「NextCD」を目指す、ハイレゾ音楽BDが登場

24/96をBDプレーヤーで。クリプトンら参加


説明会で使われたデモ用ディスク

 CDを超えるハイレゾの高音質データを収録しながら、Blu-rayのビデオ規格に準拠し、BDプレーヤーで再生できる“高音質に特化したBD”の提案についての説明会が25日、都内で開催された。Promotion Group of Blu-ray Disc for High Resolution Audioが開催したもので、同グループにはメモリーテック、クリプトン、キュー・テック、カメラータ・トウキョウが参加している。




■BDビデオ規格に準拠した高音質ディスク。愛称は未定

CDとBDの情報量比較

 BDビデオでは、映画などで、フルHDの映像やドルビーTrueHD/DTS-HD MasterAudioなどの高音質なサラウンド音声を収録するのが一般的だが、BDの規格として、24bit/96kHzや24bit/192kHzといったハイレゾの高音質データを非圧縮のリニアPCMで収録する事もできる。これを利用し、映像は最低限のものを収録しつつ、高音質データをふんだんに収録したBDを、CD(16bit/44.1kHz)を超える音楽ソフトとして提案しようというのが活動の趣旨となる。

 プロジェクトマネージャーを務める、メモリーテックの小宮山毅氏は、「CDでは聴けないハイレゾ音楽を、いかに手軽にリスナーに届けられるか。そして、圧縮音源を普段聴いている若い人達にも、いかに良い音で音楽を楽しんでもらえるかを念頭に開発した」と説明。


会場での試聴の様子。パイオニアのBDプレーヤー「BDP-LX55」で再生し、HDMIでLINNのKLIMAX DSMに伝送。そこからアナログのバランスで出力し、ATCのパワードスピーカーに接続している。CDとBDの聴き比べデモでは、音場の奥行きのアップや、細かなホールの響き、中低域の音圧の向上など、大きな違いが体験できた

 その上で小宮山氏は、「CDのような感覚で再生ができるシンプルなメニュー構成、もしくは画面を見ずに再生が開始できるようなオーサリング」、「Blu-rayならではのハイビット/ハイサンプリングな高音質サウンドを収録する事」、「全てのBDプレーヤーで再生できる事」の3点を開発コンセプトにしたという。

 コピープロテクトは、通常のBDビデオソフトと同様にAACSを採用。レイヤーは片面1層の25GBが想定されている。これは、音楽用BDの標準とされている、24bit/96kHz、2chの場合、1層でも500分以上の収録ができ、通常の作品では十分な収録時間だと考えられているため。

 ほかにも、リッピング用に、圧縮音楽ファイルを収録する事もできるという。

 なお、規格としてはBDビデオに準拠しているため、新しいソフトのフォーマット名などは無い。愛称も決められておらず、会場では「BDミュージック」や「NextCD」などの名称も使われたが、基本的には「ユーザーやメディアの皆さんにつけていただきたい」としている。


メモリーテックの小宮山毅氏映像のデータ量を抑え、音楽データをめいっぱい収録する



■リリースタイトルを増やすため、低コスト製作を支援

再生中のテレビ画面。トラックナンバーが表示されるだけのシンプルなもので、静止画などを表示する事も可能。BDビデオ規格であるため、当然映像を収録する事もできる

 音楽用BDソフトが活性化し、タイトル数が増えるためには、ビジネスとして軌道に乗せる必要がある。しかし、BDの映像ソフトを製作するには経費がかかる。

 そこでBD製作を請け負うキュー・テックでは、オーサリング工程を見直し、高音質BDに特化させ、各オーディオマスタリングスタジオでも簡単に扱えるオーサリングソフトを開発。映像作品のオーサリングと比べ、コストダウンを実現するという。

 全曲を1本化したマスター音源(ハイレゾのWAVファイル)と、トラックタイムや曲名情報を入力したテキストファイルを用意。それを、オーサリングソフトで読み込み、メニュー画面やスクリーンセーバーなどを指定。エンコード処理を開始するだけで、確認用のBD-R(BDMV)が作成できる。


キュー・テックが新開発したオーサリングソフトを使った、作業の流れ再生中に表示する文字の指定など、簡単な設定を行なうだけでオーサリングが完了する

 この確認用BD-Rは、市販のBDプレーヤーで再生できるため、それを用いて音質や動作などを確認。承認されれば、工場納品用プレスマスター(BDCMF)が改めて作られ、ベリファイヤーチェックやチェック用BDCMFプレーヤー(YMP-1000)での試聴チェックをパスした後、プレス工場へ納品される。

 なお、キュー・テックでは音質にこだわったオーサリング環境として、機器の電源系や接続ケーブルを改良し、データを専用のHDDに記録し、各工程で同じHDDを使うなどした、「FORS」という製作システムを導入している。音楽用BDでは、これも活用しながら、音への悪影響を排除した作業ができるという。

