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Technics初のSACD対応、ネットワークやMQA-CDも高音質な「SL-G700」の“秘密”
2019年8月2日 16:33
パナソニック、テクニクス(Technics)ブランドで初めてSACD再生に対応、さらにネットワークプレーヤー機能も備えた注目機「SL-G700」が8月23日に発売される。Technicsラインナップの「グランドクラス」に位置づけられ、価格は28万円。そのサウンドを短時間ではあるがチェックしたので、特徴の紹介と共に音質インプレッションをお届けする。
詳しい概要は既報の通りだが、1台でSACD/CD再生に加え、MQAを含むハイレゾ音源ファイル、音楽ストリーミングサービスにも対応。USB HDD内のハイレゾ再生から、Bluetooth受信、MQA-CDのフルデコード再生も可能と、多機能なモデルとなっている。
クロックジッターを抑える「Battery Driven Circuit System」
まず注目したいのがDACまわり。DACチップは、旭化成エレクトロニクスの上位モデル「AK4497」をL/Rに1基ずつ、デュアルモノラル構成で搭載している。このチップは、デジタルコアやクロック、デジタルI/Oなど、内部のブロックに対して、5系統の電源を個別に供給できるようになっており、SL-G700は、それぞれの回路に適した電源を個別に供給している。
中でも特徴的なのは、クロック部分への電源供給だ。1ファラドの大容量コンデンサを使ったバッテリーを2バンク用意しており、そこから電源を供給するバッテリー駆動になっている。ユニークなのは、2つ用意したバッテリーから、交互に電源をクロックへと供給している事。仮に、それぞれA、Bと名付けた場合、Aのコンデンサから電源をクロックに供給している間に、Bのコンデンサを充電。充電が終わると、Bからクロックへ供給に切り替わり、代わりにAの充電を開始する。こうする事で、途切れずにバッテリー駆動を続けられる。これは「Battery Driven Circuit System」と名付けられている。
なお、大元の電源からコンデンサを充電するために給電すると、それがノイズ源となるが、Battery Driven Circuit Systemでは、コンデンサからクロックへ給電している時は、コンデンサを充電するための給電をカットしている。
Technicsは20年ほど前、バッテリー駆動のプリアンプも発売していたが、その思想をSL-G700に投入。「クロック回路はこの中で唯一アナログ的に動くものであり、クロックジッターは音質に大きな影響を与えます。そこでクロック回路の電源をバッテリー化することで、電源ノイズによるクロック信号への悪影響を排除したのです」(TechnicsのCTO/チーフエンジニア、井谷哲也氏)。
D/A変換後のフィルター回路にもこだわっている。開発スタート時は、汎用のオペアンプICを使う予定だったというが、よりTechnicsのサウンドを追求するために、ディスクリート構成のアンプモジュールを独自に開発。低雑音トランジスタや薄膜抵抗を使用し、回路内部に発生する雑音を抑えて動作電流を大きくするなど、細部に至るまでチューニング。応答性やSN比も優れたフィルター回路を開発した。
なお、DACやフィルター回路は、L/R独立した伝送構造や、左右対称レイアウトを採用。L/Rの相互干渉を抑えている。
アナログ音声出力用の電源部自体にもこだわっている。スイッチング電源を使っているのだが、「ノイズを克服し、アナログ電源を全ての面で超える事を目指した」(パナソニック アプライアンス社 技術センター オーディオ技術部 電気設計課の水俣直裕主任技師)という。アナログ音声出力では、電源ノイズや安定性が音質に大きく影響を与えるためだ。
ノイズを抑えるために、あえて帰還をかけず、無帰還型スイッチング電源回路を採用している。これは負荷がかかった際も、スイッチング周波数が変動しないようにするため。変動の差分がノイズとなって他の回路に影響を与えるわけだ。
しかし、帰還をかけない場合は電圧の安定化回路が必要となる。この安定化回路も、汎用のレギュレーターICを使わず、ディスクリート回路構成で開発。細部までチューニングし、アナログ回路に最適な電源を供給。アナログ電源と比べて、10dBほど低いノイズフロアを実現。SN感と再現性の高いサウンドを実現したとする。
ヘッドフォンアンプにも注目
