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「創業精神以外は全て変える」。シャープ新経営戦略
'13年度黒字化や液晶収益改善策を髙橋新社長が説明
(2013/5/14 22:42)
シャープは、2012年度の通期連結決算発表とともに2015年度に向けた中期経営計画を発表した。この計画策定をもって奥田社長は退任し、新中期計画は6月に就任予定の髙橋新社長の体制で実行される。2013年度を構造改革ステージ、2014~15年度を再成長ステージとして、「勝てる市場や分野へのシフト」や、「自前主義からの脱却」などを図る。
'12年度は5,452億円の赤字。下期営業黒字は達成
新経営方針説明の前に、髙橋副社長は2012年度の連結決算を発表した。売上高は前年比0.9%増の2兆4,785億円、営業利益は1,462億円のマイナス、純利益は5,453億円のマイナス。
大幅な赤字決算となったが、奥田社長により'12年度の必達目標としていた下期の営業黒字は確保。下期の営業利益は226億円と当初予測を上回った。そのため、通期の営業利益も1,550億円のマイナスの予測に対し、87億円改善している。
一方で、純利益については追加の事業構造改革の実施により、前回予測より953億円赤字幅が増え、5,453億円のマイナスとなった。これは液晶パネルやAV機器の固定資産の減損(約474億円)、太陽電池事業のリース設備解約損などの事業構造改革費用(約174億円)、訴訟損失引当金繰入額(約323億円)など、合計約970億円規模の特別損失が発生したことによるもの。髙橋副社長は今回の特損により、「一連の構造改革の費用計上は概ね完了した」と話した。
部門別では、太陽電池や液晶が上期との比較で大幅増収となり、AV通信機器は売上高が7,326億円、営業利益は98億円のマイナス。エレクトロニクス機器全体では、売上高1兆3,397億円、営業利益466億円となった。
液晶事業は売上高が前年比17.4%増の8,467億円だが、営業利益は1,389億円のマイナス。下期は液晶以外の全ての部門で営業利益の黒字化を達成している。
また、大型液晶のオフバランス化やサムスン、クアルコムなどからの第三者割当増資、在庫の適正化などの構造改革の実施により、財務体質を改善。ただし、改善規模は4,000億円の目標に対し、3,610億円と未達になっている。これは鴻海の出資交渉決裂の影響もあるが、鴻海との交渉については「一旦終了している」(代表取締役 兼 専務執行役員 経営管理担当 大西徹夫氏)とした。
資金政策においては、6月に迫るシンジケートローンの期限や9月の転換社債の償還について、金融機関との協力による追加融資枠の確保などにより、目処をつけたとする。一方で、自助努力によるキャッシュ・フロー改善など、「あらゆる角度から資金拡充に取り組んでいく」とした。
「創業精神以外は全てを変える」。新中期戦略
髙橋副社長は、「“誠意と創意”をはじめとする創業の精神以外はすべて変える覚悟で、新シャープを築く」と述べ、髙橋新体制による中期経営計画を発表。2013年度を構造改革ステージと位置づけて、通期の黒字化を目標とする。そして2014年、15年度は再成長ステージと位置づけて、'14年は収益体質の強化、'15年度は営業利益率5%の達成を目指す。また、「社債市場への復帰」という目標も掲げた。
中期経営計画の基本戦略は「勝てる市場・分野への経営資源シフト」、「自前主義からの脱却、アライアンスの積極活用」、「ガバナンス体制の変革による実行力の強化」の3点。
ビジネスの核に据えるのは健康・環境、ビジネスソリューション、液晶、電子デバイスの4つのビジネスで、2015年度までの3年間の年間売上高伸長率で、約5.6~10%の伸張を見込む。一方で、太陽電池は、再生エネルギー特措法の廃止影響などで微減傾向と予測する。
2013年度の年間連結業績予想は、売上高が8.9%増の2兆7,000億円、営業利益は800億円、純利益は50億円を見込む。特に下期は営業利益は650億円規模まで回復予定で、季節要因で落ち込みを見込む第1四半期以外は、安定的な収益回復が見込めるとした。また、第1、2四半期にかけて、デジタル情報家電や液晶販売が大きく回復すると予想している。髙橋副社長は「手堅い利益計画」と説明した。
付加価値製品で勝負。欧州テレビやBDを“見直し”
具体的な施策として、事業ポートフォリオの再構築を掲げる。髙橋副社長は「勝てる分野での勝負」と言い換え、競争環境を「グローバルスケール市場」、「グローバルバリュー市場」、「リージョナルバリュー市場」の3種類に整理。
