ミニレビュー

「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」。久保ユリカ圧巻の演技が炸裂

いよいよ本日(6月23日)公開となった劇場アニメ「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」。今回、マスコミ向け試写会で一足早く鑑賞してきた。今作については、公開されているあらすじ以上のストーリー展開には触れずに、レポートをお届けする。結論から先に言うと、青ブタのアニメシリーズの良い部分が凝縮されており、最高な形での劇場アニメ化だった。

劇場アニメ「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」本編冒頭映像|6月23日(金)公開

まず、今回の「おでかけシスター」を鑑賞する前に是非観ておいてほしいのがTVシリーズ第11話~第13話の「おるすばん妹」編だ。TVアニメの放送は2018年、さらに翌年に劇場版「ゆめみる少女の夢を見ない」がはさまったこともあり、原作の大ファンだったり、アニメを何度も観返している人はともかく、「おるすばん妹」の内容が曖昧になっている人も少なくないだろう。

ちょうどTVシリーズと劇場版「ゆめみる少女の夢を見ない」は、Prime Videoなどで見放題配信がスタートしているので、是非「おるすばん妹」編の3話分だけでいいので観返してほしい。

ついでにシリーズを振り返ろう。TVアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」では、原作第1巻から第5巻までの内容を13話にまとめ、劇場版「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」は、実は第6巻「ゆめみる少女の夢をみない」と第7巻「ハツコイ少女の夢を見ない」の2冊分の内容が約90分にぎゅっと凝縮されている。

原作ファンとしては「そこだけはカットしないでほしかった」というシーンが盛大にカットされていたり、それでも丁寧なストーリー作りや、キャラクターの心情がストレートに伝わってくるキャスト陣の演技に感激したりと、色々と思い入れの深い作品だ。

それが今回の「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」と、冬に公開が決まった「青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない」は、各原作小説1冊分が1本の映画として公開される。

TVアニメ版で原作小説1冊に対して3話分が割り振られた「バニーガール先輩」「プチデビル後輩」「おるすばん妹」のストーリーの丁寧さを思い返すと、それだけでも期待できるのではないだろうか。

実際今回の「おでかけシスター」は、「このシーンはアニメで観たい!!」と思っていた箇所が全て盛り込まれていて大満足だった。

筆者はアニメのレビューをする際、背景美術や演出に着目しているのだが、今回は一言で終わる。「いつもの青ブタシリーズ」だ。約4年ぶりの新作となる今作も、TVアニメシリーズから変わらないあの雰囲気でそのまま楽しめる。

6月11日には完成披露上映会が実施され、瀬戸麻沙美、久保ユリカ、東山奈央、内田真礼、雨宮天が登壇。瀬戸「台詞だけでなく劇伴で語っているシーンが多くあった」など今作の見所を語った

アニメ視聴済みは前提。「おるすばん妹」で“かえで”の存在を再チェック

アニメ「青春ブタ野郎」シリーズ|おるすばん妹編

今回のヒロインは主人公・梓川咲太の妹、梓川花楓。冒頭で観るよう勧めている「おるすばん妹」でもヒロインとなっているほか、彼女は原作アニメともに第1話から登場するが、厳密に言うと「おるすばん妹」の最終盤までに登場するのは花楓本人ではない。

花楓は物語開始よりも過去に、通っていた中学校でSNSによるイジメに遭い、心の傷が身体にも現われるという思春期症候群に侵される。またイジメが原因で解離性障害を発症し、記憶を失って全く別の人格“かえで”になってしまっている。

兄である咲太に対しても若干他人行儀で、思考も中学生にしては幼かった“かえで”の秘密が明かされ、花楓に戻るまでの物語、それがざっくりとした「おるすばん妹」のストーリーだ。

記憶を失いながらも、人と目を合わせること、家から出ることの恐怖はそのまま残ってしまったかえでが、「学校に行けるようになりたい」という大きな目標を、それに至るまでのたくさんの目標を作って一歩ずつ踏み出していく様子が丁寧に描かれている。

そして、この「おるすばん妹」の放送時に話題になったのが、かえで/花楓役 久保ユリカの圧巻の演技。是非、アニメを観返してあのシーンをもう一度体験しておいてほしい。そして、思わず目頭が熱くなる今作の久保ユリカの演技にも注目だ。

原作/アニメともに、「おるすばん妹」の最後には、「ゆめみる少女」「ハツコイ少女」のキーパーソンとなる翔子さんが登場するため、そのまま劇場版の「ゆめみる少女」も観返すのは良いと思う。が、今回に限ってはとりあえず前作を観て思い出しておこうと「ゆめみる少女」“だけ”を観るのはオススメできない。

やはり今回の主役は花楓だ。しつこいかもしれないが、原作小説の「青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない」や、アニメ第11話~第13話を観返して、今回の劇場版「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」を十二分に楽しんでもらえれば幸いだ。是非エンディング「不可思議のカルテ」までじっくり楽しんでほしい。

野澤佳悟