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Technics、DACと電源大幅進化のネットワーク/SACDプレーヤー「SL-G700M2」
2022年11月1日 13:15
電源ノイズをリアルタイム検出し、キャンセル
新開発の低ノイズ電源「Multi-Stage Silent Power Supply」を搭載。電源部は大きく分けて「アナログ回路用高速スイッチング電源」「低ノイズレギュレーター」「ノイズ除去回路」で構成されているが、この中のアナログ回路用高速スイッチング電源に、リファレンスクラスのプリメインアンプ「SUR1000」にも採用されている高速スイッチング電源を新たに搭載した。
スイッチング周波数を従来の100kHzから300kHzへと高速化したもので、アナログのオーディオ帯域から大きく離すことにより、音への干渉を防ぎ、応答性も高めている。
後段には、低ノイズレギュレーターを配置してノイズを低減。さらにその後段に、新たに「ノイズ除去回路」を搭載した。これは「Current Injection Active Noise Cancelling」と名付けられたもので、DC電源に乗っているノイズをリアルタイムに検出、それを“削る”のではなく、ノイズ成分を打ち消すように逆の位相の電圧を生成し、それを使って足し引きする事でノイズを除去している。つまり、ヘッドフォンのアクティブノイズキャンセリングのような原理で、ノイズ低減を行なっている。
DACの前に振幅・位相のズレをあらかじめ補正
2019年に発売した前モデル「SL-G700」では、DACに旭化成エレクトロニクスの「AK4497」をデュアルで使っていたが、SL-G700M2ではこれを一新。ESSの「ES9026PRO」×2基に変更している。また、DAC ICの変更だけでなく、その他の部分にも大きく手を入れて進化しており、これらを総称してテクニクスでは「High Precision Coherent D/A Converter」と名付けている。
一般的なプロセスでは、PCMのデジタルデータがDAC ICに入り、そこから出力された信号を、I/V変換回路、ローパスフィルタ(オペアンプ)といったアナログ出力回路でフィルタリングして、アナログの波形を生成する。
このプロセスでは、アナログ出力回路が周波数的な特性を持ってしまうため、それが音質に影響する。そこでテクニクスのHigh Precision Coherent D/A Converterでは、開発時に、アナログ出力段の特性自体を測定する。
そして、ESSのDAC ICの前に、独自処理を行なうDSPを配置。先程の測定で得られたアナログ出力回路の振幅・位相特性を踏まえて、その振幅・位相のズレを補正する処理を、DSPによる32bit精度で信号に加える。
こうして、あらかじめズレを補正する処理をかけた信号を、DAC ICに入力。その出力信号を、I/V変換回路、ローパスフィルタを通して、より理想的なアナログ信号として出力できるという。この技術は「Coherent Processing」と名付けられ、ユーザーがON/OFF可能。デフォルトではONになっている。また、DSD信号の時は使用できず、直接DAC ICに入力するカタチとなる。
テクニクスはアンプにおいて、接続するスピーカーを考慮し、位相を整え理想的なインパルス応答を再現する「LAPC(Load Adaptive Phase Calibration)」という技術を用いているが、この考え方をD/A変換に活用したのがCoherent Processing。
また、ローパスフィルターはオペアンプではなく、ディスクリートアンプを採用。従来のものよりも、さらにハイスルーレート/低ノイズで信号再現性に優れたものになっている。
これらのプロセスを総称し、テクニクスは「High Precision Coherent D/A Converter」と呼んでいる。
USB-B入力も新搭載
機能面では、CD/SACDの再生に加え、ハイレゾ音源やストリーミングサービスまで対応するネットワークオーディオ機能も搭載。さらに新モデルでは、NASやPCと接続して、接続先のハイレゾ音源を再生できるUSB-B端子も新たに追加。USB-A端子、光/同軸デジタル入力なども備えている。
