鳥居一豊の「良作×良品」
第75回
有機EL+Dolby Visionの威力! ソニー「KJ-65A9F」で「パシリム:アップライジング」を体験
2018年11月30日 08:00
ソニーの有機ELテレビは、春にスタンド設置タイプのA8Fシリーズが発売されていたが、秋に本命とも言うべき強力な新モデルが登場した。それが今回の良作である「KJ-65A9F」(オープンプライス/ソニーストア価格64万9,880円)だ。A9Fシリーズはサイズバリエーションとして55型「KJ-55A9F」(同41万9,880円)もある。
このA9Fシリーズは「MASTER Series」の製品に位置づけられる。これは、映像の作り手の制作意図を完全に再現するという、ソニーのテレビづくりの究極の目的を追求した製品を意味する。ちなみに、液晶テレビの「Z9F」シリーズも「MASTER Series」。いずれも他のBRAVIAとは一線を画する製品なのだ。
高画質エンジン「X1 Ultimate」搭載
A9Fシリーズは、使用する有機ELパネル自体は2018年仕様の最新のもので、A8Fシリーズと同等のもの。大きく変わるのは高画質エンジンが「X1 Ultimate」となったことだ。プロセッサーのリアルタイム処理能力が約2倍になり、映像をより緻密に分析することが可能になった。これにより、さらに緻密な映像表現を可能にしているという。
具体的には、これまでの「X1 Extreme」における「デュアルデータベース分析」はノイズリダクション精度を向上するなどの改良を果たしたことに加え、新たに「オブジェクト型超解像」を搭載した。映像の中に映し出された被写体のひとつひとつを物体として検出し、それぞれに最適な超解像処理を行なうというものだ。映像の中のディテールの多い部分や少ない部分というあいまいな区分での分析ではなく、例えば果物を集めた映像ならば、リンゴやオレンジ、バナナなどを物体ごとに認識し、それぞれに最適な処理を行なえる。そのためより最適な処理ができ、質感の再現も向上するというわけだ。
このほか、ノイズリダクション処理でもオブジェクトごとの分析を行なう。ここでは、ぶどう全体ではなく、ぶどうの粒のひとつひとつを個別に認識して分析するという。ディテールをキープしつつ、最適なノイズリダクションが可能になっているわけだ。
さらには、独自の有機ELパネル制御技術「ピクセルコントラストブースター」を搭載。有機ELは自発光パネルのため、高輝度の信号を長時間点灯し続けると「焼き付き」という現象が起きてしまう。そのため、有機ELパネルの制御ICで高輝度の信号が入力された場合に高輝度部分の信号を弱めて「焼き付き」を防ぐ機能を持つ。これはパネル側の機能で有機ELテレビがすべて備えている。しかし「焼き付き」を防ぐ一方で、高輝度信号のピークが弱まり、力強い光の表現が弱められてしまうことになる。「ピクセルコントラストブースター」は、こうした高輝度の信号の処理において、より元信号に忠実な力強い光と色を再現できるようにしたもの。もちろん、「焼き付き」を生じないように適切な制御を行なうことで実現しているので、一般的な使い方で「焼き付き」を心配することはないだろう。
こうした新技術が加わったことで、画質については大幅な進化を果たしているが、それ以外にも数々の面で改善が加わっている。
アコースティックサーフェス オーディオプラスで音も進化
次は音質だ。内蔵スピーカーは、画面そのものを振動させて音を出す「アコースティックサーフェス オーディオプラス」を採用。従来は画面を振動させるアクチュエーターが2個だったが、これを3個に増強した。背面にある2基のサブウーファーもモノラルからステレオへと強化され、3.2ch構成となっている。
パワーアンプの出力も実用最大出力50Wから98Wとなった。アクチュエーター自体もベースとなるシャーシを金属とするなどの改良を加え高音質に加えて音圧の向上も果たしている。
