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IMAXの映像とサラウンドが家庭にやってくる。「IMAX Enhanced」の秘密を聞いた

IMAX独自のアスペクトサイズを持つ4K/HDR映像と、DTSのイマーシブ・オーディオを融合させた家庭用プログラム「IMAX Enhanced」が、いよいよ日本でも'19年内にサービスを開始する。まずは映像配信サービス・TSUTAYA TVをプラットフォームに、映画「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」など、ソニー・ピクチャーズの5作品を対応機器向けに提供する。

11月1日開催の発表会にあわせて、同プログラムの中心的役割を担うIMAXとXPERI(DTSの親会社)からキーマンが来日。IMAX Enhancedの概要と今後の展開、IMAX Enhancedのパッケージなどを訊ねた。

ギア・スカーデン氏(XPERI チーフ・プロダクト兼サービスオフィサー)、ブルース・マーコウ氏(IMAX シニア・バイスプレジデント)

--IMAX Enhancedの開始は、日本のAVファンはもちろん、IMAXを好む映画ファンにとっても待望の報せだと思います。まず始めに基本的な部分からお伺いします。なぜ国内での最初のプラットフォームが「TSUTAYA TV」なのでしょうか。

スカーデン:私たちにとって、TSUTAYAとパートナーシップを組むことは、非常に自然な“解”であったと考えています。TSUTAYAのブランドは日本ではとても知名度がありますし、映画コンテンツと深い関わりを持っている企業です。

長く手掛けているビデオのレンタル・販売事業はもちろんのこと、近年は映像配信サービスにも力を入れるなど、多くの実績をお持ちです。“ハイクオリティエンターテイメントを家庭に”というIMAX Enhancedの信念と照らし合わせても、今回の協業は非常に自然で、ベストマッチなパートナーと考えています。

TSUTAYA TVの画面(画面は開発中)

--IMAX Enhancedプログラムではある一定水準のクオリティを担保すべく、テレビやプロジェクター、AVアンプなどの機器に対し、いくつもの要項を定めた認証制度を設けていますね。プラットフォーム側に対しても、クオリティ面での決まり事はありますか。

スカーデン:はい。まず映像ですが、4K/HDR品質で配信することが絶対条件です。そして音声は、イマーシブな、臨場感に溢れたサウンドトラックでなければなりません。IMAX Enhancedは、IMAXのシネマ体験を家庭に提供することを目的に誕生したものですから、プラットフォーム側には、4K/HDR、そしてイマーシブサウンドという高品位なデータでの配信をお願いすることになります。ご承知の通り、IMAXのコンテンツはとてもユニークなものであり、一般的なコンテンツとは異なります。低品位なデータで提供することは、非常にナンセンスだと考えています。

マーコウ:最近は一般家庭でも、高品質なデバイスが導入しやすい時代になりました。とはいえ、高品質なデバイスがあるだけでは意味が無く、そこには高品質なコンテンツと、高品質な配信システムが必要です。我々のIMAX Enhancedプログラムは、これらを抱合したエコシステムを構築することで、ユーザーが100%満足できる品質を提供します。

--IMAX Enhancedコンテンツは全て、4K/HDR映像とイマーシブなDTS:X音声で提供するわけですね。

マーコウ:そうです。先ほどスカーデン氏が“ハイクオリティエンターテイメントを家庭に”と話しましたが、それと同時に、IMAX Enhancedは“映画製作者が意図した映像と音声を完全に家庭で再現する”ために作られたプログラムでもあります。我々は数年前から多くのスタジオやフィルムメーカーと密に連絡を取り合い、ベストな仕組みを作り上げました。私たちのシステムを通じて、映画製作者が届けたい・伝えたいと思っている意図を、最高の映像と最高の音で提供できるのです。

--2K解像度やSDRの形では、IMAX Enhancedとして提供しないと。

スカーデン:はい、そうした仕様は排除しています。ただ、音声に関しては後方互換性をもたせており、DTS-HD Master Audioなどでも再生できるようにしています。

IMAX Enhancedコンテンツ「A Beautiful Planet」より

--IMAX EnhancedでサポートしているHDR規格を教えてください。HDR10以外の規格もサポートしていますか。

マーコウ:どのHDR規格を選択し提供するかは、我々ではなくスタジオが判断する事です。HDR10でやりたいというスタジオもあれば、HDR10+を検討しているスタジオもあります。

スカーデン:おそらく動的メタデータを意識しての質問と思いますが、ここで強調しておきたいのは、どのHDR規格を使うか否かということとは別に、IMAX EnhancedのソースはIMAXのマスターデータから作られるものです。仮に同じコンテンツを他のサービスが提供しても元のソースが違うわけです。この点は非常に重要です。そしてあえて厳しい認定制度を設けているのも、認定済みの製品であれば、最高品質で楽しむことができるという我々の担保でもあるわけです。ですから、動的メタデータによるHDRが必ずしもマストであるとは感じていません。

動的メタデータによる効果が大きいのは、輝度性能に制限があるような、ロークオリティの機器だと思います。動的メタデータの効果によって、ロークオリティの機器でもよりよい画質、よりよい状況にできるのだとしたら、それは価値があることだと思います。

--スタジオ側に委ねると仰いましたが、さすがにDolby Visionはサポートしませんよね?

