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車や人をAfter Effectsで簡単消去。動画編集が“Adobe Sensei”でさらに進化

アドビシステムズは、米国ラスベガスで4月8日に開幕する「NAB Show 2019」に合わせて、「Adobe Creative Cloud(Adobe CC)」のビデオ/オーディオ製品のアップデートを発表した。Premiere Pro CCやAfter Effects CCなどの最新版を、発表と同時に提供開始する。

Premiere Pro CC

Adobe CCのビデオ/オーディオ製品には、映像編集/制作ソフト「Premiere Pro CC」や「After Effects CC」、オーディオ/波形編集の「Audition CC」、アニメーション作成の「Character Animator」が含まれる。

今回のアップデートでは「もっとクリエイティブなことに時間を使おう」をキーワードに、AIのAdobe Senseiを活用して編集作業を省力化する様々な新機能を追加。パフォーマンスの強化も図った。アップデートの主な内容は以下の通り。


    新機能の追加
  • ビデオ版「コンテンツに応じた塗りつぶし」(After Effects CC)
  • エクスプレッションエディター(文字アニメーションなど)の強化(After Effects CC)
  • エッセンシャルグラフィックパネルの機能拡張(Premiere Pro CC)
  • 定規とガイド表示(Premiere Pro CC)
  • フリーフォームプロジェクトパネル(Premiere Pro CC)
  • パペットのリグ機能強化(Character Animator)

    パフォーマンス強化
  • マスクトラッキングの高速化(Premiere Pro CC)
  • デュアルGPUの最適化(Premiere Pro CC)
  • ハードウェアデコーディングによるHEVC再生(Premiere Pro CC)
    ※Windows版
  • 色変更/ラフエッジエフェクトがGPU処理に対応(After Effects CC)
After Effects CC
Character Animator

Adobe CCの利用料金は、各ソフト月額2,480円。Photoshop CCやillustrator CCも含む20種類以上のソフトやツールが利用できるコンプリートプランは月額5,680円。100GBのクラウドストレージも利用できる。

アップデートには、他にも細かな機能追加やパフォーマンス強化の改善などが含まれる

After Effects CC

Photoshopを使った写真レタッチなどで活用される「コンテンツに応じた塗りつぶし」。静止画の中から選んだ任意の部分を、周辺など他の部分からサンプリングされたコンテンツでシームレスに塗りつぶす機能だが、After Effects CCの新バージョンには、動画向けの「コンテンツに応じた塗りつぶし」が搭載される。

’18年のイベント「Adobe MAX」で先行公開され、注目を集めた新機能。AIのAdobe Senseiを活用しており、「映像に映り込んだ人や車など、任意の対象物を素早く正確に消せる」のが特徴。

After Effects CCに新搭載のビデオ版「コンテンツに応じた塗りつぶし」

自転車に乗って走る人を撮影している動画を例に、新機能をデモ。

ドローンによる空撮映像と、自転車と併走する車から撮った映像のふたつを組み合わせて映像を作りたい、というシチュエーションを想定したもので、従来は「ドローンから自転車で走る人を撮る」「車から自転車の人を撮る」というように、撮影が2回必要だった。

自転車に乗って走る人を撮影している動画を使った新機能のデモ

After Effects CCに新搭載される「コンテンツに応じた塗りつぶし」を使うと、自転車と併走しながら撮影中の車にマスクを切ってキーフレームを指定し、トラッキングを実行するだけで、AIのAdobe Senseiが走る車の形や動きを分析し、路面の色や質感を元にして車を自動で塗りつぶしてレンダリング。2~3分で映像から車を消すことができた。この機能を使えば、ドローンの空撮と車からの撮影を一度に済ませられるとする。

同様の編集は従来もできたが、手動で1フレームずつ、細かく直すなどの膨大な作業が必要だった。Adobe Senseiを活用することで、塗りつぶしの境界部分なども違和感無く適用され、撮影や編集作業にかかる手間を少なくできるとする。

走る車を含む領域にマスクを切った。車の形に合わせずラフに切っても、AIに映像を認識させるには問題ないという
2~3分で映像から車を消すことができた

同じように、映像に映った人物や、映り込ませたくない不要な影、映ってはいけないロゴなどにマスクを切って「コンテンツに応じた塗りつぶし」を使い、選んだ箇所を消すことで、制作者の意図通りに映像を編集できることをアピールした。

不要な影(左)を消す(右)
バイクの車体にあったロゴ(左)も消した(右)
撮影用に貸し切りにできなかった城の映像(左)から、観光客など映像に不要な被写体を消した(右)