さらにこのスピーカーは、AVアンプなどを組み合わせたサラウンド再生時にセンタースピーカーとしても活用できるようになった。背面にあるスピーカー端子とAVアンプを接続すればサラウンド再生時にセンターチャンネルの音を再生する。サラウンド再生におけるセンタースピーカーは、薄型テレビの下に配置されることが一般的で、声の定位だけが画面の下から聞こえてしまうといった弊害がある。しかし、A9Fシリーズの「センタースピーカーモード」ならば、センターチャンネルの音は画面から再生されるので、画面との音のずれのないつながりのよいサラウンド再生ができるというわけだ。
また、前面から見るとフォトスタンドのように設置するスタイルは同じだが、スピーカーの改良にともなって、スタンド部分のデザインも大きく変わった。三角形を組み合わせた幾何学的模様のイメージのデザインとなり、後方から見たときの印象が大きく変わっている。壁際に設置するだけでなく、部屋の中央に置くような大胆なテレビの設置でも映えるデザインと言える。
テレビのメイン基板などはフォトスタンドの衝立部分に内蔵し、入出力端子なども衝立部分の側面や下部にある。カバーを取り付けてしまうと配線類もすっきりと覆ってしまうので、まさに大きなフォトスタンドにしか見えなくなる。
入出力端子は4系統のHDMI入力端子をはじめ、ネットワーク端子、録画用のUSB端子、ビデオ入力、光デジタル音声出力と十分な装備を持つ。このほかに、「センタースピーカーモード」のためのスピーカー端子もある。バナナプラグ対応の本格的な金メッキ端子が少々異様だ。
Android 8.0採用、使い勝手も高速化
Android TVは「8.0 Oreo」がプリインストールされ、GUIのデザインも一新された。これまでのインターフェースから大きく変わっていて少々戸惑うが、ちょっと使ってみると、より直感的に操作できるものになっているとわかる。従来のAndoroid TVのモデルを使っていた人でもすぐに使えるようになるだろう。
対応する動画配信サービスも非常に豊富で、人気の高いサービスはすべて利用できる。しかも、ゲームやショッピングなどのさまざまなサービスをアプリで追加することもでき、スマートテレビとしての機能性は十分以上だ。
また、これまでのAndroid TVは、テレビの起動や各アプリの起動が遅いと言われていたが、A9Fシリーズでは電源オンの起動時間を約1/3、ネット動画アプリの起動時間を約1/4にまで高速化しており、より使い勝手を向上している。
テレビとしての機能や装備も高級機にふさわしい充実した内容だ。ただし、12月1日からスタートする新4K衛星放送のチューナーは内蔵しない。他のメーカーではチューナー内蔵モデルも投入してきていることもあり、少々残念なところ。新4K衛星放送を見るには、同社の「DST-SHV1」などの単体チューナーを組み合わせる。背面まで美しくデザインされた製品でもあり、あまり周囲にいろいろな機器を並べて置くのも美しくないと感じるので、チューナーの内蔵が間に合わなかったのは少々残念だ。
制作者の意図に近い映像を楽しめる「Netflix画質モード」を新搭載
本格的な視聴の前に、地デジ放送やネット動画コンテンツの映像などについても紹介しよう。まずは地デジ放送だが「X1 Ultimate」の実力の高さに驚かされた。これまでのソニーの地デジ画質は、ノイズ感や映像のチラつきを抑えて見やすくまとめる傾向で、解像感についてはそれほど欲張ってはいなかった。
しかし、A9Fシリーズでは、「オブジェクト型超解像」技術の採用やノイズリダクション処理の高精度化などもあり、かなり積極的にディテールを再現する。アナウンサーの服の生地の感じや頭髪の1本1本まで、実にきめ細かく描いている。地デジの解像感の高さではこれまで東芝のX920シリーズが頭一つ抜けていた印象だが、A9Fシリーズは互角かそれ以上のところにまで到達したと言っていい。もちろん、肌の陰影のスムーズさや階調感の滑らかさ、ハイコントラストでくっきりとした映像の見せ方はこれまでのBRAVIAを踏襲するもので、ディテールの精細度が大きく向上したことで、これまでとは別格と言える表現力を獲得している。
