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“レーザーディスクのDTSを最新AV機器で再生してみた” DTS 30周年 麻倉怜士講演

パイオニアのLDプレーヤー名機「HLD-X0」を、最新AV機器と組み合わせる

DTSの劇場公開第1作目としてスティーヴン・スピルバーグ監督の「ジュラシック・パーク」が1993年に公開されてから、今年で30周年。古くは、レーザーディスク(LD)やDVDにもDTSで圧縮された音声が収録され、最近ではIMAXとDTSが提携した「IMAX Enhanced」フォーマットも登場するなど、30年で大きな進化を遂げている。

そのDTS 30周年を記念し、DTS Japanがメディア向けに記念講演を開催。「麻倉怜士の大閻魔帳」でもお馴染み、オーディオ・ビジュアル評論家の麻倉怜士氏が、かつてのLDに収録されたDTSサウンドを、最新の機材で再生するとどう聴こえるか? という企画や、DTSサウンドの特徴、DTSの今後について語った。

麻倉怜士氏

DTSの音は“太ッとい”

“DTSラバー”だという麻倉氏は、DTSの特徴として「エンコーダーとデコーダーを両方手掛けており、文字通り、(コンテンツの)川上からユーザー宅での再生までをフォローしている事」と説明。

DTSの主な歴史

1990年にDTSを設立したTerry Beard氏は、当時、映画のサウンドが、フィルムの横に光学的に録音されており、音の特性が悪い事に注目。フィルムではなく、CD-ROMに圧縮した音楽信号を記録し、フィルムにプリントしたタイムコードを使って同期させて再生するシステムを考案。

試作システムをスピルバーグ監督にデモをしたところ、最初の音を聞くなり採用決定。制作中だった「ジュラシック・パーク」に初めて採用されたという経緯がある。

なお、劇場用のDTS信号が収録されたCD-ROMの転送レートは約1.5Mbpsと、音楽CDの2ch信号と同等であるため、そのレートに収まるように、5.1ch音声を圧縮して記録していた。

麻倉氏は、「DTSのサウンドは剛性感が強く、しっかりとした、“地に足がついた”音だった。大地が揺るがないぞ! という部分に感動した」と、DTS登場当時の印象を振り返る。

90年代の麻倉氏も、専門誌に「映画らしいエネルギッシュで、剛性感が強く、しかもリアリティに溢れるというシネマサウンド」「DTSの音は“太ッとい”。セリフが太い。肉声の粘っこい質感が見事に再現され、まるで、スクリーンの人物の喉の奥底から声が発せられるよう。肉厚! 情熱的! 興奮的」といった表現で、その魅力を伝えていた。

会場にはLDや、懐かしのDTSグッズも

その後、DTS-Matrix ES、DTS-Discrete ES、DTS 96/24、DTS HD High Resolution Audioなど、チャンネル数を増やしたり、サンプリング周波数/量子化ビットを拡張したホームシアター向けの様々なフォーマットが誕生。

2005年には遂に、ロスレスのDTS-HD Master Audio(最大7.1ch/転送レート768kbps~24.5Mbps)、2015年にはロスレスでイマーシブのDTS:Xが登場した。

レーザーディスクのDTSサウンドを、最新ホームシアターで再生すると?

DTSを収録したパッケージメディアとして、LD(レーザーディスク)が1981~2000年代に広く使われた。当時のLDでは、リニアPCMデジタル音声とアナログ音声が収録可能で、2chのリニアPCM音声と、DTSで圧縮した5.1ch音声は転送レートがどちらも約1.5Mbpsだった。そのデジタル音声領域にDTS音声を記録し、高品質なディスクリートサラウンドを家庭で楽しめるようにしたのが「DTS LD」。

北米では「ジュラシック・パーク」「シャイン」なども発売され、音のいいLDとして人気に。日本では1998年9月に当時のパイオニアLDCから「アポロ13」「ウォーターワールド」「デイライト」「ドラゴンハート」「ハード・ターゲット」の5タイトルがリリースされた。

当時を振り返るため、会場にはパイオニアのLDプレーヤー名機「HLD-X0」を用意。麻倉氏が、「アポロ13」のレーザーディスクを再生した。トラックはDTS Digital Surround 5.1ch。

