つのポイント

Netflixのスコット・マイラー氏は、10年前は1,000万会員に満たなかったNetflix有料会員が現在は190カ国で1億3,000万人まで成長したことを振り返り、マイラー氏が最初に手掛けたプロジェクトがソニーのPlayStation3でのNetflix対応だったことを説明。

Netflixのスコット・マイラー氏

多くの人がどこでも簡単に映像を楽しめるためには2つのポイントが必要としており、その1つは「利便性」。全てのデバイスで簡単に起動して使えることを目指し、家電メーカーに留まらずアップルやGoogleといったプラットフォーマー、コムキャストやKDDIといった通信事業者と連携している点を紹介した。過去1カ月間で、Netflix会員が使用したデバイスの数は5億以上に上るという。

スマホでの視聴を一度中断した場合など、アプリを再起動しても再び同じ操作をしなくても直前の状態へすぐ戻れるのと同様に、テレビのアプリでも快適な体験を実現するため「Netflix推奨テレビ」の認定を2016年より開始。その中でも、画質に関して高いレベルを実現したのが今回のソニーMASTERシリーズ。マイラー氏が2つ目のポイントとして挙げる「美しい映像」を可能にしたのこの製品となる。

現在、日本のNetflix会員がテレビで視聴する割合は50%。Netflix搭載スマートテレビにおける4K/HDR対応は3台に1台の割合で、グローバルの数値に比べて高い。なお、映像制作時の画質については、4K/HDRだけにとどまらず、HDやSDR画質でも同様に効果があるという。

「スタジオクオリティの映像を自宅で」を実現する要素は、「精細な色合い」、「正確なコントラスト比による奥行き感」、「意図された作品本来の動き(フィルム表現)」としている。

BRAVIAがNetflix画質モードを導入した理由

ソニービジュアルプロダクツの小倉敏之氏は、映像配信やテレビの画質進化の歴史を振り返り、特に映像配信は放送に比べて急激にSDからHD、4Kへと解像度が上がってきた一方で、「解像度はテレビの一つの断面」とし、それ以外の品質が4Kの到来と共に進化してきたことを強調。

ソニービジュアルプロダクツの小倉敏之氏

「解像度」だけでなく、「フレームレート」、「輝度ダイナミックレンジ」、「色域(色ダイナミックレンジ)」、「階調(階調解像度)」を合わせた5つの要素について、「4Kで全てが広がった。(色域や輝度ダイナミックレンジなど)いくつかの要素は映画館を上回る。映画館では観られないような映像が家庭で観られる、新しい性能進化」と現状を説明した。

小倉氏が考える画質の5つの要素と、これまでのテレビの進化

テレビと映画館の性能に違いが出てくる中で、「テレビに向けて最適化された“テレビファースト”の作品が出てくると、テレビの能力を最大限に引き出して、最大限の感動を人々に届けていただけるようになる。Netflixがテレビファーストの高品位な作品を、我々はできるだけ性能の高いテレビを提供する。これが合わさって新たなホームエンターテインメントになる」とした。

小倉氏は「この数年間、制作者の意図を伝えるために“高性能なチップセットを搭載して正確に映像を再現する”ことに取り組んできた。ただ、それで十分だったのだろうかと振り返った時に、制作者が『本当はこれが見せたいんだという映像をテレビでは表現できるのかというと、まだまだやれることがあった。再生ではなく再現。制作者が見るマスターモニターと家のテレビはディスプレイのサイズも方式も違う中で、全く同じものを出す 再生ではなく“再現”が重要」とする。

そのポイントについて、具体的なスペックや基準などは公開されていないものの、小倉氏は“風合い”と表現。「映像から受ける雰囲気をテレビで再現する。例えば“秘伝のタレ”とよばれる我々の様々な映像パラメーターをNetflixに開示して、両社で画質を最適化するためにどうするかを設定してきたのがNetflix画質モード」とした。

加えて、「高品位な映像伝送技術が重要。圧縮してノイズがのっては元も子もないが、Netflixが持っているエンコード技術で、制作意図がそのままの形でテレビに届けられ、雰囲気ごと、そのまま再現できる」とした。

もう一つ重要な点としては、初回に一度BRAVIAのNetflix画質モードをONにすれば、他の映像を観ていた後でも再度Netflixアプリを起動すると同モードへ自動で切り替わり、いつでも簡単に最高の画質で楽しめるという点を挙げた。

「クリスマス・クロニクル」の1シーン。サンタの髭、帽子のファーの質感の違いや、トナカイの毛のモフモフ感など、細かく立体的に表現されていた。左がBRAVIA A9F、右がマスターモニターのBVM-X300

映像制作者からみたNetflix画質モード。どのジャンルにも効果はある?