また、インターネットの動画コンテンツも、ハイビジョン解像度のコンテンツではディテール感の向上が顕著。一方で、4Kコンテンツとなると、元々の情報量が優れることもあり、ディテールを積極的に掘り起こすようなことはなく、精細感とコントラスト感、なめらかな階調性のバランスの取れた上質な映像表現を行なっている。もちろん、トータルとしての表現力は従来モデルよりも向上しているのだが、地デジ画質の大幅な進化と比べると、従来の4K高画質を踏襲した印象に近い。
これは、もともと優れた実力を持っていたUHD BDの再生では正しい判断なのだが、ネット動画や新4K放送などが始まると、同じ4Kコンテンツでも転送レートが低く、圧縮による弊害もあるソースが増えるので、こうしたコンテンツには、異なる高画質処理が必要になる。このあたりの熟成にも期待したいところだ。
そして、Netflixの視聴時は、Netflixと共同開発した「Netflix画質モード」が選べる。これは、Netflixのコンテンツ制作者の意図した映像を再現するためのもので、映像制作時に使用するマスターモニターに近い性能をテレビで再現できることを目指したという。
これは画質設定で「Netflix画質モード」をオンにすることで選択できるようになる。画質調整の一切できない固定された画質モードというわけではなく、画質調整メニューで好みに調整することも可能だ。画質調整の項目もスタンダードやシネマなどと同様になっている。調整値を見たところ、精細感を高めるリアリティークリエーションがオフになっっているのをはじめ、自動コントラスト補正や各種のノイズリダクションもオフになるなど、テレビ側の高画質機能を使わないモニター的な表示を行うモードだと考えられる。
Netflixは4KコンテンツやHDRコンテンツを数多くラインアップしていることもあり、これに対応した専用の画質モードが用意されているのは、Netflixを利用している人にはありがたいだろう。
Dolby Visionで「パシフィック・リム:アップライジング」を視聴
よいよ良品の登場だ。今回選んだのは「パシフィック・リム:アップライジング」(以下アップライジング)。巨大ロボットと怪獣が迫力あるバトルを展開される続編だ。前作の監督だったギルレモ・デル・トロはスケジュールの都合もあってプロデューサーとして制作に参加している。筆者も巨大ロボットと怪獣の夢の対決を実現した前作が大好きで、続編も楽しみにしていた一人だ。まあ、シナリオに荒っぽいところもあるのだが、最新型のイェーガーとして無人機が登場し、お約束通りに暴走するのをはじめ、意外な人物による人類に対する裏切りと怪獣の復活などはなかなか楽しめた。
なによりも、晴天の明るい場所で戦いを繰り広げる展開は、前作にはなかったもので、デザインもスマートになり、よりスピーディーにイェーガー達が戦いを繰り広げる場面を見るのはなかなか新鮮だった。
そして、本作はDolby Vision版だ。前回の「レディ・プレイヤー1」もDolby Visionだが、ディスプレイが非対応のためHDR10表示で視聴していた。今回はA9FシリーズはDolby Visionに対応しているため、Dolby Visionでの上映を行なった。このために、UHD BDプレーヤーもソニーのUBP-X700(ソニーストア価格2万9,880円)を使用している。
Dolby Visionは、映像を12bitで記録し、HDRのダイナミックレンジもシーンごとに可変できるため、よりダイナミックレンジの広い映像再現ができることが大きな特徴となる。タイトル数も順調に増えており、現在はソニーのほかLGエレクトロニクスの薄型テレビがDolby Visionに対応している。
