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Netflixのテレビ画質向上、通信キャリア連携。ソニーやauとの新たな関係とは?
2018年10月1日 00:00
映像配信サービスNetflixと、テレビやスマートフォンなど対応機器メーカーや通信会社といったパートナーとの関係は、ここ1、2年で大きく変化しているという。どのような協力で新たな体験を提供しようとしているのか、開発部門の中心拠点である米カリフォルニア州ロスガトスの本社で聞いてきた。
なお、スマートフォンなどモバイル端末での快適な視聴を支える映像エンコードや通信技術などに関する取り組みに関しては、別記事で掲載している。
Netflixに合わせた画質モードがソニーとの協力で実現
Netflixによるパートナーとの連携で、最近の大きな取り組みの一つが、ソニーと協力して開発した、テレビ向けの「Netflix Calibrated Mode」。
このモードは、Netflixで配信されているコンテンツの制作時のポストプロダクション工程でのモニター校正と同じ表示モードを、テレビに用意したもの。制作者が意図した色やコントラストの映像を、家庭のテレビで楽しめるのが特徴。ソニーが10月より発売するBRAVIA Master Seriesの有機ELテレビ「AF9」と液晶テレビ「ZF9」が対応する。
デバイス・パートナーエンゲージメント バイス・プレジデントのスコット・マイラー氏は、「人々に、クリエイターが見せたかった表示で、ユーザーが観られるようにすることを目指した。朝の光と午後の光が違うといったことが表現できるように、ソニーと協力して取り組んだ」と説明。
同モードでは、色やコントラスト、動きの表現などにおいて、従来よりも制作者の意図に沿った形でテレビ画面上に表示できるという。マイラー氏は「これまでの放送やDVDの技術では、明るさや色などの表現が限られていたが、今は技術的にも良い形でストリーミング映像を表示できるようになった。ソニーとNetflixはデバイスパートナーであるだけでなく、両社ともテクノロジーカンパニーであり、スタジオでもある。(キャリブレーションモード)は両社ともに必要としていたもの」と述べた。
キャリブレーション機能は、最初のパートナーとしてソニーのBRAVIA Master Seriesに採用されたが、他のテレビにも同様に導入を目指すという。また、現時点で具体的な計画は無いとしたものの、スマートフォンなどのモバイルデバイスにも最終的には同モードの実現を目指す方針。
スマートフォンでの画質については、現在ソニー、LG、Samsung、Huaweiの端末でNetflixのHDR表示に対応。また、日本では販売されていないがRazerのスマホではHDRに加えてドルビーデジタルのサラウンド音声でNetflixを視聴できる。
スマホで契約してテレビで視聴。Netflixが通信会社と組むメリットとは
現在、Netflixを視聴するには主にテレビ(STB経由など含む)、パソコン、スマートフォン、タブレットの4通りの方法がある。それらのうち、契約(サインアップ)時に使う端末と、視聴に使う端末は大きく分かれており、9月時点ではグローバルで見ると契約に最も使われているのがスマホ(41%)で、次がパソコン(30%)、テレビ(23%)、タブレット(6%)となっているのに対し、視聴するのはテレビが最も多い64%で、続くパソコン(16%)、スマホ(13%)、タブレット(7%)との差は大きい。
その傾向は日本も同様だが、契約に最も使われるスマホは全体の半数を超える54%で、続いてパソコン(23%)、テレビ(17%)、タブレット(6%)。視聴は、最も多いテレビが44%で、スマホ(28%)、パソコン(17%)、タブレット(11%)と続く。日本は、比較的モバイルの割合が契約/視聴ともに高くなっている。
一方、携帯電話回線(セルラー)と無線LAN(Wi-Fi)の時間帯別利用割合を見ると、日本は通勤時間や夕食後などの時間帯にはっきりとセルラーの割合が増えているのに対し、南米チリでは午前6時~午後3時ごろの間は常にセルラーの割合が高く、50%を超える時間もある。また、北欧フィンランドでは1日中セルラーの割合が60%以上と高いなど、国によって大きな違いがある。
