ミニレビュー

コレだけにしか聞こえない音。イヤフォン「Pinnacle P1」を購入した理由

 予算の範囲内で、用途に合うできるだけ高音質(と自分が思えるよう)なものがほしい、というのが、おそらく多くの人にとってヘッドフォンやイヤフォンを購入する際の基本的な考え方ではないだろうか。3年間使ってきたイヤフォンがついに断線し、代わりのものを探していた筆者もそんなスタンスで臨んでいたはずなのだが、今回はなぜか「ちょっと冒険してみよう」という気持ちになって選んでしまった。

MEE audio「Pinnacle P1」のパッケージ

 購入したのは、米MEE audioの最新イヤフォン「Pinnacle P1」。MEE audioは2005年創業、数千円程度のイヤフォンを中心に製造・販売してきたが、2015年にMEElectronicsから社名変更し日本市場へも展開。2016年、同社としてこれまでで最も高価格帯の製品としてリリースしたのがPinnacle P1だ。フラッグシップモデルといっても実売価格は25,800円ほどで、さらに高価格帯の製品がゴロゴロしているイヤフォン市場では、比較的入手しやすい部類に入ると思われる。

 ただ、この2万円中盤あたりの価格帯は思ったほど選択肢が多くなく、1~2万円、あるいは3~4万円クラスの方がラインナップが豊富なため、予算を節約して1段下の価格帯の製品をじっくり見極めるか、ひとつ上のクラスにアップグレードするかで迷うところでもある。そんな状況で「Pinnacle P1」をチョイスしたのは、ひとえに「コレにしか聞こえない音がある」と感じたからだった。

イヤフォン購入に当たって考慮した3つのポイント

 なぜPinnacle P1を選んだのかを説明する前に、今回新たに筆者がイヤフォンを購入するに当たってあらかじめ考慮した点を列挙してみよう。

(1)断線した従来使用品と同程度の価格帯
 従来使用品の代替として考えると、近い価格帯(約3万円)のものを探すのが妥当と思えた。イヤフォンが使えないと録音データの聞き取りが必要な仕事にも影響があるので、とりあえずの間に合わせで約2,500円のイヤフォンも購入してみたけれど、やはり値段相応の音質だったため、音楽鑑賞用途では大幅なクラスダウンは避けるのが無難と考えるに至った。

(2)できればリケーブル対応
 将来的にはリケーブルの楽しさも味わってみたい。音質を変えられるうえに、今回のように万が一断線した時もケーブル交換で対処できるメリットがある。また、ファッション的な意味でも魅力はあるし、対応するプレーヤーやアンプも用意すればバランス接続という道も開ける。ラインナップの多いMMCX対応品を狙いたいところだが、リケーブル対応は優先度としてはそれほど高く設定していなかった。

(3)できればハイレゾ対応
 ハイレゾ音源を聞くこともあるため、ハイレゾに相当する再生周波数帯をカバーしている製品がベスト。とはいえ、再生周波数帯が広ければ広いほど高音質で聞けるというわけでもない。すでにハイレゾ対応のヘッドフォン(ソニー MDR-Z7)を所有しているので、イヤフォンでのハイレゾ対応を必須とせず、それよりは移動中にも頻繁に使うことを考慮して、携帯時の使い勝手や遮音性などを気にしたい。

 これらを元にネット上の情報である程度候補を絞り、実店舗でいくつか試聴して決めることにする(この段階ではまだPinnacle P1は候補に挙がっていない)。というわけで、ひとまず事前に目を付けていた製品をいくつか店舗で試聴してみるも、どれも想像していた音と違う。こういった買い物ではよくあることだが、そのうち狙いの価格帯とは異なる製品にも手を出し始めて泥沼にはまりそうに……。ところが、ふと気まぐれに聞いてみたPinnacle P1で「おや?」と思った。

試聴時にちょっとした違いを感じたPinnacle P1

「Pinnacle P1にしか聞こえない音」の正体

 いくつも試聴して混乱し始めていた筆者。それなのに、曲のごく限られた部分に、Pinnacle P1でしか聞こえない音がはっきりとある、ということだけは気付いた。勘違いかもしれないと思い、それまで試聴していた他の製品で同じ楽曲を改めて聞き直し、再びPinnacle P1に戻ってみると、やはりその中高音域の1、2秒程度の聞こえ方だけが違うように思える。7、8万円台のイヤフォンでも聞こえない、かといって数千円の製品で聞こえるチープな感じの音、というわけでもない。

 もっと具体的に書こう。「ソードアート・オンライン ソングコレクション」から「ユメセカイ」のイントロ、0分26~0分37秒で聞こえるメロディラインのストリングス、特に0分35秒~0分37秒付近の響き方が、Pinnacle P1では独特のように感じたのだ。独特ではあるけれど、なぜだか聞いていて妙に心地良い。試聴した他の製品では低音にかき消されるか、同時に鳴っている他の楽器音でとっちらかって収集のつかないアンサンブルになるか、もしくは中高音域を強調しすぎていて全然気持ちよくないか、そのどれかなのにだ。

 試聴時には原因はつかめなかったけれど、その1点の「心地良さ」にひかれ、Pinnacle P1を選択するという「ちょっとした冒険」にチャレンジしてしまった。「予算内でできるだけ高音質を」と考えていても、結局のところ「その音を自分が気に入るかどうか」がやはり最も大きな基準となるのだろう。気に入って購入したのだから他のところで期待外れな部分があったとしても後悔が少ない、ある意味では無難な選択でもあるのではないか、と自分のなかで言い訳も考えながら会計を済ませた。