通常のプレーヤーは、DAC部から出力されたアナログ信号を、分けてヘッドフォン用の出力とするが、SL-G700は異なる。前述のDAC部とは別に、ヘッドフォン専用のD/A回路として、Technics独自の音声処理LSI「JENO Engine」を搭載。つまり、アナログ出力とヘッドフォン出力の回路が、完全独立構成となっている。
これにより、回路の相互干渉を防いでいるほか、それぞれの回路に最適な音質チューニングも実施。各出力のパフォーマンスを最大限引き出している。
また、ヘッドフォンを接続していない時は、JENO Engineは起動せず、接続すると自動的に起動するシステムを採用。ヘッドフォンを使わない時は、アナログ出力の音に影響を与えないよう徹底。
さらに、ヘッドフォンアンプは“Class AA方式”。これは、オーディオ信号の電圧増幅と電流増幅をそれぞれ独立したアンプ回路で行なうもの。これにより、高品位なオペアンプで電圧を増幅、電流供給能力の高いオペアンプで電流を増幅と、それぞれの特徴を活かせる。また、幅広い負荷インピーダンスのヘッドフォンを理想的にドライブできるという。
パワーコンディショナーを製品に内蔵
パナソニックは、パソコンやオーディオ機器、Blu-rayレコーダなど、様々な機器のUSB端子に挿入することで、音質を改善できるという「USBパワーコンディショナー」を手掛けているが、その技術もSL-G700に導入。
USB入力電源部に、低誘電損失、高耐圧、温度安定性などの特性に優れた高品質ルビーマイカを使用したコンデンサーと、磁気歪みに強い非磁性カーボンフィルム抵抗により構成されたパワーコンディショナー使っている。これにより、外部からの電気的ノイズが音に与える悪影響を低減した。なお、USB入力を使っていない時でも、パワーコンディショナーは音質改善に大きな効果があるとのこと。
筐体内部は大きく4分割構造となっており、各ブロックを独立させることで互いの干渉を排除。CDドライブメカは、正確な読み取りと、外部に振動を伝えない構造にするため、3層のシャーシ構成をリジットに固定している。安定性に優れたアルミダイキャスト製のディスクトレーも採用した。
SACD/CD再生時は「Pure Disc Playback」モードも使える。このモードに設定すると、SACD/CD再生に必要な回路ブロック以外の、ネットワーク系回路などの電源をシャットオフ。ディスク再生の音質を高められる。
また、ネットワーク回路自体にも、ノイズを抑えるために電磁波吸収シートを貼ったり、アンテナ用のケーブルに巻き付けるなどの細かな工夫も行なっている。
アナログ出力端子はXLRバランス、RCAアンバランスを各1系統搭載。出力は固定が基本だが、可変出力も可能。パワーアンプと直接接続する事も可能だ。
音を聴いてみる
プリアンプとして「SU-R1」、パワーアンプに「SE-R1」、スピーカーは「SB-R1」と、リファレンスモデルと組み合わせて、SL-G700の音をチェックした。
SACDやFLACのハイレゾファイルを再生して、一聴してわかるのがSNの良さだ。音場の奥行きが深く、そこに定位する音像の輪郭が明瞭。さらに、音像と音像の間にある空間もしっかりと描写されている。通常モードでも見事な音だが、「Pure Disc Playback」モードに設定すると、こうした特徴がさらに進化する。
分解能の高い、シャープかつクリアな描写なのだが、それだけに留まらない。特筆すべきは、1つ1つの音にパワーと厚みがある事。アコースティックベースやドラム、ピアノの左手など、低音が実に“太い”。物量を大量投入した贅沢なアナログ電源部を搭載した、超高級ハイエンドプレーヤーを聴いているかのような雄大さと、凄みを感じる。
かといって、「野太く、ボワボワした、迫力だけの音」ではない。音圧が強く、芯があり、パワフルな音なのだが、それと同時に、目の覚めるような解像感も併せ持っている。今までは両立できなかった要素が、同居していて驚かされる。
アンドレア・バッティストーニ&東京フィルハーモニー交響楽団の「春の祭典」大太鼓やハンク・ジョーンズ グレート・ジャズ・トリオのドラム乱打のようなシーンでも、それらが音圧豊かに飛び出してくると同時に、他の楽器の細かい音や、空中を乱舞するドラムスティックの小さな音も明瞭に聴き取れる。
お馴染みビル・エヴァンス・トリオ「ワルツ・フォー・デビイ」に含まれている、観客のかすかな話声や、グラスの音なども実に生々しい。
音場の広さや、高域の繊細な描写も得意なので、MQA-CDの聴き比べでも、MQAによる音質の向上がわかりやすい。ディスクプレーヤーとしても、ネットワークプレーヤーとしてもポテンシャルの高い1台だ。