スカーデン:それはありません。HDR10とHDR10+の2つです。種類の異なる動的メタデータを見分けることが出来る方は、ほとんどいないでしょう。少なくとも私には判別がつきません。

TSUTAYA TVで配信予定のIMAX Enhancedタイトル。4K/HDR、DTS音声での配信を予定(画面は開発中)

--4Kコンテンツを配信で家庭へ届けるには、圧縮が欠かせません。品質の担保という面で、圧縮後の品質も確認されていますか。

スカーデン:もちろん、ダブルチェックを行なっています。日本ではTSUTAYAですが、米国ではFandangoNOW、欧州ではRakuten TVといったストリーミングプロバイダーとパートナーシップを結んでいます。それぞれにガイドラインを設け、インフラの整備やテスト検証、画や音のエンコードのサポートなど、様々な課題を共に1つ1つクリアした上で、サービスを展開します。実際に我々のラボに機器を持ち込み、映像・音声含め様々な検証も行なっています。ストリーミングですから、最終的な通信速度はユーザーの環境に左右されますが、IMAX Enhancedの良さを感じていただける品質は担保できていると思います。

マーコウ:データを圧縮しながらも、高品質な映像を維持するには、例えばフィルムグレインと呼ばれるノイズの処理がポイントになります。その点、IMAXシアターで長年培われている“DMRプロセス”が今回のIMAX Enhancedにも活かされていますから、他のシステムよりも高効率かつ高品位なエンコード処理が可能です。もちろん音声に関しても、DTSの音声技術のおかげでIMAX映画が持つ“広いダイナミックレンジサウンド”がそのまま再現されています。

スカーデン:IMAX Enhanced認定のディスプレイを購入し自宅に設置すれば、インターネットを通じて、即座にIMAX Enhancedが楽しめる。このシンプルさが非常に重要です。4Kテレビを購入しても“高画質と感じない”とフラストレーションを抱えている方もいらっしゃるでしょう。その原因はコンテンツにあります。TSUTAYA TVのようなプロバイダーと手を組むことで、そうしたユーザーの不満を解消し、製品の箱を開けた瞬間からシネマ体験が楽しめるのがIMAX Enhancedプログラムなのです。

嬉しいことに、先行してプログラムを開始した海外においては、IMAX Enhancedコンテンツと通常の4K/HDRコンテンツとでは、前者が2倍以上のエンゲージメントを記録するというデータも得られています。

IMAX映画でも使われているDMR(Digital Remastering Technology)技術が、IMAX Enhancedでも活かされているという
IMAX Enhancedのパートナー一覧

--日本でのIMAX Enhanced配信は“TSUTAYA独占”ということですが、今後TSUTAYA以外でのサービス展開は考えていますか?

スカーデン:日本はまだスタート段階にあります。まずは年内に無事ローンチし、楽しんでもらうことが優先ですから、今現在TSUTAYA以外の展開は考えていません。海外では、FandangoNOWやRakuten TV、Tencent Videoがストリーミングパートナーになっています。次のステップとしては、中国のような、大きな市場でのパートナー作りを引き続き進めるべきと思います。

--配信が予定されている5タイトルはすべてソニー・ピクチャーズ作品ですが、パラマウントやその他のスタジオとは、協議が進んでいますか? 感触を含めて教えてください。

マーコウ:今のところ具体的なアナウンスはできませんが、ソニー・ピクチャーズとパラマウント以外の、あらゆるスタジオと話し合いを進めている段階で、非常にいい感触が得られています。今後、より多くのタイトルが出てくるチャンスは、かなり大きいと思います。

これは海外の話ですが、ソニー・ピクチャーズに続いてパラマウントが「バンブルビー」「クロール -凶暴領域-」「ペット・セメタリー」「ロケットマン」をIMAX Enhanced版で配信する予定です。

IMAX Enhancedコンテンツ「Journey to the South Pacific」より

--IMAX Enhancedの“パッケージ”について、お伺いします。海外では「A Beautiful Planet」「Journey to the South Pacific」「Space Station」のIMAX Enhanced版UHD BDが発売されていますね。配信も便利ですがコアなAVファンは、IMAX Enhancedのパッケージ、特に映画タイトルを待ち望んでいると思います。進捗状況はいかがですか?