パイオニアのLDプレーヤー名機「HLD-X0」

AVアンプはマランツの「AV8805」、パワーアンプはマランツの「MM8807」。スピーカーはKEF Japanの協力により、フロントに「R7 Meta」、センターに「R6 Meta」、リアに「R3 Meta」、サブウーファーは「KF92」2台という最新のシステムだ。

AVアンプはマランツの「AV8805」
R7 Meta
R6 Meta
R3 Meta
KF92

アポロ13の打ち上げシーンは、映像の解像度の低さには時代を感じるものの、包み込まれるサラウンド感、ロケットの移動感は今聴いても明瞭。最新のロスレス・サラウンドと比べると情報量の少なさを感じる部分はあるが、ブースターの迫力ある噴射音、重厚なオーケストラのBGMも肉厚で、麻倉氏が語るDTSの「音の太さ」や「肉厚さ」、「リッチさ」は、今でも十分感じられる。改めて聴いた麻倉氏も、「音が細くなく、ぶっとい感じがあって、LDには素晴らしい音が入っていたんだとわかる」と語る。

LDを取り出す麻倉氏。「LDはビクターのVHDと戦って勝ったが、なぜ勝ったかとうと、まず“光るところがよかった”最新メディア感があった」と笑う

1996年に登場したDVDビデオでは、12cmディスクになり、MPEG-2で圧縮した映像と、リニアPCM、またはドルビーデジタルで音声を収録。DTS音声はオプションフォーマットだったが、迫力あるサラウンドが楽しめることが注目され、日本ではパイオニアLDCから1998年「天地無用! 真夏のイブ」が発売、他にも「モントセラト島救済コンサート」などがオーディオビジュアルファンに愛用された。

麻倉氏は、パナソニックの「DMR-ZR1」を用意し、DVD再生をデモ。当時のAV系イベントで試聴デモの定番となっていたイーグルス「HELL FREEZES OVER」の「ホテルカリフォルニア」のDTS Digital Surround 5.1chを再生。

筆者も何度も聴いたディスクだが、今聴いても十分素晴らしい音。麻倉氏も「ギターの音の粒立ちが良く、肉厚さがあり、クリア。今の機器で再生すると、さらに情報が出てくる感じすらある」と驚いた様子。

ちなみに、毎年米ラスベガスで開催される「CES」を取材している麻倉氏。「当時のCESでは、DTSブースがとても大きくて、取材して買えるときにお土産としてDTSのデモディスクがもらえた。当時、日本で入手するのは難しく、“すごいだろ”といろんなところで自慢していた」と笑う。「当時はアメリカで売っているDVDの方が、音も絵も良いと評判で、CESに行ったらついでにサンフランシスコのアメーバ(アメーバミュージック)ってお店に行って、大量に買い込んで、帰りは(大きなリュックを背負って)まるで山男みたいになっていた」とのこと。

2006年、Blu-rayディスクが登場。DTS音声はオプションからマンダトリーに昇格し、ロスレスフォーマットのDTS HD Master Audioが多くの作品で採用されるようになる。

麻倉氏は「ジュラシックパーク」や「モーツァルトバイオリンコンチェルト ニ長調 アレグロ by Trondheim Solistene」をデモとして再生。DTS HD Master Audioの進化点として、「音の体積が大幅に増えた。特に音の天井が、遙かに高くなった感じで、ヌケがひじょうに良くなった。アンビエントの再現性も細かな空気感まで聞こえ、微少なニュアンスを伴った雰囲気まで手に取るように分かる」と表現。「クリアなだけでなく、底力がある。音楽作品でも確実な存在感がある」とした。

2015年に、独自のイマーシブフォーマット「DTS:X(旧名DTS UHD)」が登場。DTSが買収した音響技術会社SRS Labsが開発したオブジェクトベースのマルチ・ディメンショナル・オーディオ(MDA)技術がコアテクノロジーとなっている。

麻倉氏は特徴として、「Auro 3Dは開き角仰角とも30度、Dolby Atmosは開き角仰角とも45度を推奨しているが、DTS:Xには制約はない。逆にいうと、これらのフォーマットのスピーカー位置のままでよいと解釈できる」と、ハイトスピーカー配置が自由である事を紹介。

UHD BD「ハリー・ポッターと死の秘宝PART2」のデモ再生では、オブジェクトオーディオらしい、トロッコで疾走するシーンの移動感のリアルさ、洞窟内で音が反響して広がる広大さなどを実感できた。