こうした違いは、各地の生活パターンだけでなく、通信インフラや料金の差が影響している。モバイルでもテレビなどと同様に利用できるように進められているのが、Netflixと通信会社によるパートナーの取り組みだ。
日本国内の通信事業者や携帯キャリア、家電メーカー、CATV事業者などとのパートナーシップを統括するビジネス・デベロップメント担当ディレクターの山本リチャード氏は、国内外のパートナーとの具体的な取り組みを説明。現在、NetflixとCATV会社や携帯キャリアなどとのパートナー契約は約60社におよび、STBや、スマホアプリのプリインストールなど、様々な形で協力している。
北米や欧州で展開する大手通信会社T-Mobileの事例として大きなものは、「ゼロ・レーティング」がある。当初はT-Mobileが音楽配信サービスのPandra、Spotify、i-Heart Radioといったサービスを対象に、T-Mobile上のネットワークではデータ使用量をカウントしないという形でスタート。その映像配信版として2016年より「Binge On」というサービスを展開。NetflixやAmazon、Huluなどが対象となっている。
Binge Onで特徴的なのは、まず全てのサービスをT-Mobile上で使い放題とした上で、調査によって「Netflixがよく使われている」結果が出たことから、NetflixをT-Mobileがプランとして提供している点。第3者機関による調査では「年齢が若くなるほど、加入するモバイル通信プランに対して一緒にバンドルされるサービスに関心が高い」結果が出ているという。こうした傾向は、ここ数年で米国だけでなく欧州でも同様とのこと。
T-Mobileなどの通信事業者にとっては、新規契約の獲得と離脱率の削減が課題となっているが、昨年のT-Mobileの決算発表でも、Netflixのバンドルを始めたことが同社に貢献したと社長からコメントが出たという。
山本氏は「パートナーとの取り組みの方法が進化している。Netflixと組むことによって、パートナーが活用できる資産がある。それはNetflixオリジナル番組を、自社コマーシャルに利用できること。バンドルが存在していなかった頃は、コンテンツはライセンスされたものが一時的に使用されていた。長期的パートナーシップを結べば、年中を通してこうした取り組みができる」と利点を説明した。
国内のパートナーシップで顕著なものは、KDDI(au)が提供するNetflix視聴向けの料金プラン「auフラットプラン25 Netflixパック」。auの通信料金にNetflixベーシックプランをバンドルし、月額5,500円で8月28日より提供開始した(既報の通り2019年1月1日以降に加入した場合は月額5,650円)。
同パックのユーザーがNetflixの上位プランを利用したい場合は、スタンダードプランが月額400円、プレミアムプランが月額1,000円の追加で変更できる。スタンダードプランではHD画質で2台まで同時視聴でき、プレミアムプランは4K画質で4台まで同時視聴可能。このパックについて山本氏は「まだ3週間足らずだが、インパクトは大きい。具体的な数字は出せないが、出だしとしていい経過」と説明した。
同パックでは25GBのデータ通信をバンドルしているが、この容量でNetflixを100時間見られる圧縮技術を使っていることから「ネットワーク全体にかかる負担はほとんどない」と山本氏は説明する(エンコード技術の詳細は別記事で掲載)。
前述したT-Mobileの事例は、ゼロレーティングの成功を皮切りにバンドルサービスを提供した一方、日本のキャリアとはバンドルが先行する形となった。同パックが開始した翌日には、ソフトバンクモバイルが、YouTubeやAbema TVなどを対象としたゼロレーティングの「ウルトラギガモンスター+」を発表。このプランにNetflixは含まれていないが、山本氏は「ソフトバンクは既にパートナーであり、(Netflixバンドルを)やらない理由はない。詳細は確定していないが視野に入れている」と述べており、「最終的には、キャリア、端末問わずNetflixを楽しめる環境を作りたい。KDDI、ソフトバンクだけでなく、まだパートナーシップがないドコモとも、もちろんやりたい」としている。