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「ガンダム 閃光のハサウェイ」舞台裏「ギリギリまで粘って完成した」
2021年6月25日 19:27
公開中の「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」。6月23日にスタッフトークイベントが実施。演出の原英和氏、撮影監督の脇顯太朗氏、制作デスクの岩下成美氏、司会を務める仲寿和プロデューサーが登壇。作品の絵作り・演出を中心に、映像が完成するまでの過程に込められた思いや技術を語り合った。そのレポートが到着した。
イベント冒頭では、仲プロデューサーが、作品の冒頭にも出てくるハイジャック犯のカボチャマスクをかぶって登場し、会場を沸かせた。
原氏は「こんなに間近に作品を観てくれる人がいるのが、初めてなので感動です」、脇氏は「最近は、ひたすらオンラインでのイベント続きだったので、目の前にお客さんがいる状態で話すのが楽しみです」と感激の様子で挨拶。司会の仲氏はイベントの来場者たちに、挙手制で、本作の鑑賞回数アンケートを実施。結果はなんと、ほとんどの人が3回目以上に挙手。会場は称賛の雰囲気に包まれた。
村瀬修功監督と一緒に仕事をした感想を聞かれ、原氏は「村瀬監督は、孤高のクリエーターという印象です。目を見て話してくれるのに2カ月かかりました(笑)。根が優しいので、仲良くなると沢山話してくれます。自然に要求がエスカレートしていくこともありましたが(笑)。キャラクターの心情など細かいものまで、懇切丁寧に教えてくれます」とのコメントに対し、脇氏は「自分は村瀬監督と初めての仕事でした。昔、村瀬監督と一緒に仕事をした先輩撮影監督さんの話を聞き、自分も同じように仕事ができるか不安でした。打ち合わせを重ねるごとに口数が増えて、打ち解けていきましたが、手ごわいなと思いました(笑)」。
岩下氏は 「非常にマイペースな方なので、答えを出すのに時間がかかって、お2人に迷惑をかけた気がするんですけど、その結果できあがったものは、皆さんご覧になったもので……そういった意味では良かったのかなと……画面作りに対するこだわりが強いので、そういうところが、監督の特徴ですね」。それに重ねるように、脇氏が来場者に感想を煽ると、満場一致の傑作と言っていいほどの盛大な拍手が起こった。
話は、村瀬監督の画面作りに対する要求などの話題に移り、脇氏は「作業にとりかかる上で、前に村瀬監督と一緒に仕事をしていた撮影監督の先輩方に話を聞くと、村瀬監督の作品は基本的に暗いのでそれをいかに見やすくするかが重要だと聞いて、過去作をいくつか観ましたが、正直暗くて戸惑いました。プロデューサーの小形さんには、あまり暗いとガンダムなのでちょっと……と言われて、それで言うとメカデザインの玄馬さんにはメカのシーンは大事なのに、何故こんなに暗いのかと、意見が食い違う場面もありました」。
岩下氏は「村瀬監督はガンダムであることは意識して取り組んでくれたんですけど、玄馬さん含め、今までガンダムをやってきたクリエーターたちとはすり合わせの時間がかかりましたね」と、制作当初を振り返った。
原氏は「本スタッフ陣は歴戦のプロ集団ということもあり、いろいろな意見が飛び交うので話がまとまらない期間がありました。アイデアを出すトップがキングギドラのようにそれぞれ、やりたい放題でしたね(笑)」と思い出を語った。
本作のモビルスーツの戦闘シーンは画面が暗いシーンが印象的だが、原氏や脇氏は撮影上がりの確認の際も暗くてあまりよく見えず、スクリーンでは見えるだろうと信じて作業に取り組んでいたそうだ。原氏が、暗室でチェックしても、なお見えないと言うほどの暗さだったという。
脇氏は「コンポジットで作業する際も見えないので、2段階くらい明るくしてからチェックしていました」と制作時の工夫を語り、一同賛同した。
光の工夫で言うと、原氏は「ペーネロペーの黄色いパーツが光るシーンがあるんですけど、我々はゼットン処理とよんでいて、あれは、村瀬監督の案を参考にブラッシュアップして作ったもので、とても綺麗に光っていて良かったなと思います」と絶賛。
脇氏は、「発光処理自体の元々の素材は明るかったのですが、ペーネロペーが下りてくるシーンのミノフスキー・フライトはレイヤーを重ねると、アンナチュナルだった(違和感があった)のでカット用に調整しています」と自身の制作に対する工夫を語った。
本作は3DCGのシーンや空中戦のシーンなど特徴的なところが多々あるが、それぞれのシーンの演出について感想を聞かれると、原は「背景の2Dをどういう風に加工してなじませるか、この作品はリアリティを土台にそれをアニメに落とし込む作業でしたね。ダバオ空港のラウンジのシーンなんか背景がすごすぎて、キャラが浮いてしまうのではないかと心配しましたが、撮影さんが上手くなじませてくれました」と美術背景の緻密さと撮影作業の重要さを語った。
脇氏は「処理決めや、どういう画面にするか、村瀬さんの意向と本来のガンダムの雰囲気のバランスが難しかった。コントラストなどのこだわりを何度もキャッチボールをして作成しました」と重要なシーンへの慎重な姿勢を見せた。
トーク後半では本作の見どころの一つである、グスタフ・カール00型がメッサ―F01型に止めを刺した際に飛び散る、まるで花火のように鮮やかで緻密な火花の話に。
原氏は「あのシーン、本来は火花ではなく粒子が飛ぶ予定だったのが、玄馬さんが火花にしたいと言いまして……なので、中国の花火大会を参考に、どうしたら再現できるのか試行錯誤しながら作業を重ねました。そこで、村瀬監督に許可をもらって、エフェクト作画監督の金子秀一さんに相談し、迫力のあるカットに仕上げてもらいました」とのこと。
そんな中で、岩下は「こだわりの強いスタッフが多いので、いろいろな人の意見を汲み込むがため、ギリギリまで粘って完成した作品ですね」と制作スタッフ陣の熱意と共に作り上げた熱い作品だと語った。
イベントは終盤に差し掛かり、ここで原氏が率直な感想を述べた。「正直、皆さん期待されていたと思うんですけど、評判が良いことにビックリしました。ガンダムを観たことがない人が観たいと言っていて……知識がなくても観られますかと聞いてくるんです。そこは、優しいガンダム好きの人が教えてくれるといいなと思いますが」。
それに対し脇は「僕も、(観る人がわかりやすいように)わかりやすいところにディテールを集めようと画面作りに取り組んでいましたが、村瀬監督はその視線誘導を気にしていて、どちらかと言うと、舞台になる場所のリアルな光源を意識して欲しいと要望がありました」と、村瀬監督の画面作りに対するこだわりと丁寧さを語った。
最後の挨拶で、原氏は「皆様、次作も期待されていると思います。真摯に向き合って作りますので、気長に待ってもらえると嬉しいです。ありがとうございました」と。脇氏は「次はいつになるのか、果たして自分の体力が続くのか……今日はありがとうございました。いやあ、話足りない……紆余曲折あった……ひとまず、本作は新しい発見があると思うので、何度も観てください。ありがとうございました」と話し足りない様子で挨拶。岩下氏は「脇さんの言うように、観るたびに、新しい発見があると思うので、次回作まで何度も観て、お待ちいただけたらなと思います。ありがとうございました」と、3人とも次回の制作に意気込みイベントを締めくくった。