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楽天が映画製作に参入、その理由と勝算。作品の収益最大化へ施策語る
2019年8月2日 12:19
楽天と、米国を拠点に映画の製作・配給を手掛けるThe H Collectiveは、合弁による映画製作会社「Rakuten H Collective Studio株式会社」を日本に設立することに合意。それに関わる契約を締結したと発表した。楽天が7月31日~8月3日に渡って開催中のイベント「Rakuten Optimism 2019」で映画業界関係者らを招いた講演を行ない、映画業界へ本格参入する楽天の戦略を説明。ビジネスでの協力を呼び掛けた。
なぜ楽天が映画に参入するのか
新たに設立されるRakuten H Collective Studioは、自社による映画製作や出資、著作権管理、映像ソフトの制作や販売などを包括的に行なう。また、映画自体の製作に加え、各作品における世界観やキャラクター、楽曲を活用した音楽、コミック、ゲームコンテンツや関連グッズの商品化、プロダクトプレイスメントによる広告商品の販売などにも取り組む。
楽天と合弁会社を設立するThe H Collectiveは、アーロン・W・サラ氏が脚本を手掛けるホラー映画でクリスティーン・クロコス氏が監督を務める予定の「The Beast(原題)」や、「John Wick(邦題:ジョン・ウィック)」シリーズの脚本家であるデレク・コルスタッド脚本で、双銃使いの主人公による復讐劇を描いたアクション映画「The Remainder(原題)」などのハリウッド実写映画作品を製作する予定。
両社はこれまで、2019年5月に締結した映画配給会社の日本における設立に関する契約に基づき、主にThe H Collectiveがプロデュースする映画作品を日本で配給する合弁会社「Rakuten Distribution」を設立。配給第一作目となる「Brightburn(原題)」は、東宝東和との共同配給で今秋に日本で公開される予定。
今回発表されたの新会社により、映画の配給だけでなく製作においても本格的に参入する形となり、映画業界をはじめとするエンターテインメント業界の活性化を目指すという。
1日に行なわれた講演では、楽天の副社長執行役員CRO メディア&スポーツカンパニー プレジデントの有馬誠氏が、「なぜ楽天が映画に?」という狙いなどについて説明。
Google日本法人やYahoo! JAPANなどで要職を務めてきた有馬氏は、映画業界におけるデジタルマーケティングが、海外に比べてまだ進んでいないという点を指摘。IDが1億以上という楽天会員の購買履歴などのデータを最大限に活用して、人々が映画館へ足を運ぶ機会を増やすなど、1つのコンテンツで最大限のマネタイズを実現できることが楽天の強みであることを説明した。
さらに、同社と協力するThe H Collectiveは、ハリウッドでの製作実績を持つだけでなく、今後は世界最大の市場になると見込まれる中国において豊富なマーケティングノウハウを持ち、アリババや天猫(Tmall)と協力したグッズとチケットのバンドル販売なども展開していることを紹介。今回の新会社設立なども含めて「The H Collectiveのノウハウを元に、我々のマネタイズにより、新しい時代の映画産業に貢献できれば」とした。
楽天会員の好みや位置情報活用。映画チケットをスマホで撮って送るとポイントも
楽天執行役員 グローバルアドディビジョン アドプランニング統括部 ディレクターの紺野俊介氏は、デジタルマーケティングの内容として、製作、配給、興行、二次利用のそれぞれの課題に楽天が果たせる役割を説明。会員の鑑賞行動や購買行動に基づいた興行収入予測や、作品の収益ポテンシャルの算出、会員の位置情報やポイント還元などを活用したダイナミックプロモーション、二次利用商材のターゲットとなる顧客の特定などで貢献できるとした。
それらを実現する具体的な取り組みについては、同ディビジョン 広告営業部 ジェネラルマネージャーの中澤亮氏が説明。顧客の購買行動などから分析して、それぞれの層に適したプロモーションを行なうための一例として、楽天のビッグデータを分析・活用するAIエージェント「Rakuten AIris」を紹介。ユーザーの属性や消費行動を920項目に分解して独自のアルゴリズムで解析、全楽天ユーザーの中から、見込み顧客を特定して、適切なプロモーションが行なえるという。
また、許諾を得たユーザーから提供される位置情報の活用により、例えば「ホラーに興味があって、映画館の近くにいる人に対してプッシュ広告を配信する」といったこともできるという。
そのほかにも、レシートなどをスマホで撮影して送信するとポイントがもらえる「Rakuten Pasha」のサービス活用も提案。映画のチケットもポイントの対象にすることで、映画鑑賞者の楽天IDを分析できるようにするという。映画チケットの対応は2020年以降を予定している。
楽天によるコンテンツビジネスのマネタイズに向けたアプローチについて解説したのは、同社メディア&スポーツカンパニーのコンテンツビジネス準備室 オフィスマネージャー 小林克彦氏。
「魅力あるコンテンツに、楽天の最適なマネタイズチャンネルを組み合わせることで、戦略を最適化する仕組みを作る」として、プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスや、サッカーのイニエスタ選手など、これまでのスポーツでのマネタイズの事例も紹介しながら、今後の映画でのマネタイズに向けた施策を紹介。Rakuten TVや楽天市場など自社チャネル以外を使ったサービスに対しても、楽天のデータを使ったデジタルマーケティングを活用することで収益拡大ができるとアピールした。
映画に関連したグッズや、映像を活用した商品のマーケティングなど、マーチャンダイズ/スポンサーシップに関する戦略については、コンテンツビジネス準備室の菊池辰也氏が説明。これまでおもちゃ会社やディズニー、ユニクロ商品企画などを担当してきた菊池氏が、楽天が持つ販路やサポート体制、The H Collective連携による海外販路を含めたグローバル展開でビジネスの最大化が図れる点を強調。楽天のデータを活用したマーケティングのメリットを紹介しながら、来場した映画/コンテンツ事業者らに参加を呼びかけた。