Dolby Vision版のタイトルを対応機器で再生すると、画質モードは専用の「Dolby Visionダーク/ブライト」の2つが選べるようになる。「~ダーク」は暗い室内での鑑賞用、「~ブライト」は明るい室内での鑑賞用となる。もちろん、こちらもそれぞれ微調整は可能になっている。これは、ソニー独自のものではなく、Dolby Vision側の指定によるもので、LGエレクトロニクスの薄型テレビでもDolby Vision視聴時の画質モードはこの2つだった。
Dolby Visionの良さは、明らかに映像のコントラストの幅が広がっていると感じる点だ。冒頭で、主人公のジェイクが廃棄されたイェーガーから部品を盗み出す場面は、イェーガーの内部の暗い場所が続くが、黒をしっかりと沈めながらも暗部の見通しはよい。HDR10表示ではかなり見通しが悪く、少々明るさを持ち上げたくなる感じだったが、そういった見通しの悪さはまったく感じない。
そこからヒロインの1人であるアマーラと出会い、彼女がスクラップ部品を集めて独自に自作した一人乗りのイェーガーに乗り込み、違法行為を取り締まるイェーガーとのチェイスになるが、明るい昼間の廃墟でスピーディーに駆け回るイェーガーのアクションにちょっと新鮮な驚きを感じる。
ホラー映画も同様だが、怪獣映画は夜の暗いシーンが多い。これは恐怖の対象である怪獣の全身を見えづらくし、恐怖感を増大させる演出だが、見せたくないものを黒く潰してしまえるという制作上の都合もある。昔ならば着ぐるみの怪獣の背中にチャックがあることが鮮明に見えてしまうようでは面白さが半減してしまうわけだ。ところが本作は晴天の真っ昼間にロボットによるアクションを繰り広げていく。
テレビ特撮の「ウルトラマン」は明るい場所での戦いも多かったと思うが、舞台のセットで着ぐるみを着たウルトラマンと怪獣がプロレスをしているのが丸わかりで、興醒めしてしまったことを思い出す。夜の暗いシーンの方が巨大さや恐怖感を演出しやすいし、そうした映像を見慣れている。一方で、演出とはいえ全身像がいつまでたっても見えないゴジラやエイリアンの姿をじっくり見たいとストレスを感じていたのも事実だ。
明るいシーンでの巨大ロボットと怪獣のバトルは、特撮ファンとしては実は夢の映像だったのだと改めて思う。クライマックスに至るまで、晴天のシチュエーションでバトルを描き切ったのは、作り手の挑戦だったのだろう。
ともあれ、「アップライジング」はバトルシーンであっても明るく見通しの良いシーンが多く、むしろ特撮をあまり必要としない人間同士のドラマが描かれる基地内の場面の方が暗いシーンが多いくらいだ。A9FシリーズのDolby Vision再生で見ると、「アップライジング」は底抜けに明るい。すべてが見通しよく、明るいシーンの全景シーンなどは実に広々としている。だが、巨大ロボットの重量感も、案外重いはずのストーリーのどちらも軽く感じてしまう。このあたりは作品の鑑賞としても悩ましいところだ。
しかし、これはソニーのA9Fシリーズが悪いのではなく、作り手の問題。ディスプレイとしては専用モードで調整値も初期値のまま、つまりソースに対して忠実な再現をしているだけだ。その点で見ると、A9Fシリーズの実力の高さにも改めて驚く。イェーガーの巨体はディテールまで鮮明で、金属のギラリとした輝きはもちろん、汚れやキズ、関節部分の駆動系の汚れた感じまで実にきめ細かく再現している。ディスプレイとしてのディテールの再現性も十分以上に優秀だが、もともと明るい画面ということもあって、ディテールの鮮明さがよくわかる。ここまでの鮮やかな精細感はHDR10表示では得られない。
そして、明るい空に輝く太陽をいっそう眩しいと感じる。こういった高輝度のさらに上を行く高輝度な描写をしっかりと再現しきっていることにも驚く。A9Fシリーズの「ピクセルコントラストブースター」の威力だろう。使っているパネル自体は他社の現行モデルと同じはずなのに、A9Fだけがピーク輝度をさらに向上したパネルを使っているかのように感じる。液晶テレビの高輝度バックライトを搭載したモデルでないと得られない力の漲った高輝度を有機ELでも実現できていることは圧巻だ。