そしてIMAX Enhancedへ……

そしてDTSは、大画面・高画質・高音質の劇場用フォーマットのIMAXと提携し、IMAX Enhancedを2018年に立ち上げた。シネマスコープが横2.35:縦1に対し、IMAXは1.43:1(フィルム時)というかなり縦に広いアスペクト比が特徴。その家庭用のイマーシブフォーマットがIMAX Enhancedとなる。

麻倉氏は、「Auro 3D、Dolby Atmosは音質のみのフォーマットだが、IMAX Enhancedは画質、音質、アスペクト比と、オーディオ、ビジュアル、画面比のすべてに責任を持つ初の家庭用のイマーシブフォーマット」と紹介。

画質は基本的に4K/HDR。音声はIMAX劇場公開用に使われる6.0ch、12.0chの素材をDTS:Xに変換。IMAX劇場はサブウーファーがないので、「.1」(LFE)を生成して付加する。AVアンプなどでの再生時には、低域を強調する「IMAXモード」を有効にするといった特徴がある。

麻倉氏は、「バッドボーイズ IMAX Enhanced版」「Journey to the South Pacific IMAX Enhanced版」、「スパイダーマンノーウェイホーム」をデモ再生。「(バッドボーイズ IMAX Enhanced版, チャプター11:チェイスシーンは)ハイクオリティな画質、音質のショールーム。黒光りするハイコントラストで、ディテールまでしっかりと描かれた現代的な爽快な画調と、雄大で鮮明で剛毅なサウンドとの協演は、IMAX Enhancedならではの感動」と紹介。

「これまでのDTSが備えていた底力、音の体積の大きさなどを備えながら、より細かいところまでわかる音に、目配りがちゃんと行き届いた音になっている。DTSの特徴ある音だけでなく、映像もそれに沿ったクオリティ。“IMAXはDTSを求めていて、DTSもIMAXを求めていた”両者が追求してきたコンセプトに近似性を感じた」と、IMAX Enhancedを評価。

さらに、DTSの30年を振り返り、「フォーマットが生き残るためには、存在価値が無ければいけない。IMAX Enhancedは映像も音声も濃密なのが魅力。ぶっとく、ゴージャスな音こそがDTSの魅力。それの価値が認められて来たからこその30年だと思う」と語った。

なお、2023年のIMAX Enhancedは、カタログの充実がテーマ。配信では、Disney+とソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのBRAVIA COREがそれぞれリニューアルされる。

Disney+では、これまで映像のアスペクト比のみIMAX Enhanced方式だったが、今年から音声にDTS:Xを採用し、15タイトルの配信を予定。

ソニー・ピクチャーズでは、「Spider Man: Across the Spider Verse」「Gran Turismo 」「The Equalizer 3」などの新作に加え、カタログ作品から最大40タイトルがリマスターされ、配信予定。UHD BDでのリリースも、ボックスセットとして2タイトルが契約されているそうだ。

麻倉氏は、「DTSはこれからも着実に進化していくだろう。私も期待している。個人的には、ディスクでのリリースを期待しています」と笑顔で語った。

自動運転の車内でDTSサウンドを楽しむ時代へ

DTS Japanの西村明高代表

DTS Japanの西村明高代表は、家庭内だけでなく、親会社のXperiの独立メディアプラットフォームが、BMWの5シリーズに採用された事も紹介。

2025年、26年、27年といった近い将来に出荷される車へと採用が進み、それらの自動車ではレベル4、5の自動運転機能を備えた車も増える見込み。車の中で映像サービスを楽しむ事も重要視される事になる。

「例えば、登場者を認識し、ドライバーが誰で、同乗者は誰で、行き先まで何時間……という条件のもと、“こんなビデオ作品を鑑賞したらいかがですか?”というガイダンスを出すような時代になる。そこに向けて、DTSのコーデックや、IMAXの体験を車の中にも展開していきたい」と、展望を語った。

講演はOTOTEN 2023で体験可能

なお、前述の麻倉氏の公演は、6月24日~25日に東京国際フォーラムで開催される「OTOTEN 2023」のカンファレンスルーム507にて体験できる予定。両日の13時からで、参加方法などの詳細はDTS JapanのTwitterアカウントなどを参照の事。

当日は、システムがさらにグレードアップされ、フロントスピーカーがR7 Metaから、より上位のR11 Metaになる予定だ。