これまでのシャープは、デジタル家電などにおいて、とにかくグローバルレベルの事業規模を目指し、製造力、コスト競争力で勝利を目指した。これが髙橋氏がいうグローバルスケール市場での勝負であったが「スケールでの争いに入って苦戦した」として、顧客のタイプごとにグローバルに付加価値追求できる領域「グローバルバリュー市場」での戦いを中心にするという。
この領域には、IGZOなどの差別化技術を持つ中小型化液晶や、電子デバイスなどがあり、同日に発表したPC用の超高精細IGZO液晶なども、グローバルバリュー市場向け製品といえる。
また、通信システムやソーラー、健康・環境などのジャンルは、地域ごとの最適化が必要な「リージョナルバリュー市場」と位置づけ、この領域も強化していく方針。
具体的には、デジタル家電では、採算の取れる事業や地域に絞り込み、テレビは大型液晶に注力。そして欧州のテレビやBD事業については収益性改善のために見直す方針。「欧州テレビとBDの収益性改善は、重要テーマであると感じている。抜本的な改善を図る」とした。
通信システムは国内市場に集中し、国内ナンバー1を堅持。健康・環境分野においては、海外に重点的に投資し、特にASEAN地域でのサプライチェーン構築などに取り組む。ソーラーも欧州を縮小し、国内事業に特化するとともに、エネルギーソリューション事業体に変革する。
液晶は、大手顧客との関係を強化し、収益を安定化。収益性の高い付加価値ゾーンの拡大を図る。液晶は、高付加価値製品を強化し、ハイエンドスマートフォンや産業用、車載用などの用途を強化。「間違いなく今後もコア事業」とする。
IGZOを始め、光配向やモスアイ、狭額縁パネル、MEMS、フレキシブルディスプレイ、有機ELなどの技術的優位性を活かした製品展開を図るほか、安定顧客との取引拡大による販売増や収益の安定化を目指す。液晶事業における大口顧客は、'12年度に1社追加され6社となったが、'13年度にはさらに3社が追加されて、9社になる予定。売上に占める大口顧客の構成比も'12年度の3割から、'13年度は5割に、さらに'15年度には6割まで増える見込みで、収益の変動性を低減し、工場稼働確保を狙う。
鴻海やQualcomm、サムスンとの協業も収益貢献しており、特に亀山第2工場の操業度は、2012年度下期からかなり改善。'13年度は80%を超える操業度を見込む。アップル向けと言われている亀山第1工場の稼働状況については公表していないが、「亀山全体で、十分に大きな操業確保ができている」とのこと。
なお、サムスンとの提携については、「最初は大型液晶パネルで協力。(髙橋副社長の前任地である)アメリカでも、60型以上で大きくその領域が拡大しており、70インチなどの市場は、シャープにとっても、サムスンにとっても重要。そこにおける協力がまずは重要。中小型はサムスンでは有機ELを持っており、IGZOについては特に決まっていないが、有機ELもIGZOもいろいろな適性がある。白物家電については、どの地域、どの商品など、具体的な話はありません」とした。
技術流出については、「(サムスンは)立派なグローバル企業で、パテントをタダで使うとかそういうことはない。流出の定義によるが、盗まれるという懸念はない。しっかりしたコンプライアンスがある会社だ」とした。
ASEAN地域などを中心とした海外展開も強化。特にインドネシアではテレビや冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの高いシェアを有している。こうした成功事例を元に、他国、他地域でも自社の強みを活かしたサプライチェーン構築を図るとする。
そのほか、本社部門のスリム化などの固定費削減、国内/海外拠点の統廃合に取り組むほか、財務体質も改善。設備投資も減少傾向で、特に液晶関連投資を抑制していく。「液晶は自社工場一辺倒でなく、他社の工場も柔軟に活用することで、'13年度以降、金型やマスク投資のみに抑え、大幅に投資額を抑制する」と説明。将来の成長分野には投資額を増やすほか、「人や技術、マーケティングへの投資を強化する」とした。
今後の成長領域については、顧客志向を進め、他社とのアライアンスを強化。「ヘルスケア・医療」、「ロボティクス」、「スマートホーム」、「食/水/空気の安心安全」、「教育」などの分野を強化していく。この方針にあわせて、電動工具のトップメーカーであるマキタとの業務提携を発表している。
髙橋副社長は、新経営計画のコンセプトを「顧客起点で技術を磨く(Technology to Customers)」というフレーズでまとめ、「先送りしていた課題にも全力で取り組む。今一度創業の原点に立ち返る。徹底したお客様視点と技術力にこだわり、新しい価値と喜びを提供することがシャープの存在価値。経営陣と社員が一体となって再生計画を成し遂げていく」と意気込みを語った。