【IFA2009】3Dとネットワークにかけるソニーの新戦略

-ソニーヨーロッパ西田社長に聞く、欧州市場の現状と未来


ソニー ヨーロッパ 西田不二夫 プレジデント

会期:9月4日~9月9日(現地時間)

会場:メッセ・ベルリン見本市会場


 IFA 2009の開幕前々日となる9月2日、ソニーはプレスカンファレンスを開催し、2010年内には3D対応の液晶テレビ「BRAVIA」や、Blu-ray Discプレーヤーなどを発売するなど、積極的に3D化を進める方針を発表。さらに、5カ国/7局の放送局と協力し、BRAVIAのネットワーク機能を使って、ネットコンテンツを視聴可能とするなどの新しい取り組みを紹介するなど、新しいソニーの事業方針を示した。

 今回発表した新戦略や、欧州におけるビジネス環境の現在を、ソニーヨーロッパの西田不二夫 プレジデントに聞いた。

 


■ From Lens to Livingroomで3Dを加速

make.believeをブランドメッセージとし、全社的に展開

 ソニーは、IFA 2009に合わせて、make.belive(メイク ドット ビリーブ)という新しいブランドメッセージを発表した。

 西田氏は、「従来の“like.no.other”は、どちらかといえばエレキに限ったメッセージだった。make.beleiveは、グループとして、エンタテインメント、映画、ゲームも表現できるメッセージとして2年ぐらい考えてきたもの。makeは伝統的なソニーのものづくり、believeは理想、ビジョン、クリエイティビティ、スピリットを活かしたコンテンツの創造で、これらを.(ドット)でつなぐという意味」と解説。エレクトロニクスとコンテンツの両輪で、ソニー独自の事業展開を図るという意気込みを説明した。

 今回のIFAでもっとも大きな発表といえるのが、「3D」への対応だ。Blu-ray Disc Associasionによる、Blu-ray Discの3Dの規格化を睨みながら、ソニーも2010年の製品展開に向けて作業を進めていく。

 2010年内の3D対応が表明されているのは、液晶テレビの「BRAVIA」、Blu-ray Discプレーヤー、そして、パソコンのVAIOだ。あわせて、ゲーム、つまりPlaystation 3についても3D対応を進める方針を明らかにしている。

ソニー ヨーロッパ 西田不二夫 プレジデント

 西田氏は、ソニーの3Dへの取り組みを「From Lens to Livingroom(レンズからリビングルームまで)」と説明する。

「ソニーは、映像製作から製品まで、さまざまな技術を持っている。レンズからリビングルームまで、一貫して3Dを進める。これは他社にはできない、ソニーならではの強みだ。例えば、コンテンツについては、今回はSPEの映画を使っているが、FIFAのスポンサーということもあり、フットボール(サッカー)の試合をどのように撮影して、3Dで表現するかということにも取り組んでいる。これは映画とはまた違う試みになる。来年のFIFA(W杯)までにどのように3Dで伝えることができるのか、研究していきたい」

 「もう一つの強みはゲーム。これはエレクトロニクス他社には無いもの。ソニーは、コンテンツとして映画、スポーツ、そしてゲームを揃えられる。ゲームは一番身近に3Dを楽しめるコンテンツではないか。いつになるかはまだ言えないが、これも“やる”」


映画やゲームなどで3D対応を加速。BRAVIAやBlu-rayプレーヤーから対応を開始

 西田氏は「いままで、ハイビジョン、Blu-rayと来たが、ハイビジョンも行きつくところまで来た。HDの次は何か、というビジネスとしての側面と、お客様の価値、新しいエンターテインメントとして3Dを積極的に進めていきたい。これは一社だけでなく、産業としてやらなければいけない。Blu-ray Disc Associationで規格化もして、来年には商品も出てくる。“家庭で3Dが楽しめる”新しい時代に向けて、推進していきたい」と意気込みを見せる。

 ただし、欧州における3Dコンテンツの盛り上がりは、それほどでななく、米国での3Dの盛り上がりは、「ヨーロッパもあまり伝わっていない」という。そのため、3Dの伸びについては、「初年度(2010年度)の数はまだわからない。まだ、(2010年内の)“いつ”とも言っていないので。どこまで3Dが普及するかはコンテンツ次第だが、最初の製品は価格が高くなるだろう」と語る。