しかも、単に眩しい白が出ているのではなく、空の薄く青い感じと太陽光の眩しい白い光をしっかりと階調感豊かに描いている。映像としてはかなり力強く、見映えのするものになっている。
同じソニーの「MASTER Series」であるZ9Fシリーズでは、液晶の弱点のひとつである視野角の問題を事実上解決し、LEDバックライトの精密な駆動によって黒の再現性もかなり向上してきている。液晶テレビのZ9Fもかなり有機ELに迫る表現力を身につけたが、有機ELのA9F側も輝度ピークのパワーという液晶に比べて不利な点を大きく進化させてきた。ソニー以外のメーカーはほとんどが有機ELを上位に位置づける傾向にあるが、ソニーだけは今も液晶と有機ELを同等に扱っている。その両方の競争の結果が、有機ELとは思えない明るい再現を手に入れたA9Fの成果と言えるだろう。
物語は、謎の黒いイェーガーの登場、10年前の英雄であるマコの突然すぎる死、無人イェーガーの暴走と次々に事件が巻き起こり、緊迫の度合いを深めていく。もちろん、暗躍しているのは怪獣たちなのだが、完全に倒されるか、厳重に管理されているはずの怪獣がどうして復活しているのかは謎のまま。
このあたりの場面は、アマーラたち若いイェーガーのパイロット候補生の訓練場面も平行して描かれるため、基地内の暗いシーンも多い。基地内には、前作の主役メカであるジプシー・デンジャーの後継機であるジプシー・アベンジャーをはじめ、最新鋭のイェーガーが配備されており、鮮やかなカラーの機体が基地内でライトアップされている姿を見るのは壮観だ。色鮮やかといっても、オモチャのような原色バリバリの安っぽい感じではなく、金属の機体に塗装を施しているメタリックな質感がよくわかる。
磨き上げられた機体の艶やかな感触も豊かな色再現と階調性で実にリアルだ。もちろん現実の景色でないことはすぐにわかるが、CGと実物大模型のディテール感の区別が付かない感じは見事。作品としてもそのあたりは徹底しているだろうが、暗い基地内とはいえ、しっかりとライトアップされた機体の感じは、Dolby Visionならでは。暗い基地内も見通しがよいというだけでなく、リアルな感触をよく伝えてくれる。
Dolby Visionの画質の良さばかりを語っているように感じるかもしれないが、それを支えるA9Fシリーズの実力も凄いものがある。輝度ピークの伸びも驚くが、しっかりと暗部の階調を見通しよく描きながら、黒はきちんと真っ黒で引き締まった再現になっている。そのあたりの陰影の表現の巧みさがよりリアリティーを感じさせる理由だろう。HDRコンテンツは、映像によってはテレビの最大輝度を超える輝度の映像も再現する必要があるなど、ディスプレイの性能によって見え方が左右されやすい。プロジェクターでのDolby Vision対応は規格策定を議論している最中でもあるが、最大輝度などのスペックを考えると今すぐの対応は難しいと言われている。「Dolby Vision」の超ハイコントラストな映像をしっかりと映し出せる実力を持つと感じるディスプレイという時点でA9Fシリーズの実力はかなりレベルが高いのだ。
コントラストが高く、くっきりとした立体感のある映像はA9Fシリーズに限らず、液晶テレビも含めてソニーのテレビの大きな魅力のひとつ。そういうコントラストで魅せる画作りがDolby Visionの高コントラストな映像と一体になり、見映えの良さとリアリティーを高いレベルで実現している。このあたりは、業務用の分野でも優れた実績を持ち、現代の映像の最新のトレンドをしっかりとおさえているソニーの強みだろう。
3.2chに強化された画面スピーカーの威力もじっくりと確認
物語は、暴走した無人イェーガーが太平洋にある次元の裂け目を作り、再び怪獣たちを呼びよせてしまう。一気にクライマックスへと突入するわけだ。なかなか無茶苦茶な理由で富士山を目指す3体の怪獣に、若いパイロットたちがイェーガーで立ち向かうことになる。対決の舞台はやたらと広い東京の都市だ。