Pinnacle P1のパッケージを開封したところ。高級感漂うしつらえ
携帯用ケースにはシリアルナンバーも振られている

 試聴時の環境は、店内に他のお客さんがおり、ノイズが入りやすかったり集中して聞けなかったりで、当然ながら静かな自宅で聞くのとは印象が少なからず異なる。購入後、もう一度同じ曲を聞いてみると、「Pinnacle P1でしか聞こえない音」は、エージングの問題もあるせいか試聴時ほど明瞭ではなかったが、それでも他にはない響きであることは確か。

 しかし他の曲も聞き続けているうちに、「Pinnacle P1でしか聞こえない音」と感じた理由がはっきりしてきた。これは「Pinnacle P1でしか聞こえない音」ではなく、「Pinnacle P1だから聞こえた音」なのだ。同じ意味なのでは、と思うかもしれないが、ここには大きな違いがある。筆者にとってPinnacle P1は、「全体を驚異的にバランスよく鳴らしてくれる」製品だったのである。

 Pinnacle P1の再生周波数帯は20Hz~20kHz。50Ωというハイインピーダンスのダイナミック型。低音域から高音域までまんべんなく、高い分解能で、かつ角の立ちすぎないまろやかな聴き心地を実現している。ボリューム感のありすぎない締まりのある低音、繊細さとダイナミックさを兼ね備えたメリハリある中音、そして空気感も伝わってくる豊かな高音、その全てをハイレベルで融合させているのだ。

 などと聞けば、逆にどこにも際だった特徴のないサウンドなのでは、と思われてしまうかもしれないけれど、そこにネガティブさは一切ない。かえって個性が強いイヤフォンは、たとえ高価格帯の製品であっても低音を重視するあまり他の音域が犠牲になっていたり、中高音域の解像感を際立たせすぎて聞き疲れしやすかったりすることもある。

 Pinnacle P1は、どこも犠牲にせず、全体を絶妙のバランスで平均的に鳴らす、後ろ向きに言えば中庸なサウンド。しかし中庸は中庸でも、「偉大なる中庸」だ。そのおかげで、結果的に先ほどの「Pinnacle P1でしか聞こえない」ごく一部の音もしっかり生かされることとなったのだから。

全体的なバランスが秀逸な「Pinnacle P1」

 もう1つ具体的な例を挙げよう。Suaraの「The BEST タイアップコレクション」の11曲目、「舞い落ちる雪のように」のDSD音源バージョン。0分53秒~1分04秒のサビ部分では、センターで主音とともに低音側の和声がよく聞こえるが、左右それぞれに高音側の和声もずっと存在していて、Pinnacle P1ではこの高音側の和声がソニーのMDR-Z7とほぼ同じように終始明瞭に聞こえている。少なくとも所有している他のヘッドフォンやイヤフォンでは、他の音に消されるような形で部分的にかすかに聞こえる程度か、ほとんど耳に届いてこなかった音だった。

着脱式ケーブルや充実の付属品

2種類のケーブルが同梱。シンプルにぶら下げて使う方法と、ケーブルを耳に掛けるいわゆる「シュア掛け」にも対応

 バランスの良いPinnacle P1ではあるものの、音場は決して広くはないので、ボーカル曲は楽しく聞けても、クラシックのようなジャンルでは若干の物足りなさを感じてしまう時もある。ただ、製品パッケージの中身や製品仕様に目を向けると、充実の内容が満足度を高めてくれる。

 まず、付属のケーブルは2種類。音質重視の銀メッキが施された銅線採用のケーブルと、マイク付きリモコンを利用可能なヘッドセットケーブルで、いずれも編み込まれたタッチノイズが少ないもの。MMCX端子を採用しているため、リケーブルにも対応するのはうれしいポイントだ。また、コンプライの低反発ポリウレタン製(Tシリーズ)や、ダブルモールドタイプ、トリプルフランジタイプを含め9ペアものイヤーピースが同梱されている。

リモコン付きの方は4極、もう一方は3極。MMCX端子となっている
リモコンはiOS/Android両対応で、再生・停止・スキップなどをコントロール可

 特にコンプライのイヤーピースは圧倒的な遮音性とフィット感で、タッチノイズの少ないケーブルと合わせ、集中して音楽を聞き込むのに最適だ。通勤・通学時の電車内などでも外部ノイズの大部分がしっかり遮断され、移動中のリスニングにも向いている。使い勝手やカスタマイズ性は文句なしに優秀で、亜鉛合金ダイキャストの渋いボディデザインも所有感が高い。

コンプライの低反発タイプも含め9ペア分のイヤーピースが同梱
標準フォンプラグアダプターとケーブルクリップも付属している

 「Pinnacle P1でしか聞こえない音」があるということは、これまで聞いていた楽曲の中に新しい音を発見できるチャンスが増えたということ。音楽を聞くうえでこれほどわくわくできるタイミングはない。手持ちの何千曲もの楽曲を聞き直す、地獄のような楽しい日々が待っているのだ。

実はすでにリケーブル品も購入した。こちらはデザイン重視で選んだオヤイデ「Re:cord」シリーズの「Palette 6」。シュア掛けが基本
Amazonで購入
Pinnacle P1

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。