Netflixオリジナル映画「クリスマス・クロニクル」は、カート・ラッセルがサンタクロース役として登場。10歳になってもサンタの存在を信じる妹のケイトと、そんな妹をからかう兄テディが、サンタをカメラに捉えようとソリに乗り込んだためソリが墜落、トナカイまで行方不明になるというピンチを、3人で乗り越える物語。映像はHDRのドルビービジョン対応。

「クリスマス・クロニクル」プロデューサーを務めたクリス・コロンバス氏

プロデューサーを務めたクリス・コロンバス氏は、「ホーム・アローン」や「ハリー・ポッターと賢者の石」などを世に送り出してきた。コロンバス氏はNetflix画質モードについて「この25年間の中で最大のシネマ革命の一つ。『こう見てほしい』という正にその通りに見せてくれる。映画は撮るのも大変だが、ポストプロダクションでの高画質化や意図を表現するために3倍くらいの時間をかけて調整している。それが、今まではテレビ放送されると全然違うものになってフラストレーションがたまっていた。クリスマス・クロニクルでも9カ月かけてポスプロを行なったが、このモードができたことで、CGっぽくない、意図通りのトナカイ”になった。全て解決されて夜もぐっすり眠れる(笑)。」と満足の表情を見せた。

左からクリス・コロンバス氏、ソニービジュアルプロダクツ 小倉敏之氏、Netflixのスコット・マイラー氏

前述したようにソニーMASTERシリーズは有機ELと液晶の2つがあるが、小倉氏はNetflix画質モードの開発にあたり「両方式の違いは意識していない」という。「結果的に出ざるを得ないものだが、あくまでもNetflixが求める映像に対してどれだけ近づけるかを、有機EL/液晶それぞれにおいてとことん突き詰めた」という。

それを実現するために大きく貢献しているのが、両製品に搭載された新たな高画質エンジン「X1 Ultimate」。「従来のX1 Extremeからパフォーマンスが倍になったと説明しているが、単にプロセスパワーだけでなく、あらゆる強化を行なっている。映像データの1ビットごとの扱いまでExtremeからUltimateで変わったことで、見せたかったものを再現できている。これまでも、正確性で言えば高いレベルで実現していたが、もう一つ上を目指すために、Ultimateのコントロール、データの扱い方が活きてきた」とのこと。

「A9F/Z9FはNetflix画質モードで見ると、マスターモニターのBVM-X300とほぼ同じものが出せるが、デバイスが違うため“雰囲気”が違う。我々は数値で表せない領域に足を踏み入れており、それが何なのかもはや説明がつかないですが“なんか違うよね”という点があり、そういうところにすさまじく敏感なのが、クリスさん(クリスマス・クロニクルのコロンバス氏)のようなクリエイター。実際に映像を観ても、ドン!と大きな効果を出すものではないので『すごく良かった!』という反応よりは、『そのまますっと受け取って』いただけるのが一番いい」との考えを示した。

なお、基本的には同モードをONにするだけで最適な画質で楽しめるようにするモードだが、完全に固定されたモードではなく、ユーザーがもっと画質を調整したければ、細かい設定変更もできるようになっている。「一人一人が“こう見たい”と好みがあるため、調整はできるようにしている。視聴環境、視聴距離などに合わせて最適にしていただくことは可能」とのことだ。

BRAVIA A9FでNetflixモードをONにしたところ

また、Netflixで配信されている映像は、大作映画やドラマだけでなく、アニメーションやコメディなどジャンルは様々だが、それぞれに最適な映像になるように最終確認しているとのこと。「Netflixが映像をチェックしている環境にBRAVIAを持って行って、そのジャンルのクリエイターが確認して、それに最適化している」とのことだ。

前述のNetflixスコット・マイラー氏は、ソニーとの取り組みの中で「我々は当然テレビを作っていないので、どのようにテレビで画質を向上するのか学んだ。一方で、ソニーは我々のチームから、クリエイティブについて学んでいただいたと思う」とコメント。

一方の小倉氏は「NetflixとはHDRを導入するときに最初に話をしたが、同社の画質へのこだわりにはすさまじいものがある。どのテレビメーカーに対しても平等に作品をデリバリーしながらも『我々はこれがやりたい』という思いがあるのはすごいこと。ソニーとしては、それに一番に応えていきたい考え、この数年間、画質の引き上げに取り組んできた。次の画質進化に足を踏み入れたいという思いが両社にあったので、実現したのが今回のモード」とした。

小倉氏は「やれることはかなりやった」としながらも「我々が進化するとコンテンツも進化する。そうすれば見た人に“感じて”いただける映像の進化になるのでは」として、今後も画質強化への取り組みを続けることに意欲を見せている。