ディスク再生においては、再生に必要な回路ブロック以外の電源をシャットオフする「Pure Disc Playback」モードを搭載。
音楽ファイル再生では、WAV、AIFF、FLAC、ALAC、DSDなどの幅広い音楽フォーマットの再生に対応。またMQA音源にも対応し、音楽配信サービスからダウンロードしたMQAファイルや、MQA-CDのフルデコード再生が可能。MQAデコーダーのON/OFFも行なえる。
Chromecast built-inに対応し、スマホなどの対応アプリから、音楽ストリーミングサービスの再生ができるほか、Amazon Music、Spotify Connect、Deezer、インターネットラジオにも対応。
Wi-Fiも内蔵し、Bluetooth/AirPlay 2にも対応。タブレット/スマホ用無料アプリ「Technics Audio Center」で、各種操作ができる。
7mm厚のフロントパネルを採用。コントロールノブの側面処理は、プリメインアンプ「SU-R1000」、「SU-G700M2」と同じスピン加工を施し、統一感のある仕上げとしている。
筐体内部は4分割構造で、各回路ブロックを独立させ互いの干渉を抑制。シャーシの剛性も高めている。ドライブメカをマウントするシャーシは3層構成で、外部からの振動を抑制。ドライブメカのデスクトレーはアルミダイキャスト製。
入力端子は、同軸デジタル、光デジタル、USB-A、USB-B。再生フォーマットは384kHz/32bitまで対応。出力端子はアナログXLRバランス、アナログRCAアンバランス、同軸デジタル、光デジタルを各1系統。6.3mmのヘッドフォン出力も備える。消費電力は45W。外形寸法は430×407×98mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約12.3kg。
音を聴いてみる
大阪の西門真にある、開発にも使われるテクニクスの試聴室で既存の「SL-G700」と新製品の「SL-G700M2」を聴き比べた。楽曲は「アンドレア・バッティストーニ&東京フィル/ストラヴィンスキー:春の祭典 - 第1部:大地礼賛 2.春の兆しと乙女たちの踊り」や「Rickie Lee Jones/Dat Dere」などだ。
既存のSL-G700は情報量が多く、非常にナチュラルなHi-Fiサウンド。全体のバランスや、空間表現も十分に優れており、優等生的なサウンドだ。
SL-G700M2で再生すると、良い意味で驚くほどの違いがある。まず、1つ1つの音がエネルギッシュになり、前へ前へと音がパワフルに押し出してくる。では、音が広がる音場空間は狭くなったかというと、これが逆で、音場もSL-G700M2の方がより広大だ。
つまり、より広くなった空間に、エネルギッシュになった音像が活き活きと展開する。プレーヤーの比較試聴なのだが、まるでアンプが2ランクくらい上のモデルになったような印象も受ける。
じっくりと聴き比べると、オーケストラの弦楽器が複数重なるようなシーン、そして凄みが増した低域の中の分解能など、情報量もSL-G700M2の方が優れているのがわかる。音像の輪郭のシャープさ、厚み、実在感などがSL-G700M2で進化しつつ、その音像によって描かれる楽器や人の声の表情も、SL-G700M2の方が豊かで感動的だ。
なお、High Precision Coherent D/A Converterに搭載されている、あらかじめズレを補正する処理をかけた信号を、DAC ICに入力する「Coherent Processing」はON/OFFが可能だ。ここまではONで聴いていたが、これをOFFに切り替えると、音がかなり変化する。
最も大きな違いは、音圧で、OFFにすると先程まで感じられた、エネルギッシュな音に打ちのめされるような快感が、薄れて、サッパリした音になってしまう。低域のパワフルさであったり、パワフルな音の中にある細かな描写も、ONの方がしっかり味わえる。個人的には「ON」一択だと感じた。
型番としては「M2」と、マイナーチェンジモデルに見えるSL-G700M2だが、電源部やD/A変換に大幅な変更が加えられている。「この部分が良くなったよね」という一部の進化ではなく、まさにまるごと全部進化で、ほとんど別物と言って良い内容だ。以前の優等生サウンドから、さらに情報量を増やしつつ、味わいも深く、聴いていて無意識に体が動いてしまうようなエモーショナルなサウンドを身に付けている。