 だが、「個人的な希望」と前置きしながらも、「3Dの普及には5年ぐらいかかるだろうが、その時に3D対応が(テレビ市場の)20%ぐらいになっていればいいなと思っている。テレビは今、どんどん安くなって、利益も出なくなっている。新しいものを出さないと、数は増えてもマーケットが縮小してしまう。産業としてもこれは不味いし、我々としても3Dのイニシアチブを取って、ソニーのブランドや利益などでいい方向にもっていきたい。だから、それくらい普及して、産業として盛り上がってほしい」と3Dにかける期待を語る。あわせて、カメラやカムコーダなどでも3D化に取り組んでいくという。

 


■ BRAVIAの差別化としてネットを促進

 「もう一つのメッセージ」というのが、ネットワーク戦略だ。米国を中心にPlayStaiton Network(PSN)を推進し、米国を中心に約2,700万のユーザー数を誇り、映画のダウンロードレンタルも実施しているが、欧州においても11月からPSNをドイツなど4カ国でスタート。「徐々に欧州全域に広げていく」という。

BRAVIA Internet Videoも2010年初頭より開始

 さらに、今回発表したのが「BRAVIA Internet Video」と呼ぶテレビでのネットワークコンテンツ視聴だ。2010年春ごろの本格展開を予定している。

 「イギリスでもPCで無料/有料で放送番組をみるというサービスが増えてきている。若い人はPCでみているが、時間に関係なく見られるので、これをテレビでも見たいという人が多い。録画する手間もなく、放送局が貯めたコンテンツを見られる。昔からあるアイデアだが、ブロードバンドも揃ってきてようやく、実用的な環境になって、放送局も揃ってきた」とする。

 現在の5カ国、7局の放送局が参加表明しているが、「サービスが定着すれば、ついてくる放送局も増える。昨日(インタビューは発表翌日の3日に行なった)発表したばかりだが、もう“載せてくれ”という声も2~3社からいただいている」と手ごたえを語る。

 欧州では放送局が自らサーバーを設置して、配信を行なっているケースがほとんどのため、BRAVIA Internet Videoはこれらのサーバーにアクセスし、テレビでの表示に最適化した形で視聴可能とする仕組みとなる。このため、収益の配分から見せ方まで、「放送局ごとに違うので、それぞれ個別に交渉、契約している」とする。欧州では放送局がコンテンツの権利を有していることが多いため、こうした個別交渉/契約により、映像配信が可能となり、サービス提供中の全地域で同じように配信可能となるという。。

 事業としての位置付けについて西田氏は、「これで収益を上げようというつもりは今のところない。BRAVIAというテレビの商品価値を上げよう、という付加価値戦略。契約には時間も手間もかかるので、ほかのメーカーがまだできないことですね」と言及。「これらはオープンな仕様があるわけではない。ブラウジングやナビゲーションもそれぞれの意向に合わせて作り込む。あるいは、広告の収益をどう分けるか? こういったことも個別に相談していて決めている。テレビの今年から来年の目玉。期待している」と、ネットワーク配信にかける思いを語った。

 


■ 3Dは、厳しい事業環境における“夢”

 欧州のテレビ事業の現状については、「小型や安い商品が伸びている」という。ただし、ソニーとしては、「数的には伸びているが、大型はそれほどでもない。平均価格が下がっているし、値下げもされている。金額ベースでは対前年比で落ち込んでいる。小型をあまり持っていなくて、価格も比較的高いので苦戦している」。

 Blu-rayについても、「計画よりは下回っている。値段が安い他社製品もあるが、それも伸びていない」とし、原因については、「ソフトの普及がまだまだ」と分析する。録画機については、「米国よりは可能性があるが、日本のようなライブラリ化、という文化は無い。STBにもレコーダが付いているので、あまりBlu-rayレコーダが普及するという感じはない」とする。

 今期で収益が良かったのは、サイバーショットやαなどのデジタルスチルカメラ。一方、ビデオカメラは大きく落ち込んだという。ウォークマンについては、「シェア10%ぐらいで、ブランドとして支持されている」とのこと。

 今後の景気の見通しについては、「特に東欧の不良債権問題がはっきりしていないので、個人的にはこれが解消されなければ、東欧を中心に欧州の景気は良くならないと思う。西欧の問題は失業率。スペイン、ポルトガルは特に悪く、また、ロシアの景気も悪い」とかなり悲観的だ。

 ただし、こうした状況下だからこそ。3Dのような夢が必要とも語る。

 「歴史的にも景気は必ず戻る。その時に、どういう商品、技術を持って、どういう攻撃に出られるか。ポジティブなトレンドに乗るための体力づくり、準備をしなければいけない。3Dはまだお金にはならないけれど、“夢”が無いと。今ようやく、“3Dがビジネスになる”という感触が持てた。これを大事にしていかなければいけない」


(2009年 9月 9日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]