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体験でわかった「HoloLens 2」。視野拡大と“両手で操作”が快適
2019年2月26日 08:24
昨日発表されたHoloLens 2は、その性質上「体験しないと価値が分かりづらい」デバイスだ。そこで早速、MWC19 Barcelonaのマイクロソフトブースで体験した。初代HoloLensユーザーでもある筆者のファーストインプレッションをお届けする。
まずはレポートの前に、ひとつお断りがある。
HoloLensはCGを現実に重ねるデバイスだ。だから体験した映像がどんなものかをお見せするのが一番わかりやすい。しかし、今回はあくまで「体験デモ」で、デモ中に自分が見ていた映像がない。そのため、どうしても「言葉」での説明になることをご了承いただきたい。
なお、発表会レポートで掲載した通り、Windows Mixed reality(MR)対応ウェアラブルデバイスHoloLensの第2世代「HoloLens2」は2019年内に発売され、アメリカでの価格は3,500ドルから。日本もアメリカと同時期に発売される。
かぶりやすく、画質も向上。視線の「キャリブレーション」に技あり
まずハードウェアを確認してみよう。初代HoloLensに比べるとかなりシンプルなものになっている。「少し未来感が薄れた」という感想もあるようだが、筆者はこちらも嫌いではない。初代HoloLensは正面が目立ったが、重量バランスを見直したためか、頭の後ろ側に来る部分がより目立つ。重量は以前のものに比べてさほど変わっていないのだが、重量バランスがかなり変わった。手に持ったときには重量を感じるが、頭に被ったときにはさほど重さを感じない。
初代HoloLensは、「映像が正しく見えるかぶり方」にちょっとコツが必要だった。スイートスポットからズレると映像が見づらくなるからだ。頭に安定させるには少し締め付ける必要があり、不快に思うこともあった。正面のディスプレイ部と鼻の間には「ノーズガード」があり、それでディスプレイと目の間の空間を保ち、メガネを併用するようなイメージに近かった。
だが、HoloLens 2はノーズガードがなく、つけかたも「帽子のようにかぶるだけ」になった。うしろにあるネジ状のパーツで調整するのは同じだが、「締め付ける」感じにする必要はない。スイートスポットからのズレも小さい。
ディスプレイ部は「跳ね上げ」られるようになっていて、外部とのコミュニケーションなどが容易になっている。これは、実際に初代HoloLensを使った企業からのフィードバックに基づくものであるという。
光学系の仕組みなどは確認できなかったが、裏から見ると、目の内側に小さなカメラ状のものがあるのがわかる。これが視線操作と虹彩認証に使われる機構だ。
視線操作と虹彩認証は、HoloLens 2の大きな特徴である。そのため、HoloLens 2をかぶって最初にやるのは「自分の目に対するキャリブレーション」だ。
キャリブレーションは意外なほど簡単である。空中に小さな宝石のようなものが出てくるので、それを「目で追う」。動かすのは視線だけでいい。初代HoloLensを知っていると、指で指し示してから人差し指を曲げる「エアタップ」というジェスチャーをしたくなるが、それはいらない。後述するが、UI全体の中で、エアタップ自体が使われなくなっているからだ。キャリブレーションが終わると、目の動きで画面に「虹」を描ける。
キャリブレーションの最後のパートでは、空中の小さなハチドリのような鳥が現れる。自分の目の前でホバリングしているのだが、手をかざしてみると、その手のひらの上に鳥が止まる。今度はゆっくりと指を立ててみると、指の上に止まってくれる。なかなかかわいい。これは、手や指を認識しているからできていることだ。
キャリブレーションが終わって改めて映像を見ると、たしかに初代HoloLensとはけっこう違い、さらに快適になっていることがわかる。角度は判然としないが、初代HoloLensは縦方向の視野が狭いのが気になったが、HoloLens 2ではそれがかなり解消されている。そのため、ひんぱんに首を上下に動かす必要がなくなっている。それでも「視界の中央が使われる」にすぎず、VR用HMDのように視界を置き換えるわけではない。だがとにかく、いままでより快適なのは事実だ。
また、後述するデモでも、現状では視線認識はあまり有効に使われていなかったように感じた。視線認識は有用なインターフェースの一つであるが、意外と正確性に難もあり、意識して操作に使うのが難しい……という話をデベロッパーから聞いている。それはHoloLens 2においても変わらず、活用には時間がかかるのかも知れない。
仮想の物体を「手渡し」も。「両手認識」の操作が快適
マイクロソフトブースにはHoloLens 2を使った4つのデモが用意されていたのだが、今回は時間の関係もあり、2つだけ体験している。
ひとつめは、建築系ソリューションを手がける「Bentley Systems」のデモだ。こちらはマイクロソフトブース内で一番人気のあるデモだった。
