「技研公開2010」。放送通信融合や高画質化した裸眼3D
-曲がる有機EL“壁の向こうを撮る”カメラも
日本放送協会(NHK)は、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2010」を5月27日から30日まで実施する。入場は無料。公開に先立って25日、マスコミ向けの先行公開が行なわれた。
2020年の試験放送開始を目指す「スーパーハイビジョン」については、別記事でレポートしている。ここではその他のトピックについてお伝えする。
■ 放送通信融合する「ハイブリッドキャスト」
ハイブリッドキャストの拡張コンテンツサービス |
NHKが推進する、放送と通信連携の例としてアピールしているのが「ハイブリッドキャスト」と呼ばれる展示。
放送番組に関連する字幕や音声、動画などを通信経由で提供する拡張コンテンツサービスと、ソーシャルテレビサービス、おすすめ番組サービス、携帯端末連携サービスなどから構成されるテレビのネットワーク活用の総称。
拡張コンテンツサービスでは、英文字幕や音声などをデータ放送ではなく、通信経由で取得して表示。多言語対応や付加コンテンツの表示などの可能性を訴えている。
ソーシャルテレビサービスは、Twitter風の読者投稿を画面にオーバーレイして表示するほか、投稿から人気の高い情報の一部を抽出して、“今の気分”を投票できる「共感グラフ」などをデモ。
サービスの具体的な展開については未定だが、投稿自体はPCなど、テレビ以外から入力したものも表示すると想定しているという。共感抽出には、投稿したユーザーのデータや現在の投稿内容などリアルタイムで取得し、放送禁止用語や不適切な用語を省き、任意の文字数に編集。そのデータを表示するところまでを自動で行なう。表示した共感グラフはデータ放送用4色ボタンで「投票」などの操作の情報としても活用できるという。
技術展示のため、NHKの用意したサーバーを利用しているが、Twitterからのコメント表示や共感抽出なども技術的には可能という。
ハイブリッドキャストの技術要素 | 字幕を通信経由でダウンロード | ソーシャルテレビサービスで、視聴者の投稿や共感グラフを表示 |
また、放送中の番組の関連情報や視聴者プロファイル、他の視聴者へのお気に入り番組の通知などの「おすすめ番組サービス」も用意している。
これらのサービスは、いずれも技術開発中のもので、具体的な製品化の目処などは立っていない。ただし、いずれもサービスの仕様を決めればテレビ側の対応は難しくないため、今後規格化に向けた話し合いなどを進めていくという。
QRコードを使って、携帯電話での情報にナビゲートする携帯端末連携サービス | ユーザーの視聴履歴や友人のレコメンドなどをテレビ上に表示する「おすすめサービス」 | STBなどを想定したソーシャルテレビのデモ |
お父さんが席に着くと、電源ONになり、好みのコンテンツを案内 |
ユーザーの意図を汲み取るテレビ用インターフェイスもデモ。人の動きにあわせて、テレビのコンテンツ表示や操作を変えるもの。例えば、顔認識技術を使い、人がテレビの前に座ると、電源をONにし、その人の好みそうな番組を案内する。
表示された好みの番組は、手の動きなどのジェスチャで選択できるほか、「これを見る」など音声で操作できる。また、「これは誰?」などテレビに呼びかけると、俳優の情報などを表示してくれる。
さらにユーザーの身の回りの雑誌情報などを検出。その雑誌に関連するコンテンツをお勧めするなども可能になる。
おすすめ番組からジェスチャで操作 | 「これ誰?」と聞くと女優名をテレビが字幕で回答 | 顔や表情、動作、周辺物などをテレビが認識し、操作をナビゲートする |
■ 裸眼3Dディスプレイは高画質化
インテグラル式3Dディスプレイ |
特殊なメガネなどを使わず、裸眼で立体視が可能な「インテグラル式」立体テレビも紹介している。
昨年も展示していたが、今回はレンズアレーの改善や新しい画像処理の導入により、画質を大幅に向上した点が特徴。
撮影時に微小レンズを大量に並べたレンズアレーを通して撮影を行ない、表示時も同アレーを通して再生することで、多くの視点から見た映像を一度に撮影/表示するシステム。撮影解像度はスーパーハイビジョン(SHV)の7,680×4,320ドットで、レンズアレーで多視点化した映像を記録。表示時にはもう一度SHVのプロジェクタで映像を表示用レンズアレーを通して表示することで、立体的な表示が可能になる。レンズアレーを通ることで、多視点かつ奥行き方向の情報なども含むため、立体的な画像を実現できる。