ここで、「アコースティックサーフェス オーディオプラス」に進化した画面スピーカーの実力をチェックしてみた。最初に言ってしまえば、いかにサブウーファーを2基内蔵すると言っても、この手のアクション映画の爆音を再現するには十分ではない。
だが、BGMなどを聴くと、音楽のベースやドラムの力感が不足するようなことはなく、低音の力感も十分にしっかりとしている。テレビ放送を見ていて物足りなさを感じることがないどころか、十分以上の音質の良さを感じるだろう。
A1シリーズやA8Fシリーズからの進化としては、ステレオ音場の広がりが大きく向上したことだ。これまでは画面サイズにちょうどいい感じのステレオ感だったが、A9Fシリーズでは画面の外側にまで大きく音場が広がる。これは中央に3つ目のアクチュエーターを配置したことで、音の広がりを拡大しつつ画面中央の音抜けもなくせたためだ。ちなみにステレオ音声の再生時は真ん中のアクチュエーターは独自のアルゴリズムでセンター成分を抽出して3.2ch再生をしているという。さらに、背面のサブウーファーも左右独立としているので、中低音までしっかりと分離し、音場感が豊かに広がっている。
画面(ガラス)を振動させて音を出す仕組みのため、ガラス特有の音のクセがあると言われるが、そのクセっぽさもずいぶんと抑えられ、ナチュラルな音質になってきている。
そして、驚かされるのが、サラウンド再生の見事な後方の音の再現だ。サラウンド再生自体は同社の「S-Forceフロントサラウンド」だが、前方音場だけでなく、後方の音の周り込みもかなり明瞭だ。音の包囲感や前後の音の移動感もしっかりと再現でき、イェーガーの巨体が縦横無尽に飛び交うアクションもなかなかの臨場感を味わえた。基本的な音の実力も十分だし、これだけのサラウンド感が得られるならば、サウンドバータイプのスピーカーなどを追加する必要はないだろう。テレビの内蔵スピーカーとしての実力は十分だとしても、パワフルな映像の迫力とスケール感と比べると、音の迫力がやや負けていると感じるので、本格的な音を求めるならば、センタースピーカーモードを活用して、本格的な5.1ch再生に挑戦するのがおすすめだ。
映画の表現はさらに拡大した。この表現力を生かし切る作品が待ち遠しい
Dolby Vision版の「アップライジング」を見て感じたのは、ロボットや怪獣、超人やさまざまなヒーローが登場する特撮作品の映像のクオリティーが一段階上のレベルに到達したということだ。HDR自体が映像表現を大きく拡大する技術と言えるが、スペック上最高レベルの規格であるDolby Visionはさらなる可能性を感じてしまう。
「アップライジング」でのDolby Vision映像は、これまでの特撮とは感触の違うもので、筆者自身も「ここまで見えすぎなくてもいいのでは?」と違和感を感じてしまったのは確かだ。このあたりは、映像表現としても演出手法としてもさらに磨き上げる必要があると思う。
しかし、このリアリティーと力強さを感じる映像は、荒唐無稽な怪獣映画を見ていても作品を客観的に見るというよりも体感している感じになる。体感度の高さはきっと特撮映画にとっても間違いなく重要なものだ。こうした豊かな表現力を活かした新たな新作の登場が待ち遠しくなってしまう。
8Kテレビも登場している今、映像の表現はほんの少し前に比べても飛躍的な進歩を果たしている。ハイビジョンテレビの普及とそれによる表現が当たり前になっている現代を考えれば、4Kや8K、Dolby Visionを活かした驚異的な映像作品が登場するのも時間の問題だと思う。そんなわくわくするような映像を存分に体感するために、A9Fシリーズのような、優れたディスプレイがあるのだと思う。
パシフィック・リム:アップライジング 4K ULTRA HD+Blu-rayセット |
---|