 また、プレス工程でもFORSシステムを活用。カッティングにはHMM(Heat Mode Mastering)製法を使い、プロセスの簡素化と、より高精度な微小ピット記録を行なっている。

オーサリング環境やプレス工程でも、キュー・テックのFORSシステムが活用されている



■タイトルラインナップの予定

 こうした工程で作られたBDソフトの第1弾として、カメラータ・トウキョウがクラシックの3タイトルを11月頃に予定。さらに、年度内に約10タイトルのリリースを計画しているという。

 価格も未定だが、SACDなどと同じような価格になる見込みで、カメラータ・トウキョウの作品の場合は、「3,000円台半ばのイメージ」(カメラータ・トウキョウの中野浩明社長)だという。

 さらに会場では、日本コロムビアからも、SHANTIのアルバム「BORN TO SING」など、Jazzやクラシックのタイトルが、リリース予定の作品として紹介。ナクソス・ジャパンも、ナクソスが海外で高音質BD(BDオーディオ)シリーズの発売をしている事から、日本での訴求に共に参加。また、フロンティアワークスから、音楽メインの作品ではないが、OVA「ジャイアントロボ THE ANIMATION ~地球が静止する日~」のBD-BOX(10月26日発売
/MFXA-9001/41,790円)が紹介された。このBOXには特典として、エピソード1~7までのサウンドトラックを、24bit/96kHzのハイレゾで収録している。

会場に展示されたサンプル。左はナクソスが発売しているBDオーディオラインナップ予定の紹介パネル
OVA「ジャイアントロボ THE ANIMATION ~地球が静止する日~」のBD-BOX特典として、エピソード1~7までのサウンドトラックを、24bit/96kHzのハイレゾで収録している

 また、各レコード会社に向け、2カ月前から試聴の機会を設けており、音質や再生環境の多さなどをアピール。参加レコード会社を増やす取り組みを行なっているほか、一般ユーザーに向けても、10月19日~21日まで東京・秋葉原で開催されるオーディオ・ホームシアター展(音展)において、体験イベントを予定している。



■「あらゆる方法を使い、高音質な音楽を提供したい」

メモリーテックの堀徹代表取締役

 メモリーテックの堀徹代表取締役は、「CDからスタートし、音にこだわってHQCDやガラスを使ったクリスタルディスクなどを出してきた。しかし、これらはCDの規格の中での最高音質を目指すもの。その中で、BDの能力を音楽のみに使うソフトが登場すると考えていたが、意外に出てこない。クリプトンさん、カメラータ・トウキョウさんとお話する中で、今後はハイレゾ音源の時代になると確信した。しかし、そこでもパッケージソフトは重要。年配の方には利便性が高く、配信サービスを利用している若い人にも、音楽をもっと深く理解してもらうために、ハイレゾなディスクを作ろうと考えた」と経緯を説明。


クリプトンの濱田正久代表取締役

 クリプトンの濱田正久代表取締役は、「2年半ほど前に、ハイレゾ音楽に触れ、録音したままの音が家庭で聴ける、“こんな時代が目の前に来ているんだな”と大きな感銘を受けた。それから音楽配信サービスや対応機材も増えてきたが、我々が思うように、ハイレゾオーディオが広く周知されない現状があった」と説明。

 濱田氏はその理由について、「(利用者が)オーディオの音質について、(ハイレゾでなくても)こんなもので良いんじゃないかと思い、 我々のように提供する側も、(ハイレゾの良さが)こんなものしか伝わらないのではないかと、半分諦めていたのではないか」と分析。そこで、「この良さを知らせる側に責任があったのではと考え、高音質配信をやってきた。今後も、あらゆる方法を使い、皆さんに高音質な音楽を提供していきたい。また、アーティストや音楽に関わる人達が、新しい音楽を作っていけるように、産業として成立させることが重要。その仕事に携わりたい」と語った。


カメラータ・トウキョウの中野浩明取締役社長

 カメラータ・トウキョウの中野浩明取締役社長は、「2008年よりハイビット/ハイサンプリングの録音をスタートさせ、クリプトンさんと共同で高音質音楽配信をスタートさせている。レコーディングの現場で納得した音、それに近い音、BDのパッケージメディアでを皆様にお届けできるのは、我々にとって大きな喜び」と語り、音楽家達に試作BDを聴いてもらったところ「オーケストラ1人1人の様子が思い出されるようだ」、「30年前にLPからCDへの進化を聴いて喜んだカラヤンになった気分だ」といった喜びの声があった事も紹介した。


会場にはクリプトンの新小型スピーカー「KS-1HQM(M)」とPlayStation 3を組み合わせて、BDミュージックを再生したり、ヘッドフォンの再生環境を用意。様々な機器、ライフスタイルに合わせて気軽に楽しめるディスクである事がアピールされた

(2012年 9月 25日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]