今回の展示における解像度は400×250ドット。表示解像度自体は昨年と変わらないが、明らかに色むらや歪みは減っており、自然に立体視が可能となっている。
最高で100万枚/秒(30万画素)の3D撮影可能な「3D超高速度カメラ」も展示。2つのカメラを同期して撮影開始/終了するトリガ機能などを新たに開発した。
背面からスーパーハイビジョンプロジェクタで投射し、レンズアレーを通して表示する | インテグラル立体テレビの原理 | 3Dハイスピードカメラも展示 |
■ カメラ小型化の有機撮像デバイスや遮蔽物の先を撮影する「電波テレビカメラ」
カメラ用有機撮像デバイスのデモ |
また、小型カメラ用に有機撮像デバイスを開発。3原色それぞれにのみ感度を持つ有機膜と、各有機膜から信号を読み出す3つの光透過型TFT回路を交互に積み重ねた構造の単板カラー撮像デバイス。
積み重ねたそれぞれの有機膜では3原色のうち1つの光のみが吸収されて電気信号に変換され、ほかの色の光は透過する。そのためプリズムを使った3板カラー撮像方式と同様の特性を持つ単板カラー撮像を実現できるという。
画素ピッチは100μmで解像度は128×96ドット。プリズムが不要なため、カメラの小型化ができる点が特徴で、今後、高解像度化や実用化に向けた研究を進めていくという。
3色の有機撮像デバイスを利用 | 記録画像。解像度は128×96ドット | 有機撮像デバイスの動作原理 |
電波テレビカメラのデモ。ベニヤ板の向こう側の映像を撮影している |
「電波テレビカメラ」は、煙や霧などの遮蔽物に覆われた被写体を電波を利用して撮影できるカメラ。
被写体に向けて60GHz帯のミリ波を発射し、受信アンテナのビームを上下左右に高速に走査しながら反射波を受信。受信した電波の強度の変化を利用して、2次元画像を作り出す。従来は、機械走査方式のビームを使っていたが、今回からは電子的な制御で走査することで、フレーム周波数を2.3Hzに高速化した。
これにより、「動きがあるもの」の撮影も可能になった。解像度は160×120ドット程度で、最高20~30mほど離れたものの撮影も可能という。デモでは、遮蔽物の向こう側に一定速度で横に動く人形を設置。動きのあるものも撮影可能という点をアピールしていた。
電波テレビカメラ | 撮影画像 |
■ フレキシブル有機ELなど
折り曲げ可能な「フレキシブル有機ELディスプレイ」も出展。サイズは解像度は5型で解像度は320×240ドット。昨年の5.8型/213×120ドットから高解像度化を図るとともに、新たに塗布法により有機TFTの絶縁膜を作成することで、動作の安定性を高めているという。厚みは0.1mmで折り曲げも可能。今後も高精細化を目指すという。
フレキシブル有機ELディスプレイ | 折り曲げ可能 | フレキシブル有機ELディスプレイの概要 |
超薄型ディスクを採用 | 100枚収納できるカートリッジで2.5TBを実現 |
薄型光ディスク記録装置も開発。0.1mmの超薄型ディスクを100枚収納できるカートリッジにより、大容量記録を可能にする記録装置。空気圧着を利用してディスクローディング安定化機構と、ディスク搬送機構が特徴。
ディスク1枚の記録容量は25GB。ひとつのカートリッジに10枚のディスクを、さらにそのカートリッジを10枚スタックして収納できるカートリッジが用意され、1つのカートリッジで2.5TBの記録容量を実現できる。記録層などの物理的な特性はBlu-rayとほぼ同じで、レーザーなどもBDのものが利用できる。
薄型光ディスク記録装置 | 超薄型ディスク用ドライブ | 再生デモ |
ホログラムディスクも研究中 |
日本語の単語を3DCGで手話化するソフトウェアも | ファイバー基板を用いた高感度HARP撮像デバイスのデモ |
3次元物体の触覚提示技術のデモ | マラソン中継などで使われる800MHz対応FPUの伝送容量拡大、信頼性確保技術もデモ |
(2010年 5月 25日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]