スカーデン:時代の主流が、ストリーミングであることに異論はないでしょう。機器をネットに接続されすれば、たくさんのコンテンツを手軽に楽しめる環境は、非常に魅力的です。ユーザーアクセスを如何にシンプルにするかは、IMAX Enhancedでも重要な部分です。ただ、貴方が仰るようにパッケージを愛する人々がいることは十分承知していますし、私自身もパッケージを愛しています。

パッケージに関しては、1つ進捗があります。IFA2019で聞かれたかも知れませんが、ソニー・ピクチャーズから「The Angry Birds Movie 2」のIMAX Enhanced版UHD BDが近日海外でリリースされる予定です。引き続きタイトル数を増やしていくよう働きかけを行なっており、来年にはより多くのタイトルが披露できると思います。期待していてください。

IMAX Enhanced版UHD BD「A Beautiful Planet」と「Journey to the South Pacific」
「Space Station」

--昨年にインタビューを行なった際、IMAX Enhancedコンテンツはアスペクト比1.43:1の画角もサポートする、という回答でした。本当にサポートするのか、改めて確認させてください。

マーコウ:どのようなアスペクト比で作品を提供するかは、スタジオとフィルムメーカーの判断次第です。ご存じだとは思いますが、1.43:1を採用する作品はクリストファー・ノーラン監督の映画など、ごく一部の作品に限られます。それに、1.43:1を16:9のディスプレイ画面でそのまま表示すると左右に大きな黒帯を付けることになり、イメージサイズが小さくなります。それよりは、1.90:1や1.78:1、または16:9のアスペクト比で、ディスプレイ全体をできる限り埋めることが重要と思います。

--オリジナルのアスペクト比を最重要視するわけでは無く、あくまで基本は16:9のディスプレイで大きく表示できるように微調整(カット)するということですね?

マーコウ:そうです。もちろんスタジオが1.43:1のアスペクト比でやりたいということであれば、サポートはします。

基本的には、IMAX Enhancedコンテンツは16:9で提供される

--IMAXシアターで上映される“IMAX映画”についてお伺いします。ブロックバスターと呼ばれる大作の中にも、IMAXで上映される作品もあれば、上映されない作品もありますね。IMAX版を作る・作らないの決定や、出来上がったIMAX版の版権はどこにあるのでしょう?

マーコウ:IMAX社内には、スタジオ側と直接やりとりを行なうマーケティングの部隊があり、この部隊がIMAXの上映有無を含む様々な協議をスタジオと行ないます。我々がアイデアを出すこともありますが、どの映画をIMAXで撮影して、配給して、そして家庭に展開するのか……各決定のイニシアチブ、最終的な判断は、我々ではなく、スタジオとフィルムメーカー側にあります。もちろん、権利もです。

IMAX Enhancedプログラムでは、IMAXシアターに配給された作品がメインですが、スタジオの決定次第では、配給されなかった作品を提供する可能性もゼロではないと思います。

--「Disney+」のように、これまでプラットフォーム側にコンテンツを提供してきた映画スタジオが、独自の映像配信サービスを自ら行なう流れが生まれつつあります。IMAX版の版権や提供有無の最終的裁量がスタジオ側にあるのだとしたら、彼らの判断次第で、Disney+などのサービスでもIMAX版が提供される場合もあるということですか?

マーコウ:あくまで個人的なコメントですが……何事も可能だとは思います。そのようなことが実行されれば、消費者、そして我々にとって喜ばしいことでしょう。ただ、だからといって、その希望が100%反映されるか否かは、また別の問題だと思います。

スカーデン:基本的には、今後コンテンツホルダーが直接配信に深く関わることは、健全な進化ではないかと思います。その上で、制作者の意図“アーティスティック・インテンション”がきちんと守られているか、そしてより良いエンドユーザーエクスペリエンスが担保されているか、という条件が満たされているのであれば、先ほどの質問のようなアイデアは非常に面白いと思いますし、双方にとってシナジー効果、価値があることでしょう。

--配信の世界、そしてパッケージの世界でも“4K/HDR”がスタンダードな仕様になりつつあります。そして劇場においても、ドルビーシネマがHDR上映を始めています。今後IMAXシアターでHDR上映を行なう検討や、次世代プロジェクターなどの機器開発はしていますか?

マーコウ:最新のIMAXシアターに導入しているレーザー型のIMAXプロジェクターが、我々における“HDR”とお考えください。旧世代のオリジナルプロジェクターも、一般的な他のプロジェクターと比べて明るく、高コントラストですが、レーザー型のIMAXプロジェクターはそれを遙かに上回る解像度と輝度、コントラスト、色彩を実現します。そしてサウンドも12chのパワフルなサラウンドが楽しめます。いま我々は、より多くの観客にこの感動を届けるべく、順次レーザー型のプロジェクターシステムに置き換えているところです。

IMAXレーザー劇場のイメージ
12chスピーカーのイメージ