既存の機能「エクスプレッションエディター」では、ユーザーがプログラムを書くことで、映像に文字アニメーションなどを重ねることができる。新バージョンではこの機能のエラー表示を改良し、プログラム実行時にエラーが起きた場合、どの行に誤った記述があるかを一目でわかりやすくした。

エクスプレッションエディターで、映像の右端に「MILE 37」という文字アニメーションを表示しているところ
文字アニメを表示するプログラムに誤りがあった場合は、編集中の映像の下にオレンジ色のバーで警告を表示。さらにエクスプレッションエディターの画面(右下)に、プログラムのエラーを起こしている箇所を赤色で警告する

パフォーマンス強化の面では、オブジェクトの色変更やラフエッジエフェクトを利用する際、従来はソフトウェア上で処理していたものをGPUで処理できるようになった。これにより、描画にかかる時間が大幅に短縮される。

色変更/ラフエッジエフェクトがGPU処理に対応

Premiere Pro CC

Premiere Pro CCの主な進化点は、テロップを効率良く作成できる「エッセンシャルグラフィックスパネル」の機能拡張。従来バージョンから備えている機能で、別の画面を開くことなく、映像の中に直接文字入力したり調整が行なえる。

今回は日本のユーザーの要望を受け、テロップにストローク(縁取り)を複数色入れて、TV番組のような仕上りにできるようになった。ストロークをラウンド状にしたり、テロップの文字数や改行に連動した背景色(ざぶとん)なども入れられる。

エッセンシャルグラフィックスパネルで、テロップにストローク(縁取り)を複数色入れられるようになった

映像の中にテロップを配置する時に、細かく位置決めする際に便利な「定規」と「ガイド」の表示に新対応。Photoshopなどで備えている機能をPremiere Proにも実装した。

テロップを配置する位置を細かく決められる「定規」と「ガイド」表示

映像素材を画面上に自由に配置できる「フリーフォーム表示」機能も追加。従来は読み込んだ映像ファイルを、アイコンと一緒にリスト表示することができたが、新たに任意のサイズでサムネイル表示できるようになった。

重要なシーンを大きくサムネイル表示しておいたり、使いたい映像素材を一箇所にまとめておくといった、直感的な素材整理が行なえる。複数の素材をまとめてタイムライン上にドラッグ&ドロップすることも可能。

フリーフォームプロジェクトパネルで、映像素材を自由な大きさで配置。そのまま映像編集もできる
従来のリスト表示では、映像ファイルがどんな内容か分かりにくかった

パフォーマンスの面では、マスクトラッキング処理の高速化が図られ、例として10秒のクリップからマスクを切った場所をトラッキングする際の所要時間が従来バージョンよりも大幅に短縮。HD画質では4倍、4Kでは13倍、8Kでも38倍早くなり、高画質な映像素材の編集も実用的になったとする。

マスクトラッキングの高速化

Character Animator

Character Animatorは、自分の動きに合わせてパペットを動かすツールのリグ機能を強化。キャラクターの胴体などのパーツに重なる、腕や脚などのパーツをより人間的な形状や動きにできるようにした。

パペットのリグ機能を強化
人物をかたどったキャラの関節部などに、任意の編集を加える。間接部表示の子画面(中央)も新たに追加
従来は腕の長さが不自然な設定にもできた
リグ機能が強化されたことで、より人間らしい形や動きに編集できる

AIのAdobe Senseiを用いて、Webカメラに映った人の顔の動きに合わせてアニメキャラを生成する「キャラクタライザー」機能もアップデート。

従来から提供している、人物の笑顔や驚いた顔といった複数の2D静止画を用意してAIに読み込ませ、Webカメラに映った人の顔の動きに合わせてアニメキャラを生成する機能で、新たにガイコツ風やイラスト風などさまざまなテンプレートが追加され、キャラの表現の幅を広げる。

アドビ システムズの田中玲子氏が「キャラクタライザー」の新しいテンプレートを実演した
NAB 2019のAdobeブースでは、日本語ガイドツアーを2年ぶりに実施
発売から25周年を迎えたAfter Effectsと、29年目となるPhotoshopが「2019年アカデミー科学技術賞」を受賞
国内でのAdobe CCの活用事例を紹介。VRコンテンツの制作・配信を行なう「360Channel」 は、1日1本以上、月50本以上のVRコンテンツをPremiere ProとAfter Effectsを使って制作。また、「メルカリ」は社内に動画制作チームを発足させ、SNSやIR向け、イベントなどの動画をAdobe製品を活用して作っているという
日本からサンダンス映画祭に出品された長編映画「WE ARE LITTLE ZOMBIES(ウィーアーリトルゾンビーズ)」はPremiere Proで全編を編集して制作、審査員特別賞を受賞した。6月に劇場公開予定