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NHK、'27年度までに1000億円支出削減。インフレでも受信料「変更しない」

NHKホームページより

NHK(日本放送協会)は10日、2024-2026年度の次期経営計画案を発表した。これまでの構造改革を推し進め、コンテンツの総量削減と設備投資の大幅削減等を実施。さらに'24年度に衛星放送1波を、'26年度にラジオ放送1波を削減するなどして、'27年度までに1,000億円の支出削減を行ない収支の均衡を目指す。受信料に関しては、インフレ下でも10月に値下げした受信料額を堅持。「受信料体系の変更は実施しない」とした。

NHKの究極の使命「健全な民主主義の発達に資する」こと

経営計画は、NHKの中長期の経営方針を取りまとめたもので、放送法により、3年以上5年以下の期間ごとに公表することが規定されている。NHKは今回の経営計画の発表に合わせ、プレス向けのオンラインブリーフィングを開催。経営計画の概要と狙いを説明した。

まず経営計画案にあたっては、自らの究極の使命を「健全な民主主義の発達に資する」こと(放送法)、そして「今、日本の公共放送(メディア)NHKに何が求められているのか」ということを原点にして作成したという。

具体的には、2つのフェーズを想定。自然災害の激甚化や社会の混乱を招くフェイクニュースが蔓延する「災害時」に際しては、緊急時の報道を更に充実させ、フェイクニュースへの対応(駆逐)を欠かさず実施。また「平時」に際しては、情報空間の健全性を確保することで平和で豊かに暮らせる社会を実現し、民主主義の発展に寄与することを方針とする。

そのための基軸として、信頼できる基本的な情報の提供=「情報空間の参照点(道しるべ)」を提供すること、民主主義の基盤である多角的な視点=「信頼できる多元性確保」へ貢献することを盛り込んだ。

そして、NHKがいま目指すべきコンテンツの柱として、「デジタルと放送が連携して 災害時になくてはならない命綱に」、「“フェイク”の時代だからこそ 顔の見える信頼のジャーナリズム」、「民主主義の一翼を担い 平和で持続可能な世界の構築に貢献」「世界で輝く 良質な教育・幼児子どもコンテンツ」、「未来をみつめ 人生を豊かにする教養・エンターテインメント」、「幅広いジャンルと地域情報で多様性・多元性の実現」の6つを設置。目標を持って視聴者と国民の「公共的価値」を実現していくという。

NHK経営計画 2024-2026年度(案)より

コンテンツに関しては、放送とデジタルで幅広く展開。メディアを削減しコンテンツに集中させる環境とテクノロジーによる制作の高度化によって、質と量を確保する。

NHK経営計画 2024-2026年度(案)より

赤字分は還元原資で補填。受信料額は堅持。1,300億円の経費削減

2024年度から2026年度までの収支に関しては、'24年度に570億円、'25年度に400億円、'26年度に250億円と、3カ年の総額で1,220億円の赤字を見込む。収支の差額は、還元原資(還元目的積立金)から補填。事業規模を段階的に縮小しながら、'27年度での収支均衡を目指す。インフレの影響などに伴うコスト増も、仕様を見直すなど経営努力で吸収する。

NHK経営計画 2024-2026年度(案)より

事業収入で大半を占める受信料については、インフレ下であっても、修正経営計画の約束を果たし、収支均衡と'23年10月に値下げした受信料額を堅持。また公平負担の徹底を図るべく、視聴者との接点(デジタル・書面・対面・外部団体等)を開発・拡大し、契約申出・支払の利便性やNHKへの理解を高める、時代に即した「新たな営業アプローチ」を推進することで支払率を維持する。

受信料以外の収入も模索。コンテンツ展開や保有する施設などの有効活用による副次収入、関連団体からの配当金などによる財務収入等を想定し、財源の多様化を図る。

事業収支については、番組経費や営業経費への斬り込みに加え、'24年度の衛星放送一本化(BS1とBSPの統合)、そして'26年度予定のAMラジオ放送一本化(ラジオ第一と第二の統合)の放送波削減など、業務全般の大胆な見直しを実施。さらに、設備投資についても大幅に削減するなどの構造改革を断行し、'27年度までに1,300億円規模('23年度予算比)の経費を削減する。

一方で、放送100年にふさわしい高品質コンテンツの創出やテクノロジーを活用したワークフロー改革などの領域に、300億円程度を重点投資。結果として、'27年度までに1,000億円の支出削減を目指す。

NHK経営計画 2024-2026年度(案)より

「信頼」がすべての源。「信頼」される組織運営へ

経営計画では、NHKの組織運営に関しても明記。現場と経営の双方において「信頼」と「透明性の向上」を徹底させる。

現場においては、一人ひとりをプロフェッショナルとして尊重し、専門性を伸長する人事ポリシーを徹底。ダイバーシティ確保も含め、多様な価値を生み出せる人材の育成のほか、専門性を発揮できる“内制力”を保持し、情報空間全体に「信頼」できる情報を提供することを支える現場力の強化を目指す。

経営においては、経営の意思決定プロセスを明確化し透明性向上を図ること、ルールの順守を徹底する組織風土の定着、そして多様な理念・目標を多面的に提示し、PDCAを回していくことを全体方針として設定。

また、内部統制強化の一環として、全ての稟議書の査閲など監査委員会の機能充実を図ること。さらに、協会・関連団体の運営、業務、財産に関する重要な内容に対し、とくに「ガバナンス」の観点から、経営委員会が執行部と審議・検討する定期的な会議体を設置することなどを盛り込んだ。

NHKは「経営計画の施策を行なうには、何よりも視聴者・国民からの『信頼』が源であり、すべてだと考えている。施策を着実に遂行し、視聴者・国民から『信頼』されるNHKの組織運営を目指していく」と話した。

なお今回の計画案は、最終議決前のもの。今後NHKではパブリックコメントを募った後、経営委員会が最終的な事業計画を総務大臣へ提出。内閣を経て国会に提出され、審議されるスケジュールとなっている。