ここで行なうのは「2人で協力してビルを建てる」というデモだ。机の上にビルが立ち上がっていき、その過程を見られる。
ひととおり進むと、画面にはスライドバーが。「時間」を変えるためにものだ。指でバーをつまんで動かすと、時間が前後に移動して、ビル建築の様子を見られる。
ポイントは「自然につまんで動かす」というところだ。これまでのHoloLensでの操作よりも、ずっと普通に「つまめる」。
机に置かれているオブジェクトを「つかむ」こともできる。以前は人差し指と親指で「つまむ」感じだったが、手でがっと握るように掴めばいい。もちろん、手に持ったまま底や裏を見ることもできる。このデモでは、同じMixed Reality空間に2人が参加しているが、手に持ったオブジェクトをそのまま相手に渡すこともできる。その時の動作も、現実世界と同じように「手渡し」だ。
空中にボタンが出るシーンがあるのだが、これの選択も「ボタンなので押す」。指でボタンがある空間を自然に押せばいい。初代HoloLensでは、こうした時に「エアタップ」を使っていた。だが、エアタップは意外と操作に正確性がなく、やりづらい。
デモ担当者は「もうエアタップはいらないよ」と笑う。確かに、この精度ならもうエアタップをする必要はない。現実と同じようにふるまえばいいのだ。
こうした操作は、両手のすべての指を認識しているからできることなのだが、あまりに自然であり、正確であり、正直なかなかの驚きだった。もちろん、精度は100%ではない。特に細かな動きの分解能はさほど高くないように思えた。だが、基本的な操作を「誰に聞くこともなくできる」(開発者がそう実装すれば、だが)自然な操作感になるのは、かなり大きな進歩だと思う。
表示については、初代HoloLensに比べてやはり改善が見られる。視野の広さが一番大きいが、映像の解像感が上がり、よりオブジェクトがはっきり見えるようになったのは大きい。発色も改善している。初代HoloLensでは、物体の端などが虹色がかる「カラーブレーキング」が目立ちやすかったものの、HoloLens 2ではずいぶん改善されているように見える。
一方変わっていない点としては、「背景が白い」ところには弱いこと、そして、明るいと映像が見づらくなること。これらは現状の透過型ARデバイスに共通の欠点だが、HoloLens 2も解決には至っていない。
マイクロソフト自身も推す「MRでの業務改革」
次のデモは、マイクロソフト自身が開発している「Microsoft Dynamics 365」だ。Dynamics 365は企業内のデータを集積、集計することで業務改善を図るためのツール群なのだが、そのうち、業務の学習などに使う「Dynamics 365 Guides」が、HoloLens 2に対応した。こちらはマイクロソフトがデモ動画を公開しているので、あわせてご覧いただきたい。
Dynamics 365 Guides for HoloLens 2のデモとしては、飛行機の整備を模した場が設けられた。そこで、機材のどこにケーブルを通してつなげばいいのか、ということを実際に学ぶ。
準備が終わると、自分の目の前には、操作ガイダンス用のメニューが浮かんでいる。ここには、作業に必要な情報類がまとまっているので、常に参照すべきものである。そのため、自分が移動したり向きを変えたりしても、視界のちょっと上あたりに常についてくる。
そのうち、「ケーブルを出して」「指示された場所にあるケーブルクリップに留めて」「中を通して」といった指示が出る。すべての指示は、実際の物体に重なる形でマーキングされて出てくるので、誤解しようがない。指示された場所にケーブルを通し、コネクターに挿し、最後に鍵をかけると作業終了だ。
途中、鍵のある場所に矢印が出て、自分でそこまで移動する、ということもあった。鍵のある場所には、同じような鍵が9つくらい並んでいたのだが、「使うべき鍵」に矢印が浮かんでいるので、これもまた間違えない。
こうしたことがすべて、実際のモノの上に重なって表示され、逐一指示されていくのがDynamics 365 Guidesの特徴だ。データそのものは、iOSなどとも共有され、HoloLensを使っていない人からも見ることはできる。だが、作業のために両手を空けておいても使えること、操作が簡便であることなどを考えると、HoloLens 2の価値は大きい。
こうしたデモは、マイクロソフトを含めたアプリケーションベンダーの元で「作り込まれた」ものだ。HoloLens 2のCPUは、初代HoloLensの「Intel Atom」から「Qualcomm Snapdragon 850」へと変わっている。しかし、アプリの開発手法そのものは変わっておらず、UWPベースのものをターゲットとしているデバイスに向けて作る形になっているという。
「ソフトが命」というのはコンピュータの常套句だが、HoloLens 2の場合には、初代HoloLens同様、まず解決したい課題があり、それに合わせてソリューションを考えたソフトを提供するという業務向けシステムのプロセスを経ていくのが適切なのだろう。