【IFA 2011】シャープ、4K液晶TV「ICC-4K AQUOS」を開発

-高精細化だけでない“リッチな映像”。'12年製品化へ


「ICC-4K AQUOS」の試作機

 シャープは、「IFA 2011」において、I3(アイキューブド)研究所と共同開発している4Kディスプレイ「ICC-4K AQUOS」の開発を発表した。

 両社は4K2Kのディスプレイの実用化と量産化にめどが付いたことなどを背景に、映像信号処理の部分でアイキューブドの4K映像技術「ICC」(Integrated Cognitive Creation)と、シャープのディスプレイ技術を組み合わせて次世代のテレビ開発を行なっている。シャープとしては2012年の製品化を目指している。

 アイキューブド研究所は、ソニーにおいて、SD映像からHD解像度の映像を作り出す技術「DRC」を開発した近藤哲二郎氏が設立。

 「ICC」は5月に発表された技術で、「人間が現実の風景や被写体を直接見た際に発生する『認知』の働きと同等の体験を映像視聴時に得られることをコンセプトに開発。映像の遠近感や立体感、質感などを、自然界により近い形で認知させるという。今回のIFAでは「ICC技術が商品化に近づいた」ととして、60型の試作機のデモを行なった。

4KアップコンバートとICC処理を行なうLSI

 4K映像による、大画面と高画質の両立を目的に開発されており、テレビのなかで映像を“目で追う”ことができる60型以上などの大画面での利用を想定している。

 劇場などで観る映画とは違い、日常的なテレビ視聴において『目で対象物を追い、ピントを合わせ、脳内で合成する』という自然界の風景に近い見方の実現を追求。フルHD画質で送られるテレビ放送の映像を4Kに変換する際、遠近感や質感などを元の存在に忠実な形で再現。

 フルHD→4K→8Kといった定量的な情報の増加によるトレンドへのアプローチとは異なり、「テレビ映像では感じられなかった定性的な情報と価値の創造」を目的としている。これにより、「空気がおいしい」、「春のそよ風が感じられる」といった人間の認知を、脳に負担が無い形で映像として表現可能になるとしている。

 例えば、現在の放送ではカメラのフォーカスによって対象があらかじめ限定された形で視聴者に届けられるため、室内だと“窓の外”や“鏡に映った像”といった部分はフォーカスの合っていない表現となるが、ICCの処理を加えた場合はどの部分を見てもフォーカスが合った高精細な映像となる。一方で、単に被写界深度を深くしただけの平面的な画ではなく、手前にある対象物と奥の対象物の質感をそれぞれリアルに再現している。

アイキューブドとシャープが共同開発ICCによる映像処理の特徴ICCのアプローチ


■ 「4K AQUOS」映像を元映像、超解像映像と比較

 同社ブース内に設けられた視聴室において、「ICC-4K AQUOS」試作機(解像度3,840×2,160ドット)の映像を視聴した。比較対象としては、元のフルHD映像と、単に4K2Kへアップコンバート処理した映像を用いている。

 元のフルHD映像では、室内に置かれたいくつかのガラス細工などが手前~奥のどの位置にあるかによって描写が異なり、撮影時にフォーカスのあった部分のみが精細に見える。4Kにアップコンバートしただけの映像でも全体の精細感は底上げされているが、ICC-4KKで処理したものによっては、置いてあるものそれぞれを高精細に描いているため、部屋のどの場所にあるものも高い画質で観ることができた。

 また、「鏡の前で立っている女性の髪」と、「鏡に映っている髪」の質感が、ICC-4Kではいずれも精細に表現されていることや、「部屋の奥にある窓の外で風に揺れる木々の枝」が細かく描写されていることには新鮮な驚きを感じた。

 映像表現として、意図的にある1点にフォーカスして他をボカすという手法は既に一般化されているが、こうした表現をそのまま日常のテレビで放送することについて近藤氏は「ナローバンド(SD放送)に合わせた自然界に存在しない映像なので、脳で一度変換する必要があり、ずっと観ていると非常に疲れる。放送の情報量が少ない時代に『帯域が狭いからこの範囲をみてほしい』という画作りならそれでもいいが、4Kや8Kといったリッチな帯域では、リッチな映像を作ることが大原則」と主張する。

 また、「部屋に置いてある何気ない本や花も意図して設置されたもので、それらを含めて一つの部屋といえる」と近藤氏が語るように、「テレビで観る映像」として、画面内の様々な対象物を視聴者の好みで観られることは、一般的な“高画質映像”とは違う経験といえるだろう。

 製品化の際は、テレビ本体に内蔵されるか、あるいは外付けで搭載するかといったことは未定だが、近藤氏によれば「製品化に向けて技術的には完成している」とのこと。今後は普通の地デジ放送の映像などに合わせた改良を更に進めていくという。

左がICC-4K AQUOSの映像、右が元のフルHD映像左は、4Kアップコンバートのみを行なった映像。右がICC-4K AQUOSの映像
左がICC-4K AQUOS、右が元のフルHD。ICC-4Kでは葉の細かな描写も表現されている左は、4Kアップコンバートのみの映像。右がICC-4K AQUOS


(2011年 9月 7日)

[AV Watch編集部 中林暁]